中央暦1639年10月4日早朝
ギム、第1軍司令部・旧ギム市庁舎―
ここギムを守るロウリア第1軍の司令官、パンドール国家元帥は悩んでいた。
悩みの種は、ハーク自ら手を入れてきたギム防衛計画である。
「うーむ、参ったものだ。我々の方が軍事に卓越しているのに、あの国王と云ったら―」
そう考えていると、伝令兵が大急ぎでやって来た。
「閣下、騎兵部隊が敵の先遣隊と交戦に入りました!」
「何っ!?敵め、もう来たのか!」
そう言うと、パンドールも大急ぎで通信室に向かった。
その頃
第5機甲大隊を率いるハロルド・トワイニング少佐は、前方の部隊が接敵した事を受け、後方の車両に指令を出していた。
「こちらハロルド、これより敵部隊への攻撃を開始する!」
そう指令を出すと、
「
と、各車両から返答が返ってきた。
指令を出したのもつかの間、敵を視認する。
直ぐに砲手に伝え、敵を機関銃でなぎ倒していった。
他の車両も同様に、敵の陣地にこれでもかと機関銃をお見舞いする。
ダダダダダダダダッ
音がする度、敵兵が斃れていき、抵抗する間もなく死んでいった。
こうして敵を一方的に蹂躙していると、敵の騎兵部隊と何やら
ウォォオオオオ
敵騎兵隊は、サーベルを高く掲げて突撃してきた。
「まるでナポレオン戦争時代みたいだな―」
彼はそう思うと、砲手に
「やっと主砲が役に立つぜ!」
砲手のクレメント・フレイザー大尉が言う。
ドゴォォォォン
ズドォォン
凄まじい音を立て、主砲の2ポンド速射砲が火を噴き、怪物の装甲の様な皮膚を徹甲弾が貫く。砲弾が当たった
敵を一体、また一体と斃していると、通信が入った。
「こちらレナルド小隊!...現在...敵の
「こちらハロルドだ。これから航空支援を要請する、一先ず森へと退避せよ!」
「了解!」
通信を終えると、少佐は師団長に航空支援を要請するように連絡した。
15分後―
「少佐!少佐!味方の戦闘機です!!」
隣の戦車で双眼鏡を構えていた車長が言う。
「おお!味方が来たぞ!」
少佐はそう言うと、直ぐに通信機を取った。
「こちらハロルド、進撃を再開する!」
その通信を合図に、再び攻撃が始まった。
同刻
ギム正面でイギリス軍がロウリア軍の抵抗を受けていた一方、ギネを目指すフランス軍は、僅かな抵抗にしか遭遇していなかった。
「しかし奇妙だな、全く敵が居ないなんて―」
ルクレールが副官のマティアス・アルボー少尉に言う。
「そうですね、中佐。何処かで待ち構えているのでは?」
少尉が答える。
「うむ、その可能性は大だな。敵が居なくとも、気を引き締めねば―」
といった会話をしていると、先遣隊からロー川に到達したという連絡が入った。
「どうだ、橋は残っているか?」
ルクレールが先遣隊に訊いた。
「敵の手によって破壊されています!」
「拙いな―」
「よし、工兵隊を向かわせよう。明日の午後までには終わらせねば!」
こうして、ロー川渡河作戦が始まった―
架橋には工兵部隊だけでなく、戦車兵達も協力した。
「
建設の様子を視察していたルクレールが言う。
「この調子だと明日には終わりそうです、中佐。」
アルボー少尉が明るく言った。
建設は多くの人員が動員され、夜通し行われた。
更に明け方には、一部の部隊が対岸に橋頭保を確保し、より安全に建設が進められるようになった―
10月5日午後2時
ロウリア第1軍司令部・旧ギム市庁舎―
「パンドール閣下、北西部の防衛線が崩れました!」
伝令兵が息を切らしてやって来た。
「何...だと..」
パンドールの顔が一気に青褪める。
「直ぐ魔獣部隊を向かわせろ!ワイバーンの支援も要請するぞ!!」
パンドールはコップに注がれていた水を一気に飲むと、そう言った。
「了解しました!!」
伝令兵は再び走っていった。
「拙いな...撤退も視野に入れねば―」
パンドールがそう考えていると、
ヒュルルルル...ズドォォォォン
凄まじい轟音が聞こえてきた。
「何事だ!?」
パンドールが驚いていると、副官が走ってきた。
「閣下、敵が大規模な火炎弾攻撃を仕掛けて来ました!!」
「敵の大魔術師のお出ましと云う訳か―」
パンドールはそう考えると、魔術師の部隊を向かわせる様に指示した。
その頃
ギムの南6km、ギネ後方の丘陵―
第5機械化騎兵連隊の指揮官、サン=シモン・ロドルフ中佐は、M201装甲車を中心とした装甲車部隊とオートバイ兵を率いて、偵察を行っていた。
ロドルフが双眼鏡を構えていると、敵の守備陣地を遠くに見とめた。
「ん?あれは敵の守備陣地か?」
彼がそう考えていると、先頭の部隊から通信が入った。
「こちら..ヴェルレ中隊!..我、敵の...斥候..部隊に遭遇!...現在..戦闘中!」
「こちらロドルフだ。直ぐに支援部隊を向かわせる、戦闘を継続せよ!」
「了解!増援感謝する!」
通信が終了すると、ロドルフは偵察部隊を率いて前線に向かった。
前線に到着すると、すでに戦闘は激しさを増していた。
「斥候にしては敵が多いな―」
ロドルフがそう呟く。
敵は増援を呼んだ様で、抵抗は一段と激しいものになっていた。
「よし、総攻撃を開始せよ!!」
ロドルフが指令を出すと、M201装甲車のオチキスMle1938重機関銃が攻撃を開始した。
ダダダダダダダダダダッ
隊列を組んで勇敢に向かって来る敵の重装歩兵は、銃声が鳴り響くや否や、亡骸と化していった。
「歩兵部隊、進撃開始せよ!」
ロドルフが大声で言う。
「
オートバイ兵は車両を降りると、敵軍への突撃を開始した。
ズダダダダダダダッ
軽機関銃やライフル銃の音が辺り一帯に鳴り響く。
「こちらロドルフ!迫撃砲部隊、攻撃開始せよ!」
彼が迫撃砲陣地に指令を出すと、攻撃が開始された。
ブラント81mm迫撃砲から放たれる砲弾は、放物線を描いて敵陣に弾着していく。
ズドォォォォォン
弾着が生じる度、弾着が生じた部分の土が空高く上がり、文字通り敵兵が飛ばされる。
戦闘はその後も続き、夕方には第1機甲旅団も到着した。
同日午後6時
ギネ・ルクレール中佐の指揮戦闘車―
「閣下、敵の使者が来ました!」
副官のマティアス・アルボー少尉が早口で言った。
「よし、早速会おうじゃないか。」
ルクレールはそう言うと、天幕の中へ向かっていった―
同日午後7時
第1軍司令部・旧ギム市庁舎―
激しさを増すイギリス軍の攻撃は、この司令部にも迫っていた。
ロウリア第1軍は、市街地の白兵戦によってイギリス軍に出血を強いりながらも、じりじりと撤退を始めていた。
「パンドール閣下、ここは危険です。ギネへと撤退しましょう!!」
副官のトミーンが言う。
『ギムを放棄してしまえば、戦線は大分後退する事になる、そうなったら我が国の戦争継続能力は―』
パンドールが悩む。
ズドォォォォン
パンドールが悩んでいると、耳を劈くばかりの音を立て、砲弾が司令部の屋根に直撃した。
「閣下、ご決断を!」
トミーンが緊迫した声で言う。
「...ギムを放棄するぞ、撤退だ。」
パンドールが諦めに満ちた声で言った。
1時間後
ギム郊外、撤退中の第1軍―
パンドールは部下の軍勢を引き連れ、ギネへと撤退すべく、行軍をしていた。
『致し方あるまい、これも将兵と戦線を維持する為だ。』
彼が馬上でそう考えていると、先遣隊が向かって来た。
「如何した?」
パンドールが訊ねる。
「閣下、ギム橋が敵の手に落ちました!!」
先遣隊の隊長が言う。
「何っ!?」
「そ、そんな莫迦な―」
パンドールが衝撃を受ける。
しばらくの沈黙の後、パンドールは副官のトミーンに、残った将兵を集めるように言った。
30分後、パンドールは指揮下の全将兵を前に、演説をした。
「兵士諸君、我々は今、非常に厳しい立場にある。現在、我々は敵に包囲され、追い詰められている。
しかし、このまま降伏する訳にはいかない!よって、我々は、明日の早朝に、敵防衛線の最も薄い所を突き、包囲を突破する!
諸君、この戦いは、かなり激しいものになるだろう。王国の興廃はこの一戦にある、各員一層奮励努力せよ!!」
演説が終わると、厭戦気分が漂っていた兵達の士気は、一気に回復した。
翌6日
ギム郊外、ロウリア第1軍―
「閣下、準備整いました!」
トミーンがパンドールに敬礼をする。
「よし、総員突撃開始!!兎に角、西に向けて走れ!!」
パンドールが大声で言うと、ラッパ手が突撃の合図であるラッパを吹いた。
ウォォォォォォ
鬨の声と共に、騎兵が一斉に突撃し、槍歩兵部隊や魔導士部隊が後に続く。
「我に続け、突撃!!」
「進め進め!!」
と云った声があちらこちらから聞こえる。
一方、敵の部隊はと云うと、僅かな歩哨部隊が野営地を守っているだけで、あっという間に騎兵部隊に寝込みを襲われた。
部隊が突撃する度、敵兵の悲鳴が上がる。
しかし、敵が防衛体制を整え始めると、戦況が逆転した。
「拙い、敵の鉄獣が来たぞ!」
という声が味方の一部から上がる。
敵の鉄獣は、次々に兵達を斃していく。
「閣下、西へ逃げましょう!」
咄嗟にトミーンが言う。
「うむ、総員西へ退却せよ!!」
パンドールが大声で指令を出すと、生き残った部隊は、重装歩兵部隊を殿に、西への退却を始めたのだった―
こうして、
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ギム大包囲戦の各軍損害
ロウリア第1軍 (ロウリア) 死者・行方不明者 15341名 負傷者 19582名 捕虜 18768名
皆さんお待ちかねのフランス軍活躍回です。次回はドゴール機甲部隊が活躍します!