アインツベルンのバーサーカー、真名を茶渡泰虎というらしい。   作:サンゴの友達

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今年もよろしくお願いします。筆は遅いですが頑張っていきます。


絶死の魔槍

ガギィン‼︎ ゴガン‼︎

 

まるで重い金属同士がぶつかり合う様な鈍い暗闇に木霊する。突風が草木をざわめかせ、衝撃が地面を揺らし続ける。天変地異と疑う程のエネルギーの衝突がたった二人によって引き起こされているなど誰も考えはしないだろう。

 

…これこそが英霊、霊長の長にして世界に死後召し上がられたるまでに至った強者の実力である。

 

 

「うおりゃァアア‼︎」

 

 

ランサーの低姿勢からの突進。踏み込みは地面の舗装をめくり上がらせ、彼の躯体は音を置き去りに加速を続ける。一歩踏み込む毎に速さを増しながら突き出された魔槍はその破壊力を増していく。

 

 

「ハアアアアッ‼︎」

 

 

茶渡泰虎はその神速の槍撃を最低限の動きで反応し、躱す。決して正面から受けることは出来ないと判断すると右腕のカイトシールドを這わせ槍先が逸れるように角度を変えて応戦する。

 

一撃でも貰えば致命のそれ、襲いかかる紅い牙の蓮撃を集中を切らすこと無く捌いていく。

 

 

「ハッ!面白れぇ‼︎丁寧に弾いてくれるじゃねーか。緩急もフェイントも見てから反応されるとは思わなかったぜ!」

 

 

嬉しそうにどう猛な笑顔を見せるランサー。闘いに快楽を得んと、再び槍を低く据え猛獣の如く構える。

 

「パワー寄りかと思えばなかなかに技巧派だ、俺の間合いでそこまでやり合える奴はお前が初めてだよ。だがなぁ戦士と呼ぶにはいささか覇気ってもんが感じられねえ。さっきの剥き出しの殺気は何処に行ったよ?」

 

 

「………」

 

 

茶渡泰虎は沈黙を貫く。何が元で致命の一撃に成るか分からない。余計な情報を与えるわけにはいかない。

 

 

(…突っかかっても来ねぇか。殆ど狂化されてねーのか?狂ってもなお技のキレを失わないってだけでも驚きだが、奴の場合は“もっと根源的な狂い”だろうな。…技量も理性も失わぬ狂戦士か)

 

 

ランサーが最も本領を発揮するのは敵陣での偵察である。白兵戦での優秀さ、一撃離脱を可能とする生き残る事に特化したスキル群、本気の戦いを望む本人は渋っているが継続戦力としてこれ以上ない程の優秀さを誇っている。

 

藪をつついて敵の手札を知る事において右に出る者がいないと言って良い。

 

 

(つまんねぇ仕事ばかりかと思いきや面白い奴もいるじゃねーか。こうなったら是が非でもその腑、暴かせてもらう!)

 

 

獰猛な笑みと共に全身から闘気が噴き上がる。その姿は猟犬そのもの、血走った目で茶渡と捉える。

 

赤き刃閃が煌めく。砂埃が巻き上がり、それを両断する。最速を誇るランサーの槍の乱舞に対し茶渡泰虎は顔を強張らせながらも落ち着いて対応する。

 

 

「もっと暴れて見せろよ!テメェの本気はこんなもんか⁉︎」

 

 

神速と呼称してよい速度での攻防。素人から見れば何が起こっているのかすら理解出来ず、達人であっても知覚出来ない速度の攻防である事を理解し肝を冷やすだろう。

 

 

「……」

 

 

瞬間、茶渡の動きが止まる。

 

 

「……てめぇ、何のつもりだ‼︎」

 

 

ランサーは距離を取り様子を伺う。茶渡は首を鳴らし溜息をついた。

 

 

「やはり、か。…その台詞はこちらのものだ、ランサー」

 

 

槍先がかすり血の垂れた頬を親指で拭うと冷淡な目をランサーに向ける。

 

 

「………なに?」

 

「お前とて己の願いの為召喚に応じたのだろう?だというのに何故この戦いに時間を費やす。手加減している事が分からないとでも思っているのか?」

 

 

茶渡泰虎は幾度か矛を交える内、ランサーが明らかな手加減をしている事に気が付いた。ランサーの一挙手一投足は既知を超えた力と敏性を誇る。それは“本来ならば”茶渡泰虎の反射速度を持ってしても避けきれないものだろう。

 

 

「単調な行動パターン。敏性の割に搦め手は稚拙、猪突猛進と言ってもいい。槍を使った技にも冴えがない……一体何を企んでいる?」

 

 

茶渡の問いにランサーは少し睨みを効かせるが直ぐに溜息をつき構えを解いた。

 

 

「……ますますバーサーカーとは程遠いな。…悪りぃが“今の俺”は全力で戦う事をマスターから禁止されている。血の沸き立つ様な闘争を求めて召喚に応じたって言うのに殺生な事この上ないぜ」

 

「令呪でサーヴァントの力を制限するなんて貴方のマスターは何を考えているのかしら?」

 

 

イリヤスフィールが小首を傾げる。サーヴァントの自由を奪う力を持つのはマスターの証である令呪だ。だが本来の用途の真逆とも言える使い方を彼女は訝しんでいた。

 

 

「元より勝つつもりが無いのか?」

 

「さぁーな?あんなマスターだが今は俺の主人だ。何でもペラペラと喋ると思ってんのか?」

 

 

挑発する様な笑みを浮かべると片手で“知りたければかかってこいよ”と招き入れる。

 

 

「そうか、ならばこれ以上は問わない。その隙、突かせてもらう‼︎」

 

 

茶渡は霊力を放出する。この一撃で決着をつける為、霊子を右腕に集約させる。先程よりも何倍も高い霊力で叩き潰す事を決めたのだ。

 

しかし茶渡を中心に吹き出す風を受けてランサーの口角は釣り上がる。

 

 

「舐めたこと言ってくれるじゃねーか。いくら“全力”を封じられようと“本気”で戦えない訳じゃ無いんだぜ?……我が絶死の魔槍、受けてみるか‼︎」

 

 

構えた槍に魔力が灯る。それが鋭く対流し槍全体を覆う魔力の様からイリヤスフィールが大声を上げる。

 

 

「バーサーカー!あっちは宝具を発動させるつもりよ‼︎」

 

 

宝具、召喚された英霊が持つ存在証明ともいうべき必殺技。その在り方は英霊それぞれだと言うが、目の前のランサーの宝具は物理的な威力を持つ類であろう。

 

久方ぶりの命を削る戦い。喜びは無く、漠然とした不安が背後から迫る。いい大人になったと言うのにこんな決意すらまだ出来ないのかと己を叱咤する。…気が付けば視線が少しだけ己のマスターに向いている事に気が付いた。

 

 

「バーサーカー!誇りあるアインツベルンがこんな序盤で蹴つまずくなんて許されないわ‼︎さぁ!完璧なる勝利を私に捧げなさい‼︎」

 

 

その視線にイリヤスフィールも気づいたのか茶渡を鼓舞する。幼き躯体から懸命に発せられたエールは不思議と茶渡泰虎に勇気と力を与えた。

 

 

「…了解した。ランサー、悪いがその魔槍が俺に届くことはない。最初に脱落するのはお前だ‼︎」

 

「よく言った、バーサーカー!…その言葉そっくりそのまま返してやるよ‼︎手向けとして受け取れ!!」

 

巨人の(エル)…」

 

刺し穿つ(ゲイ)…」

 

 

両者の体が深く沈む。互いが互いを最大限の力を込めて迎え撃つ。ビリビリと張り詰めた空気が辺り一面に満たされた。

 

しかし、

 

 

「………獲った」

 

 

突如物陰から現れた人影がランサーに襲いかかる。振りかざすのは鈍い銀光を放つハルバード。見た目からして相当な重量を誇るその得物がランサーを袈裟斬りにせんと牙を剥いた。

 

 

「何者だ!」

 

 

完全な強襲にも関わらずランサーは槍を自在に操り、ハルバードを正面から受け止める。ランサーを中心に地面が割れ砕け散る。

 

 

「リズ!やっちゃいなさい‼︎」

 

 

イリヤスフィールの声に応えその力を更に強めるリーズリット。無表情ないつもの顔も今ばかりは強張り眉間にシワがよる。

 

 

「テメェ!謀ったな‼︎」

 

 

咆哮とも言うべき怒号を上げるランサー。ランサーは誇りを尊ぶ戦士である。神聖な決闘に横槍を入れられることを酷く嫌った。

 

 

「そうだ。忘れたか?これは戦争だ、俺たちの願いは勝利の先にある。悪いが真っ向から勝負する気はさらさら無い!」

 

 

勝たなければ意味が無い。聖杯の奥底で“真実”を知った以上、聖杯は必ず手に入れなければならない。己の為にも、イリヤスフィールの為にも。

 

巨人の右腕は振りかざされる。小さな竜巻の様に霊子の渦を纏った剛腕がランサーのガラ空きの腹部に迫った。

 

 

「させるカアアアア!」

 

「………ぐっ⁉︎力、上がった‼︎」

 

 

堰き止めていたハルバードをその腕力で弾き上げる。急激な力にリーズリット弾き飛ばされ地面に叩きつけられる。更に勢いそのままに茶渡の拳を魔槍で受け止めた。

 

 

「いきなり力が上がった?……!バーサーカー気をつけて‼︎コイツ魔術も使えるわ‼︎」

 

 

ランサーの足元に刻まれた淡く光る古代文字。ルーンと呼ばれるそれは描くだけで魔術的効力を発揮する。今刻まれたルーン文字は筋力を上昇させる物。茶渡の腕力でのアドバンテージはかき消されてしまった。

 

 

「「ぐ、おおおおお!!」」

 

 

少しでも力を抜けば直ぐに決着が付くであろう力のぶつかり合いは拮抗という形で両者をその場で釘付けにした。

 

両者の足元が陥没する。力の波動が大気を唸らせる。目線を晒さず、至近距離のにらみ合いが続く。

 

 

しかし、瞬間、茶渡は笑みを浮かべた。

 

 

「てめぇ、何を企んでやがる!」

 

「終わりだランサー、まさか初戦で切り札を切らされるとは思わなかった。俺の全力がどこまで通じるか試させて貰う!」

 

 

霊力の上昇、他の者からすれば不気味な魔力が膨れ上がる。しかしそれが集結するのは右手ではなかった。

 

 

「左腕⁉︎今の今まで隠してやがったのか‼︎」

 

悪魔の左腕(ブラソ・イスキエルダ・デル・ディアブロ)

 

 

白を基調とした左腕は右腕と異なり盾は無く、スマートなフォルムをしている。

 

 

「なんだ、そりゃ…」

 

 

しかし吐き出す魔力は右腕を遥かに上回る。ただ鋭く、高密度に集積した霊力は右腕とは明らかに質が異なっていた。

 

 

「その腕…そっちが本命だったて訳か‼︎」

 

 

今までの右腕は守りの力、今牙を剥かんとする左腕が本来の攻撃の役割を果たしていることを理解したランサーは戦慄する。

 

今までの戦いにおいて手加減を強いられていたとはいえ、バーサーカーの実力は脅威を感じるものではなかった。

 

不可思議な魔力とバーサーカーの割に理性を残し場を弁えた判断が可能という点は面白かったがそれ以上の評価には値しなかった。少なくとも制限が無ければ負ける事は無いだろう、その程度の存在だった。

 

 

(だが、あれはマズイ!ありゃもっと根源に近いもんだ。触れたら並大抵の神秘じゃ消し飛ばされる‼︎)

 

 

近付いて理解した不可思議な魔力の起源。魔力回路を介さない純然たる生命力の塊。それは現代では失われた神代の神秘。己の生きた時代であっても上位に位置する奇跡であると理解できたからだ。

 

 

「おおおおおおおお!!!」

 

 

ランサーは一転して離脱に方針を変える。【仕切り直し】はランサーをどんな逆境からの逃走を可能とする。バーサーカーの左腕の直撃だけは避けなければならないと直感で判断したのだった。

 

 

「させないわ!!」

 

 

イリヤスフィールの針金がランサーの足に絡みつき地面に縫い付ける。普段であれば何の抵抗もなく払い除けられる代物であっただろう。しかしこの状況では少しの間さえ稼げれば問題はない。

 

 

魔人の一撃(ラ・ムエルテ)‼︎」

 

「てめぇええええ!!!」

 

 

空間が歪曲する。雷光に似た霊力を放ちながら茶渡の拳はランサーの鳩尾に食い込む。音を置き去りにランサーの躯体は暗い夜空に紙のように吹き飛ばされる。ランサーが叩き付けられた家々は砂の様に砕け散る。しかし一向に減速する事なく次々と土煙を上げながら遠く彼方へと突き抜けていった。

 

 

「ヤストラー‼︎」

 

イリヤスフィールが走ってやってくる。小さな体が茶渡の身体に突撃する。

 

「勝った!勝ったわ‼︎この調子でどんどん倒していきましょう‼︎」

 

 

鈴のような声が響く。しかし当の本人はその姿をとらえる事なく、ただジッと土煙の先を見つめていた。

 

 

「……悪いがしぶとさには定評があってな」

 

 

立ち上る煙の中からランサーが不敵な笑みを浮かべながらヨロヨロと現れた。

 

全身がズタズタに傷つき、常人ならば出血だけでもすぐ様倒れてしまいそうな程だ。

 

 

「う…そ、アレはヤストラの全力全霊の一撃だったはずよ⁉︎何で貴方が立ってられるのよ!」

 

青ざめた顔は目の前のものが信じられないと首を振る。絶対の自信を持っていた一撃を生き延びた存在を認めたくはなかったのだった。

 

「間際に魔術を使われたようだ。予め用意していたんだろうな」

 

「……チッ、これでもAランク宝具を防ぎきる程度の強度は準備していたんだがね」

 

息を切らしながら使い捨てた石を投げ捨てる。その石にはルーンが刻まれていた。

 

「だけど貴方はもう立っているだけでも限界のはず!ヤ、…バーサーカー!トドメを刺しなさい‼︎」

 

「………」

 

 

しかしイリヤスフィールの号令に茶渡は答えない。立ち尽くしたまま動こうとはしなかった。

 

 

「どうしたのバーサーカー!……⁉︎その腕!」

 

 

先程必殺を放った左腕、茶渡の巨体でイリヤスフィールから隠されていたその腕は痛々しい切り裂き傷と共に鮮血に染まっていた。

 

 

「へへ、悪りぃな。思わず“全力”を出しちまったぜ。……ゴホッ!」

 

 

血を吐きながらランサーは槍を杖代わりに必死に立ち続ける。ガタガタと膝が震えながらも今にも倒れそうな己を支える。

 

「霊基を、歪める覚悟でやったってのに、このザマとは情け無ねぇ」

 

 

令呪により拘束に抗う事がどれほど危険な事か、そのリスクを負ってもなお直撃を避ける事にした決断力と覚悟に目の前の男がどれほどの修羅場を掻い潜って来たのかを見せつけられたような気がした。

 

 

「だけどまだ“右腕”が残っているわ!バーサーカー決めなさい!」

 

 

茶渡は無言で相槌を打つと右腕だけで構える。潤沢な魔力を持つイリヤスフィールをマスターとしていようとも宝具を放った直後では茶渡自身の体には殆ど魔力が残っていなかった。立っているだけでも辛い状況だがこのちゃんを逃すわけにはいかない。

 

ユックリと、しかし確実な歩みでランサーに近づく。ランサーは構えようとするが彼にはもうアクションを起こすだけの余力は残っていなかった。

 

 

 

 

“戻ってこい、ランサー”

 

 

「…気が効くじゃねぇか。あばよ、次は全力で獲りに行かせて貰う」

 

 

そんな言葉を最後にランサーの姿は闇に溶けていった。

 

 

「…逃げたか、チャンスだったんだかな」

 

 

静かにだがくやしさを醸す言葉が漏れた。

 

 

「残念だけど令呪を使わせただけでも価値はあったわ。これでランサーのマスターの残り令呪は一画、慎重にならざるを得ない筈よ」

 

 

全ての令呪を使い果たせばその者はマスター権限を失う。切り札温存、ランサーの回復に時間を取られるだろう。

 

 

「帰りましょう。悪いけどそこで伸びてるリズを起こしてくれる?祝勝会とは行かないけれどセラが料理を用意してくれてるわ。…次の戦いに備えて英気を養いましょう」

 

「ああ、次こそ勝ってみせるさ」

 

 

バーサーカー陣営、アインツベルンは初戦を切り抜けた。この戦いはまだまだ始まったばかりである事を二人は胸に刻みながら帰路につくのだった。

 

 

 

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