インドの奮戦と敗北、そして…   作:空社長

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クリアとセリア達の話のみをリメイクします。
クリア達が登場するストーリーを章でまとめる予定です。

※本作を大幅に設定改変して再構成した作品
「Muv-Luv*Vierge 護世界の少女達 血潮染む運命に導かれる」を連載中ですので、こちらも見て頂ければありがたいです。
お気に入りして下されば嬉しいです。
https://syosetu.org/novel/196897/


ある少女のお話:ダイジェスト再編集版
chapter10【小さき抵抗】(1)


 chapter9までのあらすじ

 人類に敵対的な地球外起源種・BETAが地球へと落着。

 中央アジア連合インド管区のジャンムー・カシミール州シュリーナガルへと落着したBETAはハイヴと呼ばれる巣を建設し、そこから広がるように大地を蹂躙していく。

 インド管区軍は激しい抵抗を見せるも、圧倒的物量と強力な個体の出現に次々と敗北していく。

 ジャンムー、ボパール、ムンバイと言った名だたる大都市が落ち、インド亜大陸の半分が奪われた。

 この状況に希望をもたらすため、アメリカよりの世界規模の軍事同盟、西側連合は反抗の一手を下す。

 オペレーション・ブロッサムと呼ぶ総力を挙げた作戦はジャンムー、ボパール、ムンバイのハイヴ攻略を目指したが失敗に終わる。

 反撃とばかりに数を増やし圧倒的な物量で進軍するBETAに対して絶望が加速する。

 だが、国家やあらゆる組織が作戦を提案。

 ここにBETAの漸減を目的とした義勇部隊による作戦が決行された。

 


 

4月28日深夜

インド管区マディヤ・プラデーシュ州中央部

 

 今では廃墟が連立するが、かつては約300万人が住んでいた大都市ジャイプール。

 BETAの侵攻により都市はかつての様子を見る影もなく、少数のBETAが徘徊してるだけである。

 

 そんな光景の中、突然空間が歪む。

 一般人が見れば、その意味不明な現象に疑問を持ち慌てるだろうが、このインドの地には少なくとも、一般人と呼べる者はいない。

 やがて歪みは深まり、その奥には眩いばかりの光が灯され、それが収まると奥は別の場所へとつながっていた。

 それを使う者からはゲートと呼ばれる物から兵士や機甲兵器等を擁する様々な部隊が現れ、速やかにジャイプール全域を制圧する。

 彼らはインド管区陸軍を筆頭に集められた連合部隊であり、インド管区陸軍第8機甲大隊の他に、オーストラリア・オセアニア連邦陸軍第3機甲連隊、日本国陸上自衛隊第9戦車大隊、アメリカ魔法軍第1歩兵中隊に加えて、魔法協会から招集された魔法士部隊と、統括軍第12作戦群第6中隊で構成される。

 

「10時方向に戦車(タンク)級!撃てぇ!」

「11時方向より闘士(ウォーリア)級多数来ます!」

「総員車内に退避!遠隔機銃で薙ぎ払う!」

 

 ジャイプール全域を制圧後も、激しい砲声と銃撃音は止まない。

 制圧しただけのジャイプールは安全ではない。その為、魔法士部隊に属する白の世界技術者による防御結界の設置を行う必要があったが、設置中は無防備になるのが必然であるため、その護衛及び時間稼ぎの為に戦車部隊を中心にBETAを引きつけていた。

 

戦車(タンク)級多数!数が多すぎる!このままでは」

『こちら要塞(フォート)級も確認した。要撃(グラップラー)級も加えて大盤振る舞いだ。しかし隊長、まだなのか』

 

 120㎜滑腔砲の砲声に声がかき消されかけるも、隊長と呼ばれた男は聞き逃さない。

 

「もう少しの辛抱だ、総員命あっての物種だ。生き残ることを優先__っと、()()()()したようだ」

 

 その数に気押され、すぐにでも死傷者が発生しかねない危ない綱渡りの状況だった。

 だが、その寸前で防御結界が生成されたとの連絡が隊長の男に入り、彼らは結界内に撤収を行った。

 

 予想されていたことだったがジャイプール内に使用できる建物は全くなく、臨時指揮所としてのテントが敷設され、その屋根の下では会議を行うために、複数人の男女が集まった。

 

「事前に説明はしたが、再度確認を行いたい」

 

 そう話すのは、作戦指揮を執るオーストラリア・オセアニア連邦陸軍第3機甲連隊連隊長のオリバー・C・ウィンチェスター大佐であった。

 

「作戦目的は既に周知のとおり、BETAの漸減だ。まず第一課題としてジャイプールを橋頭堡として確保することは達成済みだ。第二課題は、作戦目的を達成するために、我々はボパールハイヴへの全力攻撃且つ出現してきたBETA群とムンバイより突出してきたBETA群の誘引及び殲滅を行う。

作戦の編成もすでに伝えているが、ボパールハイヴ方面は我々連邦陸軍第3機甲連隊及び、陸自第9戦車大隊。ムンバイハイヴから来るBETA群の誘引には、インド陸軍第8機甲大隊、アメリカ魔法軍第1中隊、統括軍第6中隊、戦闘魔法士部隊を充てる。ただし、第6中隊と魔法士部隊には一定の自由裁量が与えられているのは周知済みだ。戦況に応じて行動せよ。いいな?フランネス大尉」

「はい」

 

 男の声とは異なる高音が彼らの耳に入る。

 金髪のセミロングの髪型をしている少女の名前は、セリア・フランネス。統括軍第6中隊の中隊長をしている。

 

「では、最後の周知事項だ。作戦時部隊コードネームは第3機甲連隊をアルゴス、第9戦車大隊をファントム、第8機甲大隊をヴェリーヤ、アメリカ魔法軍第1中隊をリザル、統括軍第6中隊をステラと呼称、魔法士部隊をレイツと呼称する。

さて、懸念点などはあるが、少しは安心できる。だが、決して慢心するな。作戦目的が重要であるのは無論だが、もっとも重要なのは自分の命だ。もしもの時は命を優先に行動しろ。以上だ」

 

 最後の一言を聞き、他の指揮官らは一斉に敬礼し、ウィンチェスターもそれに応え敬礼を交わす。

 

旧マディヤ・プラデーシュ州州都ボパール近郊

 

 砲声が轟く。

 ジャイプールから進発した部隊の内、ボパールハイヴのBETA漸減を目的としたオーストラリア・オセアニア連邦陸軍第3機甲連隊と日本国陸上自衛隊第9戦車大隊はボパール近郊へと到達し、BETA群と遭遇する。

 10式戦車F型改の55口径120㎜滑腔砲から発射された砲弾は正確無比な一撃となって先頭にいた突撃(デストロイヤー)級の前脚1本を粉砕し、僚車はもう一本の前脚を粉砕する。

 

「大和田二佐!先頭の突撃(デストロイヤー)級の停止により後方の群体が頓挫しました!」

「よし、各車順次目標を選定しつつ射撃を継続!すぐに乗り越えてくるだろうから、気を緩めるな」

 

 そう命じる男は、陸自第9戦車大隊大隊長の大和田信吉2等陸佐であり、彼は大隊の中央で命令を出すのではなくわざわざ大隊長車を先頭へと置いていて、先程もこの車両が突撃(デストロイヤー)級の前片脚を撃ち抜いていたことからその練度の高さが伺えた。

 第9戦車大隊は陸上自衛隊の未だ数は増えていない完全機甲師団の一つであり、最古の機甲師団である第七師団隷下の戦車大隊であるため、その練度の高さは半ば当然とも言えた。

 そして、その間にも各戦車中隊は要撃(グラップラー)級への砲撃や頓挫した突撃(デストロイヤー)級の撃破に移行した。

 

 彼らがなぜここまで目立つ損害を受けないまま、順調に作戦を遂行できたのか、その解答は第9戦車大隊の両側面にあった。

 オーストラリア・オセアニア連邦陸軍第3機甲連隊は、105㎜滑腔砲を装備するなどのスケールダウンを行うことでBETA戦仕様に改修したM1A1MA(A)"エディンバラ"主力戦車で構成される機甲大隊で要撃(グラップラー)級を狩り、10式戦車に食いつこうとする戦車(タンク)級を排除するなどして、第9戦車大隊の支援にあたっていたがそれは第3機甲連隊にとっての主役ではなかった。

 

 FW-3重機甲陸戦兵器グラント。

 オーストラリア・オセアニア連邦陸軍の対BETA戦特化の新兵器。同盟国であるアメリカ合衆国がその性能を鑑みて世界的な軍事プレゼンスの低下を恐れ、外交圧力によってライセンス譲渡及び名目上は共同開発として要求した話が関係者の間で囁かれている兵器であった。

 全高12mの二脚でありながら、走行時の走行安定性は高い上にその速度は速く、歩行時であっても戦車の戦闘時速度に追従可能であった。

 さらにその兵器の武装も凄まじい。

 

 第3機甲連隊に数個の戦術機甲大隊として編成されたFW-3は両肩に装備した120㎜電磁投射砲2門を放ち、一瞬発射後の青白い残光を灯した直後、散弾となって数十体の戦車(タンク)級を粉砕する。

 その間に多数の戦車級が近づくも、正面眼下は死角ではなく、両腕に装備されているAH-64アパッチに装備されているM230単装機関砲と同型である30㎜4連装機関砲が火を吹き、弾幕を形成すると瞬く間に死骸と化していく。

 それでもなお脚にへばりつく個体に関しては、アクティブ防護システムが対応し爆発反応装甲で戦車(タンク)級を弾き飛ばす。

 

「こちら第4戦術機甲大隊、BETA群両翼それぞれの掃討率40%、その後方のハイヴからの増援も確認できます。そろそろ引き際かと」

『分かっている、日本戦車隊が担当する中央はどうだ?』

「こちら大和田、ウィンチェスター大佐、私から答えさせていただく。BETA群の掃討率は60%と推定、増援が両翼に集中しており中央が最も少ないためこの結果になった。なお、こちらの損耗率は20%未満だ」

『感謝する。これより後退に移る。だが光線(レーザー)級の撃破が優先されるため、多少踏みとどまってほしい。ジャイプールより超低空での巡航ミサイル攻撃を実施する。着弾までひきつけろ、光線(レーザー)級の予測位置データを送る、移動していなければこの辺りにいるはずだ』

「了解した」

 

 そう返答し、大和田は通信を切る。

 そして、大隊の無線に全車後退と叫び、大和田の乗る10式戦車は即座にギアが切り替えられ、後退を始める。

 だが、後退中であってもその正確な射撃が止まることはなく、ある一両は飛びかかろうとした戦車(タンク)級を離陸前に撃破する。

 

「後退するのには早いのでは……?」

「いや違う。全車データリンクは問題ないか?」

「え?は、はい、問題ありません」

「よし、第一、第二戦車中隊は本車と照準連動。他の中隊は接近してくるBETAを迎撃せよ」

 

 大隊の他の車両がBETAを迎撃する中、10式戦車二中隊は送信されてきた光線(レーザー)級の予測位置に対して砲撃を開始する。

 理論上、現代戦車の主砲は一キロ程度離れた場所に対する砲撃は可能であり、そして今回の場合、命中させる必要もなかった。

 

(我々の役目は巡航ミサイル着弾まで光線(レーザー)級を引き付けること、ならば光線級の位置に砲撃しまくり、迎撃能力を飽和させるのが手っ取り早い)

 

 大和田の考えと同様に考えていたオーストラリア・オセアニア連邦陸軍第3機甲連隊もほぼ同時に動き出す。

 M1A1MA(A)とFW-3部隊の半数がBETAの迎撃に回される一方で、残り半数のFW-3は機体背部より二基の4連装誘導ミサイルランチャーをせり出させ、通常のAPFSDS弾を装弾した120㎜電磁投射砲の照準を光線(レーザー)級の予測位置に合わせ、攻撃を開始した。

 誘導ミサイルランチャーに装填されたAGM-114Kヘルファイア対戦車ミサイルが次々に発射され、120㎜APFSDS砲弾とともに光線(レーザー)級がいる位置へと殺到する。

 当然、自身に当たるか当たらないかは関係なく光線(レーザー)級は迎撃を開始し、たった数秒で十数発の弾頭がレーザーによって消し飛ぶ。

 だが、航空機でない限りその程度は問題ではなかった。

 ジャイプールではBGM-158高速打撃巡航ミサイルが移動型地上発射機より発射され、光線(レーザー)級の予測位置データ及び前線部隊の観測データを元にした誘導によって超低空での高速巡航を開始。

 わずか1分後、絶えず続く第3機甲連隊及び第9戦車大隊による阻止砲撃によって光線(レーザー)級の迎撃能力は飽和しけていた時に、超低空でBGM-158巡航ミサイルが進入し、わずかな光線(レーザー)級の迎撃で二発が撃墜されるもその他はすべて命中し、光線(レーザー)級群を含む多数のBETAの撃破に成功する。

 

『よし、光線(レーザー)級の撃破を確認した。アルゴス、ファントムは直ちに後退!接近してくるBETAを撃退しつつ、ジャイプールへと帰還せよ』

 

旧マディヤ・プラデーシュ州南部ガジェン

 

 一方でボパール方面へと向かった部隊とは正反対に南へと向かったインド管区陸軍第8機甲大隊、アメリカ魔法軍第1歩兵中隊、統括軍第12作戦群第6中隊、戦闘魔法士部隊はすでに戦闘に突入していた。

 ムンバイハイヴから東へと向かうBETA群の一部誘引し漸減する目的の彼らは、衛星からの情報による予測進路上に待機し、BETA群と遭遇した。

 

「撃てぇ!!」

 

 BETA群の誘引を担当するのは、最も目立つ存在であり唯一の機甲部隊であり、アージュンMK2(R)及びM1A2ESI主力戦車で構成されるインド管区陸軍第8機甲大隊である。

 BETA戦の初期から戦い続けた大隊であるためその実戦経験による練度は高く、それにより亜大陸陥落前までは常に定数割れを引き起こしていたが、陥落後の軍隊再編によって完全編成の機甲大隊となっている。

 大隊長はスェノル・カラノフ中佐、当初から大隊長ではなかったが大隊の幹部要員として所属していたため大隊のことは知り尽くしているつもりである。

 

 彼の声に呼応し、車体をBETAから背を向けつつ砲塔を後ろに向けていた戦車隊は一斉砲撃を行い、接近していた戦車(タンク)級の群体や要撃(グラップラー)級を葬り去る。

 

「どのぐらい誘引できている?!」

『40%程度かと……これ以上は』

「我々が対応できる数を超える……だな?」

『ええ』

 

 カラノフは副大隊長との通信でうなずくと、回線を切り替え声を上げる。

 

「全隊に通達!BETA群の一部誘引に成功!作戦を次の段階へ、誘引殲滅を実行する!」

『了解!』

 

 通信機からの甲高い返事はカラノフも作戦前で会話を交わしている統括軍第6中隊長のセリアであったが、カラノフはその声を聴き一瞬眉をひそめる。

 眉をひそめた理由、それは第6中隊などの年若い者たちをBETA戦に投じることをカラノフ自身が反対していたからである。

 BETAのインド侵攻時から化け物との戦いを行ってきた経験から、少女たちはBETA戦の現実を理解しきっておらず、楽観視しているとカラノフには感じられた。

 その理由から、誘引という最も危険な作業も彼女らをあてにせず、他から反対されつつも自分の大隊のみで遂行した。

 

(BETAは予想以上の物量も、兆候の無い行動も脅威ではあるが、一番の脅威は胸糞悪い光景を見せつけられること、つまり死の恐怖、食い殺される恐怖に抗わないといけない……それが年半端もいかない彼女らにできるかどうか……

統括軍第12作戦群第6中隊、一人一人が戦車、それ以上の力を持つという実力は確かだが……)

 

 誘引殲滅自体はアメリカ魔法軍第1歩兵中隊と統括軍第6中隊、そしてインド管区陸軍第8機甲大隊が担当し、戦闘魔法士部隊は補助に回った。

 開始直後、戦闘魔法士部隊は誘引されたBETA群とその本隊の間に簡易阻止結界を広範囲に構築、重光線(レーザー)級の攻撃に耐えられるようなものではないが、突撃(デストロイヤー)級の全力突撃に耐えられ、不可視であるために信頼性は高い。

 

 そして、アメリカ魔法軍第1中隊が射撃に徹する中、統括軍第6中隊は突入する。

 

「はぁぁ!!」

 

 セリアはFR-B18キャノンピストルを連射して放ち、増幅された指向性のエネルギー弾が十数体の戦車(タンク)級を貫いて撃破し、要撃(グラップラー)級にはセリアの後方から放たれた巨弾が仕留めていく。

 その間に、セリアの眼前に青髪の少女は跳び出す。

 

「クリア!」

「お姉ちゃん、了解!」

 

 青髪ポニーテールの少女の名前はクリア・フランネス、セリアの妹であり、戦術指揮は未熟なものの高い魔力量を有していることから、中隊の副隊長となっている。

 クリアは右手を前に突き出して手を広げ、大きな魔方陣を形成する。

 

暴風(ストーム)!!」

 

 声を発した次の瞬間、向かってくるBETA群に対し大量の砂塵を含んだ暴風が襲い掛かり、一瞬の間に包み込む。

 無論、ただの風ではない。"暴風"の名の通り、風と共に生み出されるのは微細かつ鋭利な物体であり、強風が叩きつけられるとともに超音速で飛来するそれがBETAを切り裂いていく。

 風が収まったときにはその効果範囲に生きている個体はいない…はずだった。

 

 どこからか「やったっ」と声がする中、クリアは表情を険しくしたまま、その声に言葉を返す。

 

「いや…いる」

 

 そうつぶやいた瞬間、未だ収まらない砂塵の中から数体の突撃(デストロイヤー)級が前進してくる。

 前面を覆う装甲殻の高さはダイヤモンドに匹敵するモース硬度12以上であり、鋭利な物体程度では貫けないのも納得であった。

 突撃(デストロイヤー)級を視認すると、左手に持っていたLc-4ランス型武器"ルーン"を両手で持ち前に突き出すように構え、突撃(デストロイヤー)級の突進をランスで受け止める。

 受け止めた時の衝撃でわずかに押されるも体が軋む様子もなく、逆に突撃(デストロイヤー)級が浮き上がることもあった。

 クリアは突進を受け止めたまま自分の武器を砲撃形態に変形させる。

 

暴風弾(ストームシェル)、発射」

 

 そう一言言い放つと、突撃(デストロイヤー)級の突進を受け止めていたランスの先端から砲口が開き、暴風のエネルギー弾が発射され、先頭の突撃級はおろかその後続を両断する。

 このように統括軍第6中隊は順調に戦闘を進める中、同時に第8機甲大隊も誘引していた位置より向きを変え、120㎜滑腔砲で確実に一体ごと撃破していく。

 

「総員、ファイア!!」

 

 戦車部隊の両隣に展開するアメリカ魔法軍第1歩兵中隊の中隊長マスターク・F・イルベン少佐は声を荒上げ、第1歩兵中隊は青く煌めく銃火を演出し、数多くのBETAを銃火にからめとっていき、追随するM2A5ブラッドレー歩兵戦闘車が驚異的な連射力で25㎜機関砲を放ち、戦車(タンク)級や要撃(グラップラー)級の胴体を穴だらけにしていく。そして、時にはミサイルランチャーから散弾ミサイルを打ち出し、広範囲のBETAを掃討する。

 傍目から見れば優勢な戦況であり、当事者達もそう感じていた。

 しかし。

 

『こちら戦闘魔法士部隊、簡易結界範囲外のBETA数が減少しています。移動による減少ではありません』

「何……?」

 

 その報告は突然だった。それとともにカラノフは今までのBETA戦の経験から悪い予感を増大させた。

 そして、その予感はすぐに的中する。

 

 突然起こる地中からの激しい振動。

 

「地中から……!まさか、地中侵攻か!!戦闘魔法士部隊は警戒態勢を維持!こちらが命令できない状況となったとしても、隊としての自己判断を優先!いいな!」

「は、了解!」

 

 カラノフ自身、地中侵攻というのは話に聞いただけであり、実際経験したことはなかった。だが、その知識の無さが判断の遅れにつながった。

 統括軍第6中隊でもその振動に気づいており、何よりその震源は第8機甲大隊よりも近かった。

 そしてその震源は移動し、第6中隊のど真ん中で炸裂。地面が割れ、大量のBETAが形成された穴から這い出てくる。

 名実ともに地中侵攻であったが、経験の無い者たちは即座に対応できず、出現位置の近くにいた複数の隊員は身体を踏みつぶされて即死し戦車(タンク)級の餌と化した。

 何より不幸なのは、地中侵攻の位置は第6中隊の配置のほぼ真ん中であり、再編成をするまでの過程で二つに分断されてしまったことで、唯一幸いなのは隊長のセリア、副隊長のクリアが一方ずつにいることだけだった。

 

 しかし、彼女ら自身も正気で戦闘できるほど、経験を積んでいない。

 セリアは妹の無事を祈りつつも、先ほどと同様に戦闘を続ける。だが、その動揺は隠せなかった。

 そして、クリアの方だが、彼女は姉以上にショックと動揺を受けていて、先ほどの勇敢な行動とは一変し、まともに戦闘できず要撃(グラップラー)級のモース硬度12の腕にたたきつけられてしまう。

 その寸前に防御フィールドを張ったために直接的な打撃は受けていないが、その衝撃と反動で大きく吹き飛ばされ、胃や肺などが圧迫され、大量の血を吐き出してしまう。

 

「ガハッ……!?」

 

 息も絶え絶えの少女に3匹の戦車(タンク)級が近づき、その手が触れようとしたその時、一匹の戦車(タンク)級が両断され、その他二匹も動く間もなく切りつけられ崩れ落ちる。

 

「クリア……!立てる?!」

「アイナ……?」

 

 アイナと呼ばれた少女はクリアに呼びかけると、咄嗟に手を差し伸べる。

 クリアは頷き、その手を握ってゆっくりと立ち上がる。

 

「アイナ、ありがとう……そして」

 

 言葉を続けようとするクリアをアイナが止める。

 

「ありがとうは後でね、まだお礼しなきゃならないこと出てくると思う」

「……うん」

 

 その二人に化け物は群がっていく。

 二人は互いに背をくっつけ、応戦を開始した。

 クリアは通常形態に戻していたランスを砲撃形態に変形し、戦車並みの砲撃で戦車(タンク)級や要撃(グラップラー)級の頭部を丁寧につぶしていく。

 アイナは片手剣とフライパンの様な盾を持つも一切動かず、その代わりに体の周りに生成した光球からビームを発射して、戦車(タンク)級を両断し要撃(グラップラー)級の頭部を撃ち抜き突撃(デストロイヤー)級の殻を溶かす。

 

 そうして二人で庇いながら応戦を続け、殺到するBETAが減り応戦に余裕が出始めた頃、アイナがクリアに話しかける。

 

「ねぇ……私たちが行うべきはBETAの殲滅だよね?このままだとジリ貧、だから私たちは少し離れて戦うべきだと思う」

「アイナ……それは」

「行くね」

「!?やめて!アイナ!」

 

 クリアが突然嫌な予感を感じ必死に止めるもアイナは聞かない。

 アイナは飛びあがり10メートル離れた地点に着地し傍にいた戦車(タンク)級3体をビームで焼き払い、要撃(グラップラー)級の腕の降り下ろしもジャンプして回避し、3つの光球からビームの集中砲火を浴びせて沈黙させる。

 その次は周りを囲い始めていた戦車(タンク)級を片手剣で一閃し、盾で溶き飛ばして着地場所を確保する。

 一方でクリアはアイナを心配するあまり、アイナのいる地点まで5メートル以内の距離に近づいていて、十分アイナの顔も視認できた。

 彼女はアイナの戦ってる様子を見て、さっきの嫌な予感は杞憂だと思い、背を向ける。

 

 その直後、クリアは強烈に嫌な予感を感じ取り、再びアイナの方へと視線を向ける。

 アイナは戦車(タンク)級からの攻撃を防ぐのではなく、跳躍で回避する。

 だが、その時アイナの意識しない方向から要撃(グラップラー)級の触腕が降り下ろされ、回避する間もなくあまりの衝撃がアイナを襲い地面へと叩きつけられる。

 不運なことに防御フィールドが展開できなかったために、甚大な傷害を受けており左腕は肩から下が木端微塵に粉砕されていた。

 

「あ……あ……あああ……ああああ」

 

 その見るのも惨い断裂部に不思議と痛みはなかった。何より、アイナの感情は恐怖心が支配していた。

 その様子を見て、戦車(タンク)級がアイナの周りを囲い込み、一斉に齧りはじめる。

 

「あ‶あ‶あ‶あ‶あ‶あ‶あ‶あ‶!!!」

 

 その時初めてアイナは悲鳴を発したが、時すでに遅く意味はなかった。

 両脚や残った片腕を引きちぎり、頭部を曲がってはいけない方向に曲げて引きちぎった直後、クリアはBETAの壁を突破しその凄惨な場所へとたどり着き、"友人"の血しぶきを大量に浴びた。

 

「アイナ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 戦場では決して叫んではいけない悲鳴が轟く。

 だが、仕方なかった。姉やもう一人の友人とともに数少ない深く話し込める親友だったのだから。

 あまりの出来事に呆然と立ち尽くしてしまう。その隙をBETAが見逃すはずもなく、戦車(タンク)級が近づくが、彼女の本能的な自己防衛反応は機能しており、斬撃形態に変形したランスで切り裂く。

 彼女の心は悲しみに暮れ、目は涙で覆いつくされていた。

 しかし、要撃(グラップラー)級の打撃を受け止めきれなかったことにより、軽い衝撃ではあるが彼女は地面を転がって足には血が滲むも、彼女は正気に返る。

 地面を転んだことによって埃が付着した涙を拭き取り、偶然探知した味方のマーカーを確認して、決意する。

 

(アイナ、ごめん。……絶対に忘れない……)

 

 クリアはランスを通常形態に変形させ魔力を込め、ランスの穂先にはランスの2分の一の大きさにもなる巨大な光の刃が現れる。

 そして跳躍し加速して、進路上のBETAを引き裂きながら探知した味方のマーカーへと向かう。

 


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