インドの奮戦と敗北、そして…   作:空社長

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恐らく2話程度で終わると思いますが、保険として(1)とさせていただきました。


chapter22 極北の勇戦(1)

_西暦2026年6月1日_

新ソビエト連邦首都モスクワ クレムリン

国防省統括戦略局

 

軍事上の国家戦略を司るその場所のある一室には複数の人影がいた。

セルゲイ・ザルコフ大統領以下の官僚達や、新ソビエト連邦軍を統率する軍のトップらがそこにはいた。

 

「これが、フリッツ大統領のホットラインによる連絡と、ペンタゴン(国防総省)から連邦軍に送られた情報だ」

 

ザルコフの言葉に疑問を浮かべる官僚ら。

 

「ちょっと待って下さい、なぜ連邦軍宛に?」

 

「分からんが、恐らく旧ロシア連邦軍への送信コードが残っていた、だから使ったんだろう。そうだな?レスチェンコ中将」

 

ザルコフは連邦軍のNO.3に当たるレスチェンコ中将に振り向く。

レスチェンコ中将は頷き、話を進める。

 

「はい、その通りです。大統領に代わって話を続けます。ペンタゴンより送られた情報によると、シュリーナガル、カシュガル、そしてノヴィ・ウレンゴイ、この3つのハイヴとは別に……いえ、この3ハイヴを指揮する者がいることが判明しました。戦術研究局でも議論されていましたが、インドにおけるBETAの移動ルート、大東亜のBETAの行動、そして我が新ソ連に侵攻するBETAの行動は最近、本能的行動ではなく人為的に第三者から指揮を受けているという分析結果に至りました」

 

「聞いていないが?」

 

レスチェンコ中将の発言に、ザルコフは眉を顰めつつ尋ねる。

それに、レスチェンコ中将は淡々と答えた。

 

「その時は、あの騒乱があったもので」

 

「そうか……話を続けてくれ」

 

「はっ」

 

レスチェンコ中将は頷くと、机にある電子モニターを起動して、モニターをなぞってロシア北部を映す。

 

「ペンタゴンも同じ分析に至っており、さらにペンタゴンはBETAを統率する指揮所の位置をはっきりさせています。サハ共和国ティクシ、『大侵略』前まで北極海に面する港町として利用されてきた街です」

 

「確か、その『大侵略』で空軍の飛行場や滑走路がズタズタに破壊されてましたな、以前被害の視察で訪れたことがありますし」

 

一人の官僚が口を開く。

 

「そうだ。そのティクシだが、ペンタゴン含めたアメリカは生存者がいないとしている。これがその"証拠"だそうだ」

 

ザルコフは1枚の印刷された写真を机の上に出す。

その写真には最近取られたと思われるティクシの街が映っていた。

 

「これはっ!?、ティクシの街が完全に破壊されてるだと……!」

 

「港もだ!」

 

官僚らは口々に感想を漏らす。

 

「そして、我々もティクシの街に強行偵察を行った。その写真も同じような状況だ」

 

と、同じ街並みを映した写真を出す。

 

「うぅむ……」

 

官僚らは言葉を失うが、その内の1人はザルコフに話しかける。

 

「大統領、これは……BETAを統率する者によってティクシの住民が皆殺しにされたということですか……?」

 

「……そうだ。話は変わるが、今回の作戦はアメリカ含むWMTAM軍との共同作戦だ。アメリカはティクシにある小規模ハイヴと唯一崩壊した様子もみられない空港施設へ急襲を図っているらしく、我々には周辺のBETAへの陽動攻撃及び殲滅を要請してきた」

 

ザルコフは話を切り、周囲の官僚や士官の様子を見る。

 

「大統領、それで返答は?」

 

「検討する、とだけ言っている」

 

「……」

 

官僚達はアメリカからの要請に不満を表情に出しながら、沈黙する。

1部の官僚は言い淀みながらも話す。

 

「……大統領、アメリカは我々に……囮をさせるのですか……」

 

「そう……思うだろうな。だが、我が新ソ連がBETAに大地を蹂躙されているのは看過できないし、連邦軍としてはBETAの動きを抑制できれば幸いと思っているのだろう?」

 

「はっ……」

 

レスチェンコ中将は頷く。

 

「私は要請を受け入れる。連邦軍は地上部隊の編成を進めてくれ」

 

「既に完了しています」

 

レスチェンコ中将以下参謀の速い動きにザルコフ大統領は笑みを浮かべる。

 

「速いな……説明してくれ」

 

「はっ。まずはモニターをご覧下さい」

 

レスチェンコ中将はタブレット端末を操作し、正面のモニターに編成図を映し出す。

 

「第4及び第7、第8独立親衛戦車師団を動員します。無論、主力戦車だけで構成している訳ではなく、ロケット砲旅団及び自走榴弾砲が入る砲兵旅団も所属しています。また、アメリカと大東亜の人型兵器に影響を受けて開発された、TN-1重自走機甲60両を実戦投入します」

 

「そうか……それは連邦軍で調整しておいてくれ、私はフリッツ大統領とテレビ電話_」

 

立ち去ろうとしていたザルコフを官僚が声を遮り話しかける。

 

「待って下さい。海上からの攻撃はどうするつもりですか!」

 

その官僚はティクシ周辺の地図を指差し、十分戦艦戦力が展開できる海域があった。

 

「当然派遣するさ。レスチェンコ中将、参謀本部に伝えてくれ、新ソビエト連邦軍法に則り、北方艦隊を派遣しろと」

 

「はっ!」

 

会議は終わり、新ソビエト連邦は初の広域反撃に打って出る。

 

ムルマンスク州 セヴェロモルスク

 

ロシア時代から閉鎖都市とされていたセヴェロモルスクは珍しく騒がしくなっていた。

その理由は明白で、北方艦隊が出撃するからであった。

 

初めに全長450mという破格の大きさを誇る38設計戦列艦の「クレムリン」「ウラジミール」が出港、続けて23設計戦列艦「ソビエツキー・ソユーズ」「ソビエツカヤ・ロシア」「ソビエツカヤ・レーナ」「ソビエツキー・バース」の4隻が130㎝単装砲を誇らしげに掲げ出港する。

戦艦部隊が出港し終えた後、1371型(ザカフカース級)重ミサイル巡洋艦、1144型(キーロフ級)重原子力ミサイル巡洋艦十数隻が続けて出港、最後尾には重航空巡洋艦「アドミラル・クズネツォフ」と1147.5型(ブロナツフ級)重航空母艦数隻が出港する。

 

アルハンゲリスク州 アルハンゲリスク

 

アルハンゲリスクのロシア海軍基地でも、北方艦隊の出撃で騒がしくなっていた。

アルハンゲリスクは北方艦隊の中小艦艇を抱えており、1155型大型対潜艦や22350型・11356型フリゲート、1164.5型(改スラヴァ級)ミサイル巡洋艦等が出港する。

さらに、上空ではユニトヒット・ゴーダフ型航空艦4隻が轟音を上げて、アルハンゲリスクから離れていくのが見える。

 

クラスノヤルスク地方 ボリシェヴィク島

 

その最中で、ティクシに最も近い潜水艦基地からは、958型戦略任務潜水艦5隻が出港。

1番艦「ラプテフ」はその名前の海が面する1つの街に攻撃を加えるべく、同型艦4隻と共に潜水を開始した。

 

アメリカ合衆国バージニア州 ペンタゴン(国防総省)

 

「大統領より新ソ連が作戦案に承諾した事がわかった。現時点での新ソ連の動きは?」

 

レアード長官は隣の士官に尋ねる。

その士官はオペレーターに新しい画面を表示させる。

 

「現在、新ソ連海軍はクレムリン級2隻を含む北方艦隊を出撃させています。また、空中戦艦に相当する艦艇4隻の出撃も確認しています。また、」

 

モニターが別の画面に切り替わる。

 

「陸上でも多数の戦力を動員しており、判明しているだけでも主力戦車4000両以上を動員しています」

 

「何だと……?本当なのか!」

 

「はい」

 

室内に騒めきが起きる。

ヴラニスクシリーズ/T-26は、ペンタゴンの分析によってM1A4/FエイブラムスIVと同等の性能を持つとされており、それを今回の作戦で4000両以上も動員するということ。

その数は新ソ連が文字通りの化け物国家と感じさせるには十分であった。

 

「ま、まあいい。すぐに【オペレーション・ノーザンクロス(極北の十字架作戦)】の準備にかかれ。先のベトナムでの損害も回復しきれていないこの時期の作戦行動だ。慎重に選別しろ」

 

「はっ」

 

_1週間後 6月8日午前11時半_

アメリカ合衆国アラスカ州ウナラスカ アリューシャン列島アマクナック島ダッチハーバー

 

ダッチハーバーに隣接する形で置かれている空軍基地の一会議室では、オペレーション・ノーザンクロスの参加各部隊指揮官が招集されており、その中には統括軍第6中隊長のセリア・フランネスの姿もいた。

 

アメリカ合衆国を盟主とする拡大NATOとWMTAMは世界規模の共同軍事作戦だと謳い、NATO諸国や太平洋機構*1諸国だけではなく、統括軍や魔法協会にも協力を要請した。

この要請に統括軍は軍事組織ということで承諾したが、魔法協会は「我々はあくまで民間人」だとして猛反対した。だが、魔法協会の莫大な運営資金の半分を供与しているのもアメリカであり*2、アメリカの断ち切られるかもしれないという無言の圧力で、魔法協会は渋々承諾していた。

 

その事情を多くは知らない彼らの前に一人の男が現れる。

 

「これより、オペレーション・ノーザンクロスの作戦説明を行います。初めに私の紹介から」

 

現れた男は表情1つ変えずに話を続ける。

 

「NATO軍統合作戦参謀部、在欧アメリカ空軍所属、ハロルド・プリチャード空軍大佐です。また、オペレーション・ノーザンクロスの首席作戦参謀も務めています。

まず始めに、我がアメリカ軍以外の兵士らには感謝を申し上げる」

 

その言葉に、1部の軍人らは動揺を表す。彼らは軍人として当然のように命令に従っただけで感謝されるような事はしていないと思っていた。

 

「では、これより作戦説明を始める。今からは私は余分な敬語を使わないで話すため、そこは理解していただきたい。今回の作戦目標はここ、ティクシ」

 

プリチャード大佐は前置きして話し、室内の正面のモニターを指さす。

モニターにはロシア北部の地図が映されており、作戦目標であるティクシにはマーカーが付けられていた。

 

「我が国は新ソビエト連邦にも協力を要請し、無事受諾され、現在陽動攻撃及びティクシ周辺の安全確保の為、新ソ連軍が行動を開始している。オペレーション・ノーザンクロス発動後、新ソ連はティクシ及びその周辺の安全確保の為、陽動を開始し、我々()()()はその間にティクシへ強行突入する」

 

プリチャード大佐はモニターを別の画像に切り替える。

 

「これはティクシを軍事ステーション「カリフォルニア」から撮ったものだ。ティクシは空港周辺には空港の守りを固めているように、BETAが多数確認されている。また、ハイヴについてだが、北西部にシュリーナガルとは比べるまでもないほどの小規模な物が存在している。ハイヴが小規模な為、敵の本拠地はここでは無いと不安がる士官もいると思うが、我が軍はここを敵の本拠地としている。その理由はこれだ」

 

プリチャード大佐は再びモニターの画像を切り替える。新しく映し出されているこの画像は、先程の画像を空港地域に焦点を絞って拡大したものだった。

 

「これは空港に拡大して撮ったものだが、空港の滑走路や施設周辺にはBETAが確認できておらず、また空港の管制塔及びその付随施設は何事も無かったように健在であるのが確認されてるが、ペンタゴンはここにBETAを指揮する者がいると分析している。我々はここに突入し、BETAを指揮する者を拘束あるいは殺害し、BETA殲滅の第1歩とするのだ!」

 

そう言い切ると、モニターには作戦概要図が映される。

 

「作戦内容だが、大まかに言うと強襲空挺降下だ。対BETAとは違い、対象は()()()()()()()の可能性が高い為、正確に拘束もしくは殺害を行わなければならず、その為の歩兵部隊が必要だ。作戦参加戦力として、歩兵として最も戦闘力が高い統括軍及び、車輌等を相手にすることが多い対戦車部隊を選んでいる」

 

作戦概要図に強襲輸送機からの空挺降下のマークが描かれる。

 

「ただし、その対象に辿り着くまでに対BETA戦闘が頻発する為、機甲部隊も動員する。その輸送方法だが、空挺降下ではMBTは輸送出来ない為、魔法協会の魔法士及び各軍補助魔法師は転移陣の維持を管理し、戦闘魔法師には機甲部隊への随伴を命ずる。機甲部隊についてだが、アメリカ陸軍第108機甲中隊、オーストラリア陸軍第52機甲中隊、日本国陸上自衛隊第11戦車中隊を派遣する。なお、アメリカ陸軍第9戦術中隊及びオーストラリア陸軍第14戦術機甲中隊は、前者は空挺降下で、後者は転移陣によって戦域に派遣する」

 

作戦概要図に機甲部隊のマークも描かれる。

 

「これで以上だ。詳細は戦術データファイルNCを見てくれ。作戦発動は6時間後、ゆっくり休んでくれ」

 

作戦説明が終わり、セリアは自分の中隊の場所に戻る。

 

「みんな聞いて」

 

その言葉に妹のクリアやシャーロット、レナ、ラミ等の少女達が振り向く。

 

「作戦開始は6時間後、用意しといて」

 

セリアの発言にクリアが1番先に返事して姉を気遣う。

 

「了解。お姉ちゃん不安そうにしてるよね?」

 

セリアは正直に頷くと。

 

「大丈夫だよ、みんな、あれだけの戦いを生き抜いてるんだから」

 

「……そうだね」

 

セリアは妹の励ましに笑みを浮かべながら頷いた。

 

新ソビエト連邦 クレムリン

 

「大統領、アメリカ主導のオペレーション・ノーザンクロス(極北の十字架作戦)の発動が6時間後に設定された、と連邦軍参謀本部より連絡がありました」

 

補佐官がザルコフに伝えると、ザルコフは頷く。

 

「そうか……そろそろ攻勢を開始させるべきだな」

 

そう言うと、ザルコフはマイクをマイクを手に取り、連邦軍参謀本部へ命令を伝える。

 

「大統領命令により、作戦を発動する。オペレーション・ノーザンクロス前段作戦、【クレアストクリィヤ(十字架の翼)作戦】を発動せよ、健闘を祈る」

 

北極海・ラプテフ海

ティクシから約50㎞の海上

 

「全艦攻撃用意!」

 

ソビエツキー・ソユーズ級4隻の130㎝超音速単装砲がティクシの方向を向く。

 

「衛星からの誘導砲撃照準、調整完了!発射準備完了!」

 

「第2潜水艦戦隊、第15ミサイル艦師団、攻撃準備完了」

 

報告を聞いた北方艦隊司令官は頷き、

 

Начать атаку!(攻撃を開始せよ!)

 

ミサイル巡洋艦やフリゲートらのVLSが次々と開いて巡航ミサイルを放ち、ソビエツキー・ソユーズ級4隻の130㎝が火を噴く。

また、第2潜水艦戦隊は水中でありながら上部VLSを次々に開放し、水中発射型巡航ミサイルを次々に放つ。

 

当然、光線(レーザー)属種からの迎撃は訪れ、春の北極海沿岸の空を多数の光線が走る。

光線(レーザー)級対策を一切施してない通常のミサイルは次々と撃墜されるが、130㎝超音速砲弾は違った。

4発の130㎝砲弾に一斉に数十体の光線属種の迎撃が到達するも、耐熱対レーザーフィールドを展開しており貫くことは出来ず閃光だけが輝く。

ただ、光線があまりにも殺到する為か、耐熱対レーザーフィールドの表面温度が急上昇していたのは事実であるが。

その()()()を伴い130㎝砲弾は港湾沿いに展開するBETA群に着弾、巨大な爆炎を上げBETAの大量の体液と土煙を舞い上がらせる。

その後、ソビエツキー・ソユーズ級4隻は130㎝砲以外の武装も使用して順次攻撃を開始する。

 

さらに、クレムリン級2隻の56.8㎝3連装荷電粒子砲4基、計24門が一斉に荷電粒子砲を放ち、沿岸部のBETAを一掃する。

 

「同志中将、戦車部隊より通達です」

 

「何と?」

 

北方艦隊司令官は尋ねる。

 

「進路上に多数の要塞(フォート)級を補足。対処は可能だが、対応するのに時間がかかる、との事でした」

 

その報告に北方艦隊司令官は口元を曲げ、笑みを浮かばせる。

 

「なかなか、優勢のようだな。よし、ここはデモンストレーションと行こう。『重力子圧縮砲』発射用意」

 

クレムリン級2隻は荷電粒子砲の砲撃を一旦辞め、ディスクの様な物体を2つ、甲板から出現させる。

2つのディスクは沿岸方向を向き、スパークを放ちながらエネルギーを溜める。

このディスクはどこからエネルギーを供給していると言うと、クレムリン級が展開する量子フィールドから非接触型供給を行っていた。

 

「重力子圧縮砲、発射準備完了。軸線安定!」

 

北方艦隊司令官はその報告に頷き、一言告げる。

 

「発射」

 

2隻分計4基のディスクから赤色の奔流が吐き出され、射線上の要塞級群を消滅させ、周囲のBETAも引き裂いた。

その上で、艦隊からは荷電粒子砲と超音速砲弾、ミサイルの雨が降り注ぎ、上空に展開するユニトヒット・ゴーダフ型航空艦4隻から荷電粒子砲の砲火が降り注ぐ。

 

レナ川東岸10㎞

 

ティクシから西に約40㎞の地点には揚陸支援陸上戦艦から展開されたT-26戦車の大集団が砲兵戦力の支援攻撃の中で進軍している。

自動装填式152㎜滑腔砲が連続斉射され、BETA中型個体集団は次々と吹き飛んでいく。

さらに、部隊後方の同口径荷電粒子砲を装備するT-26より荷電粒子砲が放たれ、BETAが引き裂かれていく。

 

「今更だが、BETAが可哀想に見えてくるわな……」

 

「俺もだ……まあ食われる時は俺らが餌になるんだが」

 

後方からヴォルスク級揚陸支援陸上戦艦の26㎝連装砲2基4門の轟音が響く。

既に光線属種の対応力を超えたこの戦域で、その砲弾を阻む物は無く、BETA集団に突き刺さる。

 

ティクシ空港 管制塔内

 

「新ソ連が動き出したか、ここに向かってくるのか?」

 

フードを被った男が同じような服装の者に尋ねる。

 

「いや……彼らは所詮陽動だろう、恐らくここにはアメリカの連中が向かってくるはずだ」

 

「ラノル……なぜそう考える?」

 

ラノルと呼ばれた男は眉を顰める。

 

「少しは考えろ、イジェス。こちらの手を全て粉砕してきた国だぞ?位置特定程度ならあの国の頭脳(国防総省)ならやってのけるに決まっている」

 

「すまんな、貴様ほど頭は良くないのだ。それで、対応はどうする?」

 

「新ソ連と同調して大規模戦力を投入してきたり、大型爆弾を投下していないのを見ると、恐らく奴らは空挺降下で突入し我々を殺すか捕らえたいのだろう。ベルマン、貴様は瞬時に転移して別任務に当たれ。私とイジェスが殺されたとしても、だ」

 

「は…」

 

「私は相転移術の用意に入る、恐らく戦闘前には間に合わないだろうが、耐えて見せよう……相転移術が完了すれば……こちらの勝ちだ」

 

「ああ」

 

「イジェスは地上の駒たちの指揮をとってくれ。所詮駒だが、歩兵部隊には強力だろう。貴様は敵部隊の強力なやつを仕留めに行くだけでいい」

 

「わかった」

 

「……(恐らく、突入してくるのは、ジャイプールとガンジスに来た連中だろう、あの生き残り具合は人の比ではない……だが、貴様らの命はここで終わらせてやろう)」

 

ラノルは邪悪な思いを心に宿し、空を見つめる。

 

バージニア州 ペンタゴン(国防総省)

 

レアード国防長官は手元の時計を見る。

時計は17時18分を指しており、作戦時刻まで12分を切っている。

 

「そろそろか……大統領に回線を開く」

 

レアード国防長官はフリッツ大統領に電話を繋げ、相談する。

 

「どうしますか?」

 

「……予定通り実行しよう。慌てると行けないからな」

 

「はっ」

 

そして、1分前となる。

 

「作戦参加全部隊へ、私はアメリカ大統領ケント・フリッツだ」

 

フリッツ大統領はゆっくりと全兵士が聞き取りやすいように話す。

 

「これより、オペレーション・ノーザンクロス(極北の十字架作戦)】を発動する。総員の健闘を祈る!」

 

サハ共和国 ナイバ ティクシより南東約100㎞

 

その上空、高度300m付近をF-36A"ハンター"2機が先行し、大柄な全翼機のB-3爆撃機6機がそれに続く。

その後ろには、C-21戦術輸送機"グラマンⅡ"が5機程追随する。

 

始めに、B-3爆撃機が空港手前の廃墟となっている住宅街に向けて燃料気化(サーモバリック)爆弾を投下して更地にし、その間にC-21輸送機1機が高度を下げて、6両のM1A4/FエイブラムスIVを投下する。

 

「撃てぇ!」

 

120㎜電磁滑腔砲が咆哮し、音速でAPFSDS弾頭が放たれ、空港敷地内と外を分ける壁を粉々に粉砕する。

爆煙が生じ、それを振り切って出てきた()()に再び6両のM1A4/Fは発砲し粉砕する。

 

「人……いや、BETAか!?」

 

戦車隊の乗員らはその存在に気づき、初めて見る()()B()E()T()A()()()()()()()()()()()()に驚愕する。

 

そして、その様子を空挺降下しようとしているセリアからも見えた。

セリアは眉を顰めつつも、深呼吸して意志を固める。

 

「第6中隊、降下開始!」

 

 

戦いは次の段階を迎えようとしていた。

*1
太平洋地域の西側とされる諸国の防衛援護協力機構。主に日本やオーストラリア等が参加している

*2
もう半分は日本、オーストラリア、カナダ、台湾が占めている。この中で供与割合が大きいのは日本




新ソ連兵器を色々活躍させてみました、新ソ連の兵器も結構やばいですね、これは……

後、マブラヴ次回作のサンプル画像から人とBETAが融合したような奴を登場させました、まあまだ明確にわかってないので半分オリジナルですが。

また、ティクシにいる敵の本丸の人物3人の名前が全員やっと判明しましたね、依然として宰相が誰かは分かりませんが。

※次回予告 極北の勇戦(2)(タイトル変更の可能性もあり)

敵の本丸を落とすため、戦う者たちは全力を尽くす。

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