_西暦2026年4月18日早朝_
人々の関心事には全く無かった謎の化け物、通称"火星起源種"との火星、月面両戦域での戦闘が人類の敗北に終わって2日たったある日。
謎の物体が宇宙より地球大気圏に突入し、
中央アジア連合インド管区ジャンムー・カシミール州シュリーナガル
大東亜民主共和国新疆ウイグル自治区カシュガル
新ソビエト連邦ヤマロ・ネネツ自治管区ノヴィ・ウレンゴイ
に落着した。
_同日_
インド管区大統領府
「
」
『Okay,
「
『
中央アジア連合インド管区スイドール・ウラヴミッチ大統領はアメリカ合衆国ケント・フリッツ大統領とのテレビ電話で謎の物体への措置に対する支援を要請、統合軍の派遣を取り付けた。
テレビ電話を終え深呼吸する彼に補佐官が尋ねる。
「どうでしたか?」
「ああ、問題ない。アメリカ中央軍の派遣を取り付けた。落着した物体は恐らく月面の奴らだろう、管区軍司令部には謎の物体に対して"火星起源種"が侵攻してきた場合を前提として対応を行うよう伝えてくれ」
「了解しました」
補佐官は一礼した後、部屋を出ていった。
後にアメリカ政府はNATO加盟国及び、日本、そして魔法協会に人類未曾有の事態だとしてインド支援を要請した。
バーレーン王国 南部県
アメリカ中央空軍基地
『全機離陸せよ。』
『了解、離陸させます』
RQ-4グローバルホーク5機、MQ-9リーパー3機、MQ-1Cグレイイーグル4機…
合計12機の無人偵察機がシュリーナガルへと向かい始める。
ケント・フリッツ大統領によって中央軍にすぐさま出動命令が下り、中央軍司令部は手始めに情報収集として無人偵察機隊を向かわせた。
だが、その途上、シュリーナガルまであと20㎞と迫った時。
シュリーナガル地上に一瞬小さい光点が8つほど現れ、その直後に地上から放たれた一筋の光が一機の無人偵察機『RQ-4グローバルホーク』を貫く。
続いてさらに何条もの光が無人偵察機を撃墜していく。
ある機体は光を掠められ、エンジンに不調が出て少しづつ高度が下がっていく時に2発目を喰らって砕け、他の機体は真っ二つに裂けたり、機首を破壊され、
一部の機体では何条もの光に貫かれ、一瞬にして木端微塵と化した機体もあった。
たった数十秒の間に無人偵察機隊12機は全滅した。
バーレーン南部県 アメリカ中央空軍基地
「こちら、1番機!遠隔機体撃墜された!」
「6番機も同じだ!遠隔操作していた機体がやられた!」
「「こちらもだ!どう言う事だ…対空ミサイルの反応があったら見つけられるはずなのに!」」
遠隔操作していた機体がやられた操縦者達は基地司令の抑えも虚しく喚き始める。
その頃
バーレーン王国 マナーマ
アメリカ第五艦隊司令部
「司令!中央空軍基地から離陸した無人偵察機隊がシュリーナガル手前20㎞で撃墜されたようです!」
オペレーターが声を上げ、モニターに情報が更新され新たな表示が出現する。
シュリーナガル手前20㎞ーDrone Lostー と。
その表示を見て、アメリカ第5艦隊司令のリアム・ベンソン中将が口を開く。
「撃墜されたのか?撃墜要因は!」
彼はカメラ映像を解析中のオペレーターに聞く。
「現在、無人偵察機のカメラ映像を解析しているのですが……これは_」
「対空ミサイルか?」
「いえ、全く違います。そもそも対空ミサイルなら接近警報がなるはずです……」
オペレーターは困惑していたが、その傍で解析の様子を伺っていた副司令がベンソン中将に向き、口を開く。
「司令、撃墜原因はもしかしてレーザーの類ではありませんか?」
ベンソン中将は思わず眉をひそめ、聞き質す。
「レーザーだと?レーザーは確かに航空機を撃墜できるが……」
「司令、私もその意見に同意します。カメラ映像から、一筋の光が伸びてるのがわかりました。恐らくレーザーです」
ベンソン中将の顔が険しくなる。
「レーザーの命中率は?」
「恐らく……100%かと」
「……なに?それは冗談ではないよな?」
「ええ。冗談ではありません。奴らは空を飛ぶものを一機残らず殲滅しました。それも100%の命中率で_」
「それが本当だったら_」
一瞬、司令部の面々の顔が青ざめる。
「まずい!この事をすぐにインド管区国防省に伝えろ!」
ベンソン中将はすぐに命じた、しかし。
「通信障害で繋がりません!」
オペレーターの悲痛な叫びと共に、モニターにはCommunication Failureと書かれ、通信障害が発生した事が表示された。
「原因は?」
「シュリーナガルを中心に大規模な粉塵が巻き上がり、電波等を遮断し連絡が途絶えています!」
通信障害の表示に粉塵が巻き上がっている予測範囲も追加された。
「回復するのはいつ頃だ?」
「早くて1日、遅くて1週間かと……前例がないので分かりません!」
ベンソン中将の顔には焦りの色が見えた。
インド軍が航空攻撃を行えば確実にやられると思っていた。
その為、ベンソン中将は出来る事からしていこうと矢継ぎ早に命令を下していく。
「仕方ない、支援部隊を出す!空母を中心とした艦隊に陸上部隊を派遣する!それと、本国にその情報を送れ」
「はっ!」
インド管区ニューデリー サウス・ブロック合同庁舎
インド管区国防省 四軍統合司令室
「ジャンムー・カシミール連邦直轄領主都シュリーナガルにいた第37歩兵大隊との通信、ユニット落着以降、通信途絶!さらに、シュリーナガル南部のショッピアン、アナントナグ、及びシュリーナガルからそれぞれの2都市に繋がる交通上の町、村の駐屯部隊との通信途絶。また、シュリーナガルより幹線道路等が繋がっているマガム、ビアーワ、ウェイウール、パターン、ワクラ、ギャンダーボール、ソナマルグの駐屯部隊との通信途絶しています!」
オペレーターが現状を報告しつつ、統合司令室の大型モニターへインド管区ジャンムー・カシミール州の全体図の表示を速やかに変更していく。
ジャンムー・カシミール連邦直轄領夏季主都シュリーナガルはもちろんのこと、周辺の駐屯部隊との定期通信が途絶し、緊急通信も繋がらなくなっていた。
無事なのは直轄領北部の街々と西部外縁、東部一体、南部の冬季主都ジャンムー周辺だけである。
モニターにはシュリーナガルとその周辺にかけてーLostーと表示された。
「バンディポラの第13師団司令との通信回線開きます!まだ通信障害が回復しておらず、ノイズが酷いです」
オペレーターがコンソールを操作し、通信回線を開く。
モニターには「音声通信のみ」という表示が浮かぶ。
回線が開くと、初めに聞こえてきたのは盛大なノイズだった。
ザーという喧騒な音が流れ続き、少しずつ鎮まり、ようやく相手の方から声が発せられた。
『こちら、バンディポラ駐屯地第13師団、聞こえるか?』
「こちら、国防省統合司令室。問題ない」
相手からの問いに国防大臣が答える。
『そうか……こちらの現状を報告する。南のワクラへと派遣した偵察兵は"化け物"の接近報告の後、通信が途絶した。ワクラは既に奴らの支配域となっている』
その言葉を聞いた直後、オペレーターの1人がモニターを火星起源種の支配域予想図に切り替え、ワクラが新たに支配域になったということを通知した。
『私は現状を鑑みて、インド方面の撤退は困難と判断し、タジキスタン管区へと撤退する事にした。構わないか?国防大臣、そしてクマール大将』
彼は国防大臣と、インド管区軍参謀長であるアサーヴ・クマール陸軍大将に問いかけた。
国防大臣は頷き、クマール大将に目で指し示し、
「ああ、構わない。貴官以下第13師団は今後の行動に関して制限を与えない事とする。無事に逃れろ、幸運を祈る」
と、クマール大将が答える。
『了解した。そちらも幸運を祈る。……少しノイズが酷くなってきた、通信を終わる』
若干ノイズが声と被り、聞こえにくくなってきた所で通信が終了した。
「で、いいですかな?国防大臣」
「問題ない。無理にインド方面へ退け等という命令を伝えるわけには行かないだろう、クマール大将」
「……それで火星起源種ですか」
「ああ、我が国の航空宇宙軍も派遣されたから君も知ってるだろ、月面での戦闘に敗北し、奴らは地球へと到達したのだ」
「幸い、ここは地球です。人類が持つ全ての重火器を運用することが可能です。しかし……そう上手く行きますかね……」
その呟きに国防大臣は不安を覚えた。
「クマール大将の予感は的中する確率が高い、当たってくれないで欲しいのだが」
「……それは私も同じですよ、大臣」
しばらくしてモニターに3つの表示が出現した。
「参謀長、カルギル、プーンチ、グルマルグの各駐屯隊からの通信です」
オペレーターの言葉にクマール大将は眉を顰める。
「どれも火星起源種の支配域にある町等に近い……このままいたら飲み込まれる可能性があるな」
「どうします?」
「繋いでくれ」
国防大臣がオペレーターに命令し、すぐに通信回線は開かれた。なお、これも音声通信のみである。
『こちら、カルギル駐屯地第9混成大隊です。我が大隊は西、シュリーナガル方面のウェイウールに捜索部隊を送りましたが、化け物の大接近を報告後通信途絶しました。…また、西隣のドラスにて化け物共の先遣隊を確認しました、十体ほどですが、ドラス警備隊もドラスから撤退しつつあります。司令部の指示を請う』
『プーンチ駐屯地第83戦車小隊であります。東のマガムへと救難隊を送ろうとしたのですが、この事態では諦める他ありませんか……司令部の指示を請います!』
『グルマルグ第32空挺歩兵中隊です。我が隊も現在撤退準備中です。司令部の指示を請う!』
立て続けに指示を請う様子にクマール大将はため息を吐く。
「シュリーナガルのカシミール軍司令部との通信途絶したとはいえ、現場指揮官の判断は出来んのか……まあ、良い。
カルギル第9混成大隊はドラスの撤退兵を回収した後、途上の部隊を回収しつつ、ケイロングへと向かえ。ラングダム、パダムの歩兵小隊は別ルートでケイロングへと向かわせろ。合流した後、マンディを目指せ。その後は現地指揮官の指示に従え」
『はっ!』
「グルマルグ第32空挺歩兵中隊は即座にその場所を離れプーンチに向かい、プーンチ第83戦車小隊と合流後、ジャンムーを目指せ。両隊も到着後は現場指揮官の指示に従え」
『『はっ!』』
モニターに3部隊の撤退状況が表示される
カルギル駐屯第9混成大隊はカシミール地方東部の辺境すぎてほとんど整備されていない道を行き、ジャンムー・カシミール連邦直轄領南部の軍駐屯拠点があるマンディへと向かう大行程であった。
グルマルグ駐屯第32空挺歩兵中隊とプーンチ駐屯第83戦車小隊はカシミール地方西部の端にあるプーンチにて合流後、南下しジャンムー・カシミール連邦直轄領南部の冬季主都ジャンムーを目指す。
『総員の行程における無事の踏破を祈る』
『『『はっ!!』』』
三部隊の指揮官の返答は勇ましいものであった。
通信を終えた直後、
国防大臣がクマール大将に尋ねる。
「ジャンムーとな?」
「ええ……カシミールからインド本土への侵入を防ぐには
「残された人々は?」
その疑問にクマール大将は悔しそうに答える。
「インド数十億の命を守るためには……致し方ないのです、国防大臣ならお分かりでしょう」
「分かっている……あえて聞いたのだ」
「そうですか……ドゥビー少将!」
クマール大将は国防大臣との短い会話を終えると1人の将校を呼んだ。
彼はクマールの補佐的立場にあり、30代とクマールに比べれば若い、バラト・ドゥビー少将である。
「はっ」
「ジャンムー及び周辺部への火星起源種の迎撃部隊を手配しろ。事前のプランに基づき、現場の状況に合わせた迎撃プランを策定するんだ」
「了解しました」
ドゥビー少将はすぐに立ち去っていく。
それを見届けたクマール大将は国防大臣に話しかける。
「国防大臣、これを戦争とするならば……私は四度目の戦争を迎えることになります」
「……第三次印パ戦争からの従軍に加え、カルギル紛争、先の『大侵略』の際のパキスタンとの1週間戦争、そして今回か」
「ええ」
しばらくして、第32空挺歩兵中隊と第83戦車小隊はプーンチにて合流した後、ジャンムーへと到着した。
一方、第9混成大隊は道中の人員を回収しながら撤退しており、ケイロングを通過した。
また、第13師団はアフガニスタン管区国境に差し掛かったばかりであった。
_西暦2026年4月19日早朝_
"火星起源種"の侵攻は続き、ラジューリ、バニホール、ポカルの3地区及び山脈地帯で撤退中の部隊と会敵する。
第26山岳中隊第3分隊
「分隊長!奴ら、こんな斜面であんなスピードを!」
「後退しながら撃ち続けろ!RPG撃てぇ!」
ある山岳歩兵分隊は得意なはずの山脈地帯での戦闘で劣勢を強いられていた。
対戦車ロケット弾が一斉に4発発射され、2帯の赤い化け物が撃破され体液を散りばめる。
"たった"2体の撃破に歓声を上げるが、その後ろから続く大量の化け物に顔を青ざめる兵士たち。
「よし!」
「いや、数が多すぎる……!」
その時、一体の化け物が軽く跳躍し、1人の兵士の上に乗っかかる。
「ぐあっ!……ゲホッ」
その直後、首を引きちぎられた即死する。
その光景を見た分隊長は中隊長に無線を入れる。
「中隊長!全滅するかもしれません……我々が殿を努めますので、その間に撤退を!……小隊長もやられた、このままでは中隊すら全滅するかもしれませんっ!」
『分かった……任せたぞ!』
分隊長はその言葉を聞き無線を切ると声を上げる。
「お前ら!命が大事なヤツはさっさと逃げろ!我々が引きつける!第26山岳歩兵中隊第3分隊の力、思い知らしてやれ!行くぞ!」
この攻勢に対し、陸軍司令部は火星起源種予想進路上への工作活動を指示する。
ジャンムーへの敵の侵攻を遅らせるため、大量の地雷をばら撒き、また進路上の街の爆破によって進路を塞ぐなどの工作活動を行った。
また、インド空軍は既にジャンムー・カシミール連邦直轄領北部及び中部の空軍基地より全機退避済みであり、ジャンムー東方のビジェイコート及びパタンコートの空軍基地より少数の攻撃機隊による連続爆撃を行った。
ビジェイコート空軍基地
『こちら管制塔、ヘブラ01応答せよ』
「こちらヘブラ01」
『離陸を許可する。遅滞目的ではあるが化け物に容赦はするな』
「了解、離陸する」
管制塔との会話の後、Su-30MKI戦闘攻撃機6機が次々に離陸していく。
2日後、火星起源種は西部街道バムラ、中部街道リーシー、東部街道パトニトップに到達。
これはインド陸軍及び空軍による遅滞攻撃の成果であった。
この間にインド管区三軍は戦力を結集、陸軍主力の機甲師団を全て前面に展開し、迎撃、そして火星起源種が敗走した際に追撃できる態勢を整えた。ロケット砲及び自走砲、MLRSで構成される砲兵部隊は少し後方に展開する。
空軍はビジェイコート及びパタンコートの両空軍基地に戦力を結集中であり、ジャンムー空港も民間機を全てインド本土へと退避させた後、補給基地として使用が予定されていた為、ミサイル等の弾薬や交換用の予備部品、そして整備兵が多数置かれた。
海軍はムンバイ沖に西海軍コマンド所属のコルカタ級、ヴィシャーカパトナム級駆逐艦、タルワー級フリゲートやアリハント級原子力弾道ミサイル潜水艦等の、巡航ミサイル、弾道ミサイルが運用可能な艦が展開している。
4月21日午前
ジャンムー・カシミール連邦直轄領冬季主都ジャンムー
接収ビル地下 三軍統合臨時作戦司令室
「無人偵察機の映像より、火星起源種、バムラ、リーシー、パトニトップ地区の通過を確認!」
その言葉によって、司令室内は慌ただしくなる。
その最中、統合司令官であるダレル・ハーサン陸軍中将は素早く命令を飛ばす。
「砲兵部隊及び海軍原潜部隊に直ちに攻撃を開始させろ!オールストン少将、航空戦力の状態は?」
ハーサン中将の左隣にいたドランス・オールストン少将、彼はジャンムー・カシミール連邦直轄領航空総隊司令を任されていた。
「いつでも出撃可能なはずだ」
「……少し従ってもらいたいことがある、航空戦力は逐次投入で攻撃を行って欲しい」
その言葉にオールストン少将は驚愕し激しく声を上げる。
「バカなっ!戦術としては愚行だぞ!」
「……だよな……少し悪い予感がしたんだ、だがその程度で戦術を変えるのは愚かな行為だ。よし、全機出撃だ」
オールストン少将はその言葉に一抹の不安を覚えたが、数秒後にはその不安を振り切り、攻撃を命じた。
「ビジェイコート、パタンコートの空軍基地に伝達、全機出撃!徹底的にやれ!」
その命令によってビジェイコート、パタンコートの空軍基地よりSu-30MKI戦闘攻撃機、F-16C戦闘機、テジャスMK3軽戦闘機等が次々と離陸、さらに南方の大規模空軍基地ではB-52M戦略爆撃機、TU-22MH戦略爆撃機の爆撃隊も離陸した。
戦闘機だけでも約80機、爆撃機も含めれば100機を超える大規模航空集団だった。
3地区を通過した火星起源種への初撃は原子力弾道ミサイル潜水艦からのGPS誘導で送り込まれる超音速巡航ミサイルブラモスであった。
正確に超音速で飛翔するそれは、火星起源種の大群の中心に突き刺さり、巨大な爆炎と共に吹き飛ばす。
その頃には航空部隊も戦闘空域に入っており、Tu-22MHやB-52Mの爆撃機部隊は一時的に高度を下げ、巡航ミサイル及び対地ミサイルを一斉に放つ。さらに、火星起源種の大群の上空に移動して大量の爆弾も投下した。
その徹底的な爆撃に火星起源種の前衛集団は姿を消し、残る火星起源種もAH-64Eアパッチ・ガーディアンからの対戦車ロケット弾によって次々と撃破される。
「敵集団消滅!」
オペレーターが嬉しさと共に声を上げる。
「いや、奴らはまだ"前衛"だ」
だが、それをハーサン中将が戒める。
「我々は攻勢に入る。機甲師団に前進を命じろ!航空部隊は先行し、1つでも多くの敵を葬りされ!」
「戦略爆撃機隊はどうします?」
オールストン少将が尋ね、ハーサン中将は少し考えた上で返答した。
「帰還させろ、ここからは戦闘機部隊の出番だ」
「はっ」
B-52M、Tu-22MH戦略爆撃機隊は戦術的な汎用性に欠けるとして、帰還を開始する。
その機体とは反対に戦闘機隊が前進する。
「あれは……こちらドプク1発見した」
『よし、攻撃を開始しろ』
「了解」
Su-30MKI戦闘攻撃機に搭乗するパイロット、ドプク1は指揮下にある他の機体と共に急降下を開始。
「全機、発射!」
ドプク1の掛け声と共に12機のSu-30MKI戦闘攻撃機から対地ミサイルが放たれ、火星起源種の化け物共を爆炎で砕いていく。
他の中隊も次々と攻撃を開始し、火星起源種中衛集団も大きな被害を受ける。
『こちら、ビジェイコート・コントロール、そろそろ火星起源種の先頭が砲兵部隊の砲撃射程に入る。航空部隊はさらに奥の敵を攻撃せよ』
50両に上るBM-30スメルチ多連装ロケット砲、ピナカ多連装ロケットシステムより、大量のロケット弾が発射され、約60両のM270多連装ロケットシステムからは高威力の誘導ロケット弾が発射されていく。
さらに、M777牽引式榴弾砲が火を吹き、M109A4自走榴弾砲から155㎜榴弾が放たれていく。
「敵"中衛"集団、半数に減少」
オペレーターの声にハーサン中将は眉を顰める。
「まだ半数かっ!」
それに加え、参謀らが苦悩しながら提案する。
「中将、前進中の機甲師団に停止を命じましょう!このままでは会敵します!」
その言葉に難しい顔を浮かべるハーサン中将だったが、潔く決断した。
「いや、そのまま前進させろ!航空戦力の支援があるんだ、機甲師団でも打ち破れる!」
「りょ、了解!」
ジャンムーの前線司令部の命令を受け、M1A1
「弾種徹甲弾発射用意!」
師団長の命令が下り、彼らは発射砲弾を選択する。
そして、照準に"化け物"の姿を捉えると、
「全車、射撃開始!」
120㎜滑腔砲が、30㎜機関砲が、徹甲弾を放つ。
また、AH-64Eアパッチ・ガーディアン戦闘ヘリ中隊が先行し、射撃を開始した。
ジャンムー 三軍統合前線司令部
「ニューデリーの空軍司令部より通信です、開きます」
オペレーターの言葉にハーサン中将が頷き、コンソールを操作して映像通信が開かれる。
その画面には顎に豊富に蓄えた茶髭と左胸の大将を示す勲章が目立つ老齢の男がいた。
インド管区空軍参謀長のヴィハーン・ラル空軍大将である。
『状況は聞いているが、優勢らしいな。』
「ええ。現在は攻勢に打ってでており、それも優勢であります」
ハーサン中将が大まかに答えると、左手で顎髭に触れながら話す。
『ふむ……既に反攻に打って出てるか、だか油断は禁物だ。我ら地球人類にとっても初の地球外生命体、何かの切り札を持っていてもおかしくは無いぞ』
「はっ……!」
「大将閣下、戦略爆撃機をお貸しいただくなど、無理言ってすみません」
ハーサン中将が敬礼で答える中、オールストン少将は上司である彼にお礼を言う。
『"容赦なく"叩き潰すためには必要なのだろう?なんなら、問題無い』
「はっ!」
『では、検討を祈る』
その言葉を最後に通信は終了した。
ニューデリー 国防省四軍統合司令室
ニューデリーに夜が訪れた頃。
「……!、クマール大将、まだ起きていたのか……貴官も高齢だしそろそろ休んではどうか?」
国防大臣がクマール大将に声をかける。
「確かに……休みたいとは思ってるのですが、戦況が不安でして……」
「不安?今は優勢だが……」
「……予感がすると言いましょうか……なにか良くないことが起き、今の状況が崩れる予感がです……」
その言葉に国防大臣はため息をはく。
「クマール大将、考え過ぎ……ではないと思う。貴官の予感はよく当たるからな……だが、現状できることは何も無いだろう……今の手が最も最善の手なのだ……」
「確かに……ところで国防大臣は何か用が?」
「外務大臣から聞いたんだが、パキスタン管区が我々の要請、火星起源種の侵攻に警戒してくれ、という要請を受諾した、今はやっと展開している頃だろう。後、パキスタン管区政府はインドに一切の干渉を行わないと明言してきた」
「なるほど……それらの事に関しては、国防大臣ら政治家にお任せします。ブナート中将!」
「はっ!」
クマール大将に呼ばれたの陸軍副参謀長のレン・ブナート中将は威勢よく答える。
「私は休息するが、貴官にあとは任せても良いか?」
「ああ、その事ですが。閣下がいる間に休息をとっていたので大丈夫です。お任せ下さい」
それを聞き、クマール大将は寝室へと向かう。その姿を国防大臣やブナート中将らが見送る。
_4月22日正午頃_
ジャンムー 三軍統合前線司令部
「機甲師団、バニホール地区に到達しました」
オペレーターの声を聞き、ハーサン中将は頷く。
「ここから少し北上すればカジグンドに到達する……そして、そこからシュリーナガルまではほぼ平坦、火星起源種が物量を最大の武器としている事から、カジグンドから機甲師団は激戦を強いられることだろう。オールストン少将」
「はっ!」
「航空部隊には徹底的な地上支援を厳命しろ。航空戦力無くして機甲師団が勝てる見込みはない」
「了解した」
オールストン少将はそう返事をすると、付近にいた航空幕僚に伝え、CPにもその旨を伝えるよう話した。
機甲師団はまもなくカジグンドへと到達、シュリーナガルとの間にあるアナントナグを目指す。
オペレーターからその旨を聞いたハーサン中将は口を開く。
「原潜部隊に通達、シュリーナガル周辺への巡航ミサイルを発射しろ、また戦略爆撃機隊にはシュリーナガル周辺空域への進入を指示。火星起源種とやらは搭載されたユニットと思われる突入体で来たらしい、それを考慮に入れ、シュリーナガル周辺の火星起源種を徹底的に殲滅する」
すぐに命令が伝達され、原潜部隊から超音速巡航ミサイル"ブラモス"が発射され、同時にB-52M、Tu-22MH戦略爆撃機隊がシュリーナガル周辺空域へ進入を開始する。
───戦争は、まだ始まったばかりである───