英仏召喚   作:Rommel

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第16話 ―鷲と獅子―

帝国暦1886年(西暦1941年)5月13日午前10時

イヴェール帝国、ペトーレ沖・装甲艦「ナ・インペラーダ」――

 

ペトーレに基地を置く、イヴェール帝国第3艦隊の旗艦「ナ・インペラーダ」の甲板では、艦長兼艦隊司令官のフアン・ド・レブロン中将が双眼鏡で遠くを見ていた。

 

「あれが例の装甲艦か...主砲も船体も巨大だ...」

 

彼は巨大な装甲艦――イギリス海軍の重巡「ロンドン」を見ると、驚きを含んだ声で呟いた。

 

「閣下、装甲艦から電信です!」

 

彼が装甲艦の技術に驚愕していると、副長のロベルト・アグアージョ大佐が足早に向かって来た。

 

「返答を送って来たか!して、何と?」

 

「はっ、『我々はイギリスという国の者である。我々には敵意は無く、貴国による臨検を受け入れる。』との事です。」

 

アグアージョが電信の内容が書かれたメモ書きを読み上げる。

 

「イギリス!?聞いた事の無い国家だな――」

 

レブロンが腕組みをして驚く。

 

「はい。先ず海の向こう側に文明がある事すら驚きです。」

 

アグアージョも同意見の様だった。

 

「何せ海の向こう側に行こうとしても、あの怪物が船を沈めてしまうからな――一体どうしてここまで辿り着けたのか疑問だ。」

 

レブロンが不思議そうな顔をして言った。

 

「しかし彼らが高圧的な態度でなくて安心しました。」

 

二人の会話を傍らで聞いていた、エマヌエル・ペラレス保安部長が安堵した声で言った。

 

「うむ、その点では友好関係を築く為に来たと見て間違い無さそうだな。」

 

レブロンが期待する様な声で言う。

 

「ではイギリス船へと向かいますか?」

 

ペラレスがレブロンに訊ねた。

 

「うむ、アグアージョとペラレスは私に随行するように。」

 

レブロンが二人を交互に見ながら言った。

 

「はっ!」

 

二人は敬礼をすると、準備の為に自室へと戻っていった。

 

『相手は敵対する気は無い様だ、となると此方側の対応が問われる訳か!』

 

レブロンは自らの使命の重大さを感じると、準備をする為艦長室へと向かった。

 

 

30分後

ペトーレ沖、重巡「ロンドン」甲板――

 

イヴェール海軍のレブロン中将とその部下達は、臨検の為にイギリス海軍の重巡「ロンドン」に乗船していた。

 

一方、イギリス側からは重巡「ロンドン」艦長のマウントバッテン大佐ら数名が出迎えに出ていた。

 

甲板に降り立ったレブロンら一行は、艦に備え付けられている武装や装甲を驚きの眼差しで見ていた。

 

『凄い物だな、この装甲艦は...先程から見る武器の全てが我が国の上を――行っているではないか!』

 

レブロンはこの艦の武装の全てに驚愕し、恐怖すら覚えていた。

 

『しかし此方は臨検に来ている身、弱みは見せられんな――』

 

彼は気を引き締めると、この間の艦長と思しき人物に話しかけた。

 

Soy Juan de Lebrón(私はイヴェール海軍所属の) , el capitán del buque blindado(装甲艦、「ナ・インペラーダ」) Ivert Navy "Na Imperada".(艦長のフアン・ド・レブロンだ。)

 

Bienvenido a la nave, Capitán Lebrón.(レブロン艦長、本艦へようこそ)

 

Soy Louis Mountbatten,(私はHMS「ロンドン」艦長の) capitán del HMS "London".(ルイス・マウントバッテンです。)

 

マウントバッテンがレブロンの挨拶に対し、スペイン語で応じる。

 

「イ..イヴェール語が通じるのですか!?」

 

レブロンの部下、ペラレスが驚く。

 

「イヴェール語とはやや異なりますが、似た言葉があるのですよ。」

 

マウントバッテンが笑みを浮かべて言う。

 

「マウントバッテン艦長、言語の壁が無いというのは良い事ですな。」

 

レブロンがマウントバッテンに握手を求めながら言った。

 

「ええ、相互理解に不可欠ですからな――」

 

マウントバッテンが握手を受け、歓迎の意を示した。

 

「では本題に入りましょう。貴国の艦隊の航行目的をお教え願いたい。」

 

レブロンが表情を引き締めて訊ねた。

 

「我々は此処より西に2000km以上離れた所に有る、イギリスという国の者です。我が国は探査の為に海を越え、此方まで参った次第です。」

 

マウントバッテンが穏やかな声で言った。

 

「お話し中失礼致します。閣下、甲板で立ち話というのも何ですし会議室で話すと云うのは如何でしょう?資料や軽食などもご用意出来ますし――」

 

艦長達の遣り取りを聞いていたバトラーが、マウントバッテンに小声で言った。

 

「うむ、確かにその方が良いな。レブロン艦長、如何でしょうか?」

 

マウントバッテンがレブロンに訊ねる。

 

「ではお言葉に甘えさせて頂きますかな。その方がゆっくり会談も出来そうですし――」

 

レブロンはそう言うと、バトラーの案内で会議室へ向かった。

 

 

会議室にて――

 

会議室に着いたレブロンら一行は、テーブルに置かれた様々な品々――ボールペンや電気カミソリ、ジャイロスコープを興味深そうに眺めていた。

 

「マウントバッテン艦長、これらは貴国で一般大衆が使っている物ですかな?」

 

レブロンが電気カミソリを手に取って訊ねた。

 

「はい、ボールペンはそこまで出回っていませんがそれ以外は――」

 

マウントバッテンが自信を持った声で答えた。

 

「凄い物だ...悔しいが我が国の技術を上回っているな。」

 

アグアージョが唸る様な声で呟く。

 

「では次にこちらをご覧下さい。」

 

バトラーがフィルムにニュース映画を映した。

 

「おお...!写真が動いている!これはどの様な魔導技術を使っているので?」

 

レブロンが興奮した声でマウントバッテンに訊ねる。

 

「我が国は魔導技術を一切使っておりません。この船も蒸気機関で動かしていますし――」

 

マウントバッテンがあっさりと言う。

 

「魔導技術を使わずに!?それは驚いた!」

 

レブロンが感嘆の声を上げる。

 

「しかし何故魔法が存在していないのです?殆どの国家は魔導技術を取り入れていると思うのですが――」

 

ペラレスが不思議そうな表情でマウントバッテンに訊ねた。

 

「これには訳が有りまして――我が国は転移国家なのですよ。」

 

「転移国家!?」

 

レブロンらイヴェール側の軍人が声を揃えて驚く。

 

「はい、我が国は元々他の惑星に国が有ったのですよ。」

 

「いやはや、この船に乗船してから驚きの連続ですな。」

 

レブロンが夢でも見ているかの様に言った。

 

「お話し中失礼致します。艦長、本国からイヴェール帝国との国交締結をと指令が来ております。」

 

バトラーがメモをマウントバッテンに見せる。

 

「如何されましたかな?」

 

レブロンがマウントバッテンに訊ねた。

 

「本国から貴国との国交締結をする様にとの命令が下りまして――貴国の外務省にお取次ぎ願いたいのですが...」

 

「成る程――分かりました。私が政府に連絡を取ってみましょう。」

 

「宜しいのですか!?有難う御座います!」

 

マウントバッテンが謝意をレブロンに述べる。

 

「いえいえ、我が国と貴国の友好は私も重要だと感じていますからな。」

 

レブロンはそう言うと、アグアージョを船に戻らせて首都に電報を打たせた。

 

電報の内容はこの様な物だった。

 

「該当の船はイギリスと云う国家の物である。かの国は我が国との国交締結を行いたいとの意思である。」

 

この電文は直ぐにナ・ヴァサーの外務省に届き、皇帝であるフィリッペ2世にも伝えられた。

 

 

同日午後5時

イヴェール帝国 帝都ナ・ヴァサー、グローリア・ラ・リクイエッザ宮殿――

 

大理石の床に、フレスコ画が描かれシャンデリアが吊るしてあるドーム型の天井。窓から見える庭園の花々はどれも美しく、噴水には精巧な彫刻が施されている――イヴェール帝国の繁栄の結晶であるこの宮殿では、臨時の御前会議が開かれていた。

 

「ほう、それは随分と驚いたな!海の遠く向こう側にも国家が在るとは――」

 

皇帝フィリッペ2世は外務大臣のテオドーロ・レネ・ド・ベルデーア卿の説明を訊くと、そう驚いた。

 

「陛下、そのイギリスと云う国家なのですが――我が国との国交締結をしたいと申しております。」

 

ベルデーア卿はそう言うと、先程ペトーレから汽車で届けられたばかりのイギリスの親書をフィリッペ皇帝に手渡した。

 

「どれどれ...イギリスの国章は獅子(ライオン)なのだな。」

 

フィリッペは表に描かれているイギリスの国章を見ると、興味深そうに言った。

 

「成る程。イギリスは我が国より産業が発展している様だな。軍事力も我が国の上を行っているのか...」

 

彼がイギリスのジョージ6世直筆の親書――と云ってもレブロンが訳文を付けた物を読むと、イギリスの技術力に驚きを示した。

 

『これまで大陸の列強国たる我が国を上回る国など無かった。しかしイギリスは我が国の先を行っている...あちら側の世界の発展は凄い物だな...』

 

彼はイギリスの実力をそう分析する。そして国交締結こそが自国の発展に欠かせないと感じる様になった。

 

「ベルデーア。余はイギリスの特使と会う。国交を締結し、優れた技術力をここイヴェールの地に取り入れるのだ!」

 

フィリッペは親書を読み終えると、首相と閣僚達を見まわしながら言った。

 

「承知致しました。直ぐにペトーレへ電文を打ち、私自ら向かいましょう。」

 

ベルデーアはそう言うと、準備の為会議室から退室した。

 

『さて、ここからが私にとって正念場だ!』

 

フィリッペは身の引き締まる思いを感じ、イギリスの特使との会談に期待と不安を抱いたのだった。

 

こうして、イギリスとイヴェールの初の会談が行われる事になったのだった――

 




今回は久し振りに新話投稿です!
遂に接触を果たしたイギリスとイヴェールと云う二つの帝国。次回の外交交渉ではどの様な展開が見られるのか、是非ご期待下さい!
コメントやお気に入り登録、高評価など沢山頂いています!皆さん、ありがとうございます!

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