あと今回は世界樹要素はほぼ無いです。
「ログアウトボタンがない?」
俺は半信半疑でそう言い返した。そんなことはないだろう。ログインしたときにステータスウィンドウを確認したときには存在していたはず。何分も見ていたし確かな記憶だ。
「まさか、そんなことあるわけ⋯⋯ない」
しかし現実は、クラインの言ったことが事実だった。ステータスウィンドウの下部にぽっかり空いた穴、ログアウトボタンの存在していた箇所である。
「おかしい⋯⋯俺がログインしてから見たときにはあったはずだぞ。それが何で⋯⋯まさかバグ?」
「やっぱそっちにもないか?しっかしこれがバグだったとしたらログアウト出来ないバグなんざ運営は涙目だろうな。今頃はログアウトさせろって問合せが殺到してるんじゃねーか?」
「かもな。現実に帰れないなんてそんな馬鹿なことはないよな」
そう言ってクラインと軽く笑う。そう、ありえない。ありえないはずなんだ。
「あ」
「どしたよキリト」
「いやぁ帰れないってことはお前のピザはどうなるんだろうかとふと思ってな」
「あああぁぁぁ!?俺のピザァァァ!?」
「ご愁傷様⋯⋯だけど本当にどうなっているだ?」
「その前に俺のピザが⋯⋯ログアウトの方法は他に何かないのか?」
「現実で他の誰かに直接ナーヴギアを外してもらうとか回線を切ってもらうとか⋯⋯ゲーム内でできることは無いんじゃないか?」
「嘘だと言ってくれよぉ⋯⋯。頼むから本当に」
「いやそうは言っても⋯⋯」
クラインと言い合ってもどうしようもない。
ログアウトが出来ないのはバグなんだ、きっとそうだ。今頃は運営がそれを解決しようと尽力を尽くしているはずなんだ
そんな俺の願望はこの
何が起きたのかさっぱりわからなかった。ゴーン、ゴーンと重い鐘の音が聞こえたと思えば青白い光に包まれ、気が付けば一瞬で人の群衆の中。周りの建物と中央の特徴的なオブジェクトが見えるのでここが「始まりの街」だということは理解出来たがそれだけだ。
何故こんなにも多くのプレイヤーが集められている?
この状況は何だ?
運営からの告知とお詫びなら態々プレイヤーを集める理由は無いんじゃないか?
「⋯⋯どういうことだこりゃあ?」
「わからない。だけど何かありそうだ」
直後、不安に駆られる俺の心をさらに不安にさせるかのように紅いウィンドウが空を覆いつくした。そこに見える文字は「警告」と「運営からの告知」の2つ。そしてすぐさま隙間から垂れる血のようにドロッとした感じの液体が落ち、それはやがてローブを纏った大男の姿を形作った。
大男は言った
「ようこそ、私の世界へ。私の名は茅場昌彦、今やこの世界をコントロール出来る唯一の人間だ」と
そこからの言葉を俺はあまり覚えていない。ショックでそれどころではなかったのもあったのかもしれない。ボウケンシャーとして非常時の対応と冷静さはあると思っていたが所詮俺もただの中学2年の14歳のガキだったということだろう。
大男の言葉をまとめると、
「大男は茅場昌彦本人である」
「このゲームからログアウト出来ず、外部からの救出も望めない」
「ゲームから脱出したければこの“アインクラッド”を100層全ての攻略」
そして、これが一番重要なことだ。
「ゲーム内でのHP全損は現実での死を意味する」
脱出不可、クリア条件の提示。これはまだいいが「死に戻り」が一切出来ないとは厳しいことこの上ない状況だ。何せ、この手のゲームは死にまくって攻略するものだろう。それが出来ないというのはかなりきつい。そして明確に死ぬことを告げられては情報を得るのも一苦労だ。恐怖心がどうしても入ってしまう。一体、ゲームクリアにはどれだけの時間がかかるのだろう。
そして、全プレイヤーに「手鏡」というアイテムが渡され、俺たちの顔はアバターから現実の顔に戻された。
奴は言った。
「これはゲームであっても遊びではない」と。
「これでチュートリアルを終了する」と言ってローブ姿は虚空へ消えていった。
NPCの商人の客引き声や町人の会話が虚しく響く。
直後、
「ふざけるなああぁぁ!!!」
「いやあああぁぁぁ!!!」
「出せよ⋯⋯ここから出せよ!!!」
「嘘だろ⋯⋯嘘だと言ってくれよ⋯⋯誰か⋯⋯」
怒号をあげる者、悲鳴を叫ぶ者、茫然と現実を否定しようとするもの、始まりの街の広場でさまざまな感情が爆発した。それは負の感情でしかなかった。だが、叫んでも変わらない。
「⋯⋯どうする、キリト?ていうかお前結構女顔だったんだな」
「⋯⋯とりあえず、ここから離れよう。このなかじゃ話し合いも満足にできやしない。ていうか顔についてはほっとけやい、俺だって気にして⋯⋯」
会話で精神をつなぎとめようとする。そうでもしなければ俺もクラインも狂ってどうなるかわからなかった。
だが俺の言葉は途切れた。それは何故か。
目の前でプレイヤーの一人がフッとその場で倒れたのだ。俺と変わらないくらいの女の子だった。
「ちょっと?ねえ、しっかりして!?」
幸い、別の女の子が同行していたのかその子はすぐに抱えられた。しかし、どんなに呼びかけられてもその子は反応しない。
「クライン!」「おう!」
どんなに非常事態でもやはり俺らは男だったということだろう。もしくは気絶がトリガーになって冷静さがどこかへ行ったのかもしれない。とにかく、俺とクラインは即座にそっちに向かった。
そこには長い栗色の髪の気絶した女の子とそれを抱きかかえる紺色の長髪の女の子、そしてフードを被った小柄な人物が傍にいた。
「おい!大丈夫⋯⋯じゃないな。どうしたんだ?」
「そ、それが⋯⋯」
「その子が気絶したんダ。多分現実を受け入れ切れなかったんだろうサ。そこのおにーさんと少女ちゃんは大丈夫なのカイ?」
女の子は混乱していて会話どころではなかったが、フードの人は一部始終を観ていたのか代わりに答えてくれた。声色から女性らしい。
「俺らの方は何とかな⋯⋯あと俺は男だ」
「おっと、それはすまないナ⋯⋯とりあえずここから離れよう、ひとまず落ち着かなきゃネ」
その子はおにーさんがおぶってくれ。そう言ってその人は広場を離れようとする。ついてこいということらしい。
俺たちはその指示に従い、広場を離れていった。
「よし、ここなら大丈夫だろう」
広場から離れた噴水の前。俺たちはそこに腰を下ろしていた。紺色の子はまだ茫然としているが。
「とりあえず自己紹介と行こウ。俺っちはアルゴ、ベータテスターで、その時は情報屋をやってたンダ」
その女性はアルゴと名乗った。特徴的な話し方にフードを被り、顔には謎のフェイスペイント。まるでネズミのひげのようだ。そして驚くことに
「ベータテスター⋯⋯!?」
「そ、テスターサ。それよりお前さん方は何て言うんだイ?」
「あ、ごめん⋯⋯俺はキリトだ」
「俺はクラインってんだ。んでアルゴさんよ、その子大丈夫なのか?」
「アルゴでいーヨー。まあ気絶しただけだしもうそろ目が覚めるころじゃないカ?それより⋯⋯」
そう言ってアルゴは紺色の子の目の前へ向かい
「せいやっ」
「うひゃあ!?」
盛大に猫だましをかました。
「起きてるカ?そろそろ落ち着こうゼ」
「ごめんよ⋯⋯ちょっと待ってて、いつものボクに戻るから」
そう言ってその子は深呼吸をしてパチンと頬を叩いた。
「ボクはユウキ。さっきはごめんね、でももう大丈夫。明るいボクに戻ったから!」
「OK、じゃあキー坊とクラインのおにーさんとユー君、と⋯⋯」
アルゴはウィンドウを呼び出して何か操作をした。直後にピロリン、と電子音が聞こえアルゴからのフレンド申請メッセージが届いた。
「何かあれば俺っちに訪ねてくれヨ。8階層までだったら格安で情報提供してあげるサ。それ以降は俺っちにも未踏の地ダ」
「サンキュ、助かるよ。早速だけど色々と教えてくれないか?戦闘のコツとか、探索するときの注意点とか」
「それは俺からも頼みたい。早く俺の仲間と合流してどうするか考えたいしな」
早速色々と聞くことにする。それにアルゴが答えようとしたその時。
「あれ⋯⋯ここ、どこ⋯⋯?」
気絶していた女の子がようやく目を覚ました。
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では次回で。