英仏召喚   作:Rommel

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第3話 ―交渉―

1940年4月17日午前10時

ロンドン、ウェストミンスター宮殿――

 

その日も臨時の議会が招集されていた。

勿論、議題は先日の偵察飛行である。

 

「では、先日の偵察飛行について、ダウディング空軍長官、お願いします。」

 

と議長が言うと、ダウディング長官は討議テーブルの左側に立った。

 

「お集りの議員の皆さん、先日の偵察飛行の結果を説明します。判明した事は――」

 

「――以上の事から、我々が異世界にいると断言します。」

 

説明が終わると、会場からは盛大な拍手が起こった。

長官の説明は1時間に及んだ。

その結果を要約すると、

 

1.ワイト島の東南東962km、フランスの東に広大な大陸がある。

 

2.その大陸には、中世レベルの文明がある。

 

3.ドラゴンが空を飛んでいるといった、ファンタジー的な文明でもある。

 

4.国家が存在しているようである。

 

5.これらの事から、我々は異世界に存在していると証明できる。

 

と云う物であった。

 

 

同日、午後1時

ロンドン・海軍本部――

 

ホワイトホールにある海軍本部では、ウィンストン・チャーチル海軍大臣や、ネヴィル・チェンバレン首相といった政府の閣僚が集まっていた。

 

「つまり、君も外交団を派遣すべきだと思うのだね?」

 

チェンバレンがチャーチルに訊ねた。

 

「はい、閣下。その国と接触を図るためにも必要かと。」

 

チャーチルが真剣な眼差しで断言する。

 

「しかし、攻撃をされる心配は無いのか?攻撃的な国家だったら拙い事になるが――」

 

「首相、ご心配には及びません。英国海軍(ロイヤル・ネイビー)の優秀な艦船であちらへ向かえば大丈夫ですぞ。」

 

二人の会話を聞いていたパウンド海軍卿が、チェンバレンに言った。

 

「海軍の船で外交団を派遣する。か――まるで昔の砲艦外交だな。」

 

チェンバレンが苦笑いをする。

 

その後も議論は続き、外交団をその大陸に派遣する事が決まった。

 

 

中央暦1639年1月26日午前10時

クワ・トイネ公国、公都クワトイネ・国民議事堂(フレイヤの館)――

 

クワ・トイネ公国首都、クワトイネ。この国の政治の中枢であるこの都市の中央には、「フレイヤの館」と呼ばれている国民議事堂が建っていた。クワ・トイネ文化の粋を集めて建設されたこの議事堂は、豊穣の女神であるフレイヤの名を冠し、国民の誇りとなっていた。

 

この日、クワ・トイネ公国の若き首相であるペール=エーリク・カナタ首相は、臨時の閣議を招集していた。

勿論、議題は一昨日に起きた国籍不明騎による領空侵犯である。

 

「――以上で本件の報告を終わります。」

 

報告の為に出席したマイハーク防衛騎士団長のイーネ准将が、書類を手に閣僚達に報告をする。

 

「諸君、この件についてどう思う?」

 

報告を頷きながら聞いていたカナタが、立ち上がって閣僚達に訊ねた。

 

「撮られた魔写の形状は、ムー連邦や神聖ミリシアル帝国といった中央列強国が保有している飛行機械に酷似しています。しかし我が国とこれら二ヵ国とは2万㎞以上離れていますし――」

 

シクステン・オーストソン国防大臣が困惑した表情を見せる。

 

「結局何者なのか解らん、と云う事か。」

 

カナタが参ったと言わんばかりに言う。

 

「首相、『第八帝国』についての情報ですが――」

 

クワ・トイネ諜報庁長官のペッレ・ノルドルンド大将が発言を求めた。

 

「ほう、情報が得られたか。」

 

カナタが身を乗り出して訊いた。

 

「はい、首相。第八帝国は――」

 

「会議中失礼致します!」

 

ノルドルンドが話そうとしたその時、若手の外務省職員が会議室のドアを勢いよく開けて入って来た。

 

「ノックもせずに入って来るとは――何事かね?」

 

発言を遮られたノルドルンドが不機嫌そうに訊ねる。

 

「これは失礼を致しました。何せ緊急の要件でして――」

 

職員が非礼を詫びる。

 

「まあ仕方の無いことだ。して、要件は何かね?」

 

カナタが訊ねた。

 

「はい、閣下。先程マイハーク海軍基地より通信が入りまして、国籍不明の巨大船がマイハーク沖に現れたとの事です。船は170m程で、魔導砲の様な物が複数付いているとの報告が上がっています。臨検を行った所、「イギリス」と云う国家の使節が乗っていたとの事です。」

 

職員がはっきりとした声で書類を読み上げる。

 

「イギリス――聞いた事の無い国家だな。」

 

カナタが不思議そうな顔をする。

 

「どうやら新興国では無さそうですな。魔導戦艦を建造できる国家といったら、この辺りではパーパルディア皇国くらいだが――」

 

オーストソンが自分の見解を述べた。

 

「意思疎通は、コミュニケーションは取れたのか?」

 

グレーゲル・リンスイ外務大臣が職員に訊ねる。

 

「それについては問題無いとの事です。彼らも我々と同じ『大陸共通語』*1を話しているとの事でして――」

 

「同じ言語を話しているのか、これは驚いたな!」

 

カナタが驚いた表情を見せた。

 

「それから閣下、イギリスの特使から会談を行いたいとの申し出が来ております。」

 

「うむ、報告有難う。会談出来るよう日程を決めておこう。」

 

「では、失礼致します。」

 

職員は一礼すると、会議室を後にした。

 

『如何やら忙しくなりそうだな――』

 

カナタは期待と不安を抱えつつ、会議の続きへと戻った。

 

 

翌1月27日(西暦1940年4月19日)

クワ・トイネ公国、マイハーク市庁舎――

 

この日、マイハークの市庁舎ではイギリスとクワ・トイネの会談が行われていた。

 

「本日は会談に応じて頂き、有難う御座います。先日の領空侵犯は、お詫び申し上げます。」

 

イギリスのロイド・ボーフォート全権大使が頭を下げる。大使は、三つ揃えスーツにシルクハットという如何にも英国紳士(ブリティッシュ・ジェントルマン)という恰好をしていた。

 

「頭を上げてください、大使殿。」

 

ボーフォートの誠意を汲み取ったカナタが、穏やかな声で大使に言った。

 

「しかし、先日の侵犯は何故――」

 

「先日の領空侵犯は、情報収集を目的とした物です。我が国は突如としてこの世界に転移してしまった為、情報収集をする必要があったのです。」

 

「国家が転移!?」

 

ボーフォートの格好を興味深そうに見ながら話を聞いていたカナタだったが、『転移』の二文字を聞いた途端に驚愕の表情を見せた。

 

「はい、突然この世界に来てしまい困っておりまして――」

 

「これは驚いた!国家転移など神話の世界と思っていたが、実際に遭遇するとは――」

 

「但し此れだけは言えます、我が国に敵意無し――と。」

 

困惑した表情のカナタを見かね、ボーフォートが断言した。

 

「こちらは我が国の国王、ジョージ6世陛下からの親書です。お受け取り下さい。」

 

ボーフォートが白手袋を嵌め、大英帝国の国章が書かれた親書をカナタに渡す。

 

「丁重に頂戴致します。」

 

カナタが親書を受け取る。

 

「それでは本題に――」

 

ボーフォートの眼差しが真剣なものになった。

 

「我が国は、以前の世界で食料や資源の多くを輸入に頼っていました。しかし今回の転移で供給がストップしてしまったのです。そこで我が国は、貴国の食料の我が国に対する輸出を求めます。」

 

「成る程、条件はどの様な物を?」

 

カナタが訊ねた。

 

「我が国の希望する食料は、年間5000万トンです。」

 

「5000万トン!?」

 

「我が国は対価として、貴国でのインフラ整備や鉄道建設などを行います。」

 

「鉄道?一体どのようなもので?」

 

カナタが興味深そうに訊く。

 

「こちらをご覧下さい。」

 

ボーフォートが持って来たフィルムをスクリーンに映した。

 

「おお!これは素晴らしい、馬より速いぞ!」

 

カナタは蒸気機関車の走行する様子が映された映像を見ると、まるで少年の様に目を輝かせた。

 

「喜んで頂けて幸いです。」

 

ボーフォートが笑みを浮かべ、カナタに握手を求める。

 

「良いでしょう、貴国への食料輸出を認めましょう!」

 

カナタが差し出された手を握り、笑顔で述べた。

 

「有難う御座います、首相殿。是非我が国にお出でください。」

 

ボーフォートが満面の笑みで言った。

 

「此方としても是非訪れたいのですが…国を開けられない状況でして――」

 

カナタが申し訳なさそうに話す。

 

「近日中に外交団を派遣したいと考えていますよ。」

 

カナタはそう言うと、万年筆を取り出して条約の書類にサインを――とここで問題が起きた。

 

「ボーフォート殿。この書類には何と書いてあるのですかな?」

 

カナタが首を傾げる。

 

「如何やら文字表記は二国間で異なるようですな――」

 

クワ・トイネ側の資料を見たボーフォートが言った。

 

「では私が読み上げを。」

 

ボーフォートの部下の一人が書類の文面を読み上げる。

 

「――成る程。これでサイン出来ますな。」

 

内容を一通り聞き終えたカナタが書類にサインをした。

 

イギリスとクワ・トイネの歴史的な初の会談は、こうして幕を閉じた。

 

その後、イギリスの特使は晩餐会に出席したり、クワ・トイネ公国国内を視察したりした。

 

更に、公都クワ・トイネのクイラ王国大使館でも、石油や鉄鉱石に関する貿易条約を結んだ。現在の産出量は微々たる物らしいが、調査と開発によって増産が見込めると考えての判断であった。

 

この一連の会談でイギリスは、異世界における新たな一歩を踏み出したのだった――

 

*1
英語に近い言語。ムー連邦やロデニウス大陸とその周辺で話されている。




今回の更新も加筆版となりましたが、如何でしたか?一部設定も加筆に従って変更してみました。お気に入り登録やコメントなど頂いています。皆さん有難う御座います!
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