ご注文はかけがえのない友情ですか?   作:竜田川 竜之介

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どうも、ついこの間がっこうぐらしを(今更)全話見てきた竜田川 竜之介です(執筆しろ)。元々OPはよく聴いていて本編にも興味があり、我慢しきれず見てしまった訳ですよ。評判通りこれ日常系アニメなの?ってぐらいホラーですねあれ。そんな中でもちゃんと日常していたのには驚きましたが。そして最後が…おっとこれ以上はいけない(ネタバレ的な意味で)。

さて、話は逸れましたが3羽です。前回は4か月かかったので今回もそれくらいかかっちゃうかな?と見込んでいたのですが、意外にも3か月で出来てしまいました。この調子で投稿ペースを上げられたらいいなぁ…なんて思ったり。そして今回も1万文字越えです。もうこれがデフォルトになってしまうのか…頑張ります。

また微妙に長くなってしまいました。では本編をどうぞ!!


3羽「正体と罪悪」

心兎平がラビットハウスに来る約10分前の事―

 

 

 

私は天々座 理世(てでざ りぜ)、この街に住んでいる一人の『普通の』女の子だ。今年の春から高校2年となる。

 

 

 

「いらっしゃいま…あ、リゼさんこんにちは」

 

 

 

『Rabbit House』と書かれた看板を掲げた喫茶店に入ると、もう出会って1年の付き合いとなる女の子―チノが出迎えてくれる。彼女の親父さんが私の親父と友人であり、そのよしみで去年から私はここでアルバイトをする事になったんだ。

 

 

 

「あぁ、こんにちはチノ」

 

 

 

私はいつものように返事をし、その足で『Staff Only』のドアを開ける。だが私は、ここに来てから微かに違和感を感じていた。チノの様子が変なんだ…いや、一見するといつもと何ら変わらず落ち着いているようだが、1年も付き合えば私には分かってしまう。チノはきっと何か不安を抱いているに違いない。流石に何に対してかは分からないが…兎に角、先ずは着替えて仕事しよう。そして仕事が落ち着いてきた頃にでもチノの相談に乗ろう。そう考えつつ私は更衣室へ向かうのだった。

 

 

 

まさかこの後、思いもよらぬ事件に巻き込まれるとも知らずに…。

 

 

 

====

 

 

 

俺とココアは早速仕事をするため、チノちゃんに連れられて更衣室に案内されることとなった。更衣室は1階にあるらしく、すぐに到着した。

 

 

 

「ではお兄ちゃんはここで少し待っていて下さい、ココアさんは中へどうぞ」

 

 

 

俺だけ待てという事は、ここは女性更衣室か。

 

 

 

「あれ?こーちゃんはここで着替えないの?」

 

 

 

「女性更衣室で着替える男がいると思うか?」

 

 

 

「あ、そっか!」

 

 

 

チノちゃんの説明の意図を汲めなかったか、ココアが不思議そうに俺に尋ねてくる。俺が質問に対して至極当然に質問で返せば、漸くココアも納得してくれたようだ。これで割と本気で訊いてくるのだから天然は侮れない。

 

 

 

二人は更衣室に入るとドアを閉めた。だが1分もしないうちにチノちゃんだけ出てきた。

 

 

 

「あれ?もう説明終わったの?」

 

 

 

「ココアさんの使うクローゼットは教えてあるので大丈夫です、ではお兄ちゃんはこっちです」

 

 

 

「そうか…分かった」

 

 

 

ココアの事だから、何かしでかすんじゃないか…そんな不安を抱きつつも、チノちゃんについていくのであった。

 

 

 

~~

 

 

 

次に向かったのは2階のとある部屋だった。見た感じ男性更衣室ではなさそうだが…。

 

 

 

「ここがお兄ちゃんの部屋です、着替えもここでお願いします」

 

 

 

「うん、ありがと」

 

 

 

どうやら俺のこれからの自室のようだ。着替えもここでしろという事は、男の従業員は俺だけなのか…まあそれはそうと、危うく忘れる所だった件を一つ。

 

 

 

「チノちゃん、悪いんだけどティッピーを貸してくれないかな?」

 

 

 

そう、ティッピーの正体を確かめるのだ。早速巡ってきたこのチャンス、逃すわけにはいかない。

 

 

 

「え?」

 

 

 

チノちゃんは俺の発言に驚愕していた。それもそうか、俺は今の今まで動物と触れ合おうともしなかったからな。最も動物の方が懐かず逃げたり威嚇したりしていたせいだが。

 

 

 

「ほら、ティッピーぐらいしか俺に懐いてくれないしね」

 

 

 

「そうですか…ではどうぞ」

 

少し言い訳じみていたが、チノちゃんは俺の言わんとする事を理解してくれたようで、すんなりティッピーを渡してくる。当のティッピーは何やら恐怖で震えている。それがココアにされたモフモフ地獄の再来に対してか、或いは己の正体がバレる事に対してか、はたまた両方か…因みに俺は言うまでもなく後者が目的だけど。

 

 

 

「では着替え終わったらホールに来てください」

 

 

 

「了解」

 

 

 

ティッピーを受け取った俺はチノちゃんにそう言われ、理解し言葉を返す。チノちゃんを見送った後、俺はドアを開けて中に入った。着替えも行う関係で念のため鍵をかけておく。

 

 

 

「…まあ、何もないか」

 

 

 

部屋を見渡せば、まるで生活感のない光景が目に入る。あるのはベッドに机、箪笥にクローゼット、そして姿見だけだ…いや当然と言えば当然か。まだここにきたばかりだし、荷物も到着していないし。

 

 

 

「あれが制服かな?」

 

 

 

そして何の飾り気もない机の上にそれはあった。丁寧にアイロンがけされており、皺一つない。これ一つとってみても香風家の親切丁寧さが分かる。どこか年季が入っていると感じるのは気のせいか。

 

 

 

「…とりあえず着替えるか」

 

 

 

考えていても仕方がないので、ティッピーをベッドに置いて早速着替えることにした。着替えて姿見に自分の姿を映してみれば…。

 

 

 

「何かカッコいい…」

 

 

 

そこには先程までの自分はおらず、代わりに喫茶店店員―というよりバーテンダーのマスターのような、少し大人っぽい男がいた。己の髪型が平凡である事に目を瞑れば、思わず自画自賛してしまう程には似合っていたのだ。

 

 

 

さて、またまた忘れかけていたが、折角当人―いや当兎?を連れ込む事ができたのだから、ここらで真相を確かめるとしよう。きっと驚くに違いない。

 

 

 

「この格好、どうかなティッピー、いや…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マスター」

 

 

 

====

 

 

 

なぬ!?儂の正体がバレたじゃと!?…いや、そもそもチノの腹話術で隠し通す事に無理があるか。

 

 

 

「何じゃ、バレとったんか…」

 

 

 

「まぁね」

 

 

 

「あの小娘があっさり信じたようにお主も信じたかと思っとったんじゃが…」

 

 

 

「寧ろ全く疑わないココアの方がどうかしてると思う」

 

 

 

言われてみればそうじゃな…さて。

 

 

 

「…まぁ何はともあれ、久し振りじゃの、心兎平」

 

 

 

「そうだなマスター…それで、この格好似合ってるかな?」

 

 

 

「あぁよく似あっとる、因みに儂の制服じゃ」

 

 

 

「へぇ~年季が入ってると思ったらそういう事だったのか」

 

 

 

息子よ、まさか儂の制服を此奴に着させるとは、余計な事を…まあよい。

 

 

 

「…そうじゃ心兎平、儂が喋る事を知っとるのは儂の息子とチノだけじゃ、他言は無用じゃぞ、よいか?」

 

 

 

まぁ此奴なら言う必要もないじゃろうがな。念のためじゃ。

 

 

 

「勿論、そのつもりだけど…」

 

 

 

「…何じゃ?何か言いたげじゃが?」

 

 

 

「何でティッピーになったんだ?」

 

 

 

何じゃその事か。

 

 

 

「そんな事儂にも分からん、死んで気が付いたらこの姿になっておったわい」

 

 

 

「そうなんだ…ティッピーになった感想は?」

 

 

 

「冬は暖かくていいんじゃが、夏は暑苦しくてかなわん、あの小娘に強く抱きしめられた時は死ぬかと思ったわい」

 

 

 

人としてはもう死んどるのに何を言っとるんじゃ儂は?

 

 

 

「寧ろココアみたいな可愛い女の子に絞め殺されるなら本望じゃないの?」

 

 

 

「ばかもん!!そんな訳あるかー!!」

 

 

 

「冗談だって、そんなに怒鳴ると血圧上がるぞ?」

 

 

 

「やかましいわ!!」

 

 

 

此奴言うようになったの…さて。

 

 

 

「…ところで心兎平」

 

 

 

「ん?何で俺がマスターに対して溜口かって?」

 

 

 

「そんな事訊いとらんし今更じゃろうて、そうでなくての…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…何故チノの兄になることを拒まなかったんじゃ?」

 

 

 

====

 

 

 

(やっぱりバレてましたか…)

 

 

 

お兄ちゃんを部屋に案内した私は今、ココアさんの制服を持ったまま心兎平さんの部屋の前で盗み聞きしています。今の私はダメな人です。これ以上ここにいては怪しまれかねないのと、後は他愛もない会話しかしていなさそうだったので、ここは即座に退散するのがいいでしょう。そう考えてドアから離れ、ココアさんが待つ更衣室に向かおうとしました。

 

 

 

「何故チノの兄になることを拒まなかったんじゃ?」

 

 

 

おじいちゃんの発した一言で、私の足は再び止められてしまいます。それは私も気になっていた事でした。私の小さい頃の記憶が正しければ、お兄ちゃんと呼ばれる事をあんなに拒否していたのに…。

 

 

 

「…チノちゃんが寂しそうにしてたから、かな」

 

 

 

「チノが寂しそう?何を言っとるんじゃお主は?仮にも儂がおるじゃろうて」

 

 

 

確かにおじいちゃんの言う通りです。ティッピーになってしまったとは言え、おじいちゃんは常に私の傍にいます。加えてお父さんもいます。別に寂しいと思った事はありません…多分。

 

 

 

「何て言うか…人の温もりに飢えてたって感じ」

 

 

 

「ふむ…」

 

 

 

そういう事だったんですか…言われてみれば、おじいちゃんが人として死んでから今まで、人から感じる温かさに触れていなかった気がします。流石は私が見込んだお兄ちゃんです。

 

 

 

「…まぁ、どういう訳かチノはお前に懐いとるようじゃし、精々兄として頑張るんじゃぞ?」

 

 

 

「言われなくてもそのつもり」

 

 

 

(それを聞ければ安心ですね)

 

 

 

お兄ちゃんの言葉を聞いた私はそう考え、今度こそ更衣室に向けて歩き出しました。1階に降りてきた直後、更衣室の方からココアさんの声と共にもう一人、聞き慣れた声が聞こえてきました。

 

 

 

(何やってるんですか…)

 

 

 

多分ココアさんと鉢合わせしたんですね。仕方ないから二人にはちゃんと説明しておきましょう。私は呆れながらも更衣室へ歩みを進めていきます。そして更衣室まであと少しというところで、事は起きました。

 

 

 

2階から慌ただしく階段を下りてくる足音、そして歩いている私の横をまるで風の如く過ぎ去る人影、その後ろ姿は…。

 

 

 

「…お兄ちゃん?」

 

 

 

====

 

 

 

…何故だ…?

 

 

 

「し、下着姿の」

 

 

 

…何故なんだ…?

 

 

 

「ドロボーさん?」

 

 

 

…何故こうもあっさり…

 

 

 

「完全に気配を殺したつもりなのに…」

 

 

 

私の居場所がバレたんだ…!?

 

 

 

「お前は誰だ!?」

 

 

 

こんなにも完璧な潜伏を見破るとは…こいつ、できる!!

 

 

 

「うえぇ!?わ、わわ私は、今日からここにお世話になる事となったココアです!」

 

 

 

ココア…身近では聞いた事もない名前だ…ここで世話になる…そんな事信じられるわけがない。

 

 

 

「そんなの聞いてないぞ、怪しい奴め!!」

 

 

 

さあ、正体と目的を吐いてもらおうか。まぁ『征服』とか言っていたから、ラビットハウス乗っ取りが目的だろうがな!!

 

 

 

「ココア!大丈…夫?」

 

 

 

直後、更衣室のドアが開け放たれ、バーテンダーのような服を着た男が入ってきた。くそっ援軍か!!…ん?

 

 

 

====

 

 

 

更衣室からのココアによるただならぬ声を聞いたので、ティッピーもといマスターを掴んで駆け付けた…まではよかった。だが俺は失念していた、ここが”女性”更衣室である事を。

 

 

 

幸いココアはまだ着替えてすらいなかった。問題はもう一人、紫の髪をツインテールに纏めた女の子の方だ。こちらは着替えている最中、しかもよりによって下着姿を躊躇することなく露わにしている。そして何故かココアに向けて、凡そ一般人が持つことがないであろう拳銃を構えている。

 

 

 

ハッキリ言おう、これは俺にとって非常に拙い状況である。普通に考えれば、個人差はあれど女が男に下着姿を見られるのは恥ずかしいと感じるだろう。そして見てしまった男は大抵『エロ』『スケベ』『変態』という、それはそれは最低な男らしい不名誉なレッテル貼りをされる。最も俺はそっち方面に興味は示さないので、そんな呼ばれ方をされるのはごめん被りたい。とは言え現在進行形で見てしまっているのは事実な訳で、残念ながらそう呼ばれても致し方ないのだ。だが問題はそれだけに留まらない…いや、寧ろ俺にとってはこちらの方が大問題か。

 

 

 

(殺される…!)

 

 

 

そう、この下着姿の女の子は拳銃を持っている。もしこの女の子がこの状況を把握してしまえばどうなるか、答えは簡単だ。恥ずかしさのあまり、俺に向けて『銃を乱射する』可能性が極めて高い。今の俺の立ち位置で弾を避けるのは不可能、つまり撃たれれば確実に命中するだろう。撃たれた場合、良くて致命傷、当たり所が悪ければ最悪即死となる。

 

 

 

冗談じゃない、こんな所で死んでたまるか!ここで人生を終えるという事は、今まで積み重ねてきたものを簡単に崩し、かつこれから積み重ねていくものを永遠に得られなくする行為に等しい。そんなことをされる位なら、せめて目的が達成された時にしてもらいたい。というか普通に死にたくない。ではどうやってこの危機的状況を回避するのか?…ドアを開けてからここまで3秒。

 

 

 

「…大変失礼いたしました…」

 

 

 

そう、『逃げる』事だ。幸い、例の女の子はまだ状況を呑み込めていない様子だった。これは好機と言わんばかりに、俺は一応軽く謝罪した後静かに退室しドアを閉めた。そして回れ右した後は自室に向けて一心不乱に走った。ドア越しから聞こえるココアの驚愕の声も、俺が来る途中の廊下で落としていったであろうティッピーを頭に乗せ、俺に待つよう抑止するチノちゃんをも無視して…。

 

 

 

====

 

 

 

「えぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

何かこーちゃんが助けに来たと思ってたら逃げちゃった!?私より自分の方が大事なの!?

 

 

 

「おい」

 

 

 

「はっはい!」

 

 

 

「今のは援軍か?」

 

 

 

援軍!?どうしたらそう見えるの!!

 

 

 

「違うよぉ!!」

 

 

 

「じゃあ何だ!?」

 

 

 

何って、えっと…

 

 

 

「私の友達だよ!」

 

 

 

「私はそんなの信じないぞ!」

 

 

 

「本当だよ信じてよ!!」

 

 

 

あうぅ…このままじゃこーちゃんが援軍になっちゃうよどうしよう。誰か弁解できる人…。

 

 

 

「何かあったんですか?」

 

 

 

あっチノちゃん!もしかしたら何とかなるかも!

 

 

 

「チノちゃん、強盗が!」

 

 

 

「ちっ違う!知らない気配がして隠れるのは普通だろ!!」

 

 

 

…それって普通?

 

 

 

「じゃあその銃は何?」

 

 

 

「護身用だ!私は父が軍人で、幼い頃から護身術というか色々仕込まれているだけで…普通の女子高生だから信じろ!!」

 

 

 

「説得力ないよぉ~」

 

 

 

普通の女子高生はそんなんじゃないもん!!

 

 

 

「あの、制服…」

 

 

 

====

 

 

 

あの後のチノの説明で、ココアという奴が言っていた事が事実であると知った。それを知らなかったとは言え、ココアに銃を向けてしまった分は本当に申し訳ないと思う。ココアは気にしないでと許してくれたが、それでは私の気がすまない。それならせめて罪滅ぼしで、先輩らしくしながらもココアと仲良くやっていけるようにするのが最善か…。

 

 

 

「ところでお二人はお兄ちゃん…心兎平さんに何があったか知りませんか?」

 

 

 

チノが思い出したかのように聞いてくる。心兎平…多分、大慌てで入ってきたアイツか…ん、お兄ちゃん?

 

 

 

「多分、リゼちゃんに襲われそうになってた私を助けにきたんじゃないかな?」

 

 

 

「いや、だから襲うつもりは…なくて…だ…な…!」

 

 

 

待てよ、確かアイツはバーテンダーのような服を着ていたな、それも男の…!!

 

 

 

「すぐに逃げていきましたけど」

 

 

 

おい待て、まさか更衣室に入ってきたのって…。

 

 

 

「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

「リゼちゃん!?」

 

 

 

私はさっきの自分の状況を自覚し、恥ずかしさの余りその場で蹲った。間違いない、女性更衣室に入ってきたのは紛れもない『男』だ。何故もっと早く違和感の正体に気付けなかったんだ?

 

 

 

「うぅ…見られた…親父にも見られた事ないのに…」

 

 

 

「今更ですか…」

 

 

 

チノの言う通り今更だ、心兎平という奴はもう逃げてここにはいない。だが堂々と見られてなお逃げられっぱなしは癪にさわる。捕まえてそれ相応の制裁を加えたって文句を言われる筋合いはない。

 

 

 

だが次のココアの発言で、このような野蛮な思考は改めざるを得なくなった。

 

 

 

「でも、あんなこーちゃんを見るのは久しぶりかも…」

 

 

 

「そうなんですか?」

 

 

 

「うん、昔は何か悪いことしちゃったなーって時によく逃げては一人引きこもってたんだよ」

 

 

 

そうだったのか…私がココアに対して抱いていた罪悪感というヤツを、アイツも…。

 

 

 

「…チノ、心兎平とかいう奴の居場所を教えてくれ」

 

 

 

「リゼさん…?」

 

 

 

「リゼちゃん、まさか、こーちゃんに仕返しを…!」

 

 

 

ココア、お前は一体何を言っているんだ?

 

 

 

「そんな事しない!ただ…私から謝りたくて…」

 

 

 

「リゼちゃんは何も悪くないよ!」

 

 

 

「そうです、これは事故です、誰も悪くありません」

 

 

 

お前ら…。

 

 

 

「そうか、そう言ってくれるのは有難いが、やっぱり私の気が済まなくてな…」

 

 

 

「…チノちゃん、こーちゃんが今どこにいるか分かる?」

 

 

 

「え?多分自分の部屋にいると思いますが…」

 

 

 

ココア、今度は何を考えているんだ?

 

 

 

「よぉーし!じゃあ皆でこーちゃんの部屋に行くよ!ついてきて妹たち!」

 

 

 

「待って下さい、ココアさんは部屋の場所知らないですよね?あとココアさんの妹じゃないです」

 

 

 

ココアが率先して心兎平の元に向かうようだ…アイツに任せて本当に大丈夫なのか?…あと突っ込みたい事が一つ。

 

 

 

「…私の方が年上じゃないのか?」

 

 

 

====

 

 

 

命の危機から無事生還した俺は、部屋に着くなり鍵を掛けた。そして床に体育座りの体勢をとり、そのまま蹲った。俺は一体、何をしているんだろう…先程までの自身の行動を酷く悔やんでいた。というか罪悪感を感じていた。

 

 

 

そもそもココアがいたのは女性更衣室であり、いくらココアが悲鳴を上げたからといって迂闊に突入すべきではなかったのだ。ココア含め着替えている可能性だってあった―というか例の女の子が着替えている最中っぽかった―ので、せめてドア越しに何があったか聞く事だって出来たはずだ。その時にその考えが思い浮かばなかったのは、相当焦っていた事の現れなのだろう。だが今更思気付いたところでもう遅い。

 

 

 

次にココアを置いて逃げ出した点も頂けない。確かに拳銃を構えた人物を間近で見れば、誰だって撃たれるかもしれないという恐怖心を多少は抱くものだ。だがよく考えれば、俺はココアを”助けに来た”のである。であれば覚悟を決めてココアを逃がし、自分が犠牲になるよう仕向けるべきだった。それすら出来ず逃げ出すのは、最早裏切り者以外の何物でもない。俺はあくまで自分自身の命が最優先であり、勇気をもって立ち向かう事も出来ないヘタレ野郎である、という結論に至る。

 

 

 

そして何より、今のこの状況が非常に拙い。俺は一先ず自室に逃げ込んだのだが、どうせならここで引き籠っていた方が安全と判断し、今まさにそれを実行している。だが、それでは俺は自室から一歩も出ないという事になり、今後自身の行動に大幅な制約ができてしまう。俺がここに来た本来の目的は下宿かつ手伝いという名のアルバイトをする事だ。つまり引き籠るということは、それらを全てドブに捨てる行為に等しい。それだけではない、チノちゃんやマスターとした約束まで果たせなくなってしまう。ならば俺はここに引き籠るべきではないのだ。

 

 

 

だがその考えに至ったところで、俺は部屋を出るに出れない状態だった。あのようなアクシデントを引き起こしておいて逃げてきたのだから、周りからどう思われているのかを知るのが怖い。例の女の子は、やはり俺を殺したいと思っているのだろうか?ココアは俺を裏切り者と非難し、もう友達をやめたいと思っているのだろうか?チノちゃんは、俺はお兄ちゃんに相応しくないと思い、俺のことを見捨てるのだろうか?…思い浮かぶのは最悪の想像ばかりで、明るい想像は何一つ思い浮かんでこない。

 

 

 

「どうしよう…」

 

 

 

あまりの八方塞がりな状況に絶望し途方に暮れた俺は、溜息交じりにこう呟いた。

 

 

 

~~

 

 

 

それからどのくらいの時間が過ぎただろうか、ドアをノックする音が部屋に響いた。

 

 

 

「お兄ちゃん、扉越しでいいのでお話いいですか?」

 

 

 

チノちゃんの声だ。俺の事をまだ”お兄ちゃん”と呼んでいるあたり、今は見捨てるつもりはないという事か?…いや、本心を聞くまで確信はできない。

 

 

 

「チノちゃんか…俺ってお兄ちゃんに相応しくないのかな?」

 

 

 

「そんなことはないと思いますよ、まだ再会して間もないので知らない事は沢山ありますが…」

 

 

 

チノちゃんは一呼吸置いて続ける。

 

 

 

「私のお兄ちゃんは心兎平さんだけですから」

 

 

 

その言葉を聞いて、俺は深く安堵した。何というか、チノちゃんは本当にいい子なんだな、と。

 

 

 

「こーちゃん!」

 

 

 

今度はココアの元気ハツラツな声が聞こえてくる。何だか自分が想像していた懸念が全て杞憂に終わりそうな、そんな気さえした。だが一応本心は聞いておきたい。

 

 

 

「私ね、こーちゃんが助けてくれた時、すっごく嬉しかったよ!!」

 

 

 

「逃げられましたけどね」

 

 

 

チノちゃん、分かっててもそれは言ってはいけない。せっかくココアが頑張って慰めようとしてくれているのに、全て台無しになってしまう。

 

 

 

「うっ…でっでも、あの時のこーちゃんは無謀な戦士みたいだったよ!!」

 

 

 

「それを言うなら勇敢な戦士です」

 

 

 

それでも俺を慰めようと必死なココアであったが、残念ながら言葉を間違えたようだ。そしてチノちゃん、もう突っ込むのはやめたげて!!気持ちは凄く分かるけど!!

 

 

 

「…でもね、さっき気付いたんだ」

 

 

 

「…何に?」

 

 

 

「こーちゃんにも変わらないものってあるんだなって…」

 

 

 

(ココア…お前は本当に昔から変わらないな)

 

 

 

ちょっとこちらが恥ずかしくなる言葉を言ったように聞こえたが、俺は素直に嬉しいとも思う。きっとその言葉には、これからもずっと友達である事に変わりないという意味も込められているのだろう。

 

 

 

さて、ここまで来ればもう意地を張って引き籠る理由がなさげだが、まだ一人、俺が引き籠る原因となった人物がいる事を忘れてはならない。

 

 

 

「えっと…心兎平といったか?」

 

 

 

そう、俺が下着姿を見てしまった例の女の子だ。流石にこればかりはすぐに許してもらえないと踏んでいるので、次にご対面したら即刻土下座する腹づもりである。

 

 

 

「…さっきは本当にすまなかった」

 

 

 

そうそう俺もこうして謝りながら…んん??今向こうから謝らなかったか?全面的に悪いのは俺の筈なのに、一体全体どういう事なんだ?

 

 

 

流石の俺でも真意が掴めそうにないので、ここは意を決して外に出ることにした。最も、そうしないうちに出るつもりではあったが。

 

 

 

「!」「お兄ちゃん…」「こーちゃん…」

 

 

 

外に出てみれば、少し驚いた表情をする3人の姿があった。姿を見回してみれば、チノちゃん以外の二人も、チノちゃんとは色違いの制服に身を包んでいる。ココアがピンク、例の女の子が紫だ。

 

 

 

「…どうしてそっちが謝るんですか?」

 

 

 

俺は例の女の子に疑問をぶつけた。実質的に初対面でどの立ち位置にいる人物か分からないため、一応敬語で話している。

 

 

 

「いや…ココアを助けに来たんだよな?その…私が下着姿だったせいで…」

 

 

 

顔を赤らめながら説明する例の女の子。その様子だとやっぱり恥ずかしいのだろう。

 

 

 

「謝るのはこっちです、せめて扉越しに話し合いすればこんな事にはならなかったんですから…本当にごめんなさい」

 

 

 

「何でお前が謝るんだ!?そもそも私が早く着替えていればこんな事にならなかったんだから…本当にすまない!!」

 

 

 

そして俺は気付いた。これ、無限ループするんじゃないか、と。俺は当然の如く、向こうも自分が悪く相手は悪くないと思っているようだ。

 

 

 

「…どうやらお互い謝りたかったみたいですね」

 

 

 

「…そうみたいだな」

 

 

 

例の女の子が笑みを浮かべ、俺もそれにつられる。

 

 

 

「じゃあ和解も兼ねて自己紹介でもするか、私は天々座 理世だ」

 

 

 

「もう知っているとは思いますが改めて…兎猪菜 心兎平といいます、どうぞ宜しくお願い致します天々座さん」

 

 

 

俺はそう言って右手を例の女の子―もう天々座さんでいいか―に差し出した。だが天々座さんは右手を出さず、それどころかムスッとした顔をしている。何か気に障るような事を言っただろうか?

 

 

 

「…堅苦しすぎる」

 

 

 

「…え?」

 

 

 

「敬語なんて要らない、リゼって感じで呼び捨てで構わない」

 

 

 

「いやでも…」

 

 

 

「できないならさっきの和解はなかったことにするぞ」

 

 

 

流石に先輩であろう人に溜口や呼び捨ては拙いのではないかと意見しようとすると、天々座さんはさっきの和解をなかったことにするというトンデモ発言をした。まあ溜口やら呼び捨てやらの方が、こちらからしてみれば気遣いしなくていいので有難いといえば有難い…のだが、それでいいのだろうか?少し考えた後俺は…。

 

 

 

「…分かった、じゃあリゼ、俺からも条件いいか?」

 

 

 

結局、己の自然体を貫き通すことにした。だが条件を出されっぱなしは俺の気が済まないので、こちらからも条件を出す。

 

 

 

「何だ?言ってみろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺と友達になってくれ」

 

 

 

一度引っ込めていた右手を改めて差し出す。天々座さん―もとい、リゼは一瞬戸惑ったようだが、すぐに笑顔になりそして…

 

 

 

「あぁ、お安い御用だ」

 

 

 

俺の右手をしっかりと握り返してくれた。




はい、いかがでしたでしょうか?例の女の子はリゼさんでしたね。ところでもう死んでもいいから俺にも下着姿見せ…ごめんなさい嘘ですから撃たないで下さい死んでしまいます。

あとティッピーの正体も割と早く見抜きましたね。主人公流石っす!!

という訳で恐らく、いや間違いなく平成最後の投稿になります。次は令和時代にまたお会いしましょう。

3羽投稿地点でお気に入り14件、UA537件ありがとうございます。2羽投稿で急に増えて自分が驚くばかりです。

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