英仏召喚   作:Rommel

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第2話 ―ファースト・コンタクト―

中央暦1639年1月24日午前8時

クワ・トイネ公国第10飛竜隊――

 

クワ・トイネ公国空軍所属の第10飛竜隊は、「ワイバーン」と呼ばれる飛竜を操り、澄み渡った公国北東方向の朝の空を哨戒に当たっていた。

北東方向には海が広がっており、何も無い所である。しかし最近、以前から仲が悪かった隣国のロウリア王国と「ある事件」をきっかけに、一触即発の事態にまで関係が悪化していた。その為、奇襲攻撃をいち早く察知する必要があった。

 

「こちら第10飛竜隊、マイハーク方面に敵影無し。繰り返す、敵影無し。」

 

第10飛竜隊の隊長、アレニウス・マールパティア大尉が魔信を使って基地へと報告する。

 

「しかし最近のロウリア情勢はきな臭いな、いつ戦争が起きてもおかしくないぜ。」

 

マールパティアの士官学校時代からの親友、フォーゲルンド・エーヒ中尉が魔信で話しかけてきた。

 

「全くだな、もし戦争が起きたら俺らも前線行きか。」

 

マールパティアが思わず身震いする。

 

「ウーロフ隊からマールパティア隊へ、国籍不明騎(アンノーン)を確認、至急支援求む。」

 

「マールパティア隊からウーロフ隊へ、了解。今からそちらへ向かう。」

 

マールパティアは隊の仲間に合図をすると、飛竜を旋回させてウーロフ隊の方へと向かっていった。

 

『国籍不明騎―ロウリアか?しかし航続距離にここまで来られない筈だが――』

 

彼が思案していると、ウーロフ隊の飛竜が見えてきた。

 

一分程の後、ウーロフ隊と合流したマールパティア隊は、こちらへ向かって来る十数機の国籍不明騎を遠くに認めた。

 

マールパティアは直ぐに双眼鏡を取り出すと、バランスを取りながらそれを構えた。

 

「何だこれは!?」

 

海の上空を何か点のようなものが、列になって飛んでいるのを、彼は見つけた。

 

「まさか敵騎か!?」

 

彼は驚愕の余り、双眼鏡を取り落としそうになった。彼の目には、とても生物とは思えない無機質な物体が飛んでいる様子が映っていたのである。

 

「鉄で出来た飛竜なのか?しかも羽ばたいていない!」

 

彼は驚愕した表情を見せた。

 

第10飛竜隊の隊員達が驚いている間にも、国籍不明の鉄竜は高速で此方に迫ってくる。

 

その鉄竜は近くで見ると、より奇妙な形をしていた。

左右対称に「羽ばたかない羽」が付いていて、羽ばたかない羽の下には「回転する羽」がそれぞれに付いていたのである。

 

マールパティアは気を取り直すと、魔信を使って警告を行った。

 

「国籍不明騎に告ぐ、ここはクワ・トイネ公国の領空である!直ちに引き返す様、繰り返す、直ちに引き返す様――」

 

彼の警告をよそに、不明騎は飛び去って行く。

 

「引き返さないだと!?総員、追撃を始めるぞ!」

 

マールパティアが魔信を使って指令を出す。彼の指令を合図に、第10飛竜隊は国籍不明騎部隊の追撃を始めた。

 

「畜生!速すぎて追いつけん!」

「このままだと本土方面へ逃げられるぞ!」

「一体鉄竜は何キロ出しているんだ?飛竜の二倍の速度はあるぞ!」

 

追撃を始めるや否や、各員から驚愕と悲痛に満ちた声が入ってくる。

 

彼らの焦りを嘲笑うかの様に、国籍不明騎部隊との距離は離れていった。マールパティアは魔信を取ると、マイハークの基地へ緊急通信を入れた。

 

「第10飛竜隊よりマイハーク基地へ緊急連絡、国籍不明騎部隊と遭遇。追撃するも相手の速度の方が速く、逃げきられた。該当騎は本土マイハーク方面へ進行!繰り返す、マイハーク方面へ進行した!」

 

この連絡を受け、マイハーク飛竜基地では次々に飛竜が緊急発進(スクランブル)していった。

 

 

同刻

イギリス空軍(R A F)、第85飛行隊・ヒース小隊――

 

クワ・トイネ空軍の第10飛竜隊の隊員が驚いている頃、同様にイギリス空軍の第85飛行隊の隊員達も驚いていた。

 

「おい、さっきのドラゴンは写真に撮ったか?」

 

ヒース小隊の隊長でパイロットのフレデリック・ヒース少佐が、偵察員のアラン・ハミルトン中尉に訊ねた。

 

「撮りました、少佐。しかし驚きましたね、ドラゴンが空を飛んでいるとは――」

 

「相手も驚いた表情をしていたが、それ以上にこちらの方が驚いたよ。」

 

ヒースが笑みを浮かべながら言う。

 

「アーノルドからヒースへ、前方に陸地を確認。繰り返す、前方に陸地を確認!

 

二人が会話を交わしていると、アーノルド小隊のヘクター・アーノルド大尉から驚くべき通信が入った。

 

「こちらヒース。アーノルド大尉、よくやったぞ!」

 

ヒースが興奮した口調で喜ぶ。

 

「今夜は上物のスコッチで祝杯ですね、少佐。」

 

ハミルトンが興奮を抑えるような声で言う。

 

「そうだな、中尉。空軍始まって以来の大快挙だからな――」

 

ヒースが誇るような声で言った。

 

「少佐、前方に陸地を視認しました。穀倉地帯と街が見えます!」

 

ハミルトンが双眼鏡を構えて言う。

 

「よし、接近して撮影するぞ。各員に準備するよう伝えてくれ。」

 

「了解しました、少佐。」

 

ハミルトンが通信機を取り、各員に連絡を取った。

 

「こちらハミルトン、各員に告ぐ。本隊はこれから前方の陸地を偵察し、撮影する。各員は準備されたし。繰り返す、各員は準備されたし。」

 

指令を受けた第八十五飛行隊の各員は、未知の陸地へと向かっていった。

 

 

同日午前8時20分

クワ・トイネ公国、マイハーク――

 

クワ・トイネ有数の港湾都市であるマイハーク。貿易と造船が盛んなこの都市は、危機に見舞われていた。

――というのも、マイハーク近海の上空を哨戒していた飛竜隊から、高速の国籍不明騎が領空に侵入したという連絡が入ったからであった。

 

マイハーク防衛騎士団団長のヘレーナ・イーネ准将は、市の郊外に位置する要塞にある指令室で、領空侵犯騎への対策を練っていた。

 

『領空を侵犯しこちらに向かっている国籍不明騎…しかも鉄製だなんて――』

 

イーネは副官のレネゴート・ソルロッド中佐から報告を受け、思考を巡らせていた。

 

「閣下、作戦は如何致しましょう?」

 

ソルロッドがイーネに訊ねる。

 

「先ずは空軍との連携が先決ね。空軍と連絡を取りつつ、対空魔導士部隊を配置。万が一攻撃された場合は即反撃を。」

 

イーネが冷静に、かつ的確に指示を出した。

 

「承知しました、各員に指令を出します。」

 

ソルロッドが敬礼して指令室を去る。

 

『さて、前線に出る準備をしなくては――』

 

イーネは祖父の代から伝わる魔導弓を持つと、双眼鏡を手に取り、要塞屋上の指揮所へと向かった。

 

 

同日午前8時30分

イギリス空軍(R A F)、第85飛行隊・アーノルド小隊――

 

地上でイーネ達が迎撃の為に配置に就いていた頃、第八十五飛行隊の編隊はマイハーク上空を旋回していた。

 

「下に見える街だが、随分と古風な街だな――」

 

アーノルド小隊の隊長でパイロットのヘクター・アーノルド大尉が呟く。

 

「そうですね、大尉。中世の様な建物が多い様に感じます。」

 

偵察員のギルバート・スマイサー少尉が、偵察用航空カメラのシャッターを切る。

 

「船は帆船か――大学時代に読んだ大航海時代の歴史書を思い出すな。」

 

「大尉、町の南側の小高い丘に要塞らしき建物が――」

 

スマイサーが双眼鏡を除きながら言った。

 

「何か見えるか?」

 

アーノルドが訊ねる。

 

「兵らしき人影が多数見えます。火球をこちらに撃っていますが、全く支障ありません。」

 

スマイサーが冷静に状況を分析した。

 

「火球?魔法でも使っているのか?」

 

アーノルドが驚きを込めた声で言う。

 

「対空兵器の部類は見られませんし、恐らくそうかと思われます。」

 

「魔法にドラゴン――本当にお伽噺のような世界に来てしまったな。」

 

アーノルドが苦笑いしながら言った。

 

「ヒースからアーノルドへ、航空燃料は残り僅かか?」

 

アーノルドとスマイサーが要塞上空を旋回していると、飛行隊の隊長であるヒース少佐から通信が入った。

 

「こちらアーノルド、帰投分を考えると残り僅かと思われる。」

 

「こちらヒース。燃料の件、了解した。これより全小隊に帰投指示を出す。」

 

「了解、本小隊も帰投を開始する。」

 

ヒースとアーノルドの一連の会話の後、第85飛行隊の各員は英本土へ向けて飛行を開始した。

 

その日の夕方には、第85飛行隊は無事エクセターの基地へと戻った。彼らが得た多大な情報がロンドンへと送られると、驚きと歓喜を持って迎えられたのだった。

 

こうしてイギリスの命運を懸けた「ダイナモ作戦」は成功に終わったのであった――

 




皆さんお久し振りです!大分更新が遅くなってしまい、お待たせしたことと思います。さて、今回は第2話の加筆版を書いてみました。加筆前には無かった人物やシーンなど、楽しんで頂けたら幸いです。今年も「英仏召喚」を宜しくお願いします。
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