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1941年5月9日早朝
旧ロシア平原海域、重巡「ロンドン」―
東方海域調査船団の旗艦、重巡「ロンドン」の艦長室では、艦長兼船団司令官のマウントバッテン大佐と副長のバトラー中佐が議論をしていた。
「航海開始から9日、まだ新大陸は見つからないのか―」
マウントバッテンが溜息を吐く。
「残念ですが、現状では何も―」
バトラーが沈んだ声で言った。
「艦内にも厭戦気分が漂っていないと良いのだが―」
マウントバッテンが配下の兵の士気を心配する。
「艦長、この時が来ました!」
二人の暗く、重い口調での会話が続いていると、副官のピット少佐が入って来た。
「少佐、ノックぐらいしたら如何だ?」
バトラーがムッとした声で言う。
「し...失礼しました!」
ピットが直ぐに詫びる。
「まあ今後気を付けてくれ。それより何か見つかったのかね?」
マウントバッテンが訊ねる。
「はい!先程、偵察中の水上機から『陸地を発見した』という通信が入―」
「何っ!?」
ピットの報告を聞いていたマウントバッテンは「
「艦長、陸地が見つかったのですよ!」
バトラーが興奮を抑えるような声で言った。
「遂に...この時が来たのか!」
マウントバッテンが感慨深く言う。
「よし、タグボートで偵察隊を出発させるぞ!」
彼は暫く感慨に浸っていると、次なる指令を出した。
10分後―
「艦長、タグボートの準備完了との事です。」
腕組みをし、遠くの海岸を見つめていたマウントバッテンの元に、伝令兵が来た。
「よし、偵察開始せよ!」
マウントバッテンが逸る気持ちを抑えるかのように言う。
指令が出ると、上陸班を乗せた2隻のタグボートはエンジン音を立て、海岸へと向かっていった。
「さて、いよいよだな―」
マウントバッテンは過ぎ去って行くタグボートを見ながら、そう呟いたのだった―
帝国暦1886年5月10日朝
イヴェール帝国、帝都ナ・ヴァサー
シルヴェリア大陸随一の列強国、イヴェール帝国。
イギリスやフランスから見て惑星裏側にあるこの帝国は、高い軍事力*1と優れた魔導技術、洗練された文化を持ち、惑星裏側において誰もが認める大国であった。
この帝国の政治や経済、文化の中心地にして皇帝宮殿のある首都ナ・ヴァサーは、朝から活気を帯びていた。
同刻、帝都ナ・ヴァサー某所―
「今日も街は活気に溢れているな。」
若いが威厳のある西洋風の男性が一人、バルコニーから双眼鏡で街を眺めていた。
「陛下、朝食の準備が整いました。」
執事が若い男性―陛下と呼ばれた人物に話しかける。
「朝食が出来たか、では戻るとしよう―」
「陛下」と呼ばれた男は、執事を従えて部屋へと戻った―
「陛下」と呼ばれたこの人物こそが、イヴェール帝国第15代皇帝・フィリッペ2世であり、この場所は皇帝の住まうグローリア・ラ・リクイエッザ宮殿であった。
帝国暦5月12日夜
イヴェール帝国西部、ペトーレ近郊―
イヴェール帝国の地方都市、ペトーレ。造船業と鉄鋼業で栄えているこの街では、沖合に現れた謎の巨大船に、市民達は不安を覚えていた。
ペトーレで一番のビアホール、「エブリス」でも、客たちはその話題で持ちきりだった。
「おい、お前聞いたか?なんでもあの船に海軍所属の船が向かったらしい。」
30代ぐらいの男が、葉巻を片手に友人に話した。
「何だって!?となるとあの船はやはり―」
眼鏡を掛けたもう一方の男が驚いた声で言う。
「他国の船、しかもそこそこの大国の可能性があるな―」
「きな臭い事にならない様に願うしかないな、それはそうと新しい皇帝は市民に人気があるみたいだぞ。」
「フィリッペ陛下だろう?帝国の改革を訴えているからな、それに対外進出も積極的なようだし―」
ジョッキを片手に、2人の会話は続いた―
1941年5月13日
イヴェール帝国、ペトーレ沖・重巡「ロンドン」―
東方海域調査船団の旗艦、重巡「ロンドン」では、偵察隊の報告をマウントバッテン大佐達が聞いていた。
「―以上が今回の偵察結果の報告となります。」
偵察隊の隊長、エリック・マロニー中尉が敬礼をした。
偵察結果の報告をまとめると、
1. 船団から8km先の陸地は、シルヴェリア大陸のイヴェール帝国という国が領有している。
2. イヴェール帝国は、主に人とエルフから成っている。
3. この国では、スペイン語とラテン語が混ざったような「イヴェール語」が話されているようである。
4. 船団から16km先の地点に、ペトーレという名の町が有り、イヴェール海軍が臨検の為の準備をしている模様である。
5. イヴェールは鉄鋼や造船などの重工業も存在し、産業革命は経ているようである。
と云う物であった。
「成る程...産業革命を経ているのか!」
報告を聞いたマウントバッテンが驚く。
「驚きましたな閣下、街並みを見ると技術は1880年代レベル*2の様ですが―」
副長のバトラー中佐も興味を示した。
マウントバッテンとバトラー、そしてマロニーの3人がイヴェール帝国についての考察をしていると、伝令兵が来た。
「艦長、イヴェール帝国の海軍です!」
「いよいよ来たか!相手方の司令官殿と副官をこちらに招くぞ、各員無礼の無いように!!」
「了解しました!」
『さて、ここが正念場だ。大英帝国の威信に懸け、何としても良い会談にせねば!』
彼はそう考えると、引き締まった表情で甲板へと向かったのだった―
今回は遂に新国家が登場しましたが、如何でしたか?
イヴェール帝国だけで無く、今後も様々な国家を登場させる予定です。
次回はイギリスとイヴェールが会談を行います!
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