英仏召喚   作:Rommel

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読者の皆さん、大変お待たせ致しました……本当に申し訳無いです!<(_ _)>
それでは第22話をどうぞ!


第22話 ―今そこにある危機〔前編〕―

中央暦1641年9月15日(西暦1942年11月24日)午前9時

アルタラス王国、首都ル・ブリアス アテノール城──

 

「これは......どういうつもりだ!?」

 

アルタラス国王であるターラ14世は、執務机に置かれた書簡の内容に驚愕と怒りを覚えていた。パールネウス標準語で書かれたその書簡の差出元は、パーパルディア皇国第3外務局のアルタラス支局である。

 

「陛下、拝見しても宜しいでしょうか」

 

顎髭を生やした壮年の紳士、アルタラス宰相のベルンハルト・ファン・ラテレイ卿が尋ねる。

国王はゆっくりと頷くと、パーパルディア皇国の国璽が捺されたそれを渡した。

 

「これでは事実上の属国化要求ではありませんか!」

 

書簡を一読したラテレイが驚愕する。彼はパーパルディアへの怒りから、自身の禿げ頭を紅潮させていた。

 

「うむ。シルウトラスの割譲要求に────更にはルミエスをパーパルディアへ奴隷として寄越せだと!?我が国を愚弄するにも程がある!」

 

普段は温厚な国王が、珍しく語気を荒立てる。

 

「陛下の仰る通りでございます。しかし、断ればかの国が侵攻してくるのは確実です。返答期限は二週間後と書いてありますが、果たして間に合いますでしょうか」

 

執務室を重い空気が支配する。()()()()()と謳われたこの国は、今や存亡の危機に瀕していた。

 

    ◇

 

「ラテレイ、何があったのです?」

 

執務室から出てきたラテレイを待ち構えていたのは、王女ルミエスであった。

 

「ル......ルミエス様!」

 

「執務室の前を通った際にお父さまとそなたの憤る声が聞こえてきたので、思わず足を止めたのですよ」

 

ルミエスが落ち着いた声で言う。一方のラテレイはと云うと、冷や汗をかくという慌てようであった。

 

彼が慌てるのも無理はない。宰相の目の前に立つアルタラス王女――即ちルミエスも、国家存亡の危機に不本意ながら関係しているのだ。

 

「ル...ルミエス様、何も大事御座いませぬ故、何卒ご安心を」

 

宰相が深々と礼をしたまま告げる。しかし彼の声は話している内容とは裏腹に、隠しきれない緊張が滲み出ていた。

 

「アルタラス。パーパルディア。シルウトラス。この三語の指し示す意味くらいは重々分かっていますわ」

 

「......!」

 

ラテレイの手と髭が小刻みに動く。その様子は「狼狽」をそっくりそのまま具現化したといっても過言ではなかった。

 

「ラテレイ、遠慮などせずとも良いのですよ?」

 

王女ルミエスが宰相に詰め寄る。

 

「これこれ、ルミエス。あまりラテレイを困らせるでない」

 

「お父さま......!」「陛下......!」

 

執務室から国王が出てきたことに気付いたルミエスとラテレイが、即座に頭を下げた。

 

「まあ二人ともそう固くならんでもよい」と国王が穏やかな声で言う。

 

 

「――――さて、ルミエス。お前に伝えなければならないことがある」

 

国王は二人を執務室へと招き入れると、ルミエスの目を見据えて言った。

 

「はい。覚悟は出来ております」

 

ルミエスもまた、父の目を見据える。

 

「パーパルディアがシルウトラスと()()()を寄越せと言ってきた」

 

執務室の時間が、一瞬にして止まったように感じられる。ルミエスは覚悟こそしていたものの、いざ事実を突き付けられると、強大な敵(パーパルディア)への怒りと恐怖が全身を襲った。

 

「無論、儂はかの国に対して(No)を突き付けるつもりだ」

 

国王が執務机に置かれている魔写を持ち上げながら言う。ルミエスがまだ赤ん坊だった頃に撮ったその魔写は、国王一家を写した物だ。そこには今は亡き王妃マルへレートの姿もあり、国王にとっては思い入れのある物であった。

 

「ルミエス、お前にはこれから辛い思いをさせてしまうかもしれぬ。しかし儂は儂の臣民と家族を守る責務がある。分かってくれるか?」

 

「はい、お父さま」

 

ルミエスが凛とした声で言う。

 

「ラテレイ!直ちに閣僚と司令官を集めよ」

 

「御意」

 

宰相が深々と礼をし、国王から任された書類を抱えて退室する。

 

「儂は簡単には屈しないぞ」

 

国王が拳を握りしめる。彼の視線の先には、夕日に照らされるル・ブリアス市街が広がっていた。

 

    ◇

 

同日午後6時

ル・ブリアス、アテノール城――

 

アテノール城の地下にある、国軍総司令部。アルタラス軍の心臓とも云えるここには、国王ターラ14世を筆頭に宰相のラテレイ卿や軍高官、更には王女ルミエスといった国家の要人が集まっていた。

 

「今回のパーパルディアの不遜な要求に対し、余は拒否を突き付けるつもりだ」

 

会議が始まるや否や、国王は静かに自身の決断を明かした。

 

「王立軍と致しましては、陛下のお考えに賛成であります」

 

野太い声で発言したのは、王立軍司令長官のフィリーベルト・デ・ライケ元帥だ。

 

「うむ。して、ライケよ。現状動員出来る兵力は幾許か?」

 

国王が円卓に置かれた地図を見ながら訊ねる。地図上には、各地の要塞と兵力が示されていた。

 

「はっ。陸軍は10万人が現在活動中です。また試験的に編成した鉄獣も、現在30両が戦闘可能となっております」

 

ライケが写真を手に話すと、一部の閣僚からはどよめきが起こった。というのも鉄獣―――フランス軍の旧式であるルノーFT-17軽戦車―――の輸入と編成は、国王と一部の高官しか知らない事実だったのだ。

 

「ライケ元帥!こちらの鉄獣は何処から輸入されたのですか!?」

 

魔導研究省のランメルト・アッペル魔導大将が興奮気味に訊ねる。彼は魔導と科学の融合、所謂魔導科学の有用性を提唱していることで有名な魔導士である。そんな彼にとって、フランスからの新兵器(鉄獣)は心をくすぐるものがあった。

 

フランスですよ」とライケが返すと、アッペルは感嘆の溜め息を吐いた。

 

「またイギリスから新型大砲100門を輸入、こちらも突貫工事ではありますが編成が進んでおります」

 

ライケの隣に立つ主計将校が発言する。こちらもまた、イギリス政府(ロンドン)アルタラス政府(ル・ブリアス)の一部のみが把握している案件であった。

 

同様の輸入品としては、イギリスからの装甲艦が挙げられる。

 

「海軍もイギリスより艦船を輸入、既に一部は実戦部隊への投入を終えております」

 

恰幅のよいこの中年の男は、海軍総司令官のホドフリート・ファン・デ・ヴォルド元帥だ。

 

「イギリスからは装甲艦を輸入、訓練の様子を見るに装甲・威力・船速全てにおいてパーパルディアのそれと互角かそれ以上と云っても過言ではないと思われます」

 

デ・ヴォルドが自信げに述べる。彼は装甲艦の訓練の様子を脳裏に思い浮かべていた。

 

    ◇

 

中央暦1641年6月10日(西暦1942年8月20日)午前4時

アルタラス王国、ヴァーボルガ軍港──

 

首都ル・ブリアスから数十キロ西にあるヴァーボルガ軍港。周囲を山岳に囲まれた入り江の最深部に、()()は係留されていた。

 

「いつ見ても装甲艦は心強いものだ」

 

第一艦隊の司令官、エトヴィン・ファン・ホーフ大将が呟く。

 

腕組みをして煙草を吹かす彼の視線の先には、一隻の艦船が鎮座している。堂々たる主砲と装甲を持つ装甲艦『アルターラ』は、アルタラス艦隊の中核を担う艦として期待されていた。

 

「おはようございます、ホーフ大将」

 

「おはよう、大佐」

 

主席幕僚のニールス・ヴィルケス大佐からの敬礼を受け、ホーフが答礼する。

 

「しかし、政府はよくこれほどの装甲艦を入手出来ましたね」

 

ヴィルケスが巨大な船体を見上げる。

 

「うむ。やはり()()()は素晴らしいな」

 

ホーフが含みのある表現を使って話す。イギリスから輸入したこの装甲艦は、最大級の国家秘密であった。

 

勿論、ヴィルケスを含めた艦隊の幕僚や政府高官の一部は真実を知っている。

 

かつてイギリスにおいて『ウォーリア』と呼ばれたその装甲艦は、現代戦艦の草分け的存在だった。

しかし建艦競争とそれに伴う旧式化により退役。近年は武装を取り外され、燃料貯蔵庫として使用されていた。

 

そんな状況下で舞い込んだアルタラスからの軍事支援要請により、状況は一変する。仮想敵国であるパーパルディアを牽制する目的でも、イギリスにとってアルタラスとの友好は不可欠だった。

 

当然イギリス政府(ロンドン)は海軍の旧式艦船の払い下げを検討した。しかしここで壁となったのが、転移後に成立した武器流出防止法、所謂ハイド・パーク憲章であった。

 

対応に苦慮したイギリス政府は、ここでとある策を立てる。「現在海軍の管轄を離れている艦船ならば、売っても問題ないのでは」というチャーチルの発案により、海軍本部と大蔵省は「友好国への貿易船輸出」という名目で旧式艦船の払い下げを計画したのだ。

 

こうして退役済みの艦船がイギリスの友好国へ払い下げられることになったのである。

パーパルディアという脅威を抱えているアルタラスは、イギリスから六隻を購入。その一つがこの『ウォーリア』であった。

 

    ◇

 

「主砲斉射!撃て!」

 

砲術士官がサーベルを抜き、砲撃の合図を出す。

 

ズドォォォォン!!ドォォォォン!!

 

圧倒的な破壊力を誇る10門のアームストロング砲が一斉に火を噴く。砲撃による震動が周囲の空気を響かせ、船上の将兵たちを驚愕させる。

 

標的であった木造船は、110ポンド砲の直撃を受け爆発した。

 

「目標着弾!壊滅を確認!」

 

観測官が双眼鏡を構えながら伝える。全将兵の目の先には、燃えながら沈没していく3隻の木造船があった。

 

「素晴らしい!」「万歳!王立海軍にとって記念すべき日だ!」

 

初の砲撃の成功により、第一艦隊の全将兵が歓喜したのは言うまでもない。

 

「ホーフ大将!」

 

「元帥閣下......!」

 

『アルターラ』の甲板から砲撃の様子を見ていた、総司令官デ・ヴォルドと艦隊司令官ホーフの二者も例外ではなく、互いに海軍の記念すべき偉業を喜んだ。

 

「これからは装甲艦の時代だ。魔導戦列艦の高火力化と装甲化も夢ではないぞ!」

 

デ・ヴォルドがブランデー入りのグラスを掲げながら力説する。

 

「しかし、これが80年前の旧式艦というのですから驚きですね」

 

ホーフもグラスを持ちながら話す。

 

「うむ。イギリスの技術力には畏怖すら覚えるよ。まあ彼らが味方なのが救いだがね」

 

元帥が頬を緩め、ブランデーを飲む。その表情にはどこか安堵のようなものが含まれていた。

 




遂にパーパルディアが牙を剥き始めましたが、如何でしたか?原作とは異なり、武装の近代化を進めるアルタラスの運命や如何に……!
お気に入り登録、評価等、本当にありがとうございます!2021年も応援よろしくお願い致します!
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