英仏召喚   作:Rommel

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第15話 ―東方への進出〔後編〕―

1941年5月9日早朝

旧ロシア平原海域、重巡「ロンドン」―

 

東方海域調査船団の旗艦、重巡「ロンドン」の艦長室では、艦長兼船団司令官のマウントバッテン大佐と副長のバトラー中佐が議論をしていた。

 

「航海開始から9日、まだ新大陸は見つからないのか―」

 

マウントバッテンが溜息を吐く。

 

「残念ですが、現状では何も―」

 

バトラーが沈んだ声で言った。

 

「艦内にも厭戦気分が漂っていないと良いのだが―」

 

マウントバッテンが配下の兵の士気を心配する。

 

「艦長、この時が来ました!」

 

二人の暗く、重い口調での会話が続いていると、副官のピット少佐が入って来た。

 

「少佐、ノックぐらいしたら如何だ?」

 

バトラーがムッとした声で言う。

 

「し...失礼しました!」

 

ピットが直ぐに詫びる。

 

「まあ今後気を付けてくれ。それより何か見つかったのかね?」

 

マウントバッテンが訊ねる。

 

「はい!先程、偵察中の水上機から『陸地を発見した』という通信が入―」

 

「何っ!?」

 

ピットの報告を聞いていたマウントバッテンは陸地(land)という単語を聞いた瞬間、音を立てて立ち上がった。

 

「艦長、陸地が見つかったのですよ!」

 

バトラーが興奮を抑えるような声で言った。

 

「遂に...この時が来たのか!」

 

マウントバッテンが感慨深く言う。

 

「よし、タグボートで偵察隊を出発させるぞ!」

 

彼は暫く感慨に浸っていると、次なる指令を出した。

 

 

10分後―

 

「艦長、タグボートの準備完了との事です。」

 

腕組みをし、遠くの海岸を見つめていたマウントバッテンの元に、伝令兵が来た。

 

「よし、偵察開始せよ!」

 

マウントバッテンが逸る気持ちを抑えるかのように言う。

 

指令が出ると、上陸班を乗せた2隻のタグボートはエンジン音を立て、海岸へと向かっていった。

 

「さて、いよいよだな―」

 

マウントバッテンは過ぎ去って行くタグボートを見ながら、そう呟いたのだった―

 

 

帝国暦1886年5月10日朝

イヴェール帝国、帝都ナ・ヴァサー

 

シルヴェリア大陸随一の列強国、イヴェール帝国。

イギリスやフランスから見て惑星裏側にあるこの帝国は、高い軍事力*1と優れた魔導技術、洗練された文化を持ち、惑星裏側において誰もが認める大国であった。

 

この帝国の政治や経済、文化の中心地にして皇帝宮殿のある首都ナ・ヴァサーは、朝から活気を帯びていた。

 

 

同刻、帝都ナ・ヴァサー某所―

 

「今日も街は活気に溢れているな。」

 

若いが威厳のある西洋風の男性が一人、バルコニーから双眼鏡で街を眺めていた。

 

「陛下、朝食の準備が整いました。」

 

執事が若い男性―陛下と呼ばれた人物に話しかける。

 

「朝食が出来たか、では戻るとしよう―」

 

「陛下」と呼ばれた男は、執事を従えて部屋へと戻った―

 

 

「陛下」と呼ばれたこの人物こそが、イヴェール帝国第15代皇帝・フィリッペ2世であり、この場所は皇帝の住まうグローリア・ラ・リクイエッザ宮殿であった。

 

 

帝国暦5月12日夜

イヴェール帝国西部、ペトーレ近郊―

 

イヴェール帝国の地方都市、ペトーレ。造船業と鉄鋼業で栄えているこの街では、沖合に現れた謎の巨大船に、市民達は不安を覚えていた。

 

ペトーレで一番のビアホール、「エブリス」でも、客たちはその話題で持ちきりだった。

 

「おい、お前聞いたか?なんでもあの船に海軍所属の船が向かったらしい。」

 

30代ぐらいの男が、葉巻を片手に友人に話した。

 

「何だって!?となるとあの船はやはり―」

 

眼鏡を掛けたもう一方の男が驚いた声で言う。

 

「他国の船、しかもそこそこの大国の可能性があるな―」

 

「きな臭い事にならない様に願うしかないな、それはそうと新しい皇帝は市民に人気があるみたいだぞ。」

 

「フィリッペ陛下だろう?帝国の改革を訴えているからな、それに対外進出も積極的なようだし―」

 

ジョッキを片手に、2人の会話は続いた―

 

 

1941年5月13日

イヴェール帝国、ペトーレ沖・重巡「ロンドン」―

 

東方海域調査船団の旗艦、重巡「ロンドン」では、偵察隊の報告をマウントバッテン大佐達が聞いていた。

 

「―以上が今回の偵察結果の報告となります。」

 

偵察隊の隊長、エリック・マロニー中尉が敬礼をした。

 

偵察結果の報告をまとめると、

1. 船団から8km先の陸地は、シルヴェリア大陸のイヴェール帝国という国が領有している。

2. イヴェール帝国は、主に人とエルフから成っている。

3. この国では、スペイン語とラテン語が混ざったような「イヴェール語」が話されているようである。

4. 船団から16km先の地点に、ペトーレという名の町が有り、イヴェール海軍が臨検の為の準備をしている模様である。

5. イヴェールは鉄鋼や造船などの重工業も存在し、産業革命は経ているようである。

と云う物であった。

 

「成る程...産業革命を経ているのか!」

 

報告を聞いたマウントバッテンが驚く。

 

「驚きましたな閣下、街並みを見ると技術は1880年代レベル*2の様ですが―」

 

副長のバトラー中佐も興味を示した。

 

マウントバッテンとバトラー、そしてマロニーの3人がイヴェール帝国についての考察をしていると、伝令兵が来た。

 

「艦長、イヴェール帝国の海軍です!」

 

「いよいよ来たか!相手方の司令官殿と副官をこちらに招くぞ、各員無礼の無いように!!」

 

「了解しました!」

 

『さて、ここが正念場だ。大英帝国の威信に懸け、何としても良い会談にせねば!』

 

彼はそう考えると、引き締まった表情で甲板へと向かったのだった―

 

*1
普仏戦争期のプロシア軍並み

*2
鉄道や電信などの技術、ガス灯なども




今回は遂に新国家が登場しましたが、如何でしたか?
イヴェール帝国だけで無く、今後も様々な国家を登場させる予定です。
次回はイギリスとイヴェールが会談を行います!
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