MASKED RIDER UNI ~ラステイションの女神候補生 作:日向春季
どうして剣の世界に来たのかを中心に焦点を当てています。予定ではありますが、次の話は
遂にゲイムギョウカイの女神達の統治に人々が反旗を翻すお話になりそうです。
「住所は、確かにここでいいんだよな?」
桐生さんから聞いた住所を書いた紙を見直す。
左手に携帯電話、右手に沢山の食品が入った買い物袋。
傍から見れば、買い物帰りの若者が家に帰ろうとして
いるように見えるんだろうが、生憎俺が今から向かう
のは自宅では無く、会社の同僚の新しい住居だ。
昨日の夜遅くにアンデットが出たきり、今日は一体も
アンデットが出現することがなかった。何にせよ
いつまたアンデットが現れるのか分からない不安は
あったものの、ゆっくりできるときに体を休めるのは
悪くない判断だと思った俺は、大学からの付き合っている
小夜子と一緒に今日一日をデートに当てたのだった。
そして小夜子と別れたのが午後四時。さぁ家に帰って
明日から気合を入れようと思った矢先、桐生さんから
電話が掛かってきた。
『橘、今日は暇か?』
「ええ。一応、夜寝るまで予定は何も入ってません」
もしかしたら一緒に一杯飲みに行こうという誘いなのかと
思いもしたが、それは次の一言でたちまち消え失せた。
『そうか、実は烏丸所長からユニの引っ越しが今日だという
連絡を受けてな、お前、俺の代わりに行ってくれないか?』
ああ、そういうことか。
あの正体不明の少女がこのBORADで俺達と成り行き上、
ライダーシステムの適合者として、アンデットを共に封印し始め、
早一ヶ月経った。
BORADには社員寮はなく、俺もウィークリーマンションを
転々としながら今の仕事を続けている状態だ。
だが、どう見てもユニの外見は女子中学生そのものであり、
彼女の保護者が現れれるまでとはいえ、研究者用の仮眠室で
流石に何か月も過ごすのは流石にいただけないと俺も桐生さんも
烏丸所長へと何度か掛け合っていたのだった。
「何か用事があるんですか?」
桐生さんも一緒に来ればいいんじゃないだろうか?
疑問にも思ったが、彼は自分の身の回りのことを詮索されるのが
一番大嫌いだった事を思い出し、俺は無難な質問をぶつけること
にした。
『ああ、ちょっとした野暮用だ。ただちょっと時間が
合わなくてな、軽く顔見せだけでいい。ほら、明日
会うときの、まぁ、入居祝いを今選んでいるんだよ』
「ええっ!」
『なんだ橘。後輩へのプレゼントに真剣に頭を悩ませている
俺がそんなにおかしいのか?』
「いえ、ただ桐生さんがどんなものを彼女に贈るのかが
少しだけ気になっただけです」
今まで一緒に過ごした上司の意外な一面を垣間見た俺は
驚きを隠せなかった。服装や装飾品のセンスはとてもいい人
だから、そんなに変なものを選ぶはずがないと思うんだが、
それでもやっぱり気になるものは気になる。
「まぁ、そんな訳だから頼むな。彼女の住所はメールで送る」
電話越しからもかなり照れている様子がわかる声と共に
通話が途切れた。耳元から携帯を離したその時、メールの
着信を知らせるバイブレーションが鳴り響いた。
「ここからそんなに離れてない距離にあるな」
画面に映し出された住所のマンションは今いる場所の
真反対に存在していた。時計を見ると丁度四時半。
幸い目の前にはスーパーがある。上手くいけばタイム
セールで色々なものを安く沢山買い込めると思った俺は
すぐにスーパーの中へと飛び込んでいった。
時計を見ると午後六時を二十分過ぎた所だった。
烏丸所長がBORADへと戻った後、私は物置部屋から
雑巾と掃除機を引っ張り出し、部屋の掃除を始めた。
ご丁寧な事に、冷蔵庫や食器棚の様な一人で動かすのが
困難な家具にはキャスターがついていたので、楽に
掃除を進めることが出来た。
最後にリビングにモップを掛け、ゴミをまとめ終えた
まさにその時、玄関に備え付けのインターフォンが
来客を知らせた。
『ユニ、橘だ。開けてくれ』
ドア越しにがさがさとビニール袋が揺れる音が聞こえる
あたり、きっと家に帰る途中に寄ってきてくれたのだろう
と思った私はドアを開けて橘さんを招き入れた。
「いらっしゃい。橘さん」
「ああ、邪魔するぞ」
靴入れからスリッパを出した橘さんはそのまま居間へと
歩いて行った。リビングにあるテーブルに買い物袋を
置いた橘さんは台所に入り、何やら色々と準備を始めた。
「そういえば桐生さんは一緒じゃないんですか?」
「ああ、行きたいとは言っていたけれど時間が合わず、
行けそうにないと、俺に電話をかけてきたよ」
「用事なら仕方ないか」
そうか、桐生さんは来れないんだ。
仕方がないと納得した私は買い物袋をがさごそといじくってる
橘さんへ声をかけた。
「何してるんですか?」
「ああ、もう夕飯を作る時間だからな。一応、今日と明日の
ご飯が作れるだけの食材を買い込んできた。お腹減ったろ?
何でも作ってやるよ」
「本当ですか?」
「難しい料理は駄目だけどな。大抵の物なら作れるぞ」
ちょうどお腹がすき始めていたので、その申し出が
とてもありがたかったから、私は遠慮なくその厚意に
甘えることにした。
「じゃあ、できるだけ早くできるものが食べたいです」
「分かった。少しだけ手伝ってもらうことになるけど
いいか?」
「大丈夫ですよ」
まな板と包丁を私に手渡した橘さんの笑顔はとても
無邪気だった。それに当てられられられたのか、私の
顔も少しだけ赤くなっていた。
「よし、作るか」
「はい!」
元気よく返事をした私は張り切りながら調理へと取り
かかった。
だけど、この時私は失念していたのだった。
橘さんが味音痴だということを...。
よし、白身魚のムニエルも焼き上がった。後はミート
ソーススパゲッティに一味唐辛子を入れて、
「ちょっと、ちょっと何を入れてるんですか!橘さん」
一味唐辛子をまんべんなく鮮やかなトマトソースの上に
かけている俺の何が気に入らなかったのか、突如ユニが
俺に喰ってかかってきた。
「?何って隠し味だけど」
「ど・う・し・て!トマトの酸味と挽き肉の触感を楽しむ
スパゲッティに唐辛子を満遍なく振り掛けるのよ?!」
「いや、だって隠し味に色んな調味料を加えるとより美味しく
なるだろ?ほら、一口喰ってみるか?」
「いいですっ!」
何故か分からないが、プリプリと怒り始めたユニは鼻息も
荒く、スパゲッティと白身魚のムニエルを持って行って
しまった。
「何だよ、結構うまいのに」
まぁ、気にしても仕方ないか。
料理の味付けや分量は人それぞれ好みがあるし、無理に勧めた
のは流石に悪い気がしたが、深く考えるのも余り良くないような
気がしたので、俺は残った野菜でサラダとスープを作り始めた。
「いただきます」
結局、夕飯が全て揃うのに四十分弱かかったものの、
出来としては非常に良くできた一品だと我ながら思う。
ミートソーススパゲッティを頬張りながら、俺はユニの
コップにオレンジジュースを注ぎ、感想を聞いた。
「どうだ?中々上手くできてるもんだろう」
「べ、別に普通の味ですよ。これと同じものを作れって
言われたら私の方が上手く作れますから」
サラダをつつきながら、少しだけ唇をとがらせたユニは
そういうなりプイッ、と横を向いてしまった。
その様子に悪戯心をくすぐられた俺は、彼女が箸を落した
隙に一味唐辛子を彼女のスパゲッティの中に少しだけ
振りかけてやった。
拾い上げた箸をシンクへと運んだユニがまた別の箸を
持ってきたのは俺が細工を終えたそのすぐ後だった。
くるくるとフォークを巻いてパスタを絡める彼女が
果たしてどのようなリアクションを取るのかを俺は
期待に満ちた目でわくわくしながら見つめていた。
「ゲホッ、ゴホッ」
口にパスタを入れた瞬間、すぐにユニはむせこんだ。
「た~ち~ば~な~さん~?」
ユラァ、と物凄い怒りの表情を浮かべたユニが勢いよく
立ち上がるなり、俺の肩を掴んできて揺さぶり始めた。
「どうやらお子様にはこの隠し味は刺激が強すぎたみたい
だったな。どうだ、大人の味は?」
「何が大人の味ですか?橘さんが完全な味音痴なだけじゃ
ないですか。橘さん、いえ、ダメバナさん。これは
スパゲッティへの冒涜です。貴方の倒錯した味覚に
今まで犠牲になったパスタやソースに謝って下さい。
さぁ、早く!!」
がっくんがっくんと俺の首を思いきり振り回すユニ。
その余りの力強さの為に、腹に収めたスパゲッティが
逆流を始めていた。
「この距離ならバリアは張れないな!!」
彼女のスプーンで一味を振りかけたミートソースを掬い、
無防備なその口目掛けて、仕返しとばかりに俺は突っ
込もうとした。
「止めて下さいッ!」
勢いよく左手で俺の持つスプーンを跳ね除けたユニは
そのまま何を思ったのか一味唐辛子をたっぷり振り掛けた
残りのスパゲッティを俺の口の中に突っ込み始めた。
「ヒャアアアアア~!!!!」
瓶の底が見える位の沢山の一味をぶち込んだミートソース
スパゲッティはもはや別の食べ物へと変貌していた。
皿ごと傾けた残りのパスタを俺の開いた口にぶち込み
始めるユニ。ずずず、と重力に逆らわずに、皿から傾け
られたパスタが俺の口へと滑り込んでいく。
「ひゃめふぇくえ、ひゃめろぉおおお」
なんとか口の中に入ったスパゲッティを咀嚼して、
嚥下しようと思っていた矢先、俺の舌に激痛が走った。
いつの間にか皿の色は鮮やかなトマトの赤色ではなく、
危険な匂いを放つ毒々しい腐った橙色へと変貌していた。
あまりの辛さに悶絶する俺。そしてそれを楽しそうに
見ているユニ。理不尽だ、なぜこんな目に遭わなければ
ならないんだ...。
「ふん、これで女の子の料理に悪戯をしたらひどい目に遭う事が
わかったでしょう」
言っていることは正論だが、それは俺が今味わって
いる激痛をちゃんと考慮しているのか?
疑問に思う事は山ほどあったが、なんだかんだ言って
楽しい夕食の時間はあっという間に過ぎていったのだった。
食事を終えた私は二人分のお皿を下げ、食器洗いを始めた。
「ゲホゲホッ、ゴファァツ」
あの後、私がしこたまぶち込んだ唐辛子が入ったミート
ソーススパゲッティを無理やり全部平らげた橘さんは、
真っ青な顔をして、リビングのソファに寝転がっていた。
「あの~、橘さん。大丈夫ですか?」
目が真っ赤に充血して、苦しそうに呻きながら必死に氷を
舐めている橘さんを見れば、流石に自分がやりすぎた
事に気が付いてしまう。
「お前が無理やり食わせたあのパスタのせいで、俺の身体は
ボロボロだ!アンデットが今出現したらどうするんだ!」
「もとはと言えば橘さんが悪いんでしょ!」
痛い所を衝かれ、何も言えなくなってしまいそうに
なったけど、事の始まりは橘さんのあの悪戯だ。決して
私は悪くない。悪くない、筈だ...
「自分の行為を正当化するな!」
ソファからよろよろと立ち上がった橘さんは私の所まで
きて、軽く頭を叩いた。
「痛いッ、何するんですか!」
あまり痛さを感じないように、その一撃は加減されて
いたけど、自分が叩かれた事よりも、どうしてそんな
ことをされなきゃいけないのよ!という反感が先立って
しまい、つい反抗的な目で橘さんを睨み返してしまった。
「年頃の女の子っていうのが、複雑で繊細なのは大体予想が
つく。けど君の場合、素直になれない自分が全てにおいて
先立ってしまって、物事が悪い方向にばかり進んでいるん
じゃないのか?」
何か言い返してやりたい気分だったけど、その冷静な
指摘に図星を指されてしまった私は何も言えなくなって
しまった。
「俺達BORADの職員と君が出会ってから既に一月経っている。
それくらい一緒にいれば、大体俺も桐生さんもユニの
性格を大雑把に把握できてる。だからこそ心配なんだよ」
「どうせ私は素直じゃないもん」
そう、素直になれないこの性格のせいで私は随分と
遠回りを今まで自分に強いてきた。自分のことを友達と
認めてくれるネプギアや、本当は一番認めてもらいたい
姉に自分の気持ちを伝えきれなかったり、思い返せば
自分はかなり扱いづらくて、難のある性格という自覚は
大分前からあった。でも、それを完全に自覚すれば、更に
自分が素直になれなくなってしまうのではないのかという
危惧にも似た警戒心が未だに私の心に巣食っているのも
事実だった。
「君が素直じゃないことは、別にそんなに関係ないと思う。
それは個性であったり、性格だからな。ただ、嬉しい
と思ったときや感謝の気持ちを表す時には素直になって
ありがとうって伝えることも大切だと俺は思う」
「...うん」
「ただ、桐生さんにはさっきみたいなことをするのは
やめとけよ。あの人が怒ったら、それこそこんなんじゃ
済まないからな」
最後におどけた表情を見せた橘さんは、洗い終わった
食器を食器乾燥機へと入れ始めた。私はそれを横目に
見ながら、リビングに戻り、椅子に腰かけた。
ユニに無理矢理食べさせられた激辛スパゲッティの
辛さは未だに舌に残っているものの、ようやくそれが
消え始めたのは夜の九時を少し過ぎた頃だった。
食器を乾燥機の中に入れ、後は家に帰るだけだと考え
ながら、ユニの方へと視線を遣ると、なんだか落ち込んで
いるような感じが見受けられた。
「さっきは強く言い過ぎたか?」
頭をはたき、少しだけ強い口調で彼女を叱ったら、
目に見えて拗ね始めてしまった。あまり説教というのは
自分の柄ではないと思ったが、それでも俺はこの身元が
分からない少女が、本当は素直で気立てのいい子だと
いうことはなんとなくわかり始めていた。
「橘さん、あの...」
エプロンを畳み、綺麗に拭いた台所の上に置いた俺が
冷蔵庫から牛乳を取り出して飲もうとしていた時、
なにやら考え込んでいる表情のユニが話しかけてきた。
「ん、どうした?」
「あの、その~」
指をもじもじさせながら、体を落ち着かなさげに揺らす
のを見た俺は、ふと彼女が一体どこの国の出なのかが
気になった。
なんでそんなことが気になったのかは分からなかったが、
それでも気になったものだから、彼女に聞いてみようと
そう思った。
「ユニ、そういえば前々から疑問に思っていたんだが」
「!!、えっ、ええ。はい、何ですか?」
不意を衝かれ、驚いたユニの表情には少しだけ失望の
色が混じっていたが、それは一瞬の内に消え去った。
「君は一体、どこの国の出身なんだ?」
始めの頃は色々とどたばたしていたが、それでも
一月もたてばある程度の信頼関係は成り立つ。だから
こそ今の内に聞けることがあれば聞いておこうと
思ったのだった。
「話せば長くなるんですけど、それでもいいですか?」
何かを深刻に考える様な表情を浮かべたユニは、やがて
意を決したように口を開いた。
「ああ、聞かせてくれ」
年端もいかない少女が浮かべる表情にしては、あまりにも
苦悩の色が色濃くにじみ出ていたのがとても気になったが、
これも先輩としての務めだ。と俺は自分を納得させ、ユニの
話を聞くことにした。
しかし、その時の俺はBORADの本当の目的は何なのか、
仮面ライダーとは一体何なのかをまだ深く知らなかった。
そして、この会話が更なる波瀾を呼び起こすきっかけに
なるとは露とも思ってもみなかったのだ。
「本当に良いんですね?橘さん」
私は目の前にいる男の人に最終確認をとった。
「ああ、聞かせてくれ。お前が一体何者なのかを」
本当は誰にも話す事なく、烏丸所長が用意してくれた
戸籍通りの少女として、BORADのアンデット封印の任務を
こなして行こうと思ったけど、目の前にいる男の人は
信用してもいいんじゃないのかと私は思い始めていた。
少し抜けていて、人の良すぎる所はあるけれど、それを
差し引いても頼れる大人の人だと私はこの一ヶ月間で
橘さんの事を捉えていた。
「分かった。結構長くなるから覚悟してくださいね」
そして、私はゲイムギョウカイの事、そして何故私がこの
世界に来ることになったのかの理由を、ラスティションで
あの日に一体何が起きたのかを話しはじめた。
――まず最初に、私はこの世界の人間じゃありません。
その一言を聞いた時、不覚にも俺は笑ってしまった。
三流ホラー映画でしかお目に掛かれないようなチープな
台詞を真顔で年端もいかない少女が言い切ったのだ。
下手な芸人のコントよりも笑えると思ったが、その余りの
真剣さに俺は少し気圧されていた。
「あー、ようするに今からユニが俺に話してくれるのことは
全部本当のことだと思えばいいのか?」
半信半疑だったが、とりあえず聞くだけ聞いてみよう。
そう思った矢先、何が気に食わないのか突然ユニが、火が
付いたかのように怒り出した。
「なによ!そんなに私の事が信用できないの?」
どうやら、勇気を出して打ち明けようとしている自分の話を
話半分で聞き流そうとする俺の態度が気に食わなかったのだろう。
ユニはその綺麗な顔を真っ赤にさせ、ふくれっ面になる。
なんとなくこの少女の怒りのスイッチの入り方のパターンと
対処法を思いついた俺は、試しになるべく柔らかい口調で
できるだけ正論を述べ、彼女がそれを納得できるまで辛抱
強く待つスタンスをとってみた。
「だって、しょうがないだろ?だってどこからどうみても
ユニは人間そのものの姿なんだから」
「う、それはそうなんだけど」
やっぱりだ。
人の話を途中で遮り、自分の考えの正誤を顧みずに述べるのは
それだけ自分が他者と比較される事に対して、何らかの強い
強迫観念やコンプレックスがあるんだろう。
だからその分、向上心や負けん気が強い。
「と、とにかく話を続けますからね...」
何だか調子が狂うといった感じでユニは話を始めた。
――えーっと、じゃあ、まず私のいた世界の簡単な仕組みに
ついてお話します。私のいた世界はゲイムギョウカイと呼ばれ、
それぞれ四つの国が存在しています。
革新する紫の大地、プラネテューヌ
重厚なる黒の大地、ラステイション
雄大なる緑の大地、リーンボックス
夢見る白の大地、ルウィー
この四つの浮遊大陸から成る世界であり、私がいたのは、
ラスティションという四つの中でも重工業を主産業とし、
経済活動が活発で活気に満ちている国です。
「じゃあ、要するにこの世界でいう所の六大陸と同じような
世界からユニはやってきた。そしてその大陸同士は元々は
一つ同士だったって事か?」
――はい、元々は一つの大陸でした。けど守護女神、私が
生まれる前にその大陸を守護する存在同士の争いが激化して
行くうえで、それぞれに対応した部分同士が分離して
現在の四大陸という形になったんです。
大陸同士は時期によって近づいたり離れたりしており、大陸間を
移動するためには、その大陸同士が最接近状態時に、跳ね橋を
下ろして渡らなければならないんです。
まるでゲームのような話を目の前の少女は真剣になって、
俺に伝えてくる。その眼差しは必死そのものであり、それを
見た俺は、彼女が話しているのは全て本当の事だと徐々に
思うようになっていた。
俺の考え込む様子を見たユニはそこから堰を切ったように
自分のいた元の世界のことを話しはじめた。
――こことは異なる世界のゲイムギョウ界では、人々は四人の
大陸を守護する、守護女神達を崇め奉り信仰しています。
プラネテューヌの守護女神、ネプテューヌ。
ラスティションの守護女神、ノワール。
リーンボックスの守護女神、ベール。
ルウィーの守護女神、ブラン
そしてその女神に何らかのアクシデントが起き、活動不能時に
なったときにその国の全てを代行する存在が、私を含めた
女神候補生という存在になります。
プラネテューヌの女神候補生、ネプギア。
ラスティションの女神候補生、ユニ。
ルウィーの女神候補生、ロム、ラム
この四女神と候補生がそれぞれの大陸に存在し、国と人々を
治め、それに害をなす存在を、例えばモンスターとか国家転覆を
企むテロリスト達をやっつけて、生活の発展や向上を与えます。
――そのかわり女神はギブ&テイクで人々からシェアエナジー、
その大陸の守護女神達を信仰することによって得られる力を
人々から集めます。
「やはりそういうことか」
突如閃いた俺は、ユニの話を遮り椅子から立ち上がった。
「つまり、ゲイムギョウカイというのは神様が存在していて、
なおかつ人々の神を信仰する力がその神の力になる。という
世界なんだな。そして大陸が四つある」
俺も今自分が言ったことの意味がわからなかったが、その
一言を聞いた途端、ユニの顔が嬉しそうな表情へと変わった。
――そう。シェアエナジーは四大陸と「その他」での合計値が
定められてて、どこかの大陸を増加させた場合は、別な大陸の
シェアが減少し、その逆もしかりというわけ。
得られたシェアエナジーは該当大陸の守護女神の能力に影響を
及ぼし、自分の国により多くのシェアを持つことが国力の
増加そのものになるってことです。
話を聞く限りでは、そのシェアというものはこちらの世界で
いう所の天然ガスや石炭のようなものなんだろう。違いが
あるとすれば、それは資源の源が人か地中に深く眠っているか
きっとそれだけだろう。
だが、資源であることには変わりないのなら、上手く活用
すれば他の国に輸出入ができたり、あとは
「じゃあ、そのシェアってのは人工的に作り出したり、
無理矢理人とか他の国からも吸い取れるのか?」
当然の帰結として、今言ったような活用方法もおのずと
導き出されるわけだ。
俺の言い方が悪かったのか、表情を曇らせたユニはそれでも
努めて明るくその質問に答えてくれた。
――ここからはお姉ちゃんに聞いた話になるんですけど、その
世界を守護する筈の守護女神達は何千年にも渡る争いを続けてて、
その一番の原因が総量の決まっていたシェアエナジーの争奪戦
だったんです。それを巡って千年間女神達は争い続けていたん
ですけど、結局、決着は着きませんでした。
その間に、人間のいる下界は先代守護女神「マジェコンヌ」に
よってモンスターが溢れかえっているという事態が起きて
いたんです。
「え?!女神って四人だけしかいなかったんじゃないのか?」
――どこの国の神話でもあるように、私達の世代が生まれる
前にも様々な女神がゲイムギョウカイには存在していました。
歴代の全ての女神が全部良い女神なんてことは無く、中には
自らの敷いた暴政により人々に滅ぼされた女神もいれば、
次世代への礎を築き、その役目を全うした女神もいました。
ふぅ、と短い溜息をついたユニは、これで私のいた世界の
説明は以上です。といってテーブルの上に突っ伏した。
「何か質問はありますか?」
色々と聞きたかったことはあったが、この際俺はあの日の
出来事についてユニに尋ねようと思った。
「ユニ、お前、今はその女神の姿に変身する事は出来るのか?」
そうだ、確かにあのユニと出会った日、彼女は目の前の
姿ではなく、黑い衣装に白い髪の姿でカテゴリーAと戦っていた。
もし今までの彼女の話が本当だとすれば、彼女がその女神の
姿を見せれば全てがつながる。しかし、当のユニはそれを
聞いた途端、顔を曇らせてしまった。
「それが...出来ないんです」
「出来ないって?」
思わず声にしてしまったが、気落ちしたユニはそれどころ
ではないらしく、がっくりとした様子で話しはじめた。
「シェアエナジーが無ければ、女神もただの人となんら
変わらないってことです。奪われたんですよ。全て」
「奪われたって、まさか他の国の女神が攻め込んできたのか!」
「それよりも、もっともっと悪質な何かにです」
そういうなり、ユニは椅子から立ち上がり陰鬱な表情で、
自分がこの世界に来た本当の理由を語り始めた。
「ゲイムギョウカイでおきた千年前の争いは既に解決され、
四女神同士のシェアの奪い合いによる戦いはなくなり、
女神達と人々は平和な暮らしを謳歌していました」
そう、それは在りし日の光景だった。
瞼をつぶり、耳を澄ませば楽しげに街を走り回る子供達が
はしゃいで遊びまわる声が聞こえ、街を行きかう人々の顔には
明日への希望と幸せそうな表情が浮かんでいた日々だった。
「ラスティションではその日もいいお天気で、私は他の国の
女神候補生達と一緒に遊んでいました」
その日は確か、ネプギア達と一緒に私の部屋でゲームを
していたんだと、思う。ロムちゃんもラムちゃんも確かに
あの日ラスティションに来ていたから。
「お姉ちゃんはその日、年に一度の他大陸にかかる跳ね橋の
修繕点検の視察へと行っていました。他の女神の立会いの下
致命的な欠陥がないかどうか、その最終チェックをしてたんです」
ほぼ独白にも近い私のその呟きは、静寂が支配する部屋の中に
浸み渡っていった。
「だけど、だけど」
あの日に起きた出来事を、今一度心の整理のついていない
自分の口で誰かに伝えることが堪らなく苦痛だった。
けど、これは私がつけなければいけない最低限のけじめ
だからと無理やり自分を納得させ、次の言葉を無理やり
ひねり出していく
「あのモノリスという石碑が、突然大挙してラスティションを
私達の国に押し寄せてきたんです...ッ!」
「何だって!この世界にあるモノリスが、なんでユニの世界に
出てくるんだ?!」
「そんなの分かるわけないじゃない!!」
感情が高ぶり、握った拳がぶるぶると震えるのが嫌でも
分かる。まるで何者かに突き動かされるように、私は
あの日の出来事を鮮明に思い出していった。
「大挙して押し寄せたモノリスは、空中に沢山の物をまき
散らしました。最初は私達女神候補生でも視認するには
遠い距離にそいつ等はいたんですけど...それがこっちに
向かってくるときには、その正体が誰の眼にも見て明らか
になる距離にまで、奴らの接近を私は許してしまった!
許してしまったんですッ!ラスティションに、お姉ちゃんの
国にッ!」
噛みしめた唇が噛み切れ、だらだらと血が流れ始めた。
握りしめた拳に食い込んだ爪が、掌を裂いた。
でも、いくら涙を流そうと自分の体を痛めつけようと
私が犯した罪はこれからも私の中に永遠に残っていく。
私にとって、それは絶対に忘れてはいけないことだから。
「黑い大群は、ゴキブリが半分人の姿を取ったようなバケモノ
でした。そいつ等はあっという間にラスティションを埋め
つくして、人々を襲い始めました」
「私達女神候補生も応戦したけど、他の国でも全く同時に
そいつ等が現れて、皆はそれで自分の国に慌てて帰って、
その後は、ずっとお姉ちゃんが来るまで一人で私が足止め
しなきゃって、頑張って戦ってたんです。銃を構えて
億を軽く超える化け物に果敢に挑んでいったんです。でも、
でも皆が居なくなって、一人になったら凄く怖くなって」
「逃げたんです、私...ッ!女神の力を持っているのに、怖く
なって死にたくないって思って、目の前で助けてくれ、
見捨てないでくれって泣き叫んでいる人たちを押しのけて
うっ、う…ふぁ…うううう…」
あの時の光景は今でも忘れることが出来ない。
鈍く光り、黒い体を妖しく照り輝かせたゴキブリの化け物
達が、泣き叫び、逃げ惑う人々の上に圧し掛かり、その
強靭な顎と四肢で押さえつけ、頭からボリボリと貪り喰らう。
そこかしこに広がる地獄絵図を見せつけられ、神の力を
持っているのにそれを使ってもなおも見せつけられる残酷
すぎる現実。どの建物の中にもバケモノどもが入り込んで
逃げ込む所なんてなかった。それでも必死になって逃げて
逃げて、逃げ惑った。
人々に仇名すモンスターを、人々を脅かす敵に立ち向かう
なんてことを考えずに、ただ我が身可愛さの為だけに。
「もういい、俺が悪かった、もういいからやめてくれ!!」
真っ青になった橘さんが耐え切れずに叫んだ。
「ううん、あともう少しだけだから、だから、待って...」
なんとか自分の中に芽生えつつあった恐怖心をねじ伏せ、
私はいよいよこの世界へと飛ばされる瞬間の事を話した。
「横転したトラックのコンテナを見つけた私は、その中に
隠れたんです。ずっとずっと長い時間をかけても人々の
泣き叫ぶ声が聞こえ続けていたんです」
「そしたら、いきなりコンテナが切り裂かれて、そこに
ベールさんがいたんです。隣にはマジェコンヌがいて、
それでマジェコンヌが、私にこう言ったんです」
『ラスティションからこの怪物達を消し去る方法がある』
「もう時間はなかった、選択肢なんかなかった。だから私は
必死になってその説明を聞いた。教えられた通り実行した!」
「何を...何をやったんだ?」
「シェアを、ラスティションの殆どのシェアを暴走させ、
時空の歪みを作り出して、その中に親玉をぶち込めば
消えるって、だから私は、シェアを持ち出してそれを
暴走させたんです!」
叫んでいた。私の喉から絞り出された声は、最早叫びへと
変わっていた。
ラスティションの全てのシェアエナジーが収められている
部屋をぶち壊し、全国民のシェアの塊とマジェコンヌから
渡された奇妙な装置と組み合わせた途端、ラスティション
上空にブラックホールが発生した。それは確かに全ての
モノリスと怪物達を凄まじい速さで吸い込んでいった。
「そして、上空ではお姉ちゃんが怪物の親玉らしき怪物と
死に物狂いで戦っていました。私はベールさんと一緒に
お姉ちゃんの所まで飛んでいきました」
『私がノワールと一瞬の隙を作りますわ、その隙に』
「ベールさんとシェアエナジーを最大展開して戦っている
お姉ちゃんを相手取っても、その化け物は全く動じず、
それどころかブラックホールギリギリに位置取り、今度は
隙あらば私達を次元の狭間へと飛ばそうとしていました」
「奴も、ジョーカーアンデッドも死に物狂いだったんだと
思います。けど、お姉ちゃんの決着が解けて、ベールさんが
襲われそうになったその瞬間、私はブラックホールに
ジョーカー諸共飛び込みました」
『ユニッ、何をしてるの?!止めなさい、ユニィイイイイ!!』
「お姉ちゃんの叫びを聞きながら、私はそのままジョーカーに
しがみついて、時空の狭間に飛ばされていった。そして
あの日、橘さん達がいたあの場所へと辿り着いたんです」
長い時間をかけて、ようやく私がここに来た本当の理由を
話し終えることが出来た。話し終わってすぐに私の身体に
どっと疲れと悲しみが押し寄せてきた。
慌てて橘さんが床に崩れ落ちそうになった体を抱きしめて
くれたけど、それは何の解決も安堵も齎してくれず、むしろ
心の中にあの日から空いたぽっかりとした穴がますます
広げられていくような、そんな感じだった。
「済まない...話したくもないことを話させてしまって...」
「なんで、泣いているんですか?なんにも悪いことしてない
じゃないですか、橘さんは?」
抱きしめられた腕の間から橘さんの顔を覗き込むと、
情けないことに私よりも涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。
「うるさいッ、何が分かる、お前に何が分かるんだ!」
「それ、私の言うべき台詞ですよ。逆ですって」
こんな時でもどこか抜けている橘さんはやっぱり頼りに
なりそうもなかった。
けれど、
「でも、もう少しだけこうして下さい。気持ちがいいんです。
こっちに来てから凄く不安で、怖くて眠れなかったから。
だから、だから」
ここまで素直に自分の気持ちを誰かに伝えた事は、今日まで
そんなに無かったかもしれない。こんな私を友達として
見てくれるネプギアも、憧れているお姉ちゃんにも、面と
向かって自分の本当の気持ちを伝えることは出来なかった。
いや、プライドが邪魔で素直になることが怖かったんだ。
だけど、もしかしたらこの人になら自分の全部を見せても
受け入れてくれるんじゃないんだろうか?
素直じゃなくて、甘えることが下手くそな私の事を、
今みたいにどんなことがあっても、ずっと私のそばにいて
抱きしめてくれる。
その答えは、優秀である事が何よりの自負であった自分が
出した結論にしては大分浅はかで、本当にこの答えを出した
自分の事が今でも信じられそうになかった。
確信はなかったけど、それでもこの瞬間がいつまでも
続いてほしいと思った私は、今思うことその全ての気持ちを
ありのままに心から解き放ち、目の前の人に伝えた。
『凍りついた私の心が温まるまで、このまま抱きしめて』と。
今の自分の想いを込めた一言に帰ってきた答えは無かった。
けど、私の小さくて華奢な身体を抱きしめている力が徐々に
強く、優しくなっている事に気が付いた私は、そのまま
ゆっくりと顔を上げ、目を閉じ、私が最も渇望する次の瞬間へと
胸を期待に膨らませた。
ここ数日、YOU TUBEや各種動画サイトを見漁りながらネプテューヌシリーズのノリや、
剣のノリを研究しています。脚本家やシナリオライターの人達はよくもまぁ色々なことを
思いつくものだと感心している今日この頃です。さて、次回は前書きでも説明したように
ネプテューヌ中心のお話で行こうと思っています。情勢が安定しない自国に妹を置いておく
のが危険と判断したネプテューヌとブランは、ベールのいるリーンボックスに彼女たちを
避難させていました。しかし、教祖である西沢ミナはこれを秘密裏に七賢人側に与する
組織達にリーク。キセイジョウ・レイの手を離れた暴徒と化した市民団体はあること
ないことをでっち上げ、ルウィーとリーンボックスから義勇軍という名目で女神達の
居城を次々に破壊していきます。更にユニの命がけの作戦ですべて消え去ったはずの
モノリスが再び現れます。はたして女神達の運命やいかに?
次回、ALBINO JOKER