西暦2026年5月15日現地時間16:30
東南アジア諸国連合タイ王国
連合首都バンコク
バンコク先進医療技術病院区画L-6
重傷患者用の個室ベットであるL区画の6番室のベットに蒼髪の少女が寝ていた。
医療用マスクを被り、布団からはみ出している部分だけでも右目以外の顔の大部分は包帯に覆われていた
蒼いポニーテールの髪型は解かれていた。
彼女は10日前に瀕死の重傷を負ったクリア・フランネス、ここに運ばれてきて、緊急手術を行って生死の境から何とか脱することが出来た。
クリアはゆっくりと目を覚める。
右目だけの視界はとにかく見にくかったが、ハッキリ見えたのは包帯をぐるぐる巻きにして固定されていた右手を両手でがっしりと掴んでいる白髪の少女の姿だった。
クリアはその両手からかなり微弱な電流が伝わっていることに気づいた。
「……シャーロット…ちゃん……」
クリアは声が掠れながら白髪の少女の名を呼ぶ。
かなりか細い声であったが、耳に届いたのか目をハッと見開いた。
「……ク、リ、ア……さん?」
シャーロットはぎこちなく顔をこちらに向け、無事を確認すると一滴の涙を目から零す。
そして、自分の体を大きくせり出し、クリアの体を抱きしめた。
「良かった……皆さん心配してたんです!意識が戻るかもわからないって言われてたから……」
「シャーロットちゃん……ここは?」
「バンコクの先進医療技術病院です。お医者さん呼んできますね」
シャーロットは近くにいた看護師に目覚めたことを伝え、数分後に主治医がやってきた。
その主治医はちょっとした口頭質問をした後、すぐに去っていった。
「あ、そうだ。皆さん近くのホテルで目覚めるの待ってたんです。呼んできますね」
シャーロットは自分の携帯端末を取り出し、文字を打ち始めた。
「え?いや、そんなのいいよ……」
クリアは少し渋る表情を見せたが、
「ダメです!」
と、一喝された。
「え?」
「……クリアさんは"英雄"なんですから……」
「英雄って……」
クリアはそこまで活躍するほど戦ったとは思っておらず、英雄という言葉が嫌という感情を顔から滲み出していた。
「クリアさんは本当によく戦ったんです。今回の戦い、クリアさんがあの2体を撃破してくれたおかげで、私達は被害が少なく済んだんです!」
「そう……なの?」
クリアはその言葉に驚いた。
そして、自分でも守れるという自信に自然に笑みが零れた
その時、仲間の数人がお見舞いに訪れた。
訪れた数人の中に金髪のセミロングの髪型をした少女がいた。
クリアは彼女に視線を向け
「お姉ちゃん……?」
と呟いた。
少女、姉のセリア・フランネスは椅子を引っ張って、ベッドの横に置いて座り、クリアに言葉をかけた。
「クリア……よく頑張ったね」
クリアはその言葉にうん、と頷いた。
「そういえば……私ってどうやってここに運ばれたの?」
クリアは唐突に疑問を問いかけた。
その問いにセリアと一緒に来ていたレナが答えた。
「あー、確かに知りたくなるのは当然だよね……」
そこにシャーロットも話しかけた。
「私も少し離れてたから、知りたいです」
レナは小さくため息を吐き、話し始めた。
「私とラミが一番クリアの近くにいたんだけど、クリアが意識を失って倒れた時、真っ先に駆けつけたのはラミだった。ラミは泣きながら、必死に呼び掛けた。もちろん、私もみんなも、その後ろから呼びかけた」
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11日前
5月4日 ガンジス川流域
戦闘の激しさは消えたが、その代わり、少女の大きく叫ぶ声が響き渡った。
「クリア!クリア、起きて!クリアってば!!」
少女、ラミは倒れたクリアの傍で目から涙が溢れる中、必死に名前を呼びかけた。
(呼びかけるだけでなく、色々試した。けど、クリアは目覚めなかったね。で、諦めかけた時。)
「すぐに彼女から一定距離離れろ!」
そう叫んだのはオーストラリア=オセアニア連邦陸軍第3機甲連隊連隊長オリバー・C・ウィンチェスター大佐であった。
彼は足早に歩き、クリアの元に近づく。
その彼をラミ達は睨んだ。
(ウィンチェスター大佐の言葉には最初は驚いたよ。そりゃ、クリアを放っておけとも取れる命令だったからね。だけど……)
仲間が睨むだけに留める中、ラミだけが階級が上の彼に声が荒あげた。
「ウィンチェスター大佐!何故そんなことを!!クリアが……クリアが死んじゃうのに……仲間を見捨てるんですか!!」
その抗議の言葉にオリバーは眉を顰める。
「誰が、誰が彼女を見捨てると言った?」
その一言で周りが一瞬静まり、オリバーは第6中隊の面々を見渡す。
そして話し始めた。
「アメリカ軍より連絡があった。負傷者や重体者を移送する為の戦術輸送機を派遣したと……そこに彼女を載せろ、いいな、これは命令だ!」
ラミは呆然としつつ涙が流しながら感謝した。
「……ごめんなさいさっきは……ありがとうございます!!」
その言葉を聞いたオリバーは彼女に視線を向ける。
「別に構わん。あと、お前も乗れ。傷を負っているだろ」
「え?」
「肩を斬られているだろ。他のみんなも聞け!少しでも傷を負っていたら、乗るんだ。いいな!!」
その後、アメリカ合衆国空軍戦術輸送機C-21グラマンⅡ一機飛来し
何も無い荒野の上に着陸し、クリアやラミ他数十名の兵士を載せ、再び飛び立った。
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「こんな感じかな。分かった?」
レナは話終えるとクリアに尋ねた。
「うん……思ったんだけどBETAは全て撃退できたの?」
それにシャーロットが軽く笑いながら答えた。
「というより、全て撃破できちゃったみたいです」
若干両目を充血させたラミも答える。
「まあ……クリアを襲った戦車級が最後の1匹だったという訳」
話が一旦終わると、セリアはクリアに尋ねた。
「クリア、どのくらい入院するの?」
「……うん、1ヶ月半、長ければ2ヶ月はかかるって……」
「ゆっくり休んでねとしか言えないかな……あれだけの傷を受けたんだから……」
レナがクリアに労いの言葉をかける。
その時、セリアはクリアの異変に気づき、クリアの頭を上げさせ、自分の胸に抱き寄せた。
「お姉ちゃん……?」
「クリア、思うことがあったら、ここで沢山吐き出して」
その言葉でクリアは今まで我慢してた感情を押し出し、両目から大量の涙を流し始めた。
「こ、怖かったよ……!本当に痛くて……私が壊されていくみたいで……殺されるっ、死んじゃうかもって……会えないかもしれないと思って……怖かったっ!」
クリアはセリアの胸に顔を埋め、泣き叫んだ。
戦場では怯える事が一切なかった少女もここではただ1人のか弱い少女だった。
レナやラミ、シャーロット達が先にホテルに戻る中、セリアは満足いくまでクリアを慰めた。
「……お姉ちゃん……ありがと、もう充分泣いたよ」
「そう?それじゃ、しっかり治して」
「うん」
セリアはクリアの頭をゆっくりと枕の上に乗せ、部屋から出た。
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その頃
新ソビエト連邦サハ自治共和国ヴェルホヤンスク
???1「何故だ!!なぜ敗れる!」
???2「おかしいではないか!!理論上だと我らは勝つはずであったのに!!」
黒い法衣のようなものを着た三人のうち2人が叫んでいた
???1「総勢80万の我らの軍勢が1匹たりとも殲滅されるとは……」
???2「それだけではない!上空からの質量弾攻撃で1部巣が損傷を受け生産ができない状態に陥った!!」
???1「ラノル、貴様はどう考える?」
ラノルと呼ばれた最後の一人はフードの先に紫色の肌とスキンヘッドの頭を覗かせながら話し始めた
ラノル「……人の力よ……」
???1「貴様、狂ってるのか!人という資源の力とは……人間は資源、我らはそう教えこまれてきた筈だ!」
???2「人の力だと?では聞こう、新種を投入したのにも関わらず、それでさえ破れた。それも人の力だというのか?」
ラノル「……そうだ。」
その瞬間、その場の空気が凍るほど、2人はラノルという者を睨みつけた
???1「何故そう考える?何故だ!!」
ラノル「では、他の要因はなんだ?他に考えられる要因があるというのか?どうだのだ、ギュルティーゲよ?」
彼らが座る円状の机の中心にホログラム装置が起動、Zというマークが出現する
ギュルティーゲ「……インド亜大陸に陽動された50万はともかく、バングラデシュへ向かった30万は……そうとしか思えん……認めるしかない……」
その発言にラノル除く2人は驚いた素振りを見せた
???1「ラノルよ、仕方がない……それは認めよう。だが、次なる計画は考えていないということはあるまいな?」
ラノル「無論、考えている。」
???2「そうか……それならば良い……奴らに絶望を味合わせるのだ。」
ラノル「宰相閣下に伝達。」
「リヨンを投下目標の1つに加える、と。」
※設定
セリア・フランネス大尉
年齢19歳
統括軍第6中隊中隊長
金色のセミロングの髪型が特徴的
攻撃型魔法は『氷撃』
目標の地面に氷の剣を多数降らせることが出来る
なお、その際髪色が青へと変貌する
特殊装備として見た目は銀色の銃である元素変換射線装置を装備している
クリアの姉
正義感があり、仲間を救うために自分を危険に晒しても構わないという精神の持ち主
その性格はクリアも受け継いでいる
次回
chapter16 来襲、再び