インドの奮戦と敗北、そして…   作:空社長

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chapter16 来襲…再び

 

 

 

 

~西暦2026年5月24日午前6時~

 

ー フランス共和国ブーシュ=デュ=ローヌ県マルセイユ市 ー

 

ー ある一軒家 ー

 

 

 

一人の少女がベットから起き上がってくる

 

 

「あれ、お父さん?その格好は……」

 

 

彼女は父親の服装を見て、疑問を抱く

 

「クロエ、今日、リヨンのおじいちゃん達に会いにいく予定だったろ?」

 

 

「う、うん。」

 

 

「すまないが、行けなくなってしまった。1人でも行けると思うし、1人で行ってくれないか?」

 

その時、父親は寂しい顔を一瞬浮かべた

 

 

「まさか、軍?」

 

彼女は服装がフランス共和国海軍の制服であることを見抜いていた

 

 

「あぁ……詳しくは言えないが、イスラム教軍の活動が活発してきたらしい。すまないな、久しぶりに父さんと一緒に行けたのにな。」

 

 

「ううん、大丈夫。お父さん怪我しないでね。」

 

 

「クロエも元気にな。」

 

父親はクロエの肩に手を置く

 

 

父親はアンセルム・ファルトマイヤー

 

少女はクロエ・ファルトマイヤー

 

 

元はナチス・ドイツのフランス占領軍の兵士と現地女性との関係であり、ドイツとフランスの血が混じっている

母親はクロエが生まれたすぐに亡くなっており、クロエとアンセルムの父子家庭であった

 

 

「それじゃ行ってらっしゃい。」

 

クロエは玄関内で手を振り

 

 

「あぁ行ってくる。」

 

アンセルムはドアを勢いよく開け放ち、出かけて行った

 

ドアはその後、自動的に閉まり、自動ロックがかかる

 

 

「じゃあ、朝ごはんでも作って食べ……あれ?もう作ってある。」

 

クロエは朝食を作ろうと思ったが、既にダイニングテーブルには朝食が置かれており、彼女以外なら父親が作ったのは間違いなかった

 

 

「まだ暖かい……じゃあ、Vous recevrez(いただきます)。」

 

 

その後、ゆっくり35分ほどかけて朝食を食べ終わり、出立の準備をした

 

そして、家を出る直前に

 

「それじゃ、お母さん行ってくるね。」

 

クロエはリビングに置いてある母親の写真に言葉をかける

クロエは母親の顔を生で見たことがないものの、いつの間にか、家を出る時にはいつも行うという習慣となっていた

 

 

その後、午前8時頃にはキャリーバッグを引いて家を出る

 

 

 

 

ー マルセイユ・サン・シャルル駅 ー

 

 

30分ぐらいで最寄り駅についた彼女は、すぐにリヨン行きのTGVの乗車券を購入し乗った

 

 

 

 

ー TGV車内 ー

 

 

クロエは席に座り、キャリーバッグは両膝の間に挟んで置いた

 

 

このTGVはフランス国内やベルギー、ドイツも繋ぐフランスが誇る高速列車であり、時速320㎞で走行する

 

 

 

「そこ、いいですかな?」

 

 

「え……あ、いいですよ。」

 

クロエはヘッドホンをして曲を聴いていたため、周りの音など聞こえなかった

声の低いおじいさんの声量なら尚更である

 

声をかけたおじいさんはクロエの真向かいに座った

そのおじいさんは若干ぽっちゃり体型でヨーロッパに見られる紳士服を着て、ハットも被っていた

 

 

「やっぱり、いいですな。この列車は。お嬢さんはどこに向かわれるのですか?」

 

おじいさんは唐突にクロエに質問をなげかける

 

 

「えっと……リヨンです。」

 

クロエはタジタジになりながら答える

 

 

「おお、私と同じではないですか……では、わざわざ片方が降りる時にもう片方も立つということをせずに済みますね。ここ、何故かかなり狭いのでね。」

 

 

「ハハハ……」

 

 

その後、おじいさんが喋ることは無く、ゆっくりと眺めているだけであった

 

クロエも音楽プレイヤーからヘッドホンで心地よく聴いていた

 

 

 

 

 

 

 

リヨン行きTGVがマルセイユ=リヨン間の5分の4を過ぎたあたり……

 

 

 

 

 

 

 

その時……超巨大な振動が発生する

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

揺れに敏感なクロエは最初の僅かな揺れに気づく

 

 

 

その後、徐々に大きくなり始め、列車は緊急灯を赤く点灯させ、緊急停車を試みる

 

 

 

だが、それも間に合わず、さらに振動が大きくなり

 

 

 

(まずいっ……)

 

 

そう思い、携帯を速やかにキャリーバックの中に押し込む

 

 

だが、それが逆に揺れに吹っ飛ばされることとなり、壁の固い突起部に頭部を強く打つ

 

 

「グゥッ!!」

 

 

 

そして、そのまま気を失った

 

 

 

 

 

 

ー ベルギー・ブリュッセル:ヨーロッパ連合本部 ー

 

 

「何だこの揺れは?」

 

「地震か?だとしたら震源は?」

 

「ん?収まった?」

 

「こんなの地震じゃないぞ!短すぎる……」

 

 

突然の揺れにより、EU本部で行われていた定期総会は1時中断となった

 

その時、イギリス首相がフランス大統領に話しかけた

 

「大統領。少しいいか?」

 

「何故でしょう、急に……」

 

「この揺れ、おかしいとは思わないか?」

 

「ええ、確かに。」

 

「……これを見てくれ。地質学者だったらしいからわかると思うが。」

 

「これは……今回の地震と同じ波形では……一体どこのです?」

 

「インド・ニューデリーだ。」

 

「……まさか、今回のは……BETA襲来……」

 

「の可能性があるだけだが……あらゆる対応は考えておいた方がいい。」

 

「……首相、少し再開の時、総会を欠席するよう伝えてくれないか?」

 

「……ほんとは補佐官の仕事だろうが……まあいい。」

 

「すまない……それでは……」

 

…………

 

 

「すぐに部隊をリヨンに派遣しろ!」

 

フランス大統領は軍司令部に連絡し、部隊を派遣させた

 

 

 

 

 

 

ー TGV車内 ー

 

クロエは思ったよりダメージは少ないのか、数分後には目が覚める

 

 

「ぅぅ……ここは……」

 

 

「目が覚めましたかな、お嬢さん。」

 

 

「おじいさん……タフだね……」

 

言葉通り、おじいさんは中々にタフであった

 

 

「まあ……分厚い服を着てるからですかね?お嬢さんは頭に傷を負って血が流れておりますぞ。」

 

先程強打した部分は切れ、血が垂れていた

 

 

「あ……うん……ところで……これは……脱線……したの?」

 

クロエはまず、自分がなぜ窓側の壁に倒れているのかが気になり、脱線と直感で思った

 

 

「……私も外に出られていないのですが、これは間違いなく脱線ですね。」

 

 

そのおじいさんの言う通り、全号車が左に横転していた

 

 

「さて、立てますかな?」

 

おじいさんが手をのばしてくる

 

クロエはその手を掴み、立ち上がろうとする……

 

 

 

が……

 

「いっ!!!……た……!」

 

 

右足に激痛が走り、立ち上がれなかった

 

 

 

「その様子だと無理ですな……これは救助を待つしかないようです。」

おじいさんは残念そうに話す

 

 

その言葉に罪悪感を覚えたクロエは必死に謝った

 

「ごめんなさい……ごめんなさい!」

 

 

「謝らなくていい、お嬢さんが悪いんじゃない。」

 

 

「でも……ずっと救助を待つことに……私が動ければ……」

 

 

その時、おじいさんは自分の両手を叩く

 

「こうしましょう。私が受けるはずだった傷をお嬢さんが代わりに受けてくれたと……これならいいですよね?」

 

 

「え……それならいいかな……」

 

 

「それは良かった。」

 

 

クロエは右の額の傷をタオルで抑え、止血しながら、キャリーバッグから携帯端末を取りだした

 

「……良かった、無事で……」

 

 

 

 

その時、救助隊が現れた

 

 

「大丈夫ですか!!動けますっ?」

 

 

「いえ……右足が痛すぎて……立てません……」

 

 

「分かりました。なら……お嬢さん、少し恥ずかしいかも思いますが、お願いします。」

 

 

「え?……」

 

クロエは一瞬呆然とした

 

なんと、お姫様抱っこのような形で担がれたのだ

 

 

その後、付近にあった駐車場の地面にバックを頭に置いて、寝かされた

 

 

「すいません、ただいま建物内は重症患者で1杯で、軽傷な患者はなるべく外にいてもらうようにさせてもらっています。」

 

クロエはなぜ外に寝かされるのかと疑問に思ったが、救助隊員に状況を教えられ納得した

 

 

数分後

 

「ぐ……ぁぁっ!!」

 

 

クロエは医者に足の様子を見てもらっており、色々弄られて悲鳴が何度があった

 

 

「これは……間違いなく折れてます……それに……脱臼と捻挫も重なってますね。」

 

 

「そんなに……」

 

 

「脱臼だけなら治すことが出来ますので、少し痛みますが我慢して下さい。」

 

 

「はい……グ……いっ……いだぁっ!!」

 

 

「……もう少し……もう少し……」

 

 

「……い"っ……」

 

「……よし、入った……!」

 

 

「グ……ハァハァ……」

 

 

脱臼を治すのにクロエはあまりの痛みで目尻に涙を浮かべていた

 

 

「……申し訳ありません。こんなにとは……」

 

 

「い、いや……ありがとうございます。」

 

 

 

その後はキャリーバッグから取りだした枕を頭に置き、薄いシーツを背中に、そしてタオルを巻いて、折れている右足を上げさせた

右の額には氷を当てながら、安静としていた

 

 

「あ……連絡しないと……」

 

クロエはスマートフォンを手に取り、父親であるアンセルムに繋げた

 

 

『おい!大丈夫か!!』

 

 

「うん、一応生きてるよ……」

 

 

『そうかっ……今すぐ逃げろっ!!』

 

アンセルムは切羽詰まった声で叫んだ

 

 

「え……?どういう事……?」

 

 

『これはただの地震じゃない!……BETAだ……BETAの襲来だっ!……いいから……逃げてくれ……』

 

アンセルムは声が震えながらも話し始めた

 

 

「……ごめん……お父さん、歩く事さえ無理……」

 

 

『何っ?』

 

 

「……列車乗ってる最中に揺れに襲われて、右足が折れて、あと捻挫を受けた……」

 

 

『……誰か支えになってやれないのか……俺は無理だ……今、急いで港に向かっているが、恐らく間に合わない……』

 

 

「……お父さん……死にたく……ないようぅ……」

 

クロエは涙を流す……それも大粒の涙を……今まで我慢してきた感情が一気に吹き出した

 

 

『……聞け。とりあえず……誰か支えになってくれる人を探せ。そして、逃げろ!恐らく軍部隊には連絡が行ってるはずだ。恐らく守ってくれる……だから、お前は自分の命を大事にしろ!…………こんな事は言いたくないが……もう無理だと思ったら……一言電話をかけろ。俺だって娘の最後の言葉ぐらいは聞きたい……』

 

アンセルムは喋りながら、空母の甲板上で静かに涙を流す

 

 

「……分かった……頑張る……」

 

 

『言いたいことは言った。切るぞ。』

 

 

「うん……」

 

 

 

 

クロエは手元にスマートフォンを置く

 

その手は目に見えるほどに震えていた

 

 

「BETA……こ、殺される……い、いや……」

 

 

止まっていたはずの涙がまだ流れ出した

 

 

 

「お嬢さん、……大丈夫ですか?」

 

その時、電車で会ったおじいさんが声を掛けてきた

 

 

「あ……おじいさん…………あのっ、救助隊の隊長のところに連れて行ってくれませんか?み、右半身だけ支えて貰うだけでいいので……」

 

 

「?……分かりました。」

 

 

数分後

 

 

クロエ達は救助隊隊長の元を訪れた

 

 

「お嬢さん、どうし…」

 

クロエは相手が喋りきらない内に話し始める

 

 

「この揺れの原因がBETAってわかってるんですか!!」

 

 

「……」

 

 

「……みんなを……見殺しにする気……ですか!!」

 

クロエは泣きながらも話す

 

 

救助隊隊長はそれを目を瞑って聞いていたが、しばらくして目を開く

 

 

「我々も初めは地震だと思っていた。だが、本来は指揮系統にないはずの軍司令部から連絡があり、BETAだと伝達された。お嬢さんの言った前者は本当だ。だが、後者は間違っている。我々は見殺しにする気は無い。まもなく第11機甲旅団が到着する。ここを防衛線とし、機甲旅団が耐えている間、すべての残存車両を総動員してあなた方を輸送する。それが軍司令部の計画だ。」

 

 

「……それだけで持ち堪えきれるのですか?」

 

 

「可能、不可能の問題じゃない……耐えなければならないんだ……あなた方を守る為に。」

 

 

「……分かり、ました……」

 

 

 

 

 

 

その後、一時避難所となっている公共施設と隣接する避難所にはフランス陸軍第11機甲旅団が派遣されてきた

 

ルクレールⅢ主力戦車、フランスとドイツの共同開発である最新鋭戦車EFM-1等数十両や対戦車ミサイル部隊、さらに多数の歩兵部隊も投入された

 

 

それと同時に遠方避難も開始された

 

 

 

 

だが、その直後、化け物どもが襲いかかり始めた

 

 

ルクレールⅢやEFM-1は一列縦隊となってBETAの進行を遮る形で配置され、一斉に右に砲塔を旋回させる

 

そして……

 

ルクレールⅢの120㎜滑腔砲が火を吹き、EFM-1の155㎜電磁加速砲から超音速で砲弾が放たれる

 

それぞれ先行していた赤い化け物を吹き飛ばす

 

 

数十分後にはBETA先遣隊は殲滅される

 

 

 

その後……

 

戦車(タンク)級、多数接近!さらに兵士(ソルジャー)級、闘士(ウォーリア)級も確認!」

 

 

「多いな……だが、」

 

第11機甲旅団長は口を緩ませる

 

 

「まだ戦車の敵ではないっ!戦車隊は戦車(タンク)級に攻撃を継続!歩兵部隊は銃撃を開始!」

 

 

「はっ!」

 

ルクレールⅢが自動装填装置で120滑腔砲を次々と発射、EFM-1も155㎜電磁加速砲で超音速砲弾を連射する

 

歩兵部隊は戦車の陰で5.56㎜NATO弾の弾幕を張る

 

また、数両のVBCI-2-AT対戦車ミサイル車両からERYX2対戦車ミサイルが連続発射される

 

 

 

 

戦車級は砲弾を喰らって四散していき、兵士級や闘士級は銃弾の雨を食らって穴だらけになり赤い体液を垂らしながら倒れていく

さらに、あらゆる個体が対戦車ミサイルを喰らい吹き飛ばされていく

 

 

 

「まだ行ける……が、どうなのだろうな……」

 

旅団長が呟いた時、士官が顔を青くしながら伝えてきた

 

 

「遠方……要撃(グラップラー)級及び要塞(フォート)級を捕捉!接近してきます!さらに小型種を多数従えている模様!」

 

 

「何っ!要撃(グラップラー)級ならまだしも、要塞(フォート)級だと!?」

 

旅団長は顔を青くして言った

 

 

旅団長を前方を見る

うっすら遠くに巨体ゆえに見える個体がいた

 

 

旅団長は双眼鏡を覗き……その視界には10本足の個体が映っていた

 

「化け物め……」

 

と呟く

 

 

「EFM-1と対戦車ミサイル部隊はデカブツ共を集中攻撃!他はそのままだ!」

 

 

超音速砲弾とERYX2対戦車ミサイルが要塞級にぶち当てられていき、倒れる

要撃級に対しても、EFM-1の電磁加速砲が連続発射され、穴だらけになる

 

 

 

一方でルクレールⅢと歩兵部隊は大量の戦車級を相手にしていた

 

しかし、先程までは今より少ない数を全車両で相手していた為、その物量に抗しきれるはずがなかった

 

 

一体の戦車級があるルクレールⅢ1両に急接近した

 

ルクレールⅢは砲塔上部12.7㎜重機関銃や同軸20㎜機関砲を慌てて連射するも、嘘と思わすかのように命中せず、砲塔に取りつかれ、強引に砲塔を外される

 

 

乗員からは赤い化け物が覗き込むように見え……慌てた操舵手が離れようとするものの、取りつかれた車体は頑なに動かすことは叶わなかった

 

 

そして、赤い化け物が巨大な顎によって形作られてる口を開け……

 

 

『来るな……来るなぁっ!!いやぁぁぁぁぁ!!……ブチ……』

 

文字通り、"喰われた"

 

 

「……1両、やられました……。」

 

士官が青ざめた表情で報告をする

 

 

「撃て。その車両をな。」

 

 

「なっ!?味方ですぞっ!」

 

 

「味方だろうと既に乗員は喰われたっ!いいからやれ!」

 

旅団長は額に大量の汗を浮かべていた

 

 

「は、はっ!」

 

 

すぐに命令が伝達され、あるひとりの歩兵が携帯型対戦車ミサイルを惨劇となっているルクレールⅢに向け、発射

命中し、ルクレールⅢは爆散、それに取り付いていた戦車級は炎に焼かれていく

 

 

その後、再び何両かのルクレールⅢが戦車級に取りつかれ、乗員が喰われていき、その度に味方で味方の車両を攻撃せざるを得なかった

 

 

 

「……何だこの物量は……これがBETAなのか……このままでは……避難状況は?!」

 

旅団長は何度撃破しても出でくるその物量に恐怖すると共に

 

 

「まだ半分です!」

 

 

「……このままでは……喰い破られるぞ!」

 

民間人の被害を抑えたい一心があった

 

 

その時

 

「対空レーダーに反応、これはっ!……タイフーン及びラファール混成航空隊12機です!」

 

 

「馬鹿なっ!正気か!?」

 

旅団長は驚いた表情を報告してきた士官に向ける

 

 

 

リヨン上空

 

 

フランス空軍第32飛行隊

 

 

「今まで1機も被害を受けてない……ふっ、命中率100%のレーザー等ただのデマに過ぎんということだな。」

 

呟いた言葉の通り、隊長は油断していた

 

 

だが次の瞬間

 

 

前方の視界に虚空を走る光の筋が見え……

 

数秒後、隊長機であるユーロファイター・タイフーン戦闘機はその光に真っ二つに裂かれ、脱出する暇もなく爆散した

 

 

隊長の死を知った後続11機は分散を開始、その内4機が空対地ミサイル2発ずつ、計8発を発射するも、レーザーによって撃墜される

 

さらに、分散した11機にも尽くレーザーが命中し、機体を貫かれ一撃で撃破されていく

 

 

残りラファール4機となり、無謀にも低空進入で突っ込んでいく

 

1本のレーザー光線がラファール1機の左翼を焼き切り、墜落させる

その直前に空対地ミサイル4発が続けざまに発射される

 

 

光線級は最も接近してくる目標として空対地ミサイル4発の迎撃に入る

 

たった数秒だが、残り3機のラファールはそれをチャンスと見て、空対地ミサイルを一斉発射

 

 

だが、光線級の強みはその必中精度とレーザーの威力

 

一斉発射された12発の空対地ミサイルを1つも残さず溶かしていき、後続のラファール3機もあっという間に撃墜した

 

 

 

 

「……第32飛行隊……全滅です……。」

 

 

「無茶しやがって……総員聞け。」

 

旅団長は汗を浮かべながら、目を瞑る

 

旅団司令部にいた士官や参謀が旅団長に向き直る

そして、通信士官が戦闘中の全部隊に通信を接続する

 

「司令部の主だった者は集まっております。」

 

主任参謀の一声で旅団長は目を開ける

 

 

「無理やりだが援護に来た第32飛行隊はほとんど何も出来ずに全滅した。我々は現在圧倒的なBETAの物量に押されかけている。そこでだ。我々の役目はここの避難所にいた民間人を無事に、1人の犠牲も出さずに守りきり、できる限り、避難してもらうことだ!だが、守りきるのは、この状況から無理だろう。全滅を覚悟せねばならない……だから、死にたくないやつはさっさと逃げろ。」

 

 

最後の一言に参謀や士官達は驚く

 

 

そして、悩む者もいたが、数分後には皆がスッキリした表情で向き直った

 

 

「いないか……」

 

 

「はっ、全員、最後までお供します!」

 

 

「よし!ならさっさと持ち場に戻れ!避難が完了するまでの間、耐え抜くぞ!」

 

 

「了解!」

 

 

 

その後は戦術など関係無い

 

 

ただただ続く消耗戦闘へと移っていた

 

 

民間人を守るため、車両ごと盾に、兵士達は自分達を盾として……

 

 

 

そして、1両、1両と戦車の乗員が喰われ、喰った化け物ごと戦車が焼かれていく

 

 

 

さらに戦車がやられていくにつれて、その盾にも穴が開き始め、兵士達も喰われていく……

 

 

 

 

 

 

重傷者の避難が終わり、やっと軽傷者の避難が開始された

 

クロエとずっと付き添っていたおじいさんはやっと6人乗りの商用バンに乗り込まされ、発車する

 

無事に着くと思われたが……

 

 

 

 

 

 

数分後、遂に耐えて続けていた防衛線が崩壊

 

 

 

 

 

その直前に発車したバンに、戦車級が飛び掛かる

その衝撃で急停止し横転したバンに乗っかった状態で運転席の窓を戦車級が左手で突き破り、運転手を引きちぎる

さらに他の窓からも手を突き入れ、巨大な口に車内の数人を放り込み、齧っていく

 

 

 

 

 

未だに避難が終わってなかった人々はさらに悲惨だった

 

 

避難所の外で既に乗り込んで今にも発車しようとしていた車を要撃級が踏み潰す

その後に続いた要塞級が10本足の内、数本に突き刺さった状態のルクレールⅢやEFM-1を大柄な触手で振り落とす

 

 

避難所内では人々の悲鳴が反響し混乱が混乱を呼ぶ

 

その中で最後まで残ると決意していた救助隊隊長は肩をガックリと落とし、ゆっくりと席に座る

 

「もう……無理か……」

 

そう言葉を残し、突っ込んできた戦車級に踏み潰される

 

その後は言うまでもなく、BETAによる大虐殺が起きた

 

 

 

 

 

 

その頃、クロエ達を乗せたバンはリヨンからマルセイユへ向かう道を行っていた

 

 

 

 

「……なんか……怖い……」

 

クロエはまったく状況を知らないのにも関わらず、恐怖を感じていた

 

 

「大丈夫ですかな?」

 

 

「……分からない……」

 

 

 

その時、運転手が少し慌てていた

 

 

それに気づいたおじいさんは声を掛ける

 

 

「どうしましたか?」

 

 

「いや……後続、間もなく発車すると言っていた後続車との連絡が繋がらないのです……」

 

 

「……まさか、BETA……」

 

クロエが考えられるひとつの要因を言う

 

 

「え……防衛線が崩れたと言うんですか!?」

 

運転手は動揺しながらも運転を行う

 

 

「そうだ、我々の後ろの車両と連絡はつきますか?」

 

おじいさんは提案を行う

 

 

「……そうですね……やってみます。」

 

運転手は軽く悩んだ後、承諾して、コールする

 

 

《こちら、8番車。無事ですか?応答してください。繰り返します、応答してください。》

 

 

だが、相手からは返答は無く、自動的に繋がる設定の様で、そこからはグシャグシャという奇妙な音が聞こえた

 

 

「返答ありま……いえ、この音は……?」

 

 

「貸してくれませんか?」

 

 

「え、ええ分かりました。」

 

おじいさんが音をヘッドホンに繋げ、聞く

 

 

「これは……人を喰う音だ……」

 

 

「え?!」

 

 

「そんな……後ろはほぼすぐ……」

 

 

「……き、来ました。」

 

ある乗客が後ろを指さし、運転手以外は後ろの窓を見る

運転手は運転しながら中央前の小さい鏡を覗く

 

 

 

そこには赤い化け物がこっちを凝視していた

 

 

 

「すぐに最高速度にしろ!食われたくなければなっ!!」

 

 

「は、はい!!」

 

 

狭く、片方が崖という山岳路では普通出さないスピードにまで加速する

 

 

 

だが、戦車級もそれとほぼ同じスピードで突っ込んでくる

 

 

 

そして……飛びかかり……

 

 

 

 

バンは崖下に転がり落ちていった

 

 

 

 

数分後……

 

 

どこかも分からない斜面の平地上

 

クロエ達が乗っていたバンは横転し

 

 

そこから少し離れた所にクロエが放り出されて、偶然にも木に寝そべっていた

 

 

 

「……え……あ……ここは……痛っ……」

 

 

意識を取り戻したクロエは初めに感じたのは痛みだった

 

左足の太ももに横から棒のようなものが貫いていて、血が流れ出していた

 

それだけじゃなく、頭部からも強く打ったのか出血しており、血が目の近くを垂れていた

また、右腕に深い切り傷が確認できた

 

 

「ぅ………ひどい状態……これじゃ立つ事も……」

 

 

 

その時、視界に映ったのは

 

 

横転したバンと大きな口を車内に突っ込んでいる"赤き化け物"であった

 

 

「ひっ……」

 

 

 

その声に気づいたのか、赤き化け物(戦車級)はこちらに振り向く

巨大な口を血で濡らした状態で

 

「い、いや……」

 

 

だが、それはこちらを気にすることも無く、両腕を突き入れ、上半身のみとなった人の体を喰らう

 

 

「……」

 

クロエは言葉を失う

その人はさっきまで同じバンに同乗していた人……

自分だって同じようになるということを予測してしまった……

 

 

 

 

そして、バンにいた人間の多くを喰らった戦車級がバンを足で踏み潰し……

 

 

クロエに迫る……

 

 

 

クロエは足元がおぼつかないまま、ゆっくりと立ち上がり、そして、ゆっくりと後ろに下がる

 

 

だが、そこは急な斜面

 

クロエは足を踏み間違い、斜面を転がり落ちる

 

「グフッ……!」

 

 

今度は気絶はしておらず、腹に強打した痛みに悶えた

 

 

その間にも戦車級は斜面をものともせず、クロエに近づき、喰らおうとする……

 

 

「いやだ、いやっ!!」

 

 

クロエは一瞬、目を閉じて視界から、現実から背ける

 

 

数秒の間

 

 

何も感じなかった

その為、閉じていた目を見開く

 

 

そこには列車に乗った時から付き添ってくれたおじいさんがいた

 

 

「おじいさん……!」

 

 

「お嬢さん……逃げてくれませんか?……いえ、逃げろ!」

 

 

「え……分かった……」

 

クロエはその時、微かに涙を流す

 

そして、ゆっくりと立ち上がり、歩き始めた

 

 

「ふ……さあ、化け物。私が相手だぁ!!」

 

 

だが、赤き化け物(戦車級)は無慈悲にもおじいさんに齧り付き、体を貪り始める

 

 

「ぐ……だが……お嬢さんが逃げ切るまで耐えるぞぉ!」

おじいさんは口からは血を吐き、体から血を垂れ流しながら、叫ぶ

 

 

それをうるさいと思ったのか、戦車級は首根っこを掴み、引きちぎる

 

 

そこからは血が噴水にように吹き出た

 

戦車級はその後、人だった身体を貪り食らった

 

 

 

 

 

 

少し離れた森

 

 

クロエは息を吐きながら、走っていた

 

 

いや、正確には歩いていた方が正しい

 

普通なら走れる体力ではあるが、骨折や多くの怪我の痛みがクロエの体力の多くを奪い、そして、その怪我が走ること自体を不可能としていた

 

 

「ハア……ハア……」

 

 

 

クロエはとうとう力尽き、背中をある木に擦り付けながら座り込んだ

 

 

何度も転び、怪我をしたクロエの服は文字通りボロボロだった

 

 

着ていた長袖Tシャツは破れにやぶれ、袖の部分と脇下から横腹の部分の生地は消えてなくなり、腹の部分も大きく見えるほど短くなっていた

長ズボンも履いていたが、もはや、半ズボンとしか見えず、その残っていた部分も切り裂かれ、下着が所々で見えていた

さらに下に来ていた肌着もボロボロで肩の部分の紐で何とか前後が繋がっている感じであり、ブラジャーはとっくに切れていて、胸の部分から外れていた

 

かなり露出していたものの、彼女には恥ずかしさを感じる余裕などなく、あるのは恐怖と疲労のみであった

 

唯一ポケットに入れていたスマートフォンは奇跡的にほぼ無傷であった

 

 

彼女はそれを取りだし、1人しかない親、父親にコールをかけた

 

 

『おい、大丈夫か!!』

 

 

父親であるアンセルムの声は震えていた

 

「お、お父さん……も、もう無理かもしれない……」

 

クロエの言葉も震えていた

 

 

『……それは……どういう……』

 

 

「そのまんまの意味……もう、逃げられない……」

 

 

『おい……諦めー』

 

 

「だから、無理なんだって!!」

 

父親の言葉を遮り、クロエは声を上げる

生まれて初めて父親に反抗したのだ

 

それと同時に涙を流す

 

 

『……』

 

その声にアンセルムは絶句するしなかった

 

 

「……お父さん、聞いて。」

 

 

『……なんだ……?』

 

 

「……お父さん……今まで……17年間、育ててくれて……ありがとう、ございました……!!……あぅぅぁ……」

 

その時、クロエは感極まって大粒の涙を流す

 

 

アンセルムにその泣き声が聞こえ思わず声をかける

 

『クロエ……』

 

 

「ぁ……まだあるの……お父さん、私がいなくても……頑張って……生きて……」

 

クロエは気持ちを抑えてなんとか言い終える、だが……

 

 

「……死にたくないよ……生きたいよぅ……」

 

本音が溢れ出る

 

 

その声を聞いていたアンセルムは声を掛ける

 

 

『……な、クロエ。まだ……逃げてくれ……たのむ……な、クロエ!』

 

 

だが、耳に当ててる携帯端末からクロエの声は聞こえなかった

 

「おい、クロエ!!声を……聞かせてくれ!!」

 

 

その時、クロエは父親に弱音を聞かせたくないとばかりに、スマートフォンを膝に置き、自分は大粒の涙を流し、声を聞かせまいと必死に口を抑えていた

 

その間に、自動的に通話が切られた

 

 

 

ー 地中海マルセイユ沖:フランス海軍第四艦隊 ー

原子力航空母艦『クレマンソー』甲板上

 

 

「くそっっっ!!」

 

無慈悲にも通話が切れたことを伝える音がアンセルムの心に響く

彼の心には2つの思いしかなかった

後悔と悲しみ

 

その思いが左手に持つスマートフォンを折らんばかりに握りしめていく

 

だが、海を見ていると、ある思いが湧く

 

(……せめて、最期を看取ることが出来れば……)

 

 

その思いを温めたまま、彼は艦橋へ向かう

 

 

 

「失礼します!」

 

 

「何の用だ?」

 

そこでは艦長、艦隊司令、参謀らが議論しあっていた

 

「艦長、マルセイユへ先に向かわせて貰えませんでしょうか?」

 

 

「……理由は?」

 

 

「娘がリヨンに行っていて……助けに行きたいのです。どうか……!」

 

艦長は目を閉じて悩んだ

"私情"か"任務"かで……

 

 

「いいじゃないか?行かせても。」

 

その声の主は艦隊司令であった

 

 

「長官!?ですが、私情を優先するなど……」

 

艦長は艦隊司令に振り向く

 

 

「本来ならば優先することは無いな。だが……、彼には娘ひとりしか家族がいない。それもリヨンに向かっていた。人間として判断したまでだ……幸い、彼がいなくなっても手空きの兵は他にもいる。問題は無い。」

 

艦隊司令は艦橋を見回し

 

 

「誰か、艦橋で手空きの者はいるかね?」

 

 

「はっ、私が。」

 

 

「無論、内火艇の操縦はできるよな?」

 

艦隊司令からの威圧的な目線がその将兵に向かう

 

 

「は、はっ!もちろんです。」

 

 

艦隊司令は再びアンセルムの方を向き

 

「よし、ファルトマイヤー少尉。5分後だ。」

 

 

「5分後……」

 

 

「5分以内に用意しろ。用意出来次第内火艇を下ろし出発する。」

 

 

「はっ!」

 

 

「……まあ、お前の娘だ。数々の紛争に参加して窮地に陥りながらも生き抜いてきたお前のな。本人は諦めてるかもしれんが、悪運を人生使い切れないほど持つお前から受け継いでるだろう、どんな状況になろうと……生きてるさ。必ず。」

 

艦隊司令はその時、ニヤケ顔を見せる

 

 

「……ありがとうございます!」

 

 

そして、5分後

 

用意が完了し、内火艇は下ろされ、出発した

 

 

(クロエ……頼む……生きていてくれ。)

 

 

 

 

クロエは未だに座り込んでいた

 

今は涙を流すのは止まり、呆然としていた

 

 

「いや……いやだっ……」

 

 

赤い化け物(戦車級)が獲物を探すがごとく、ゆっくりと接近する

 

 

そして、自らの対人探知能力でクロエの姿を探し出し、向かってくる

 

 

クロエの露出している腹に齧り付き、肉を引きちぎる……

 

「ぎっっっ!!!」

 

あまりの痛みに目がひん剥かれ、体が痙攣する

 

さらに、両腕でクロエの体をがっしりと固定され、巨大な口で貪り喰らう

 

 

「あ"……い"……」

 

貪られた穴から大量の血が流れ出し、口から血が流れる……

 

 

引きちぎられた内蔵が飛び出し……目からは光が失いかけていた

 

 

腹の肉に満足した戦車級は次に左肩に狙いをつけ、齧り付く

 

その強靭な顎の前ではいくら骨が固かろうと無意味であり、肩の骨を砕き、肉と骨を齧りちぎった

 

 

「……あ…………」

 

クロエの目からは光が消え失せ、もはや生きる気力さえ失い、絶望していた

あまりの痛みに言葉すらも口に出せなかった

 

 

そして……戦車級は右手をクロエの首に掛け、引きちぎろうとする

 

 

 

その時……

 

 

 

『グランボム!!』

 

 

その声とともに、戦車級の赤い表面を一筋の炎が貫き、それを4つに裂く

 

 

そこに2人の人物が降り立つ

 

 

「……なんとか、間に合ったわね?」

 

 

「ええ、まあ、なんとか……。」

 

 

「……たった1人の生き残り……」

 

 

「我々もリヨン支部の同僚を多く失いましたからな。突然の襲撃に我々魔法師が相手できる訳ありませんよ……」

 

 

「そうね……」

 

女の魔法師は涙を静かに流す

 

 

「では、かなり重傷を負っていますし、これは……」

 

 

「病院への転送が必要ね……私が担ぐから。」

 

 

「了解です。……彼女、目から光が消えていますが……大丈夫なのでしょうか?」

 

 

「……どんな姿になったって、生きていればいい。そう思わない?」

 

「え、……そうかもしれないですね。」

 

 

男の魔法師が転送陣を展開し、パリ中央病院へ転送するように設定する

 

 

「じゃあ……行くよ。」

 

女魔法師がクロエを担ぐ

 

そして、ゆっくりと転送陣の方に向かって歩き、陣の中央に立った後、その場から消える

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西暦2026年 5月24日

 

 

 

この日、さらなる災厄が訪れた

 

 

 

フランス共和国メトロポール・ド・リヨン県リヨン市

 

 

イスラム教軍領旧モーリタニア・イスラム共和国ヌアクショット首都州

 

 

アフリカ民主主義連邦エチオピア連邦民主共和国アディスアベバ自治区アディスアベバ

 

 

アメリカ合衆国アラスカ州フェアバンクスノースター郡フェアバンクス市

 

 

そして……

 

東南アジア連合ベトナム共和国クアンチ省ドンハ市

 

 

 

この5つの都市に新たにBETAを載せた着陸ユニットが落着した

 

 

世界に再び混乱が訪れる




※設定

クロエ・ファルトマイヤー

年齢17
身長170㎝越え
胸は少し浮きでるぐらい(中の中の上的な)
体重?シランナ
魔法も使えないただの民間人の少女
被害担当でごめんなさい
元ネタはマブラヴユーロフロントのイルフリーデ・フォイルナー
父親はアンセルム・ファルトマイヤー

両者共にリメイク版登場予定
というか、かなりのキャラが登場予定

次回
chapter17 混沌のアフリカ

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