インドの奮戦と敗北、そして…   作:空社長

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chapter18 フェアバンクス会戦

西暦2026年5月24日深夜

 

 

ー ホワイトハウス・ウェストウイング地下 ー

ー 大統領危機管理センター【PEOC】 ー

 

大統領ら閣僚らが集まり、ある映像を見ていた

 

「落とされたか……ついに我が国にも。」

 

その映像にはアラスカ州フェアバンクスノースター郡フェアバンクス市の様子が映されていた

否、フェアバンクス市だったのが映されていた

 

 

「防空網はどうなっていた?」

 

フリッツ大統領が怒気をはらんだ声で質問する

 

 

「それが……成層圏通過する時には異常なほどの猛スピードであったのですが、着陸する際には急激に速度が低下していました。」

 

レアード国防長官が申し訳なさそうに答える

 

 

「……低高度では起爆が行えない専用防空弾頭の盲点を突かれたか……現段階の対応は?」

 

 

「はっ、在アラスカ陸軍の第18機甲師団を回しBETAの進出阻止に出動させています。次にエルメンドルフ空軍基地より第11空軍のF-36を緊急出撃させ偵察任務に当てております。また、これだけでは足りなすぎるため、カナダ連邦管区にも要請し2個砲兵連隊と4個歩兵連隊で連邦管区国旗沿いの防衛に当てました。それから……大統領。フェアバンクス市は見捨てますか……?」

 

 

「…民間人の救助は困難なんだろう?…無論構わん。そこまで人員に拘っていたら大統領にはなれていないからな。」

 

 

「ありがとうございます。これならば、北極海に展開する艦隊の支援砲撃が使えます。」

 

 

「頼んだぞ。アラスカは守り切らなければならない。」

 

 

「はっ。」

 

 

 

 

 

 

 

ー 北極海・ボフォート海 ー

 

 

アメリカ海軍艦隊総軍所属第6任務部隊(タスクフォース)

 

 

「で、再確認だがフェアバンクス市に奴らが落ちてきたのは本当なんだな?」

 

 

「ええ、間違いないです。アンカレッジも同様の連絡をしてきました。」

 

 

「全く……民間の通信が錯綜していたり、猛吹雪のせいで通信状況が悪くて繋がらなかったり散々だな。」

 

 

「どうします?」

 

 

「浮上させろ、をな。」

 

 

 

その時、旗艦であるジェラルド・R・フォード級原子力航空母艦CVNB-1『エセックス』の前方の海面が割れ、現れたのは巨大な戦艦だった

 

グリーズ・リーパー級特殊戦艦二番艦『フィッツ・ジェラルド』

奴とはこの艦のことであった

 

 

そして、この秘匿されている艦を運用する艦隊を率いるのはアンソニー・クラーク大将であった

 

 

「ところでフェアバンクス市へ砲撃は届くか?」

 

 

「!?、ですが、大統領の許可が……」

 

クラーク大将はその言葉をさえぎり

 

 

「問題ない。秘匿通信で国防長官から陸地への制圧砲撃許可が出た。で、どうなんだ?」

 

 

「はい。一応、飛ばしておいたFS-1改や衛星を利用したGPS誘導射撃は可能です。」

 

 

「そうか……射撃用意!他艦は巡航ミサイルの用意だ!」

 

 

「了解!各艦に通達、攻撃用意!攻撃目標、フェアバンクス市!!」

 

主任参謀が攻撃命令を各艦に伝える

 

その間にクラーク大将は祈った

「……神よ。同じ国の無辜の民に矢を放つこと、お許しください……MyGod……」

 

 

「司令、各艦攻撃準備完了!」

 

 

「よし、FIRE!」

 

その声に反応し、巡洋艦や駆逐艦の艦橋ではミサイル発射スイッチがバラバラに押され、前部甲板のVLSから炎が激しく吹きその隙間からトマホーク巡航ミサイルが放たれ、『フィッツ・ジェラルド』からは巨砲が吼え、洋上から600㎞離れたフェアバンクスに実体プラズマ弾が降り注ぐ

 

 

 

 

地上ではアメリカ陸軍第18機甲師団が展開、第68機甲連隊第4大隊による積極的防御(アクティブディフェンス)に徹していた

 

履帯をフル回転させ、猛獣のように勇ましく動き、第4大隊の先頭をゆくM1A4/FエイブラムスⅣ

それは同型の車両やM1A3エイブラムスⅢ、M2A5ブラッドレー歩兵戦闘車と共に、BETAの大群へと突っ込んでいく

 

「全車、ファイアっ!!」

 

そして、号令と共に120㎜滑腔砲からAPFSDS弾頭が叩き出される

 

「2号車は左、3号車は右を狙え。各車、割り当てられた目標に撃て。決して撃ち漏らすなよ。」

 

「サー・イエッサー!」

 

 

先頭をゆくM1A4/Fは進路の障害となった戦車級に120滑腔砲を至近距離で放ち、直後踏みつぶす

その後ろをゆく2号車は左に砲塔を旋回させ、要撃級の白い頭部を消し飛ばす

3号車は右方向の戦車級に120㎜砲を放ち、12.7㎜M2機関銃で小型種を消し飛ばしていく

その他の後続も続き、M2A5ブラッドレーは25㎜機関砲を乱射し戦車級を穴だらけにしていき

、別のブラッドレーは対戦車ミサイルで要撃級の脚を潰す

 

直後、重光線級からの攻撃が来るも、M1A4/Fは青白い膜を展開し耐える

 

 

 

『こちらCP(コマンドポスト)、全車両に通達する。一時後退せよ、後方より阻止攻撃が来る。』

 

その命令は伝達された時

 

『ヘル・ターニング!』

 

と第4大隊大隊長が叫び、彼らはなんと敵中での一斉超信地旋回を行った

 

 

絶好の標的と判断したBETAが接近する中、大隊長は無線機で外に向かって叫ぶ

 

 

《地獄に落ちろ!!下等生物共!!》

 

同時にいつの間にか後方側へと旋回していた120㎜滑腔砲が咆哮する

 

 

直後、車両の前方にいた小型種を踏みつぶし、強行突破を図る

 

 

「ヒャッハー!無謀なことが好きだねぇ!」

 

 

「化け物を砕くの爽快だぁ!!」

 

 

『ファイアっ!!』

 

 

全車両の火砲が一斉に火を吹く

 

後退中でもBETAを殺すことを欠かせなかった

ある車両は砲塔が後方を向いたまま12.7㎜M2機関銃を放ちつつ戦車級に吶喊して押し潰し、後方から接近するBETAを120㎜砲で撃破した

 

後退する内にCPが設定した後退ラインへ積極的防御(アクティブディフェンス)を行っていた全機甲大隊が後退が完了

 

 

直後、第301野戦砲兵大隊のM109A7パラディンやM116A1スチュアートの155㎜、175㎜榴弾砲が一斉に放たれる

 

 

その砲弾が飛翔する中、BETA群前衛を掻き乱した第4大隊大隊長は一言つぶやく

 

「ゴー・ヘル。」と

 

 

 

Ammo, now!(弾着、今!)

 

掻き乱されたBETA群前衛は爆炎に包まれる

 

 

BETAの後続は続く

だが、高速展開していたHIMARS(高機動ロケット砲システム)から227㎜ロケット弾が降り注ぎ、引き裂かれていく

 

 

それはまさに演奏

BETA共を地獄まで叩き落とす炸裂の伴奏が流れながら演奏は中盤へと差し掛かる

 

装填が完了した第301野戦砲兵大隊から破壊をもたらす演奏が流れ始める

また、第68機甲連隊第4大隊からもAPFSDS砲弾が放たれ、光線級の迎撃すら大量の砲弾で圧殺していく様はまさに破壊をもたらす演奏が奏でられていた

 

 

『砲撃終了!BETA群第1波……全滅!!』

 

CPが戦果報告を告げた事で破壊の演奏は終了する

 

 

 

 

 

25日午後4時

 

ー 大統領危機管理センター【PEOC】 ー

 

 

「戦況はどうだ?」

 

 

「ええ。簡潔にいえば若干有利と言った所でしょうか……」

 

 

「何……?」

 

 

「モニターで説明します。スクリーンに出せ。」

 

モニターにはアラスカ州が映され、さらに拡大し、フェアバンクス市から周囲200㎞が表示し部隊の配置状況も加えられた

 

 

「現状、フェアバンクス南方は現状のままで防衛が可能であるため、援軍は必要ないと考えます。東側もカナダ連邦管区軍が国境付近で河川防衛に徹しており、ここも援軍は必要ないと思われます。ですが、問題は北方……主な軍部隊が配置されていなかったことに加え、アンカレッジからフェアバンクスを開始して進むルートは少なく、そのルートでさえ大部隊を輸送するのには適していません。現在はなんとか数個戦術中隊による機動防御戦術と海軍の支援攻撃でその進行を押さえています。」

 

 

「北側はさらなる増援が必要か……。」

 

 

「はい。ですが、ここはアラスカ、ただでさえ北部は湿地地帯が多く、大重量の戦車はあまり使えないかと……」

 

 

「では、どうする?」

 

フリッツ大統領はレアード国防長官の目を視線で射貫く

 

「……軽歩兵師団を主力とする装甲部隊及びAH-77Bデファイアントをフル装備する第332航空連隊を送るべきと考えます。」

 

 

「つまり……アラスカ州及び近隣州に分散配置されている第22騎兵師団をまとめて北部へ送り込む許可か……レアード国防長官。どういう作戦目標にしている。」

 

 

「あ……失礼しました。」

 

レアード国防長官はモニターを示し、

 

「作戦目標は建設しつつある敵拠点の攻略です。」

 

 

その言葉を聞いたフリッツ大統領は苦い顔をうかべる

 

「レアード。第22騎兵師団の投入は許可する……が、作戦目標を大幅に変更。量子爆弾を実戦投入する。」

 

 

「!?、待ってください!現状、北部の防衛が成功すれば、突入が可能です!」

 

レアードは抗議するが……

 

「その突入作戦が確実に成功するか?」

 

 

「……それは……」

 

 

「出来んだろう。人類においてハイヴ投入はオペレーション・ブロッサムのみだ。そして、我が軍で突入に適してる部隊はFMS-4『パーシング』を有する部隊のみ。まだ全師団に行き渡ってない熟練部隊。それを突入させ作戦が失敗した時、我がアメリカは貴重な人員を失う事となる。それだけは避けねばならん。また、世界はアメリカのBETAに対する早期決着を望んでいる。これはアメリカの威信と経済にも関わる重大事態だ。速やかに奴らを処理しなければならん。」

 

 

「では……フェアバンクス市に量子爆弾を?」

 

 

「無論。だが、この戦域モニターに量子爆弾の起爆範囲を重ねてみると、現状量子爆弾の投下は不可能。国防長官、投下前に量子爆弾の爆発範囲外に対BETAの包囲陣を形成させるんだ。1体も逃してはならないぞ。」

 

 

「わかりました。」

 

 

レアード国防長官は早期に退出

国防総省にて、戦域部隊の量子爆弾の爆発範囲外での包囲陣形成を命じるよう伝え、戦略軍事ステーション『カリフォルニア』には量子爆弾の投下シークエンスを開始するよう命じた

 

 

 

 

 

 

西暦2026年5月26日早朝4時

 

 

量子爆弾の投下まであと2時間を切った

 

直後、戦略軍事ステーション『カリフォルニア』では巨大な発射口が口を開く

 

 

 

地上では、第68機甲連隊第4大隊が包囲陣前衛となって配置につき、時々襲来してくるBETAの迎撃任務も兼ねていた

第301野戦砲兵大隊も既に配置につき、上空では第11空軍のF-36『ハンター』が偵察行動を行い、AH-77B『デファイアント』も上空を浮遊していた

増援としてきていた第22騎兵師団は北部方面で包囲陣を形成し配置についていた

 

 

ー 大統領危機管理センター【PEOC】ー

 

 

「準備は整ったな?レアード国防長官。」

 

 

「ええ。全て整いました。」

 

 

「……BETAは放置しておくとさらに数が増えてしまう。早く始末しといた方が良さそうだ。」

 

 

「時間を繰上げますか?」

 

 

「ああ。頼んだよ、参謀総長。」

 

 

 

 

 

投下時間が1時間繰り上げられた

 

 

 

 

 

そして、その時間でさえすぐに過ぎる

 

 

 

 

 

 

軌道上の戦略軍事ステーション『カリフォルニア』の巨大な発射口より量子爆弾が射出されるブースターが点火し大気圏へと突入を開始した

 

 

光線級の光線(レーザー)が浴びせられる、が…その弾頭はブースターに電磁放射防壁と熱反射シールドを装備しており、全く効果が無かった

 

 

高度100mを切った時にブースターが分離、シールド類が解除され急上昇する

そして……

 

 

量子爆弾は炸裂した

 

 

 

触発型の信管となっていた第1段目の内蔵通常爆弾が炸裂し、爆炎がBETAを呑み込む

だが、それは第2段目、重力爆弾の起爆によって収束し、1点に集まった後

第3段目の本命、量子爆弾の起爆によって収束したエネルギーも全て解放されてゆく白い光が辺りを染め上げる

高温となった爆炎が津波となってBETAや残っていた建築物を呑み込んでいく

BETAは一匹残らず焼き尽くされ、フェアバンクス市も、BETAが建築しかけていたハイヴも、全てが焼き尽くされる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー大統領危機管理センター【PEOC】ー

 

 

起爆する映像を見ていた官僚らは終始言葉が出なかった

 

あんなものが我々の頭上に落ちてきたら……

 

 

そう思わずにはいられないほどの、破壊力だったのである

 

 

 

「レアード長官。突入は可能か?」

 

 

絶句していた内の1人、フリッツ大統領が初めに口を開く

 

「核兵器ではないので、爆炎が晴れ次第可能です。ですが、かなり高温なので、核戦争下の活動が可能な兵器に限定されます。」

 

 

「戦車部隊か……まあ、熱が収まってからでいいだろう。ただし民間人は誰であろうと入れるなよ。フェアバンクスノースター郡は一時的に軍政下へと入れる」

 

 

「そうします。」

 

 

「それから……量子爆弾の製造を停止しろ。こんな兵器を他国に落とすなど……胸糞悪い……」

 

 

「……分かりました。」

 

レアード国防長官は気持ちを察したのか、一言で返答を返す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西暦2026年5月26日

 

 

BETAの北米侵攻は

 

 

たった1発の爆弾により

 

 

食い止められた




※次回
chapter19 生き残った者の苦しみ

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