ボウケンシャーキリト   作:月蛇神社

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 こんな作品に目を通してくださりありがとうございます。


始まりの日 1

「そろそろ時間か」

 そう呟いて俺はプレイしていた世界樹の迷宮をセーブし、机の前からベッドへ向かい、5分前からスリープモードにしておいたナーヴギアを装着しベッドに横たわる。

 念のための時間確認を兼ねてポケットのスマホを枕の横へ置く。12時58分。ソードアート・オンラインの正式サービスまであと2分を切ったところだ。最終確認、トイレは行った、水分も取った、バイザーに表示されてるアンテナは3本。

 準備万端、いつでもいける。初のフルダイブに緊張感があるのか身体が少し震えている。

 ピリリ、と13時になったことをスマホのアラームが知らせてくれる。

 緊張を解すために深呼吸を1回、震えは収まってくれた。

 よし、行こう。

「リンクスタート!」

 現実から仮想へ飛び立つ言葉を言う。次第に俺の意識が遠ざかっていくのを感じた。

 そうして桐ヶ谷和人は仮想世界へ向かうのであった。

 

 

 

「これが⋯⋯仮想世界」

 初期設定を終え、妙な浮遊感が消えていくのを感じ目を開けた俺の目に飛び込んできたのは。ここは現実だ、と言われても信じてしまうくらいの光景だった。視界いっぱいに映る人々、立体感を感じる建造物、自分の身体に触れる服の感触すらも、本当に仮想世界にいるのか現実にいるのかを未だに判別させないくらいにリアルだった。前にかがんで今立っている石畳に触れてみても、伝わる感触は現実のそれそのものである。

 やっぱベータテストに落選したことは今でも悔やまれるなぁ。倍率すごかったし当たれば奇跡みたいなのだったし仕方ないけど。

 とまあこの世界と現実世界との違和感の無さに興奮すること5分、今度はメニュー画面を確認するために右手の人差し指と中指をそろえて下に振る。途端に薄紫色の長方形のウィンドウが現れた。

 自分の装備状況、所持金、アイテム欄、そしてプレイヤーネーム欄に浮かぶKiritoの文字などの情報があることからこれがステータスウィンドウで間違いないだろう。といっても今の持ち物といえば初期金額の1,000Colくらいなのだが。

 さて、確認はこれくらいでいいだろう。そう思った俺は今出来る装備を整えるために仮想世界の第一歩を踏み出した。

 

 

 

「どの武器で行くかな⋯⋯やっぱ無難に片手剣か?いやでも槍もいいよなぁ⋯⋯ハイランダーのかっこよさが忘れられないし。あーでも⋯⋯」

 最初いた広場から約10分後、武器屋を発見した俺は現在進行形でどの武器を選ぶかでかなり迷っていた。値段は初期武器らしく全て200Col。まずは防具を選びたかったので防具屋で茶色い革のコートとポーチを買って今の所持金額は650Colだ。コート型にしたのはただかっこつけたかったからだ。せっかくの仮想世界なんだ、ちょっとはかっこつけたいものである。

 正直なところポーションも買っておきたいし、戦闘も自分で動くのだから1つに絞るべきだろう。だがボウケンシャーとしては色々と使いたい気持ちもあるのだ。

 最終的に昔剣道をやっていたことから片手剣と世界樹でメインで使っていたハイランダーという職の主武装である槍を買うのだった。

「あとはポーションかな⋯⋯他になにかあれば見ておくか」

 そう思って武器屋を出た俺は雑貨屋を見つけ、ポーションを数個買った。即時回復ではなく徐々に回復していくタイプだったのは少し戸惑ったがまあ次第に慣れていくだろう。

 ただ、アイテム欄に“アリアドネの糸”という文字がないのが落ち着かなかった。

 

 

 

「おーいそこの兄ちゃん!よかったら俺とパーティを組んでくれねぇか?」

 主街区から外へ出るゲートへ向かうと後ろから声をかけられた。振り返ってみると赤いバンダナを頭に巻き、腰に曲刀を刺した男性プレイヤーがいた。俺の対人スキルが低いのでこうやって知らないプレイヤーにさっと声をかけれることを羨ましがりながら少し考える。パーティを組むくらいなら別にいいし、フレンド申請にも挑戦してみるいい機会かもしれない。

「⋯⋯君はこの冒険者と共に行動してもいいししなくてもいい、てとこかな?」

「ん?何か言ったか?」

「いいや、何でも。パーティは全然いいぜ。俺はキリト、ベータテスターじゃないし仮想世界は初めてだからレクチャーとかは出来ないけどいいか?」

「俺はクラインってんだ。俺も仮想空間は初めてでちょっと不安があってなー。街から出るときに見つけたプレイヤーに声をかけようと思ったらそれがお前だったわけよ」

「なるほど、だったら初心者同士頑張るとしようぜ。俺も緊張感がすごくて少し不安だったんだ」

 そんな雑談を交わしながら俺たちは外へと向かった。無事クラインとフレンドになれたのでゲーム1日目からいい滑り出しではないだろうか。

 

 

 

「「うぉあああぁ!!?」」

 クラインと2人そろってフィールドのすぐそこにいたエネミー“フレンジーボア”の突進を喰らい吹っ飛ばされる。これは2回目の戦闘だが吹っ飛ばされるのはかれこれ4回目だ。戦闘自体も1回目より全然上手くいかずボアのHPも8~9割は残っている。しかも、このダメージは最初にターゲットを引く為に与えたものだ。いやまあ原因はわかっているのだが。

 それはソードスキルの存在だ。このゲームは、RPGにはつきものの魔法攻撃が一切無いという大胆な設定であり、その代わりにソードスキルという必殺技が各武器に設定されている。

 1回目の戦闘は、まずは仮想世界の動きに慣れようと通常攻撃で倒すことにしたのだ。最初はソードスキル頼りで大丈夫かもしれないが後々の攻略はきつくなるだろう、ということをクラインと話し合い、この方針になった。多少はダメージを受けながらだが倒すことには成功した⋯⋯が、問題は今やっている2回目の戦闘だった。

「うぐぐ⋯⋯これ結構モーション取るの難しいな」

「キリトよぉ⋯⋯これさっさと倒して空打ちで練習した方がいいんじゃねーか?」

 ソードスキルの発動、これが思った以上に難しいのだ。

 ソードスキルの発動にはまず自分の身体をスキル毎に決められたモーションを取る必要がある。ただ、戦闘中にそれに集中するあまりエネミーへの注意が低くなってしまっていたり、構えが浅かったりして発動が出来ていないのだ。おかげさまで俺もクラインもさっきから攻撃を喰らいまくってる有様だ。

「あと少しな気はするんだよな⋯⋯」

 そう呟き1回深呼吸、そして構えをもう一度取る。ボアは突進の構えを取るように蹄を鳴らしている。流石にそろそろ決めたいところだ。

 身体を半身に構え剣を握る手を後ろに回す。さっきより大きく、深く。そうすると、全身を動かそうとする力が乗る感覚が入ってくる。同時にボアも突進し始めて突っ込んできた。物体が迫りくる恐怖を押し殺し感覚に身を任せる。そして。

 ボアとすれ違うように俺は前に踏み出し斜め上から切り込み、奴をポリゴンの塊に変えた。

「⋯⋯出来た」

 やばい、興奮がすごい。そんな語彙力が飛んだような感想が一番に出るくらいの衝撃だった。まず速さが全然違う。それに威力も普通に切るより遥かに高い。何より今までやったどのゲームよりも倒したときの爽快感g「すっげーなおい!」

 クラインの興奮した叫びではっと我に帰る。サンキュークライン、俺あのままだとあと2~3分はトリップしてたかもしれない。

「おいキリトよぉ今のどうやったんだ!?」

「落ち着けクライン気持ちはわかるけど近いって」

 クラインがものすごい勢いで迫ってきたのを抑える。けどその気持ちはわかる、逆の立場なら俺もそれやってた。

「ああっと、すまんすまん。んでもほんと、どうやったんだ?」

「何と言えばいいのやら⋯⋯一先ず集中してから大きく深くモーションを取ったら発動出来た。でも偶然かもしれないしこればかりは感覚しかなくないかな」

「なるほどなぁ⋯⋯よし、今度の敵は俺1人でやらせてくれ」

「OK、その間にこっちは空打ちで感覚を掴んでみる」

 

 

 

 時間はあっという間に過ぎて17時30分。俺とクラインはソードスキルの練習やポーションの回復具合の調査等色々と出来る事を試し、今は岩に腰掛けて休憩していた。そこから見える夕陽は現実とあまり大差無いように感じる。今でもまだここが仮想世界だと信じ切れてないくらいだ。

「技術の進歩はすごいねぇ⋯⋯そういやキリトはこれやる前は何のゲームやってたんだ?俺は色々なゲームでギルドリーダーやってたんだ」

「ギルドリーダーとはまたすごいもんやってるな。俺は世界樹の迷宮でボウケンシャーやってた」

「ボウケンシャーてお前まじか⋯⋯あれかなり鬼畜じゃねーか」

「ベータに落ちてからの暇つぶしで家のゲーム漁ってたら出てきたんだよ。それから一気にドはまりだ。てことでこの世界でもげっ歯類に容赦はしないとくにリスは抹殺しかない」

「お前そのうちリススレイヤーとかの2つ名ついたりしてな」

 とまあそんな感じの会話で盛り上がっていると

「そんじゃ俺は一旦落ちるわ。そろそろピザ頼んだ時間なんだわ」

 どうやらクラインは一旦落ちるようだ。

「準備いいなお前。それじゃあログインしたらメッセージを送ってくれ。まあ俺もリアルの休憩取りたいからもう少ししたら落ちるけどさ」

「おうよっ!そんじゃお先に~」

 そういうとクラインはステータスウィンドウを開き操作し始めた。俺も一先ずアイテム整理するかと指を揃えたところで

「あり?ログアウトボタンがないぞ?」

 

 

 クラインからこの世界ではありえてはいけない言葉が聞こえ、俺は疑問で固まり指を振れなかった。




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 では次回で。

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