ようやく女の子が目を覚ました。まだ少しの混乱はあるようだがこれで話を本格的に進めることが出来るだろう。
「おはよう。意識はしっかりしてるか?視線は?」
「なんとかってところかしら。⋯⋯ねえ、やっぱりここはゲームの中なの?あれは夢か何かじゃないの?」
「ところがどっこい夢じゃなくて現実サ⋯⋯ゲームから出られないデスゲームってかたちのナ。俺っちはアルゴ、君は?」
そうアルゴが告げるとその子は落胆したのか表情を曇らせ、そう⋯⋯と呟いた。
「ごめんなさい、名前よね。名前は結k⋯⋯」
そう言いかけたところでアルゴが口をふさいだ。というか今の思いっきり本名っぽかったのだが、この手のゲームは初めてなのだろうか。
「おい待て思いっきり本名っぽかったゾ今の!そうじゃなくてプレイヤーネームの方ダ。いくら現実とごっちゃなこの状況でも本名バレは不味いだロ」
「プレイヤーネーム⋯⋯そっか、現実とは違うのね⋯⋯ありがとう、今後気を付けるわ。改めて、私はアスナ。よろしく」
さて、本題に入ろう。まずは現状の整理だ。視界の隅に表示される時刻は18:00。空は夕焼けから夜へと変化しつつあり、今から外に出るのは危険だろうと感じさせる。
アルゴは言う。
「まず茅場の言ったことが本当だったとシテ、ログアウトは出来ない・ログアウト条件はこのゲームのクリア・HPが0になれば現実でも死ぬ。ここまではいいナ?」
そこまで言ったところで全員に確認を取る。俺たちも問題はないので頷いた。
「じゃあゲームシステムの話とベータでの話をするゾ。このゲームは飛び道具の概念がかなり薄イ。魔法もなけりゃ遠距離からの攻撃もせいぜい敵の気を引く程度のダメージしか入らない。距離をとれるとしたら槍や両手根だナ。それでも中距離だガ。スキルに関しては各スキルの熟練度によって順次解放されていく。レベルアップでポイントがもらえるが、それは敏捷か筋力のどちらかに振ることが出来ル。リセットとかは出来ないから注意してくレ。ソードスキルはモーションをとらなきゃいけないし技後硬直があるから打ちすぎに注意。んで大体予想できると思うがエネミーは夜中の方がレベルが高い場合が多い、だから慣れないうちは夜中に出かけるのはやめた方がいいゾ。ただ、夜中限定のクエストもあるし、誰かが1回クリアしたら二度と受けれないタイプのもあるからそこはよく考えてくれ。ここまでハ?」
そこまで言って再び確認を取る。ソードスキルは俺たちは体験しているし、おそらくここはユウキたちも大丈夫だろう。アスナの表情が?で埋め尽くされている以外は。だからエネミーで気になったことを聞く。
「質問だ。このゲームにエネミー図鑑とかそういうのはあるのか?」
「んじゃあ俺からも。バフとかはどうやって付与すりゃいいんだ?魔法がないからそのあたり気になるんだが」
それを聞いてアルゴは答える。
「じゃあキー坊かラ。図鑑とかは無い。情報はNPCとの会話とかイベント、もしくはプレイヤーがまとめたのを掲示板とかで載せるとかだナ。後者は俺も後でやる予定ダ。次は⋯⋯」
とまあ、こんな感じで俺たちは情報を整理していった。そして完結にまとめるとこうだ。
「つまり糸無しグラス無しネクタル無しからのテリアカも無し、状態異常はポーションか時間経過、情報収集は命がけでおまけにhageたら情報の抱え落ち。バフに関しては攻守に関係するものは無くポーションや装備で付与⋯⋯こんなところか」
「さてはボウケンシャーだナおめー」
「あいにくシリーズの半分くらいしかプレイ出来てないけどな」
頭上に?が浮かんでいる2人への
「今後の方針だけど⋯⋯俺は最前線を目指す。死の危険が隣合わせにあるけど、レベルはあった方が色々と役に立つと思う。それにやっぱこの先に何があるのかは見てみたいしな」
「ボクもキリトと行こうかな。一人で活動するのは絶対に危険だよ、せっかく知り合いが出来たのに死なれたら悲しい」
「そこは“まだ行けるはもうヤバい”の精神でなんとかやって行くしかないなぁ⋯⋯堅実にいくしかないさ」
俺とユウキは攻略することにした。そして、最後のアスナだが⋯⋯
「私は⋯⋯街に残ろうかな」
彼女は街に残ることを選んだ。
「確かにキリト君の言うことにも一理あるし、レベルも上げるけど⋯⋯やっぱり前線は怖いわ。でも、ついていきたい気持ちもあるの⋯⋯」
そこへ、アルゴの助言が入った。
「なら、1層のクリアまでは一緒にいればいいんじゃないカ?2層が解放されれば転移門っていう各層を行き来できるものが使えるようになるから後々はそれを使って移動したらいい。そのあとは生産系スキルでサポートとかナ」
生産系スキル
文字の通り武器や防具作成、裁縫に料理まであるという、鍛冶や家事が出来るスキルだ。SAOは戦闘関連以外のスキルも数多くそろっているらしい。ほんと、リアルの身体を考えなければ生活ができそうなくらい自由なゲームだ。
「なるほど⋯⋯生産職でサポートするのもありなのね。じゃあ私はそれでいくわ」
全員の方針は決まった。
「わかった。とりあえずは迷宮区とやらを目指しつつしっかりとレベル上げをすることにしよう。今の時間は⋯⋯約19:30か、思ったよりも話し込んでたんだな俺たち」
「そういえばお腹減ってきた⋯⋯不思議だね、ゲームなのに減る感じはあるなんて」
「現実の身体は今頃どうなっているのかしら⋯⋯無事だといいのだけれど」
確かに、俺たちの身体はどうなっているのだろうか。病院に搬送されて保護されるみたいなことは言っていたが俺たちにそれを確認する術は無いのが不安を助長させる。しかしそんなことを気にしても仕方ない。
「とりあえず宿を探して飯にしようぜ、腹が減ったままじゃ暗い考えしか出ないって言うしさ」
俺はその不安な気持ちを振り払うようにそう提案するのだった。
感想をいただければ喜びます。ですので、どうか感想を⋯⋯