インドの奮戦と敗北、そして…   作:空社長

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お久しぶりです
これほど待たせてしまって申し訳ございません。

また、この話には閲覧注意と言わせていただきます
結構、人が死ぬ描写を詳しく書いてしまったので


chapter21 鮮血の舞

_西暦2026年5月25日 日本時間午前9時_

ー クアンビン省ドンホイ近郊 ー

 

数両のT-90戦車が最高速度である時速65㎞近いスピードで後退し、砲塔は後ろに向け、125㎜滑腔砲を放つ。

その傍をBMP-2歩兵戦闘車が30㎜機関砲2A42を後方に向けて連射しながら駆ける。

 

『こちら、ラヴシ中隊ラヴシ04、ラヴシ中隊は私の1両を残し全滅!撤退を行いたいが、駆動系に損傷を負い逃げられない……ブチッ』

 

「聞きたくはないな」

 

人が化け物に食われる時の悲鳴は、と言いかけた車長はため息を吐きハッチから顔を出す。

 

「化け物め……」

 

彼は双眼鏡で後ろを覗いていると、視界の右端で起こっていることに気づく。

 

(まずいっ!)

 

若干スタックしてしまった1両のT-90戦車に要撃(グラップラー)級の触腕が振り下ろされた。

後部のエンジンブロックは勿論、履帯を回転させる駆動輪が破壊され、二度と走れないようになってしまう。

そして戦車(タンク)級が纏わりつき、逃げようとする乗員も砲塔内でビクついていた乗員も全て奴らに捕食された。

 

「くっそ!来るなってんだよ!」

 

車長が大声を上げる。

 

「イカノル中隊!全車てぇっ!!」

 

無線機で言い放つと共に、中隊定数よりは減っているが6両のT-90戦車から125㎜滑腔砲が放たれる。

 

6発の内3発は接近する戦車級に命中弾を叩き出したが、残り3発は掠るのみだった。

その効果に車長は思わず顔をしかめる。

 

超高精度の行進間射撃技術は既に存在はしていた。しかし、それは()()()()()()()()()()為、ベトナムの様な国には導入が難しかった。

さらに、行進間射撃というのは全速では無く時速30㎞程度で行う為、時速65㎞近いスピードでの行進間射撃は考えられていない。

 

また、車長を悩ましているのにはもう一つの理由があった。

それは段々と中隊がBETAに追いつかれているという事だった。

その理由は単純明快、T-90戦車が最高速度時速65㎞の上に常時全速はエンジンの故障に繋がりかねないのに対し、戦車級は突撃級には劣るものの、常時時速80㎞以上のスピードで向かってくる。

 

航空隊の援護が期待できない現状、砲兵部隊の制圧攻撃は光線級に迎撃され効果は薄く、戦車部隊だけで抗う事はほぼ不可能だった。

また、操縦手もそろそろ限界である事を彼は見抜いていた。

既に数時間ぐらい激しい機動の繰り返しで休息は無く、もはや疲労困憊であることは誰の目にも明らかだった。

 

そして、彼が車長を務めるT-90戦車/イカノル01にも戦車級が迫る。

彼は腰の拳銃を取り出し、思いっきり睨みつけて拳銃を撃ち始めた。醜悪な見た目に怯えそうになるのを抑え、根気だけでトリガーを引いていた。

グロック43拳銃より9㎜パラベラム弾を連続で放つも、足を止めることは出来ず、戦車級が手と思われる部分を車体後部に手を掛けた……

 

その時

 

 

"奴"は真っ二つに割れた。

 

 

「何が起こった……?」

 

 

車長は血飛沫を浴びながら、困惑した表情を浮かべる。

 

そして、1人の少女が眩しく光る刀を握りながら、車両後部に降り立つ。

 

「……今度は間に合って良かった」

 

「あなたは?」

 

「……魔法協会日本支部所属、桜井(さくらい)(ゆめ)二等魔法士。」

 

車長は怪訝な表情で桜井夢と名乗った少女を見つめる。

 

「ベトナム陸軍機甲科イカノル中隊中隊長リー・ヴァン・ダット少佐だ。援軍か?」

 

「ええ。でも、私だけと思ったのは大間違い」

 

夢は髪…では無く髪に隠されている通信機に触れ言葉を発する。

 

「特殊任務隊……来て」

 

その言葉と同時に、光る刀を横に一閃して、よって生まれた巨大な光の波動がBETA数体を上下に裂く。

 

さらに、その後続のBETA群は、左側方より超高速で向かってきた大量の砲弾によって葬り去られる。

 

This is Japan Army.(こちらは日本国陸上自衛隊である。) Repeat, this is Japan Army.(繰り返す、こちらは日本国陸上自衛隊である)

 

ダットは癖の強い英語に思わずニヤける。

 

BETA梯団の左側方に展開していた部隊、それは日本国陸上自衛隊特殊連合作戦群第2戦車大隊、そしてアメリカ魔法軍陸戦群第11機甲大隊だった。

 

「……ここは我らの出る幕はなさそうだ。全車後退を再開する!」

 

イカノル中隊全車が再び履帯を回転させ、後退を開始する。

夢は一度跳躍してからゆっくりと着地し、イカノル中隊が後退し終えた後に、戦闘魔法士、陸戦魔導師、航空魔導師部隊、統括軍第12作戦群が降り立つ。

その中にはセリア率いる統括軍第6中隊の姿もあった。

 

 

植物型大型個体は南方の残存陸上部隊を蹴散らした後に、再び北方へと触手を足のように使い進軍する。大量の触手を絡ませ砲身の様に形成し、1つの大きなプラズマ弾を放つ。

 

それは夢の光る刀に一刀両断にされ、全く被害を与えることは出来ない。

 

「無駄」

 

だが、その吐き捨てる様に呟いた一言に反応したのか、史上最大の光線属種はアメリカ海軍部隊への砲撃を止め、9つの照射膜による極大出力照射を特殊任務隊へと撃ち放った。

 

その光線(ビーム)は夢の刀に阻まれ、強烈な閃光を発した。

 

「っ!?」

 

その眩しすぎる閃光に目を開けていられない彼女は目を閉じる。

だが、光線が消え彼女が目を開けるまでの間の一瞬の隙を突き、植物型個体は触手を伸ばしユメの体を貫く。

 

「かはっ…」

 

彼女の口から血が吹き出すが、植物型個体はさらにその触手を使い、奥へと吹き飛ばす。

 

「あ…がっ!?」

 

背中から叩きつけられた彼女は背骨が折れたのを感じ取り激しい痛みに悶えた。

彼女の仲間達がすぐに駆け寄り、無事なのかを確認した。生きている事が分かると、仲間達は目に涙を浮かべながら、良かった、とそれぞれが口にした。

彼女は痛みに苦しみながらも言葉を紡ぐ。

 

「ご…めん……こんな事しか出来なかった」

 

「そんな事ないっ、これでも十分だよっ!」

 

夢はありがとう、と口にして仲間達に運ばれていった。

 

超重光線級は戦力外となった夢に興味を失くし、踵を返して、米艦隊への攻撃を再開した。

 

 

「……『ビオランテ』か……?」

 

「ん?なんだそのビ何とかというのは?」

 

「あ、いえ中隊長、私の故郷は元々カナダの北辺りなんですが、そこで伝わる伝説があって、『人がその力に奢るとき、自然の主は人を裂く』という伝承で、ある絵にはあいつのような姿だったんです……まあ、伝説に過ぎないでしょうけど」

 

『それがビオランテという物か……?』

 

第11機甲大隊長が中隊長車に通信を入れたことに驚いた彼は思わず声を上げた。

 

「だ、大隊長!?」

 

『ふむ、いい呼び名を提供してくれたな、礼を言う』

 

_第11機甲大隊長車_

 

「奴の呼称を『ビオランテ』とする!日本戦車隊にも伝えろ!」

 

『目標ビオランテ!!射撃用意!』

 

第11機甲大隊と第2戦車大隊の車両は一斉に砲塔を旋回、ビオランテへと照準を向ける。

 

『砲撃…開始!FIRE(ファイア)!!』

 

砲撃開始の一声で引き金が引かれる。

M1A4/Fは青白く輝きながら120㎜APFSDS弾を超音速で放ち、90式S型改は圧縮エネルギー弾を撃ちはなった。

ビオランテに爆炎が生じ、幾つかの触手が吹き飛ばされた。

 

触手の一部が剥がれた事で内部が若干見えるようになった。

しかし、すぐに触手が再生され、その部分は隠れてしまった。

更に、初めてダメージを与えられた事でビオランテ自体に変化が現れる。

今まで這うようにしか移動してこなかったが、脚となる歩行専用の太い触手が大量に生え、明確な移動形態を持った。

内部を覆う触手の壁は分厚くなり、その内部にも変化が現れた。

内部が変化しながら隆起し、それは低空で滞空していたヘリ部隊によって視認された。

 

「黒…薔薇……?」

 

触手で形作られた奇妙な黒い薔薇は見た者に恐怖を感じさせた。

それは戦域共有データリンクによって全部隊に共有され、少なくともその場にいる全ての兵士に認知された。

そして、【ビオランテ】という伝説を知っていた兵士は狼狽した。

 

「な!?……どういう事だっ!……なぜ……()()()()に変化するんだ!?」

「伝説通り?」

 

「……『人に真の捌きを下す時、黒い薔薇が姿を現す』という物です……しかし、なぜ……?」

 

「奴らは伝説や神話の生物からこのような化け物を作り出すのかもしれんな……」

 

『全射、照準修正!一斉射撃用意!FIRE(ファイア)!!』

 

砲撃は継続されていたが、照準を黒い薔薇に修正され、再び発射命令が下る。

60両以上の車輌から砲弾が放たれ……

 

触手の壁に防がれた。

 

さらに、その壁は弾き飛ばされることは無く砲弾の直撃に耐えていた。

 

さらに、突如として地面が割れる。

その小さな割れ目からは大量の触手が現れ、戦車隊に襲いかかった。

 

『チッ、全車両後退開始!M1はシールド展開、90式は可変機構を起動しろ!後退中も砲撃を欠くな!』

 

第11機甲大隊長がとっさの判断で命じる。

M1A4/FエイブラムスIVは車輌を覆う蒼白い膜を展開し、90式S型改は4つの角より脚のようなモジュールを展開し4脚戦車と化し元々の底面より210㎜砲が姿を現した。

蒼白い膜は触手を弾き返し、90式S型改は4脚歩行機構による素早い跳躍で躱す。

 

その直後、大量の触手がビオランテより離れている隙に一斉射撃を放った。

だが、寸前で防がれ触手の壁の内部にダメージを与える事は叶わなかった。

 

「……戦車部隊だけであれを倒す事は不可能か……」

 

第11機甲大隊長はそう呟き、特殊任務隊への支援要請を行った。

特殊任務隊は支援要請を受け入れ、加勢する。

 

「突撃!!」

 

航空魔導師部隊が一斉に飛び立ち、陸戦魔導師部隊は地上を疾走する。

戦闘魔法士隊と統括軍第12作戦群はその支援へと入った。

 

「行くよっ!ついてきて!」

 

航空魔導師部隊は加速魔法を展開し、一気に亜音速に加速しビオランテへと迫ろうとする。

だが、その行為に敏感に反応したのは"超重光線級"であった。

米艦隊への砲撃を一時的にやめ、インターバル0.2秒のガトリング式照射を放つ。

 

"彼女ら"は防ぎようがなかった。

航空魔導師は文字通り空を飛ぶ為、速度を重視していた。

防御系魔法も光線級からの光線照射を防げる程度しかなかった。

そもそも重光線級群の一斉射程度なら回避出来る高速性を持っていた為、まさか数メートルの隙間が無い程の照射が来るとは思わず、呆然とした。

 

「ひっ……」

 

自分が焼き殺される未来が見えた彼女は目を閉じる。

だが、いつまでもその未来は来なかった。

 

「私達で防ぐ!行って!」

 

目に飛び込んで来たのは統括軍の兵士達が跳躍して空中にて大規模シールド魔法を展開して防いでいた光景だった。

彼女は一瞬呆然としつつ頷き、自分達の飛行速度を上げる。

 

再び超重光線級がガトリング照射を放つも、戦闘魔法士も加わった防御シールドの万全な体勢で完璧に防がれた。

 

後方の憂いが無くなったことで、航空魔導師部隊はビオランテに突撃、前衛は腕についていたアームを変形させた剣を持ち、後衛は右手を前に掲げレーザー魔法の用意をする。

 

「ハァァーー!!」

 

ある航空魔導師の少女が斬りかかり触手数本を裁断し、レーザー魔法の青い光の筋が触手を焼き切っていく。

いかに触手の壁が戦車砲を防ぐ程度であったとしても、数本程度の触手なら斬るには容易いものだった。

だが、ビオランテは攻撃を受けた事で戦闘態勢に入り、狩りを始めた。

 

目の前の航空魔導師の少女が真っ先に狙われ、1本の触手が回避する間もなく少女の腹を服ごと突き刺した。

 

「がぁっ!?」

 

無理やり腹の奥まで刺された事で皮膚だけでなく様々な臓器が悲鳴を上げ、とてつもない激痛が走る。

本能的に引き抜こうと試みるが、触手が瞬間的に変形し魚の毒針のような返と先端に無数の棘が付き硬質化して阻害する。1㎝ずつ引き抜く毎に傷口を抉る棘や返による激しい痛みが彼女を襲い、ゴポッという音ともに溢れてくる大量の血が腹から流れ落ちる。

 

(……何コレ……早くっ…抜けてっ!)

 

必死に抜こうとするが返や棘が抜く動きを阻害、さらに1㎝引き抜く毎に激しい痛みに襲われ、段々と腕の動作が緩慢な物となっていった。

 

「……はあ……はあ……、もう……ヤダ……(……もう無理、痛すぎる……)」

 

その最中、仲間達は彼女を救おうと一生懸命に接近を試みていたが、無警戒な先の状況とは異なりビオランテや少女の周りに触手を広げ、防衛に徹していた。

少女が自身の腹に突き刺さる触手を抜こうとせず掴んだままな事を感じ取ったビオランテは突き刺さる触手の先端から幾つもの注射針の様な細長い触手を生やし、腹の内部の各所に謎の液体を次々と注入させていく。

 

「……ぐぅっ!?」

 

その直後、突如として腹が膨れ上がり、妊婦の様な体型へと変貌した。さらにその強引な変形によって腹部が悲鳴を上げ激しい痛みをもたらした。

 

「え……な、に、こ、れ……」

 

彼女は自分の変わってしまった体に絶望の瞳を向ける。

顔をさらに多くの水滴で濡らしていった。

 

ビオランテは突き刺した触手の先端にてエネルギーの充填を開始した。

彼女は違和感を感じ再び引き抜こうとするが、返と棘は健在であり、激しい痛みと傷を生むだけだった。

その内、体内にて光球が出来上がり、皮膚とも接触した。

 

「あぢぃっ!?」

 

そのプラズマエネルギーは何千度まで温度が達しており、彼女にとって地獄でしかなかった。

さらに、傷口からは未だに大量の血が流れ続けており、失血によって意識が薄まり触手から手を離す。

そして遂に触手からプラズマ弾を発射、少女の背中が血飛沫を上げながら引き裂かれ、そのまま飛翔したプラズマ弾は後方の別の少女に直撃しその命を消し飛ばした。

彼女自身は仲間の命を気にする余裕は無く、

全ての臓器を破壊されており、ビオランテは突き刺していた触手を勢いよく引き抜き、大量の血が吹き出した。

 

(……ごめん)

 

小さく呟くと同時に彼女の意識は消えた。

 

その時、

 

ギュアァァァァァ!!

 

ビオランテが咆えた。

 

ビオランテには知性が存在し、女を苦しませながら殺す楽しさを知ってしまった化け物に航空魔導師部隊は手も足も出なかった。

 

「痛い痛い痛いっ、イギィィィィ!?!?」

 

ある少女は四肢に触手が巻き付き、四肢を限界以上に引っ張られ身体を引きちぎられた。

 

「が、ゴボッ……コヒュっ…ヒュ─」

 

またある少女は肺と心臓を太く鋭い触手で破壊され、失血と窒息状態に苦しみ、

 

「いぎゃああ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」

 

別の少女は体全体に触手が巻き付けられ、その触手から高電圧の電流が流れ変色し焦げた匂いがするまで流し続けられた。

 

さらに、仲間を助けようとレーザー魔法を放った少女にキレたのか、回避不能な速度で触手を飛ばし脳を貫き、その上引き裂いて即死させた。

 

「許せないっ……がっ!?え─」

 

航空魔導師部隊のおよそ半数の命を散らしたビオランテは地上部隊にも牙を向ける。

 

ビオランテが最初に狙ったのは陸戦魔導師部隊だった。

陸戦魔導師は個人単体での高火力が特徴的であり、軽装部隊が装着する機動戦備はそれを補う素早い陣地転換速度を有していた。その反面、防御力は低かった。

それが災いし陸戦魔導師部隊はビオランテの餌食となった。(重砲戦備を装着する重装部隊もいたが少数であった。)

 

幸い陸戦魔導師部隊は航空魔導師部隊の末路を見ていた為に、"対応"は可能だった。

だが、どんなに粉砕しても再生し超音速で突っ込んでくる触手、航空魔導師の様な速度的アドバンテージを陸戦魔導師は持たない事により、徐々に追い詰められていった。

 

「くそがぁぁぁ!!」

 

時速120㎞近いスピードで戦場を()()回るある男はそれを超える速度で追いついてくる触手に恐怖の余り叫んだ、その数秒後、男の腹を貫き、衝撃波で体を粉砕した。

 

実戦経験が少ない若い男達や臆病な若女達は大量の触手に恐怖で足がすくんで立ち上がれ無くなり、互いに涙目で戦意を喪失し怯えていた。

だが、ビオランテはそういう者達にも容赦はしなかった。

彼らに触手を絡ませた直後、高空まで吊り上げ一気に叩き落とした

「─っ!!!」

 

彼らは声にならない悲鳴を上げる。

その衝撃は凄まじく、骨は粉砕され内蔵は破裂し筋肉や神経はブチ切れた。

もはら回復の見込みがない程、身体が壊滅的ダメージを負い多くの者が首の骨を折るなどして即死した。

それでも瀕死ながら生きている者にビオランテは男女の関係無しに苦しみを与える

即死をもたらさない程度に、何回も腹に突き刺したり、何回も触手で殴打を加え、嬲っていった。

 

「がっ……ぎ……もう死なせてっ!」

 

死を懇願したその女性は先程叩き落とされたせいで骨が色んな臓器を串刺しにしており、大量の血を吐血していた。

腹や胸、足に強烈な殴打をくらい、折れた骨同士が軋み、殴打した箇所は赤黒く変色していた。

だが、化け物にそんな声が聞こえるはずもなく、その体をさらに傷つけ嬲っていく。

 

しかし、第11機甲大隊及び第2戦車大隊、統括軍第12作戦群、戦闘魔法士隊及び残存した航空魔導師部隊からの妨害を受け、嬲るのが煩わしくなり、脳に突き刺して終わらせた。

結果的に陸戦魔導師部隊は重装部隊と1部の軽装部隊を除き全滅した。

 

「くそっ!間に合わなかったか……」

 

大隊指揮車両に乗車している第11機甲大隊長は指の肉に爪の跡をつける程拳を固く握りしめていた。

 

「……何なのだ、あの化け物は!傷をつけれたと思ったら……いつの間にか航空魔導師部隊と陸戦魔導師部隊が半壊しているっ……」

 

壮年のこの男の顔には若い男女を多く死なせてしまった悔しさが現れていた。

 

「大隊長っ!」

 

男の右の方に座る女性オペレーターが大隊長に顔を青ざめながら呼んだ。

 

「統括軍第12作戦群の方に大量の触手が接近しています!」

 

「すぐに迎撃するように伝えろ!」

 

「…伝達間に合いませんっ!」

 

「!!!」

 

その瞬間、男は顔をしかめた。

 

大量の触手は束なって大きな触手となり、統括軍が展開している付近の地面を叩き、巨大な衝撃波を起こし大きな土煙を発生させた。

さらに、束が分かれ打撃型の触手の状態で数人の少女に殴りかかった。

その1人にセリア・フランネス大尉がいた。

 

「……!」

 

高速で向かってくる触手は途中でシールドにぶつかるも相殺するには至らず、突破しセリアの腹に直撃した。

腹は大きく凹み、想像を絶する痛みとともに衝撃波で後ろへ吹っ飛ばされた。

 

「ゴホッゲホッ!…カハッ」

 

吹き飛ばされた彼女は一時的に呼吸困難に陥り咳き込んだ。

さらに内蔵を圧迫された影響か咳と共に血も吐き出す。

 

「喉の奥が苦しい……」

 

一息ついたのもつかぬ間、触手が彼女の首に巻き付き思いっ切り締め付け、体を吊り上げる。

 

「グッ!?」

 

締め付けは段々と強くなり、セリアは必死に引き離そうとするが触手は剥がれない。

(息がっ……)

 

徐々に呼吸が苦しくなり痛みとは反対に意識も朦朧としてくる。

その中で微かに自分の妹の顔が見えた。

 

(クリアぁっ……!)

 

その時、何故か力が湧き再び全力で触手を引き剥がしにかかる。

 

「(あああああ)あああああっ!!」

 

結果、引き剥がすことに成功し、セリアは引き剥がした触手を銀色の元素変換射線装置(トランス・ガン)()()させる。

 

「まだ死ねないっ!遺書だって書き終えていないし、クリアと話したい事がまだいっぱいあるっ!だから、まだ死ぬ訳には行かないっ!」

 

少女はどんなに嬲られても絶対に死なないという抗う意志を叫び、口についていた血を拭った。

先程触手を振り払った時に尻もちをついていたため、セリアはゆっくりと立ち上がる。

そして、〈トランス・ガン〉を両手で持ち前方の大量の触手に向ける。

セリアは銃のモードをspread mode(拡散モード)切り替えると、照準器部分に文字が投影され、同時に多数の触手がロックオンされる。

 

「……発射」

 

引き金を引く。

発射音が鳴らない代わりに"光"が放たれ、それに当たった触手は次々と元素に変換された。

数多くの触手が消え、視界が開ける。

 

「……!」

 

セリアはかなり遠方に見つけた唯1人で戦う他部隊の少女の姿を視界に映した。

その少女には多数の触手が囲んでおり、絶え間なく少女に襲いかかっていた。

セリアは出来る限り援護しようと走る。だが、その意思を阻むかのように触手の壁が前方に形作られ進路を塞ぐ。

 

「くっ!小賢しいっ!」

 

トランス・ガンで次々と消滅させても壁の厚みは増えていく一方でなかなか前進出来なかった。

 

(まさか……あの子を確実に殺す為……?……させない……私が身代わりになってもあの子を助けるっ!)

 

セリアは咄嗟にwide range mode(広範囲モード)に切り替え、トランス・ガンを撃ちはなった。

そして、視界が開かれ、その光景に……

 

絶句した。

 

数分前、その少女は自分の部隊が全員触手の餌食になり、たった1人で戦っていた。

自分の身長ぐらいはある大剣を軽快に振り回し、囲まれつつも決して寄せ付けなかった。

 

「くそっ……多すぎるっ…『空間凍結(フリージング・スペース)』!」

 

その一声で周囲の気温が絶対零度まで下がり、襲いかかってきていた大量の触手は凍りつき動かなくなる。

周りを見渡し、何も動く者が無いことを確認した少女は連戦続きの体を落ち着かせる。

 

その直後、1本の触手が彼女の背後より迫り、背中を突き胃を貫いた。

 

「…え……?」

 

背中に違和感と痛みを覚え、腹を思わず見た。

胃を貫いた触手は腹にまで達しており、その皮を突き破って先端を出し、その傷口から血が溢れ出していた。

さらに呼吸する度に口から血が漏れだし、口に触れていた手に生暖かい赤い液体が付着した。

それを見た少女は一気に死の恐怖に怯えた。

 

「なに…これ、なにこれ……なにこれなにこれなにこれ……わ、私……死ぬの……?いや……いやいやだいやだいやだ……嫌だよぉぅっ!!」

 

呪文のように言葉を紡ぎ、恐怖に固まる少女、しかしそんな状態であるこそ、ビオランテにとって絶好の標的だった。

 

再び静かに背後より2本の触手が近づき、だが先程とは異なり乱暴に背中にめり込み背骨を破壊しながら迅速に体内へと侵入、肺と心臓を貫いた。

人間の体感でわずか数秒の出来事であったが、その激痛と体内に侵入する際の激痛で首が限界まで上にねじ曲がる。

 

「がっ……は……!」

 

心臓という大量の血が流れている臓器が貫かれた事で口にまで逆流し大量に血がゴボッと噴き出す。

「か……(声が……出ない……?嫌だ……死にたくない……っ)」

 

少女は貧血と痛みから緩慢な動きへとなっていたが、落とした武器を持ち上げ《b》抗う《b》意志を見せた。

だが、ビオランテにとって、()()()()()()()()()()()()()()()()ことこそ、嬲りがいのあるものだった。

ビオランテは自らが有する触手を嬲る為と妨害する者を阻む為だけに用いた。

 

少女の左腕を引き裂き、右手首を斬り落とし、右肩の骨を1本1本押し潰す。

 

「あ"……!」

 

少女にはとてつもない激痛が走り、拾い上げた武器を落としてしまう。

ビオランテは追撃をかまし、体内へと侵入していた触手であらゆる内臓を引き裂いていく。

少女の口より鮮血が吹き出し、意識はさらに朦朧としてくる。

さらにビオランテは首の左部分を切り裂いた。

首から大量の鮮血が流れ出るだけではなくそれ以来少女の左半身は感覚が無くなり動かなくなった。

意識が朦朧としている少女はセリアがこちらに駆けてくるのを視界に映したその瞬間、一時的に意識をハッキリさせ、声が出ないのを無理強いし、ただひたすら囁いた。

 

「タ…………ス…………ケ…………テ…」

 

しかし、その言葉は続かなかった。

少女を嬲るのを飽きたビオランテが少女の首を斬り落としたからであった。

 

セリアは少女の口元をしっかりと見ていた。はっきりと「助けて」と伝えようとしているのが見えた。

だからこそ、目前で助けられなかったことを悔やんだ。

 

「ごめんっ……ごめんね……助けられなくて……っごめん……」

 

手を地面に付き、セリアは泣き出した。

涙は目より直接地面に落ちていき、濡らしていく。

 

そんな様子のセリアに隙ありと見たビオランテは音速で飛翔する1本の触手を差し向けた。

だが、セリアはトランス・ガンでその触手を弾いた。

そして、Shot mode(散弾モード)を選択し、大量の触手に照準を向け、撃ちはなった。

セリアは何も言葉を発さず、ただ撃ち続けた。

結果、セリアの周りにいた触手は全て消滅。

セリアは少女の触手に嬲られて中身がグチャグチャになった遺体を抱きかかえて、

 

「ごめん……」

 

と一言だけ発して黙った。

十秒程度経った後、遺体をゆっくりと下ろし切断された首も遺体の元に寄せる。

セリアはそれにトランス・ガンを向け、Irradiation mode(照射モード)を選択する。

 

「安らかに……眠って……」

 

そう呟いた後トリガーを引く。

少女の遺体は照射を受け、一瞬にして消滅した。

 

「……合流しようかな」

 

セリアは踵を返し、自分の中隊が展開している場所に駆け戻った。

 

1分ぐらいで駆け戻ったセリアは声を掛けられた。

 

「セリア!」

 

「レナ?」

 

その声の主は中隊の仲間であるレナだった。

 

「セリア……シャーロットちゃんが……っ!」

 

セリアはその言葉に嫌な予感を感じた。

 

「レナ、案内して!」

 

「うん!」

 

少し移動したところに1人横たわる白髪の少女とその周りに3人の少女がいた。

 

「状態はどうなの?」

 

セリアはまず、周りで見守る少女達に聞いた。

 

「致命傷では無いんです、けど額の右に大きな傷を負って、あと腹を貫かれました」

 

白髪の少女(シャーロット)は額と腹に包帯と応急パッチを貼り応急処置は済ましていた。しかし、血は滲み出て、苦痛により顔が苦悶の表情をしていた。

 

「シャーロット……」

 

「……せ、セリアさん……」

 

「安静にして」

 

「私……やられちゃいました……得意の雷撃が触手には効果が無くて……その時点で下がるべきでしたよね……」

 

セリアはシャーロットが自分は役立たずという思ってる事に気づいた。

だから、セリアは彼女を抱きしめた。

 

「セリア、さん?」

 

「下がるべきとか、進むべきとかさ……私にわかると思う?私には分かんない……だからさ、シャーロットが行った事も最善の行動だったかもしれないよ」

 

「……そうですよね……こんなんで悩んでたら……悩みなんて無くならないですから……」

 

「じゃあ、少し安静にしていて」

 

「はい……!」

 

「……ところで他のみんなは?」

 

そうセリアは聞くとレナが答えた。

 

「先に撤退させたよ。シャーロットちゃんも帰らせるべきだったんだけど、一緒に居たいと何度も言うから……仕方なくってところ」

 

「レナ、私達も退くよ。こんな所に居てもいずれビオランテに遊ばれるだけだから」

 

全員が頷いた。

 

「……総員撤退!」

 

「了解!」

 

統括軍第6中隊も遂に撤退を開始し、その報せはすぐに第11機甲大隊司令部へと伝わった。

 

『……第6中隊総員、撤退します』

 

「そうか……了解した。」

 

通信を終えると、第11機甲大隊長は頭を抱えた。

 

(こんな作戦、本当に必要だったのか……?大勢の命が失われたこの戦いにっ……!)

 

大隊長は南シナ海に展開する第9艦隊第32任務部隊のナカハラ海軍中将へ通信を繋げた。

 

『まさか、魔法域通信を飛ばしてくるとはな』

 

「我々はアメリカ魔法軍だ、当然だろう」

 

『で……負けたのか?』

 

「……ああ、陸戦では我々はビオランテに負けた。最後の希望は質量弾攻撃のみよ」

 

『あまり質量弾攻撃という手は使いたくなかったのだがな』

 

「この状況じゃ仕方あるまい、陸戦魔導師、航空魔導師、統括軍第12作戦群で被害が大きい、戦闘魔法士のみ軽かったが……」

 

『分かった。質量弾攻撃の要請はこちらで行う、ベトナム人民軍への説得はそちらで頼めるか?』

 

「了解した」

 

 

その後、アメリカ合衆国国防総省は質量弾攻撃の行使を承認、またベトナム人民軍も了承し、ダナン市に退避命令が発令された。

 

ー 地球・月間ラグランジュ点 ー

 

アメリカ合衆国宇宙軍戦略軍事ステーション衛星『カリフォルニア』

 

「全基砲撃準備!」

 

カリフォルニアの司令室の最も高い位置にいる男が声を上げる。

 

オペレーターらがその命令を聞き、コンソールを叩き始めた。それに同調し、外壁の40.6㎝3連装量子加速榴弾砲12基が起動し、ベトナム共和国クアンチ省ドンハ市に照準を向ける。

さらに6連ミサイル発射サイロが次々と開き実体プラズマ弾頭及び量子弾頭、光子弾頭を次々と装填する。

 

「しかし、再び化け物に撃つことがあるとはな……」

 

司令官が感慨深く思ってるとオペレーターが声を上げる。

 

「全砲塔、全サイロ発射準備完了、超重光線級及びビオランテ、建設中のハイヴへの照準修正も完了しています!」

 

「全基発射せよ!」

 

号令がかかると同時に、多数のサイロより弾頭が次々に射出され、40.6㎝全門より量子エネルギーが発射された。

 

先に発射されたシールド専用弾頭によって超重光線級からの照射は全て無効化され、多数の弾頭が着弾、量子エネルギーも次々とビオランテや超重光線級、ハイヴに命中する。

 

約5分間の攻撃で超重光線級及びビオランテは撃破され、ハイヴは中心部分まで焼き焦がされ、結果的にベトナム方面のBETAは1匹残らず撃破され、殲滅に成功した。




次回
chapter22 極北の勇戦
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