1942年4月10日(中央暦1641年1月30日)午後6時
イギリス、ベルファスト・市内某所のパブ――
北アイルランド――――イギリス政府の権威と、南部との統合を望む
その集団の中に、外国人らしき男が一人居る。
彼の名はニキータ・レナートヴィチ・パルソ。パーパルディア皇国の若手
「――――それで、あなた方は何故
「確かにイギリスは異世界諸国からすれば模範的国家に見えるのは分かりますよ、ケスラーさん。しかし騙されちゃあいかん。奴らはここアイルランドの地で好き放題にやっているんだ!」
テーブルを挟み、向かいに座っている男が力説する。彼の赤髭は、まるで彼の怒りを滲ませた様だった。
「成る程。彼らはどの様なことをしているのです?」
我が国も属領で好き放題にやっているがなと思いつつ、ケスラーもといパルソが訊ねる。
「ここアルスターでは
「――となると信仰する宗教や忠誠の対象を巡って差別が起きている訳ですね」
「その通り!記者さんよう、奴らの悪行を知らしめてやってくれ!」
二人のやり取りを聞いていた他の客も話に入って来た。店内のあちこちから「
「はい!皆さんの思いはしっかりと書かせて頂きますよ!」
パルソがその声に応えるようにネタ帳と万年筆を高く掲げる。掲げられた万年筆のペン先は、照明の白熱電球の光を反射していた。
「よし!親父、黒ビール2つ!ケスラーさんも飲みましょう!」
赤髭の男が上機嫌で黒ビールを勧める。結局、その夜はパブの客の殆どを巻き込んでの酒盛りとなった。
◇
翌朝パルソが目を覚ますと、彼はホテルへと戻っていた。
『確か昨日は――――』
彼は頭に二日酔い特有の痛みを覚えると、その原因を思い出した。昨晩彼はパブで客らと黒ビールやらギネススタウトやらを合わせて5杯も飲み、フラフラになってホテルへと戻ったのだった。
『ここベルファストはIRAの活動も盛んだが、その分
彼は不注意な行動を自戒すると、ベッドから起き上がった。既に時計は8時を回っており、ベルファストの陽光がカーテンの隙間から差し込んでいる。
『兎に角、これで奴らの弱みを握れた訳だ。ただこの国は遥かに強い。本当に戦って勝てる相手なのか......?』
確かに彼は祖国への自信と信頼を抱いていた。それでもロンドンの街並みや自動車の多さを見ると、何か形容し難い不安の様なものを心の奥底に感じていたのだった。
「まあ俺は俺に出来ることをするまでさ」
彼はそう呟くと、コップに注いだ水を一気に飲んだ。
その頃、パルソの泊まるホテルの前にはとある訪問者が来ていた。
眼帯をし、灰緑のベレーを被った壮年の男。その男こそ、この地域で活動している
何故IRAのリーダーがパルソを訪ねたのか、その理由は早朝に遡る。
◇
「キャンベルさん!キャンベルさん!」
ベルファスト郊外の屋敷――現在はコネリー・マクドナルド・キャンベル氏――ベルファストでも有名な印刷会社を営む人物の家を、パブでパルソと会話していた赤髭の男が訪れていた。
彼はいつもの様に屋敷の戸を4回・3回・5回のリズムで叩くと、使用人の招きで中へと入っていった。
「おや、来てくれましたか!ローナンさん!」
屋敷の食堂には、キャンベルをはじめローナンの馴染みの顔が集まっていた。
「ジェフ、待っていたぞ!それで
キャンベルの隣に座る、体格の良い眼帯の男。ローナンの幼馴染でもある彼こそが、IRAベルファスト支部のリーダー、ラトウィッジ・『
「中々期待できるジャーナリストだったよ。ここアルスターの現状を世界に伝えないといけないからな、彼はうってつけじゃないか?」
「そいつは良かった!遂に我々の考えが異世界でも披露出来るのか......!」
ジャスパーが感慨深げに言う。彼らの心には、南北アイルランド統合の夢へとアルスターが近づいている実感があった。
◇
「――――さて、行くとするか」
ジャスパーはベレーを被り直すと、ホテルの中へと入っていった。
北アイルランド紛争は、第三勢力の登場によって新たな局面を迎えつつあった――――――
今回の第21話は遂にアイルランド島が舞台!IRAも登場し、徐々にきな臭い雰囲気となって参りましたが......如何でしたか?
作者の方もようやくスケジュールが落ち着き、年内には4話程更新出来そうです。お気に入り登録、評価等、本当にありがとうございます!今後とも応援よろしくお願い致します!