MASKED RIDER UNI ~ラステイションの女神候補生   作:日向春季

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 今回のお話からユニちゃんがどうして剣の世界に飛ばされてきたのかの伏線回収の話になります。

 大体この話を4話くらいで納めた後は、いよいよ剣崎を出していきたいなと思っています。

 前半をアンデット回収、後半はネプテューヌたちのやり取りでお送りします。

 それではお楽しみください。


DANGER SIGNAL

     ユニと橘達が出会ってから、既に一月が経過した。

 

   暦の上では十月の終盤になるが、むしろ彼等の戦いは

 

   始まったばかりだった。

 

  「変身<CHANGE>」「変身<OPEN UP>」

 

   異なる掛け声を上げながら、二人の男は各々が変身する

 

   ライダーシステムを展開し、封印すべきアンデット目掛け、

 

   攻撃を仕掛けていった。

 

  『ここから南11㎞地点にある車両センターにアンデットが

 

   出現。ライダーは至急、ポイントに急行して下さい』

 

   アンデットとの戦いに時間の概念はない。彼等は神出

 

   鬼没でにして、いかなる手段を用いても死すことのない

 

   生命体である。その本能が赴くままに人間を喰らい、

 

   同種と戦い、そして...

 

  「橘ッ、俺が道を切り開く。お前は後に続け!」

 

  「ハイ!」

 

   <BLIZZARD>のカードをグリンクローバーにラウズし、

 

   深夜を過ぎた線路に現れたアンデット目掛け、桐生は

 

   突撃を掛ける。

 

   3体いるうちのアンデットの二体は、その攻撃を運よく

 

   見切り、回避に成功したが、最後の一体は敢えて真っ向

 

   勝負を選んだ。

 

   スペードのカテゴリーⅣ、ボアアンデット。

 

   彼はその名が示す通り、突進の力を司るアンデットだった。

 

   例え他の二体が逃亡を選んだとしても、彼だけは両足に限界

 

   まで力を溜め込み、自らを轢き潰そうとするライダーの攻撃を

 

   コンマ一秒の刹那の中でギリギリまで見極めていた。

 

   それはいついかなる時も自らの退路を敢えて絶ち、互いの

 

   必殺の一撃が交差するときに己の全力を喰らわせるという

 

   誇りにも似た彼の矜持の為だった。

 

   自らの力が最大限の破壊を未知の敵にまで齎す距離まで、

 

   また桐生が到着するまで後五秒。轟轟たるエンジン音と絶対

 

   零度の吹雪を纏ったライダーを迎え撃つべく、彼は瞬間、

 

   遂に自らの力を解き放った。

 

  「グオオオオ!!」

 

  「ウオオオオオ!!」

 

   両者の絶叫が、深夜が包むその静寂を引き裂いた。

 

 

  「ハァッ!フンッ」

 

   桐生がボアアンデットとの一機討ちに臨む中、橘もまた

 

   熾烈な戦いを繰り広げていた。

 

   背中から翼を生やし、ありとあらゆる気流を操る鳥型の

 

   アンデット、それは後のホークアンデットだが、それに

 

   相対する橘も負けじと果敢にカリスアローで目の前の標的へ

 

   切り込んでいった。

 

   <FLOAT>の機械音声と共にドラゴンフライアンデットの

 

   力を纏った橘は空中高くへと舞い上がり、地上にいる

 

   アンデットへと一方的な弓の嵐を雨霰と浴びせかけた。

 

   空中に浮遊したためか、全く重さを感じさせない動きで

 

   軽く斜め後方に下がった橘はカリスアローの高エネルギーの

 

   矢を3度連射した。軽い牽制の一撃ではあるものの、その

 

   三本の矢は地上にいるホークアンデットの退路を断つには

 

   十分すぎるほどの効果を発揮していた。

 

  「ケエエエエエエッ!!」

 

   やられるか!と言わんばかりにホークアンデットは、その

 

   腕の一薙ぎでいくつもの真空の鎌鼬を巻き起こし、まずは

 

   自分へと浴びせられる矢を掻き消し、次に上空に浮かぶ

  

   橘へと残りの全てをぶつけた。

 

  「グワアアア!!」

 

   右へ左へと避けながら、致命的なダメージをどう与える

 

   べきかと思案する橘の右手に、鎌鼬の鋭い一閃が直撃した。

 

   堪らず苦悶の叫びをあげ、地上へと墜落する橘。

 

  「ギエエエエ!!!」

 

   決まった、とばかりに勝ち誇った声を上げながら、鋭く

 

   尖った両腕で落下する橘を串刺しにしようと待ち構える

 

   ホークアンデット。

 

   だが、負けじと橘もダメージを負ったその直後、負傷

 

   した右手でカテゴリーⅢ<CHOP>のカードを引き抜き、

 

   切れかかった<FLOAT>の重力制御を用い、地上への

 

   激突を最大限遅らせ、ベルトのカリスラウザーへ

 

   カードをラウズする時間を稼いだ。

 

   アンデットの鋭く目の前の敵を貫く一撃と、カリスの

 

   左腕に宿ったアンデットの力が激突し、鬩ぎ合う。

 

  「オオオオオ!!」

 

   両者の交差は一瞬で決着がついた。

 

   浮遊に傾けた力を落下に掛かる重力へと加算し、その

 

   力を加えた必殺の手刀は寸分違わず、アンデットへの

 

   致命傷と成りえた。

 

   受けたダメージに体が耐え切れず、その体が爆発を

 

   起こした瞬間、ホークアンデットの意識は途切れた。

 

   荒い息のまま、橘はカードを保管したホルスターから、

 

   封印されるべきアンデットの存在に呼応して光り輝く

 

   カテゴリーⅥのカードを投げつけ、その体へと突き

 

   刺した。数秒と掛からずにカードの中へと封印された

 

   カテゴリーⅥのカードを、橘は拾い上げ回収した。

 

  「桐生さん!」

 

   もう一人のライダーは、未だに戦いを続けていた。

 

  「橘、封印したカードを使い、お前が止めをさせッ!!」

 

   桐生の叫びに呼応するように、自分を目掛け、宙を舞う

 

   アンデットの姿を捉えた橘は、素早くカリスラウザーを

 

   醒弓モードへと切り替え、攻撃用の全てのラウズカード

 

   をラウズした。

 

   <CHOP>、<TORNADE>と続け様にラウズしたカードの

 

   効果が自らを包み込む。全てを巻き込む竜巻の力と障害を

 

   叩き割る手刀を併せた一撃を橘は落下するアンデットへと

 

   正確に叩きつけた。

 

   <SPINING WAVE>の声が読み上げられたのは、鋭い竜巻を

 

   纏った橘の鋭い一撃がアンデットの身体を貫いた直後だった。

   

   連戦の疲れも色濃く、攻撃を終えた橘は、ラウズカードを

 

   無造作に引き抜き、倒れ、ピクリとも動かない目の前の

 

   アンデットへと突き刺した。

 

  「二体目のハートスートのカードか...」

 

   自分の手元に回転しながら戻ってきたラウズカードには

 

   <RECOVER>と刻まれていた。

 

  「試しに使ってみるか...」

 

   幸い、残りのAPは3000近くある。<RECOVER>と言う

 

   位だ。きっと体を治癒する効果のあるカードなのだろう。

 

   そう判断した橘は無造作にそのカードをラウザーに通した。

 

   <RECOVER>の声が聞こえた途端、先程受けた鎌鼬で負傷した

 

   右手の傷と深夜の出動により溜まっていた疲労がいっぺんに

 

   解消された。

 

   カリスの変身を解いた橘は、この嬉しい発見を桐生へと

 

   伝えるべく、体が許す限り、なるべく早く走り出した。

 

 

 

   私がラスティションと大分異なるこの世界へと

 

   飛ばされてから早一月が経過した。時間の経過とは

 

   とても速いもので、最初は覚束なかったことも回数を

 

   重ねるごとに慣れていくのと同じように、私の身体も

 

   この世界へと急速になじんでいった。

 

   BORADの研究員が運転する車に乗りながら、これから

 

   どうしようか、本当にこの世界からラスティションに

 

   帰ることが出来るのだろうかと尽きぬ心配の種に

 

   頭を悩ませながら、私はずっとこの一ヶ月に起きた

 

   出来事に思いを馳せていた。

 

   まず、最初の一週間で私は完全に女神としての力を行使

 

   することが出来なくなってしまった。それが意味する

 

   所は即ち、今の自分は殆どただの人間に近い存在へと

 

   ランクダウンしている状態に他ならないのだ。

 

   けど、ただの人間に極めて近い状態へとなっている

 

   今でも、自分の体に流れる血液と同様、私が今までに

 

   蓄積し、使われることがなかったシェアエナジーが

 

   今も自分の体を巡り続けているという感覚はきちんと

 

   ある。それが不思議でならなかった。

 

   次に、この世界に於けるシンギュラレティ、つまり

 

   人知を超えた女神と本質的には同格の存在たる仮面

 

   ライダーに何故私が適合したのかという疑問がある。

 

   この一月、仮面ライダーギャレンとして桐生さんと

 

   橘さんとアンデットを封印する傍ら、それとなく

 

   ライダーシステムについて二人へと質問した。

 

   ライダーシステムの事、アンデットという存在の事、

 

   そして、ライダーシステム適合者の情報が上書き

 

   されてしまうことがありうるのかという事。それらに

 

   ついて自分なりに考察を踏まえ、二人へ問いかけたは

 

   いいが、あまり期待していた答えは出なかった。

 

   研究員や烏丸所長に尋ねてもそれは同じで、要するに

 

   『只今、調査中』ということにはなっているが、私の

 

   様なイレギュラーが発生させた問題の解決の糸口が

 

   掴めず、遅々として進んでいないということだった。

 

   考えても考えても具体的な解決策は出てこない。それが

 

   私の中にある焦りを加速させていく。

 

  「お姉ちゃん、皆...」

 

   忘れることなどできようもない、あの黑い災厄が女神の

 

   治める全ての大陸を覆ったあの日の光景がフラッシュ

 

   バックする。

 

   黒い石碑のような物体が突如、ラスティションの上空を

 

   埋め尽くし、そこから羽の生えたゴキブリのような人型の

 

   怪物が瞬く間に飛び出してきた。

 

   必死に抗戦する私とお姉ちゃん。

 

   逃げ惑う人々は助けを求め、足掻き、もがき、苦しみ、

 

   そして、空を埋め尽くす黒い怪物たちの格好の餌となり、

 

   次々と死んでいった。

 

 

  「ユニちゃん、ユニちゃん。起きなさい」

 

   自分の体がグラグラと、まるで誰かに揺らされている

 

   事に気が付くのに少しだけ時間がかかってしまった。

 

   どうやら私はいつの間にか寝ていてしまったようだ。

 

  「大丈夫?何だか随分と魘されてるし、それに顔色も

 

   真っ青。何か飲み物買ってこようか?」   

 

   助手席から心配そうに顔を覗かせた広瀬さん。あの

 

   いつもアンデットの出現を知らせ、状況判断や対応策を

 

   私達に伝えるオペレーターさんがとても心配そうな

 

   表情で私の顔を覗き込んでいた。

 

  「もうすぐユニちゃんの新しい家に着くからね」

 

   心配してくれるのはとってもありがたかったけど、

 

   今は余計な事を考えずにいたかった私は遮るように

 

   広瀬さんに返事をした。

 

  「べ、別にこんなのへっちゃらよ...」

 

  「そう?ならいいんだけど」

 

   その間に男性研究員の運転する車は、マンションの駐車場へ

  

   入り、空いているスペースに車を停めていた。

 

  「着きましたよ」

 

   運転手の研究員にお礼を言った私と広瀬さんは車を降り、

 

   再びBORAD本部へと帰っていく彼を見送った。

 

  「はい、これ」

 

   いつの間にか近くにある自動販売機から二本のジュースを

 

   買っていた広瀬さんはそのうちの温かい缶コーヒーを

 

   私に渡してくれた。

 

  「やっぱ、外は寒いじゃん。こんな時はやっぱり温かい

 

   コーヒーが一番美味しいんだよね」

 

   ニカッ、と白い歯を見せながら屈託なく笑う彼女が

 

   あまりにもおいしそうにコーヒーを飲む姿に少しだけ

 

   励まされた私は、素直に差し出されたコーヒーを飲む

 

   事にした。

 

  「ありがと。広瀬さん」

 

  「うん。ジュースぐらい幾らでもおごってあげる」

 

   プルタブを指で開け、一息に飲み干したコーヒーの味は

 

   少しだけほろ苦くて、甘味のある味だった。

 

   

 

 

   広瀬さんに連れられ、烏丸所長が待っている部屋へたどり

   

   着いた私は、既に開いているドアを開け、その中へと入って

 

   いった。

 

   BORADが拠点を構え、活動している場所から6㎞離れた

 

   少し遠い場所に立っている新築されたマンションの

 

   3Fにある一部屋。それが私の当面の間の住居だ。

 

   玄関から入ったすぐ右手には、寝室や空き部屋があり、

 

   その反対側にはお風呂場とトイレがあった。

 

   私は靴を脱ぎ、玄関からすぐの所にあるリビングへと走った。

 

  「わぁ、随分と広いんですね~」

 

  「ああ、年頃の女の子が一人で生活するには困らない

 

   広さの部屋だろう?」

 

   見たまんまの感想を正直に言った私に苦笑しながら、

 

   烏丸所長は早速、私のこれからについて話し始めた。

 

  「さて、今から君の住む部屋の説明をしたい所だが、

 

   それより先に渡して置かなければならない物がある」

 

   近くにあったテーブルの上に無造作に置かれていた

 

   色々なものが入ったファイルの中から、烏丸所長は

 

   書類を取り出した。

 

  「まずは、君の戸籍についてだ。この日本という国に於いて

 

   無戸籍の子供の数は少なくない。だから君が元いた国に

   

   帰るまでの身分を保証するものを用意しておいた」

 

   そういって烏丸所長はまず戸籍謄本、学生手帳、保険証

 

   そして銀行のキャッシュカードと通帳を私に渡した。

 

  「便宜上、君の保護者はこの私ともう一人、嶋昇という

 

   私の友人になっている。この国での君の名前は

 

   ユニ=ラスティション、アメリカ合衆国のシカゴから

 

   来た外国人の子供ということになっている」

 

   手渡された書類一式に目を通すと、確かに私の顔写真の

 

   貼り付けられた手帳やここの住所が書かれている紙が

 

   それぞれ一つ一つ丁寧にファイリングされていた。

 

  「今、渡したものは絶対に無くさないこと。それと」

 

   一旦言葉を切った烏丸所長はリビングを後にし、玄関の

 

   右手の部屋にいた人をすぐに連れて戻ってきた。

 

  「先程話した私の友人の嶋君だ。彼にはBORAD設立時から

 

   色々な面で助けてもらっていてね。君の隣の部屋に

 

   私の代わりに監督者として住んでもらうことになった」

 

   烏丸所長の隣にいる優しそうな眼差しが特徴の男の人は

 

   独特の衣装に身を包んでいた。

 

  「やぁ、初めましてユニちゃん。私は嶋昇だ。烏丸所長とは

 

   古い付き合いでね。今は彼と同じ職業についている。

 

   短い間だが君の事を彼から頼まれている。よろしくな」

    

  「はい」

 

   柔和な笑みを浮かべ、握手を求めてきた嶋と呼ばれる男性

 

   の手を私は特に何の疑いもなく握ろうとした。しかし、

 

  「ッ!」

 

   まるで私の中にある何かが、目の前にいる男の人との

 

   接触を拒むかのように、私が握ってた手に激痛が走った。

 

  「大丈夫か?!」

 

   あまりの痛さに、私は握った手を慌てて離してしまった。

 

   とてもびっくりした表情で私を見つめる嶋さん。

 

   おかしい。どうしてこんなことが起きるんだろう?

 

   BORADに来たときは確か、伊坂さんと初めて会った

 

   時にこれと同じような感覚を味わったような気がした。

 

   不思議そうに私を見つめている嶋さんの表情にも、心なし

 

   私と同じような表情が浮かんでいた。

 

  「え、ええ。その、えーっと男の人と握手するのって

 

   これが初めてだから、ちょっとびっくりしちゃって...」

 

  「そうか。いや、私も君のリアクションがあまりにも過激

 

   だったから思わずびっくりしてしまったよ。大丈夫かい?」

 

   釈然としない表情を浮かべていた嶋さんは、少しだけ

 

   考え込むような素振りをしていたけど、結局私の言った

 

   ことを信じてくれたみたいだった。

 

  「ユニ君、ここでの生活で何かわからないことがあれば

 

   おいおい嶋君に聞いていけばいい。私はこの後すぐに

 

   帰ってしまうが、その前に部屋の説明をしておこう」

 

   嶋さんと広瀬さんが部屋から出て行ったのを横目に

 

   烏丸所長は私を各部屋に連れて行き、説明を始めた。

 

   まず最初に私が連れられたのは寝室だった。

 

   寝室はベッドとクローゼット、テレビと勉強机しか

 

   ないとても簡素な造りだった。

 

  「ここが寝室だ。一応、予備用のベッドとして隣の部屋に

 

   ウォーターベッドと布団が計三つある」

 

   寝室の説明を軽く切り上げた所長は、次に隣の部屋を

 

   私に見せた。

 

  「次にここが物置部屋だ。ここにはまぁ、BORADが発行した

 

   雑誌や論文のバックナンバーが保管されていたり、掃除

 

   道具、まぁ、自分の身の回りを整えるのに必要なものが

 

   詰まっている部屋だと思ってくれればいい」

 

   先程まで嶋さんが整理していてくれたのだろう。

 

   少し埃っぽかったが、色々なものが綺麗に分類されていて

 

   一目見ただけで何がどこにあるのかが一目瞭然の状態にまで

 

   整えられていた。

 

  「後は浴室の説明だけだが、必要かね?」 

 

   大体の事は分かったので、これ以上はいいと思った私は、

 

   説明書を見て自分でやってみますとだけ答えた。  

 

  「うむ、後は食事の事だが、それは先程渡した通帳に

 

   入っているお金を適宜引き出して近くのスーパーで

 

   食べ物を買って食べておきたまえ」

 

  「わかりました」

 

  「どうかな?私が思いつく限りの事は出来る限りして

 

   みたのだが、何か足りないものはあるかね?」

 

   この一ヶ月間で、私の為にここまでの準備を整えて

 

   くれたのだ。文句どころか感謝してもし足りない位だ。

 

  「ううん、私なんかの為にここまでしてくださって本当に

 

   ありがとうございます。凄く嬉しいです」

 

  「まぁ、本当ならもっといいマンションを手配して

 

   やりたかったんだがな。他の職員達の手前、そういう

 

   事はできなかったんだ」

 

   おどけたように手を合わせて、詫びる所長の姿に場の

 

   空気が和んだ所で、烏丸所長は私の部屋から出て行った。

 

  「そうそう、七時くらいに桐生君がこの部屋にきてくれるそうだ。

 

   今日は珍しくアンデットが出現しなかったからゆっくりと

 

   疲れを取って休むように」

 

   去り際に手を振りながら嬉しいことを伝えてくれた

 

   烏丸所長を見送った後、私は部屋に戻って荷物の整理を

 

   始めることにした。

 

 

   <Sealed Undead>

 

   <Soot Spade:Category Ⅳ;Boa Undead>

 

   <Soot Heart:Category Ⅵ;Hawk Undead>

 

   <Soot Heart:Category Ⅸ;Camel Undead>

 

   <43/53>

 

 

   ◆      ◆     ◆

 

  「ブラン。ルウィーの国民の様子はどうなのかしら」

 

   ユニが引っ越しをしたのと同時刻、ゲイムギョウカイの四大陸を守護する

 

   女神たちは、先日起きた事件の収拾をつけるべく秘密裏の極秘会議を

 

   開いていた。

 

  「ダメだ。あの日以来ルウィーのシェアエナジーは下降気味で、それに呼応

 

   するように日を追う毎に女神の排斥運動が盛んになってる。そっちはどうだ」

 

   まず最初に口火を切ったのはルウィーの守護女神、ホワイトハートだった。

 

   彼女の口をついて飛び出した言葉の数々は、各自の国の惨状を深刻に

 

   受け止めている女神たちの心をへし折るには十分だった。

 

  「似たり寄ったりよ。貴女達に比べれば電気や水道が機能しているだけ

 

   マシというだけ。それでもやっぱり女神に与する者への対応は風当りが

 

   段々強くなってる」

 

  「そうですわね。リーンボックスでもなんとかチカちゃんが人々の不満を

 

   少しでも解決すべく、必死になって復興支援の予算や救助活動部隊の

 

   編成をしています」

 

   パープルハートとグリーンハートの回答も突如ゲイムギョウカイを襲った

 

   未曽有の危機に確実に対処できる方法を見つけ出すことができずにいた。

 

  「アンタ達はいいわよね...。国が残ってるし、妹だって生きてるもんね」

 

  「ブラックハート...」

 

   四女神が自室で通信をしているのに対し、ノワールは自室ではなくどこか

 

   別の場所から通信をしていた。それが何を意味しているのか残りの女神達は

 

   痛いほど理解しているが故に、何も彼女へと言葉をかけることができない。

 

  「笑っちゃうわよね..。国民の為に毎日毎日どうすれば他の国と差をつけて

 

   ラスティションが発展できるのかを考えて、それこそ頭が痛くなって、

 

   胃薬飲んでまで徹夜して、そこまでしてようやく自分が女神なんだって

 

   自負があったのに...、私の国はこんな事態になっても絶対に暴動なんか

 

   起きないって絶対の自信があったのにさ...」

 

   そう、あの日ラスティションを襲った怪物達は、瞬く間に女神化した

 

   ノワールの目の前で黒い津波となり、高度な科学技術で作られた化学

 

   工場や建築物、そして守るべき国民たちを一瞬で貪り尽したのだった。

 

   その光景を女神の中で最初に見たパープルハート、おそらく戦闘時における

 

   冷静さでいえば女神の中でも随一の彼女が恐怖のあまり腰が抜けたのだから

 

   当事者であるノワールの恐怖と絶望の深さはどれほどのものだろうか。

 

   まかり間違えば、自分達の国と妹がそうなっていた可能性があったかも

 

   しれないパープルハートとホワイトハートはノワールのその苦しみに

   

   思いをはせ、沈痛な面持ちで押し黙っていた。

 

  「しっかりなさい!ブラックハート。ここで貴女がしっかりしなければ

 

   誰がラスティションを守っていくのよ!!」

 

  「五月蠅いッ!何が分かるの!アンタ達に何がわかるっていうのよ」

 

   たまらずパープルハートがノワールへと無理やり発破をかけるも、

 

   却って仇となり、ノワールはそれを撥ね付けてしまった。

 

  「ネプテューヌ、アンタはいつも人のやること成すことを邪魔ばかり!

 

   その癖良い所だけは、必ず誰よりも先に掻っ攫っていくのよね!そんな

 

   アンタに前から一言言ってやりたいことがあったのよ」

 

  「!!」

   

   パープルハートは今まさにノワールの言わんとすることが予想できてしまった。

 

   女神の中で自分の気持ちを伝えられずに、鬱屈とした思いを抱いている彼女の

 

   コンプレックスを知りながら、自分はことあるごとに彼女の心を傷つける

 

   言動をしてそれを楽しんでいた。誰よりも自分と関わることを望んでいた、

 

   友達になりたがっていた少女は、それでも妹の手前、よき姉であろうと決して

 

   弱音を吐くことなく、いついかなる時も毅然とした態度で国の事や女神同士の

 

   ことに取り組んできた。

 

   しかし、それは目の前で妹が敵の親玉に突撃し、この次元から姿を消した

 

   ことでもろくも崩れ去り、後に残ったのは誰にも頼ることができずに

 

   涙を流すか弱い女の子だけだった。

 

  「私はアンタのことなんか...」

 

   今から放つ一言をすべて言い終えてしまえば、もう後戻りができないことを

 

   覚悟したノワールは自暴自棄になりながら、自らの全てを投げ出す覚悟を

 

   決め、全身全霊で自分を仲間と認めてくれる女神達にその呪詛を吐きかけ

 

   ようとした。

 

   しかし、

 

  「ノワールちゃん、乙女が人を傷つけていいのはその美しさだけよ」

 

   その一言は音もなく近寄ってきたアノネデスの一言に遮られ、彼の

 

   当身によって気を失ったノワールは糸の切れたマリオネットの如く、

 

   地面へと崩れ落ちた。

 

  「ごめんなさいねぇ。貴女達の益体もないクソ話が聞くに堪えられずに

 

   つい手が出てしまったわぁ~。ノワールちゃんの前でそういう話を

 

   することがどれだけ今の彼女に影響を及ぼすのかわかってるの?」

 

   おどけた口調はそのままに、凄みを含ませたその言葉の端々には純粋な

 

   怒りが込められていた。

 

  「特に、そこの胸だけのバカ女神。アンタがユニちゃんをあの怪物の

 

   親玉もろとも次元の彼方へと飛ばしたんでしょう?」

 

   自分のが下した決断、ノワールを差し置いて自国の民とこの世界を

 

   何とか救うために、あの緊迫した状況下で宿敵と一時的に手を結び、

 

   ユニを焚き付けたことに未だにグリーンハートは後悔していた。

 

  「...ッ!私を責めたければいくらでも責めなさい」

 

   憤りの表情を浮かべながらそういいかえしたグリーンハート。

 

   だが、彼女も内心では自分の下した決断が間違いだったと

 

   認めていた。例え自分がしたことが正しかったとしても、それを

 

   女神としての当然の義務。という一言だけで片付けるのには

 

   彼女が犯した過ちはあまりにも大きすぎたのだ。

 

  「テメェ、どの口がそんなことを言いやがる。好き勝手犯罪を

 

   やらかした挙句、今度は他人事だと思って女神同士の会議中に

 

   べらべらと余計な口突っ込んできやがって!何様のつもりだ」

   

   小さな体の容積の100倍以上の厄介ごとを背負い込み、その

 

   苛立ちを隠せなくなったホワイトハートはその怒りの矛先を

 

   アノネデスへと遂にぶつけはじめた。

 

  「ごちゃごちゃ御託並べてるんじゃないわよ、このバカチビ!

 

   愚痴の零しあいをプライベート通信で他の女神達と話す暇が

 

   あるんなら、国を建てなおす算段でも立てたらどうなのよ!」

 

   対するアノネデスも声を荒げ、猛然と女神達へと抗議を始めた。

 

  「ラステイションはもう既に国家としての体を成さず、その国の

 

   一部の大企業がアンタの所の異教徒たちと結託して、女神の

 

   力すら及ばない完全な独立国家を作り出す動きがあるなんて、

 

   アンタ把握してないでしょ!」

 

  「出鱈目を言ってるんじゃねえぞ、この野郎...」

 

   無機質なマスクから飛び出してきた信じられない一言に

 

   ホワイトハートは動揺を隠せなかった。

 

  「アタシを誰だと思っているのよ?!」

 

   激しい口調と共に次々に女神達の通信ディスプレイに何枚もの

 

   計画書や企画書が展開されていた。

 

   国内の機密情報は言うに及ばず、国ごとのシェアエナジー総量、

 

   国民総所得や今まで女神達が取り執ってきた国の内政についての

 

   成果。そして女神の力を封じるアンチクリスタルについての

 

   調査報告書。おそらく今見ているものは、流出した機密情報の

 

   ほんの一部でしかないのだと女神達は愕然した。

 

  「嘘でしょ...。こんな事を誰が...」

 

   あの騒乱の中で一体どれだけの国に関わる機密情報が流出して

 

   しまったのだろう?そして誰がこんな事をしたのか?という

 

   ことに思い当たった瞬間を見計らったようにアノネデスは

 

   更に信じられないことを女神達に話しはじめた。

 

  「一つだけ教えてあげる。今回の一件には私やマジェちゃんは

 

   関わっていないわ。それと、残りの七賢人も全員ね」

 

  「じゃあ、一体?まさか!」

 

   アノネデスのいう事が現状ではブラフの類である可能性が

 

   残っている以上、その発言を鵜呑みにできない女神達は

 

   それ以外の可能性をそれぞれ探っていく。そして現状で

 

   自らに最も近しい存在―女神や身内を除いた―を思い

 

   浮かべた時、更に女神達は自分達が追い詰められている

 

   という絶望的な事実に辿り着いた。

 

  「アンタ達の右腕、信頼している『教祖』達が裏で手を引いて

 

   いるわ。この状況下で女神以外に国をまとめ、動かすことが

 

   出来る四大国で唯一の存在が裏で結託している」

 

  「じゃあ、いーすんのあの態度の急変も」

 

  「チカちゃんが...嘘よ、嘘ですわ、そんな事」

 

   信じたくなかった、疑いたくなかった。苦楽を共にした

 

   大切な仲間達がこんな形で女神を裏切るということなど。

 

   今まで腑に落ちなかった全ての点が、女神による国家の

 

   統治制度の崩壊という残酷な現実に結び付いた時、その

 

   余りの残酷さにパープルハートとグリーンハートは

 

   呻き声をあげ、泣き出してしまった。

 

  「既にラスティションでは神宮寺ケイが大規模な反女神デモを

 

   準備しているわ。リーンボックスではルウィーと結託し、

 

   貴女達に対する牽制として、残りの女神候補生達を誘拐する

 

   計画が二ヶ国合同で秘密裏に動いている」

 

  「マジかよッ!あああ、ロム、ラムッ!!」

 

   アノネデスが最後の一言を言い終えるや否や、遂に耐え

 

   切れなくなったホワイトハートはそのまま妹達を探しに

 

   飛び出して行ってしまった。

 

  「ベールッ!ネプギアもロムちゃんラムちゃんも皆一緒に

 

   リーンボックスにいるんだよね?!」

 

  「ああ、何てことなの...。ネプテューヌ、ごめんなさい」

 

   未だに精神的ショックから立ち直れずにいたベール。

 

   あの大惨事の後、ネプテューヌとブランはユニの件も

 

   あり、妹達の安全を確保するために一時的にリーン

 

   ボックスへと避難させていたのだった。

 

  「まずいよ、まずいよ~。このままいけばネプギア達が

 

   本当に殺されちゃうよぉ~」

 

  「私はすぐに三人を確保してきますわ。ネプテューヌは

 

   プラネテューヌで待機していてください」

 

  「そんな悠長な事言ってられるもんですか!!私も今すぐ

 

   リーンボックスに行くから。女神候補生たちの事をお願い。

   

   頼むわよ!」

 

   通信を切り、再び女神化したネプテューヌもブラン同様、

 

   妹達が避難しているリーンボックスへと向かっていった。

 

   最後にベールのプライベート通信が切れたのを確実に

 

   見届けたアノネデスは後ろにあるソファで気絶している

 

   ノワールに向けて一言つぶやいた

 

  「これで、いいのよね?ノワールちゃん」

 

   何も物言わずに眠りに落ちたノワールを見つめながら、アノネデスは

 

   小さくため息をついた。




 次回の話ではユニちゃんが遂に自分がここに来た理由を話します。ラスティションで一体

 何が起きたのか?その謎が大体次回でわかります。

 更にゲイムギョウカイではマジェコンヌとイストワールが起死回生の一手を打つべく、

 ある共同作業を行っています。そして人間達の間で遂に女神を排除しようとする動きが

 表面化し、リーンボックスが標的になってしまいます。はたして女神達の運命はいかに?!

 次回、REVOLUTION お楽しみに



 
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