ご注文はかけがえのない友情ですか?   作:竜田川 竜之介

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気が付けば平成が終わって令和が始まり、夏を通り越して晩秋に差し掛かった今日この頃…皆さん、いかがお過ごしでしょうか?久しぶりですね、私は元気です。

はい、とうとう投稿間隔を半年以上も開けてしまい、本当に申し訳ありませんでした!!言い訳させてもらいますと、まず仕事が忙しくなったりやりたい事が増えたりで時間の確保がしにくくなり、伏線やら前羽から次羽への自然な繋ぎ方を考えるにあたって相当悩んだ結果がこれです。とは言え、下手に投稿速度を上げようものならその分仕上がりも雑になるものです。なので速度はカタツムリやナマケモノペースのままでしょう。ただ今回のように長期間投稿が途絶えるような状況で、一切の報告なしでは失踪したと思われかねないのもまた事実です。よって今回以降は次回投稿が3か月以上かかると見込まれた場合、活動報告にてその旨を報告することとします。

で、ここまで書いといてなんですが、今羽はちょっと長くなりそうな気がしたのと、一旦ここで区切った方がキリがいいと判断し、前後編に分ける予定です。”予定”なのはまだ続きを書いていないという理由です。既に相当待たせているところに、これ以上待たせるのも悪いですしね。

かなり長くなってしまいました。では本編をどうぞ!!


4羽「特技と接客」~前~

「それじゃ、このコーヒー豆の入った袋をキッチンまで運ぶぞ」

 

 

 

 

 

「うっうん!」

 

 

 

 

 

「…よし」

 

 

 

 

 

私たち3人は今、コーヒー豆を運ぶために倉庫に来ている。今まで力仕事はほぼ私一人でやってきたが、これからはこの新人2人、特に心兎平に協力もしくは代打でやってもらう事になるだろう。その為にも先ずは二人の力量を見極めておきたい。

 

 

 

 

 

「よっと…」

 

 

 

 

 

私はいつものように土嚢並みにコーヒー豆の詰まった麻袋を持ち上げる。軍人の娘たる私にとってこのくらいは朝飯前だ。

 

 

 

 

 

「見た目の割に結構重いな…っと」

 

 

 

 

 

心兎平はそう言いつつも袋2つを左右に分けて抱え持っている。見た目の割に筋力はかなりあるようだな…これなら今後の活躍に期待が持てる。

 

 

 

 

 

「おっ重い…!これは普通の女の子にはキツイよ、ねえリゼちゃん?」

 

 

 

 

 

対するココアは、両手を使ってなお袋一つを少し持ち上げるのがやっとのようだ…って普通の女の子ってそんな感じなのか!?てっきりチノは体力がないから私に力仕事を任せていたのかと思っていたんだが…ってこのままじゃ拙い!!

 

 

 

 

 

「あっああ、確かに重いな!うん、普通の女の子には無理だ!」

 

 

 

 

 

私は慌てて袋を降ろし、誤魔化すようにココアに同意した。仮にも普通の女子高生を自称しているんだから、明らかにそれに反する事を平然とやってのけるのは不自然だろう。どうやら私もココアから女の子らしさを学ぶ必要がありそうだ。

 

 

 

 

 

「…な、何だ…?」

 

 

 

 

 

「…別に…」

 

 

 

 

 

ふと心兎平から訝しげな視線を送られている事に気付く。訊いてみるも興味なさげにそっぽ向かれた。多分言いたい事があったんだろうが、空気を読んで敢えて言わなかったんだな…今回は助かったが、言いたい事があるならハッキリ言ってほしいものだ。

 

 

 

 

 

「それじゃ、大きい袋は俺が運んでおくから、二人は小さい袋を頼む」

 

 

 

 

 

「ふぅ…そうだねリゼちゃん、こっちの小さいのだけ運ぼっか」

 

 

 

 

 

「そ、そうだな…」

 

 

 

 

 

心兎平の提案に私も従う事にした。大きい袋なら心兎平に任せておけばいいし、何より私はココアに合わせなければいけないんだからな。

 

 

 

 

 

「小さいのでも重い…!1つ持つのがやっとだよ…!」

 

 

 

 

 

流石に小さい袋なら大丈夫だろう―そう踏まえて袋を4つ纏めて担ぎ上げる。だがココアは袋1つ持つので精一杯のようだ…って4つも持っていたら怪しまれる!!

 

 

 

 

 

「あぁ確かに!1つ持つのがやっとだ、1つ…」

 

 

 

 

 

私は再び袋を降ろし―というか落とし、今度は袋1つだけを持ち直した。普通の女の子はここまで重いものを持てないものだったか…。

 

 

 

 

 

「ココア、右手はそのままで左手で袋の下を支えるように持ってみな」

 

 

 

 

 

「え?でも、袋の重さは変わらないよね」

 

 

 

 

 

「まあまあ、騙されたと思ってやってみな」

 

 

 

 

 

ふと心兎平がココアに助言した。ココアは不思議がっていたが、正直私もその程度で軽くなる訳がないと思っていた。

 

 

 

 

 

「よいしょ…あれ?さっきより軽い」

 

 

 

 

 

馬鹿な!?重さは変わっていない筈なのに、一体どういう事なんだ!?

 

 

 

 

 

「そりゃそうだ、袋の口だけ持ってたら重心が下に集中するからその分エネルギーが必要になって、結果重く感じるんだ」

 

 

 

 

 

うーん…分かったような分からないような…。

 

 

 

 

 

「なるほど、だから下から支えれば重心が上に上がるからエネルギーがいらない、よって軽く感じるんだね♪」

 

 

 

 

 

そしてココア、何故今の説明で理解できたんだ!?…やっぱり友達同士だから、こういう事は分かりあったりするのか?…ちょっと羨ましいと思ってしまった。

 

 

 

 

 

====

 

 

 

 

 

私は今、リゼさんにお兄ちゃんとココアさんの指南役を任せ、ホールで春休みの宿題を進めています。念の為言っておきますがサボりではありません。どうせ今の時間帯はお客さんが滅多に来ません。そんな事より春休み中はほぼ毎日喫茶店を営業しているので、そのままでは宿題を進める時間が確保できません。だから時間が空けば問題集を取り出し、こうやってこっそり宿題を進めていきます。

 

 

 

 

 

「チノ…すまんかったの…」

 

 

 

 

 

急におじいちゃんが私に謝罪してきました…これは何に対する謝罪でしょうか?

 

 

 

 

 

「どうしたんですか急に?」

 

 

 

 

 

「いやの…さっき心兎平が儂を連れて行ったじゃろ…その時に儂の正体を暴きよっての…」

 

 

 

 

 

そう言えばあの事件の前に、私は心兎平さんの部屋の前で盗み聞きしていた事を思い出しました。

 

 

 

 

 

「そうですか…」

 

 

 

 

 

「…チノ、慌てたりせんのか?」

 

 

 

 

 

「外から会話しているのが聞こえたので」

 

 

 

 

 

そもそもそんな簡単に認めないで下さい。お兄ちゃんだったからよかったものの、これがココアさんだったら…考えただけでゾッとします。あ、ゾッとするで一つ気になっている事がありました。

 

 

 

 

 

「それより、お兄ちゃんには予め言っておいた方が良かったんじゃないでしょうか?何だかんだ怒ってそうな気がします」

 

 

 

 

 

「それはないじゃろう、確かに昔は今と違って妙に冷たさを感じる奴じゃったが、かと言って儂が見ておった限り特段怒っとる様子もなかったわい、それは今も変わらんじゃろうて」

 

 

 

 

 

「だといいのですが…」

 

 

 

 

 

確かにおじいちゃんの言う事は一理あります。お兄ちゃんはそう簡単に怒る人ではない事は重々承知しています。とは言え、私のおじいちゃんが亡くなった事は知らされてない筈です。だから不安は完全に捨て切れるものではありません。

 

 

 

 

 

「そんなに気になるなら、二人きりの時にでも訊いてみるといい」

 

 

 

 

 

「え、でも…」

 

 

 

 

 

「心配はいらんよ、怒っとらんどころか向こうも同じ事思っとるかもしれんしの」

 

 

 

 

 

それってつまり、ティッピーの正体を勝手に暴いたから私に怒られる、という事でしょうか?

 

 

 

 

 

「…じゃあ、いずれ訊いておきます」

 

 

 

 

 

「うむ、それでいい」

 

 

 

 

 

直後、3人がコーヒー豆を運んできました…何故かリゼさんは小さい袋1つしか持っていませんが…それはともかく、おじいちゃんとの会話で止まっていた宿題を再開しましょう。

 

 

 

 

 

====

 

 

 

 

 

ふぅ~幾ら軽く感じてもやっぱり重いものは重いな~。

 

 

 

 

 

「よしココア、次は皿洗いだ!!」

 

 

 

 

 

「待って…ちょっと…休憩…」

 

 

 

 

 

「ダメだ!戦場では一瞬の気の緩みが命取りになるんだからな!休憩してる暇はないぞ!!」

 

 

 

 

 

「ふえぇ…」

 

 

 

 

 

鬼教官!戦場の死神!!

 

 

 

 

 

「リゼ、時には休憩も必要だ、肝心な時に使えなかったら話にならないだろ?」

 

 

 

 

 

「…それもそうだな、じゃあココア、5分休憩したら皿洗い開始だ!!」

 

 

 

 

 

「イエッサー…」

 

 

 

 

 

よかった、こーちゃんのおかげでぐっすり…

 

 

 

 

 

「あぅ!」

 

 

 

 

 

「休憩とは言ったけど、寝てもいいとは言ってないぞ」

 

 

 

 

 

「ううぅ…」

 

 

 

 

 

「それはそうなんだが…メニュー表の角で叩き起こすのはやめてやれ」

 

 

 

 

 

痛かったぁ…ん、メニュー表?

 

 

 

 

 

「あれ?こーちゃん、寛いで本読んでるのかと思ってた」

 

 

 

 

 

「どうしたら捲るページもない冊子が本に見えるんだ?」

 

 

 

 

 

目の焦点が合ってなかったからかな?

 

 

 

 

 

「…じゃあなんでメニュー表なんて読んでるの?」

 

 

 

 

 

「逆に聞くが、飲食店で働くにあたって何故メニュー表なんて読む必要があるのか」

 

 

 

 

 

質問を質問で返された!?…えっと…あ!!

 

 

 

 

 

「そっか、メニュー覚えないといけないんだ!!」

 

 

 

 

 

「心兎平の言う通りだ、皿洗いが終わった頃にでもメニュー覚えてもらうからな」

 

 

 

 

 

「そういう事だ、じゃあ皿洗い頑張れー」

 

 

 

 

 

「…そうだココア、皿洗いは半分ぐらいまででいいぞ、残りは心兎平にでもやってもらう事にする!!」

 

 

 

 

 

おお!!リゼちゃん抜け目ない!!

 

 

 

 

 

「…リゼ、さっきの俺の言葉、覚えてるよな?」

 

 

 

 

 

「ふん…さり気なくサボろうったってそうはさせないからな!」

 

 

 

 

 

リゼちゃんかなりやる気だね!よぉし、ちゃっちゃと皿洗い半分終わらせて、私もこの調子でメニュー覚えちゃうよ!!

 

 

 

 

 

~~

 

 

 

 

 

…と思っていた時期が私にもありました。

 

 

 

 

 

「コーヒーの種類が多くて難しいね…」

 

 

 

 

 

「俺は覚え切るのに最低1週間は欲しいかな」

 

 

 

 

 

「どうした?だらしないぞお前達、遅くともこのくらいの量は1日で覚え切るものだろ?」

 

 

 

 

 

この量を1日で!?それは無理だよ~。

 

 

 

 

 

「そう言うリゼはどうなんだ?まさか本気で1日で覚えたとか言うつもりじゃあ…」

 

 

 

 

 

「何言ってるんだ?私は一目で暗記したぞ?」

 

 

 

 

 

え…この量を一目で!?

 

 

 

 

 

「なん…だと?」

 

 

 

 

 

「凄ーい!」

 

 

 

 

 

「訓練してるからな、チノなんて香りだけでコーヒーの銘柄当てられるし」

 

 

 

 

 

「私より大人っぽい!」

 

 

 

 

 

ちょっと負けた気分…。

 

 

 

 

 

「ただし砂糖とミルクは必須だ」

 

 

 

 

 

「うぅ…」

 

 

 

 

 

あっブラックはまだ無理なんだね。

 

 

 

 

 

「アハハ、なんか今日一番安心した」

 

 

 

 

 

そこはまだ子供なんだね、これでブラックOKだったら私の立場がないもん。でも…

 

 

 

 

 

「いいなぁ、チノちゃんもリゼちゃんも…私も何か特技あったらなぁ…」

 

 

 

 

 

私に特技がない事は変わらないんだよね…ん?

 

 

 

 

 

「…チノちゃん何持ってるの?」

 

 

 

 

 

「春休みの宿題です、空いた時間にこっそりやってます」

 

 

 

 

 

春休みの宿題かぁ…見た感じ数学かな?

 

 

 

 

 

「あっその答えは128で、その隣は367だよ」

 

 

 

 

 

「…ココア、430円のブレンドコーヒーを29杯頼んだらいくらになる?」

 

 

 

 

 

リゼちゃん、急に問題なんか出してどうしたんだろう?

 

 

 

 

 

「12,470円だよ」

 

 

 

 

 

「じゃあココア、100円のパンを10個、150円のパンを4個、200円のパンを6個買ったとして、合計金額を7人で割り勘したら1人あたりいくらだ?」

 

 

 

 

 

こーちゃんまで…私何か可笑しい事言ったかな?

 

 

 

 

 

「400円だよ…私も何か特技あったらなぁ…」

 

 

 

 

 

====

 

 

 

 

 

どうやらココアの瞬間暗算は健在、どころか進化していたようだ。チノちゃんがやっていた中学校の数学の公式問題、リゼが出した普通では即座の暗算が困難な掛け算、終いには俺が出した複雑な計算を要する問題すら3秒もかからず解いてしまった。流石は九九をクラスで1番に覚えた奴だけはある。因みに俺も暗算はそこそこ得意ではあるものの、ココアの計算速度には到底及ばない。

 

 

 

 

 

そしてこのほんわかとした雰囲気からは想像もつかなかったのであろう、チノちゃんもリゼもこれには驚きを隠せないでいた。もし俺がココアと今初対面だったなら、この事実を知った時今の二人と全く同じ反応をしていたのは想像に難くない。だが残念な事に、ココア自身それが特技だと自覚できていないのもまた事実だ。まあココアは細かい事は気にしない質のようで、指摘するだけ無駄だろうが。

 

 

 

 

 

「そう言えば、心兎平は何か特技はないのか?」

 

 

 

 

 

リゼが流れで俺に訊いてくる。そう言えば俺だけ未だ特技を披露はおろか明言すらしていない。まぁ、あると言えばあるのだが…説明するよりは実際にやってみた方が分かりやすいだろう。

 

 

 

 

 

「そう言えば私も知らないかな~…もしかしてトランプだったり?!」

 

 

 

 

 

「私もです…ココアさんの言うトランプが特技なんでしょうか?」

 

 

 

 

 

ココアとチノちゃんも知らないようだ。まあココアには単に教えていないから、チノちゃんにはまだ特技を習得していなかった時期だから、知らなくて当然である。折角なのでリゼにも協力してもらいつつ披露するとしよう。

 

 

 

 

 

「分かった、じゃあ実際にやってみるぞ」

 

 

 

 

 

「…あれ、トランプは?」

 

 

 

 

 

「まぁ得意だけど今回はそれじゃない」

 

 

 

 

 

「?」

 

 

 

 

 

俺が始めようとしたところで、ココアは俺がトランプを取り出していない点を指摘した。だが今回はトランプを披露するのではない―それを伝えたがココアは疑問を浮かべている。まぁ気にせず始めよう。

 

 

 

 

 

「ところで、リゼはまだ特技を隠し持ってたりしないか?」

 

 

 

 

 

俺は敢えてリゼに質問する。因みにリゼが他に特技を隠し持っていると見たのは単なる憶測に過ぎず、寧ろ俺の勝手なイメージの押し付け以外の何物でもない。

 

 

 

 

 

「えっ私!?そうだな他には…ってなんだいきなり!?」

 

 

 

 

 

リゼが特技を思い浮かべると同時に、俺はリゼの目をジッと見つめ始める。それに気付いたリゼは、恥ずかしがりながら俺に抗議の声を上げた。

 

 

 

 

 

「ん?あぁそのまま思い浮かべてて」

 

 

 

 

 

「あ、あぁ…ってできるか!!」

 

 

 

 

 

まあ普通はそうなる。というか、リゼって案外…。

 

 

 

 

 

「もしやキレツッコミが特技だったり?」

 

 

 

 

 

「何でそれを特技にする必要がある!?」

 

 

 

 

 

うん知ってる。大抵の人はボケ・ツッコミ・中立のいずれかに属する、所謂属性のようなものだから、確かに特技と表現するのはおかしい。

 

 

 

 

 

「というか、私の特技はだな…!?」

 

 

 

 

 

「おっと、みなまで言うな」

 

 

 

 

 

「…え?」

 

 

 

 

 

リゼが特技を言おうとするが、俺は人差し指を立ててリゼの口元に当てそれを抑止した。リゼは俺の行動に困惑していたが、俺は構わずリゼを見つめる。

 

 

 

 

 

「…へぇ、リゼって中々面白い特技を持ってるんだな」

 

 

 

 

 

「え~何々~?」

 

 

 

 

 

俺がリゼの特技を把握した旨を伝えれば、その内容にココアが興味を示した。急かさなくても言うつもりなんだが。

 

 

 

 

 

「ん?もしや心兎平の特技って…」

 

 

 

 

 

どうやらリゼも勘付いたらしい。ならばもう言ってしまっても問題ない。

 

 

 

 

 

「そう、俺の特技は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「読心術か?」「読心術だ」

 

 

 

 

 

====

 

 

 

 

 

そうだったのか…心兎平が態々私の特技を掘り下げてきたのも、私を見つめてきたのも、態と見当違いな事を言ったのも、そして私の口から特技を言わせようとしなかったのも…全部読心術に起因していたんだな。だが読心術にしては一つ、不自然な点がある。

 

 

 

 

 

「じゃあその…何で私の目ばっかり見つめ続けたんだ?読心術なら他にも見る所があるだろう」

 

 

 

 

 

そう、読心術と言えば表情や行動・態度の変化から観察対象の思考を読み取る術の筈だ。確かに目の動きもその要素に含まれるものの、それだけで完璧に思考を読み取れるものではない。だが心兎平は、まるで他の要素など不要と言わんばかりに私の目に視線を集中させていた。普通に恥ずかしいからやめてほしい。

 

 

 

 

 

「あぁそれか、実は俺の読心術のようなそれは正確には読心術じゃないんだ」

 

 

 

 

 

「え?…じゃあ一体何なんだ?」

 

 

 

 

 

読心術じゃない?…もしそうなると、心を読むにはそれこそ人智では計り知れない、それこそ神か悪魔でもないと到底成しえない能力が必要になってくる。正確に読もうとすればなおの事だ。だとすると…。

 

 

 

 

 

「なあ、もしかして」

 

 

 

 

 

「あぁ、リゼの想像してる通りだ」

 

 

 

 

 

だから心を読むな!…だがこの一言で、心兎平の能力について確信を持てた。だが同時にとある問題が発生した。

 

 

 

 

 

「え~何々~?」

 

 

 

 

 

そう、真相に気付いていない―いや、そもそも気付く事が不可能なココアとチノにどう誤魔化すかだ。特にココアは興味津々のようで、誤魔化すには少々骨が折れそうだ。

 

 

 

 

 

―カランカラン―

 

 

 

 

 

「…あ!いらっしゃいませ!!」

 

 

 

 

 

ココアに事の詳細を迫られようとしたその時、まるで狙っていたかのようにお客の来店を告げるベルの音が響いた。それをいち早く察知したココアは、私に訊く事も忘れ、お客の元に駆け寄っていった。このまま忘れていてくれるといいのだが…。

 

 

 

 

 

「リゼさん、結局お兄ちゃんの何が分かったんですか?」

 

 

 

 

 

おっと、こっちもどうにかしないとな。

 

 

 

 

 

「私にも詳しい事は分からないな、本人にでも訊いてみたらどうだ?」

 

 

 

 

 

結局すぐそこにいた本人に全てを託すことにした。

 

 

 

 

 

====

 

 

 

 

 

リゼはサラッと俺に説明を丸投げしてきた。説明が面倒くさいから読心術という事にしておこうと思っていたのだが…まぁ何となくこうなってしまうような気がしていたから、特に憤慨することはない。

 

 

 

 

 

「それで、読心術でないのなら、一体何なんですか?」

 

 

 

 

 

チノちゃんは俺の話に興味津々だ。訊いて何になろうかとも思うが、知りたがっているのなら仕方がない。

 

 

 

 

 

「そうだね…じゃあまず、チノちゃんは『覚り』について知ってる?」

 

 

 

 

 

「さとり…それって『悟り世代』の事ですか?」

 

 

 

 

 

「いや、そっちじゃなくてさとり妖怪の方」

 

 

 

 

 

「え、妖怪!?じゃあお兄ちゃんは…」

 

 

 

 

 

チノちゃんは『さとり妖怪』という単語を聞くや否や、明らかに1歩後退る。気持ちは分からなくもないがそう断定するのは時期尚早だ。

 

 

 

 

 

「いや、俺はれっきとした人間だ」

 

 

 

 

 

「じゃあ何でさとり妖怪とか言い出すんだ」

 

 

 

 

 

俺に説明を丸投げし沈黙していたリゼが横から口を挟む。そうは言われても、これは説明する上で必要不可欠な要素だからどうしようもないのだが…。

 

 

 

 

 

「それは簡単な事さ、なんせ俺はさとり妖怪の能力を限定的に受け継ぎし者だからな」

 

 

 

 

 

「さとり妖怪の能力を…」

 

 

 

 

 

「限定的に…受け継ぎし者?」

 

 

 

 

 

二人は意味が分からないといった感じに首を傾げている。普通は分からなくて当然だ、敢えてぼやかして言っているのだから。だがこれ以上詳しく説明するのは、今は訳あってできそうにないだろう。

 

 

 

 

 

「やったー!私、ちゃんと注文取れたよ、キリマンジャロ、お願いします!!」

 

 

 

 

 

そう、ココアが接客から戻ってきたのだ。話していた内容を悟られないよう適当に流しておこう。

 

 

 

 

 

「あ、あぁ…」

 

 

 

 

 

「えらい…えらいです」

 

 

 

 

 

「流石ココアだな…」

 

 

 

 

 

「あれ、なんかみんな冷たい!?」

 

 

 

 

 

~~

 

 

 

 

 

ココアが接客対応したせいなのだろうか、或いは偶々来店ラッシュと重なっただけなのだろうか、急にお客の出入りが激しくなってきた。それに伴い俺達も各々対応に追われる事となった。最もココアが率先して注文を聞いて回っており、中々俺の出番が来ないのだが。

 

 

 

 

 

「キリマンジャロ、できました」

 

 

 

 

 

「じゃあ俺が持っていくね」

 

 

 

 

 

「はい、お願いします」

 

 

 

 

 

最初にココアが注文を承ったコーヒーができたようだ。俺はここぞとばかりにコーヒーを運ぶ役目を買って出た。まだ接客していなかったのと、見た感じ常連さんのような気がしたので、接客に慣れるにはもってこいだと思ったからだ。チノちゃんからも任されたので早速コーヒーを運ぶ。

 

 

 

 

 

「お待たせしました、キリマンジャロです」

 

 

 

 

 

「あら、あなたも新人さん?」

 

 

 

 

 

早くも俺が新人であると気付いたらしい。俺の予想は間違っていなかったようだ。

 

 

 

 

 

「はい、今日からここで働かせていただく、心兎平といいます」

 

 

 

 

 

「よろしくね…ところで」

 

 

 

 

 

俺は常連さんに軽く自己紹介し、一礼した後カウンターに戻ろうとした。だが常連さんの発した一言で、俺は足止めをくらう事となる。

 

 

 

 

 

「はい?」

 

 

 

 

 

「その制服、よく似合ってるわよ」

 

 

 

 

 

それは俺がこの制服に身を包んで以降、まだあの3人からすら聞いていない、称賛の言葉だった。それが本心かお世辞か、また個人的に格好が似合う似合わないは些細な問題ではあれど、やはり褒められると嬉しいものだ。

 

 

 

 

 

「ありがとうございます!!」

 

 

 

 

 

俺は嬉しさの余り、その場で素早く回れ右をし、先程よりも深くおじぎをして礼を述べた。今日はこの出来事のおかげで、初日ながら無理難題でも何でもこなせそうだ。

 

 

 

 

 

====

 

 

 

 

 

今はこーちゃんが接客中だよ、服装のせいか立ち振る舞いがちょっとダンディーだね!

 

 

 

 

 

「こうやって見てると、まるでこーちゃんがマスターみたいだね」

 

 

 

 

 

「そうだな」

 

 

 

 

 

「そう…ですね」

 

 

 

 

 

…あ、マスターといえば一つ。

 

 

 

 

 

「そう言えば本物のマスターさんまだ見てないけど、留守なのかな?」

 

 

 

 

 

「…祖父は去年…」

 

 

 

 

 

「あぁココア、この話題にはあまり触れない方が…」

 

 

 

 

 

あぁそっか、チノちゃんのおじいちゃん亡くなって…

 

 

 

 

 

「いえ、気にしないで下さい、父もいm」

 

 

 

 

 

「私を姉だと思って、何でも言って!!」

 

 

 

 

 

大好きな人に一生会えなくなったら、誰だって悲しいよね…寂しいよね…!だからこれ以上寂しい思いしてほしくないから、私は姉としてずっとチノちゃんの傍にいるよ!!

 

 

 

 

 

====

 

 

 

 

 

「ただいま…何があった?」

 

 

 

 

 

ココアがチノに抱き着いた辺りで、心兎平が接客から戻ってきた。まぁまだ出会って間もないこの二人が抱き合ってーというかココアから一方的に抱きついているのを見れば、そこに至るまでの過程を知らなければそういう疑問が浮かぶのも無理はないか。

 

 

 

 

 

「いや…ココアがここのマスターだったチノのおじいさんが亡くなったって聞いてから、あんな感じで…」

 

 

 

 

 

「…そっか…」

 

 

 

 

 

あれ?意外に反応が薄いような…。

 

 

 

 

 

「驚かないのか?」

 

 

 

 

 

「リゼはチノちゃんのじいさんがいなくなったと思っているんだな?」

 

 

 

 

 

「え、違うのか?」

 

 

 

 

 

亡くなっていないだと!?私は今の今までチノのおじいさんに会ったこともないのに、少なくとも最近会ったことがない筈の心兎平がそんなこと言える訳がない。

 

 

 

 

 

「そりゃあ俺の近況を知らないとそうなるよな」

 

 

 

 

 

「心を読むな…それで、何でそう考えた?」

 

 

 

 

 

「俺が小さい頃、ここに来た事があってな」

 

 

 

 

 

「でもそれ最近じゃないだろ」

 

 

 

 

 

「まぁそうだが…そもそも俺は生物として生きているとは言っていない」

 

 

 

 

 

…は?何を言っているのかさっぱり分からないんだが。

 

 

 

 

 

「要はこういう事だ、チノちゃんのじいさんは、チノちゃんの心の中で生きてる」

 

 

 

 

 

「チノの心の中で生きてる?」

 

 

 

 

 

「そう、人が死ぬ時っていうのは、生物的にじゃないんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人に忘れられた時さ」

 

 

 

 

 

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果たしてリゼに伝わっただろうか?恐らくリゼにはまだ身近で亡くなった人がいない。だから大切な人が自分の心の中で生き続けるという感覚は理解し難いだろう。それを理解できるのは、ここにいる人だとチノちゃんと俺だけだ。

 

 

 

 

 

「まぁ、心の中で生きているのと、実際に生きているのとではかなり違うのもまた事実だけどな」

 

 

 

 

 

「…そうか」

 

 

 

 

 

リゼはそれ以上問いただしてこなかった。さっきの話を理解しかのかどうかはこの際どうでもいい。俺にだって誰にも知られたくない秘密の一つや二つくらいあるのだ。なおチノちゃんやリゼに打ち明けた”さとり妖怪の能力”の件だが、これはあくまで二人が周りに言いふらさないと予想したからに過ぎない。ココアはあの性格からしてうっかり言いふらしそうだから、小学生時代を含め今まで打ち明けたことはない。

 

 

 

 

 

「そうだみんな」

 

 

 

 

 

俺の考えーまずは今を生きることーずっと後ろ向きで人生を歩むなんて面白くないし勿体ない。ちょっとくらい辛いことや苦しいこと、悲しいことから目を背けたっていいじゃないか。それらはまた気持ちの整理がついた頃にでも向き合えばいい。一旦そのような暗い事は忘れて、今を楽しく生きる方が未来を切り開けるような気がするから。

 

 

 

 

 

「この格好、似合ってるかな?」




はい、いかがでしたでしょうか?今回は主人公まさかの特技、いや能力が発覚しましたね。もうお察しの方もいると思いますが、この能力のモデルは〇方projectのさ〇りんです。今後主人公にはこの能力で無双してもらう予定です。と言ってもこの作品も一応日常系なので、戦闘じみた事は恐らくしないかとは思いますがね。ではまた早くても3か月後の後編でお会いしましょう。

4羽~前~投稿地点でお気に入り18件、UA1162件、加えて感想1件ありがとうございます。まさか感想がくるとは思っていませんでした、本当にありがとうございます。

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