TS小娘とふた姉の日常 作:エルフスキー三世
京子はすぐに来てくれた。
そして凄く驚いた顔をしている……よしっ‼
私は目標を達成できたことにとりあえずの満足を覚えた。
連絡してくれた男子生徒は小森君といって、メイド服が珍しかったのか写真を撮らせてくれと熱心にお願いされた。
お礼もしたかったので、写真は公開せずに個人使用のみでということで引き受けた。
すると彼は顔を真っ赤に染めながらスマホで写真を撮っていたが、いったいどうしたというのだろうか?
「まさか来るとは思っていなかったから本当に驚いたわ……小森君には変なことされなかった?」
「うん? 京子が来るまで付き合ってくれて、とても親切だったよ」
もし男のまま学校に通えていたら、いい友達になれたかもしれない。
「シオンって女として、ちょっと……ううん、ところでなんでメイド服で来たの?」
「それはその、色々と事情があって……」
初めてのお使いをする子供のようにはしゃいで、スマホやサイフどころか着替えるのも忘れていましたなんて……京子には絶対言えない。
「事情……ハッ!? 私をよろこば興奮させるためにっ!?」
「……………………」
何を妄想したのか、こん小娘がぁ~と、顔をニチャァリ緩めて私の腰に手を回す京子。
才媛が人様に見せていいツラじゃない……周りに誰もいなくてよかった。
そんな話をしながら学校の中庭に向かっていた。
お弁当を渡して帰ろうとしたら、折角だしお昼を一緒に食べようと言われ、そして学校のほうには話を通してあるからと連れてこられたのだ。
ここまでの道のり、すれ違った生徒には「えっ!?」と例外なく驚いた顔で振り返られる。
『ほらほら、あの子』『うわ、本当にメイドさんだ!?』『え、コスプレ? 外人? 何かの撮影か?』
こちらを指さして騒いでいる者もいる始末。
学校内で幽霊のような容姿の少女がメイド服を着て、しかも御堂京子と一緒に歩いているんだから注目されるのも当然か。
中にはスマホで写真を撮る者もいたけど……怪談系サイトなどへの投稿は勘弁してほしい。
同じマンションに住む幼稚園児には、お化け女と呼ばれ泣かれたことがあるんだ。
まあ、顔は日よけ帽子で隠れてるし、いいか。
それに、この雰囲気に懐かしいものを感じていた。
明らかな異物……野良犬が学校に入って来ただけでも大騒ぎできるのが学生というものだから。
「カオルと静子だけど大丈夫よね?」
「うん、その二人なら気兼ねしないですむ」
京子の幼馴染の二人には、私は一緒に生活してる遠い親戚として紹介された。
マンションにも何度か遊びに来ているので顔見知りである。
ちなみに私はロシア人クォータの日本生まれの日本育ちで、体が弱いため最近まで田舎で療養していた薄幸の少女という、よく意味の分からない設定が盛られていた。
やがて、中庭が見えてきた。
洒落たブロックの床と芝生、花壇とベンチ、そして中央には噴水が置かれている。
二つの校舎の間に挟まれる形で位置している場所だが、日当たりは悪くなく広いスペースのため、お昼休みになると休憩する生徒たちで賑わうのだ。
男の頃には縁のある場所ではなかったが……でも、噴水は校舎から眺めることもあったので懐かしさはある。
「おーい! 京~! シオっち~! こっちこっち!!」
声がする方に顔を向けると、日陰になっている芝生にレジャーシートがひかれていた。
その上で飛び跳ねて手を振る褐色肌の女の子と眼鏡の女の子が座っている。
中庭で休憩している他の生徒たちから注目される。
正直……恥ずかしい、です。
「……カオルは相変わらず元気だね?」
「ふふ、そうね、いつも通りよ」
京子は手を振り返しながら二人の元に向かう。
私もその後ろをついていった。
周りの視線はもう気にしないことにした。
先程から大声だしているボーイッシュなスポーツ系少女が尾崎カオル。
落ち着いたお姉さんといった感じのぽっちゃりな文学系少女が津村静子だ。
「おーシオっち、相変わらず、いい感じで表情筋が死んでるな!」
「こらカオルちゃん、失礼でしょう! シオンちゃん、お久しぶりね~」
「こんにちは、お久しぶり」
指をグーパーしながら、笑顔の二人に挨拶。
それと顔が無表情なのはデフォルトですのでお気にせず。
筋肉は生きているんだけど、動かないのは精神的なものらしい。
「京子ちゃん。シオンちゃんのご飯買ってきたけど、惣菜パン二個で足りるかな?」
「二個? 静~。シオっちは
「大丈夫よ静子、私のシオンはカオルほど馬鹿食らいじゃないから」
「なっ!? 花の乙女に対してそれは酷いぞ京っ!! シオっちも何か言ってくれよう?」
京子の突っ込みに文句を言うカオル。
そして泣き真似しながらこちらに振られたので、無難に返答した。
「カオルは運動しているから無問題。むしろ細すぎると思う」
「お……へへっ、流石シオっちは分かってるじゃん。ささっ、意地悪な京は無視して、お姉さんの元にきなさ~い」
引っ張られてカオルの太ももの上に座らされた。
京子とは違う、やや硬い座り心地と微かな制汗剤の匂い。
少しだけドキドキ、無表情だけど。
むうっと、頬を膨らませる京子とそれを苦笑して見守る静子。
いつもは優等生といった雰囲気の御堂京子が、この二人の前では私に接するのと近い無防備な感じだ。
幼馴染……三人の少女の関係は良好なものだと私にも分かる。
「カオル? シオンは私のだから、あまりべたべたしないでちょうだいね?」
「へへっん、やだね! げへへ~シオっちってミルクの良い匂いがするな。あ~癖になる~!!」
私の胸をやわやわと揉みながら、京子に舌をだすカオル。
意外と繊細な指使いがくすぐったくて、おふっと変な声がでてしまう。
うぐぐぐと顔を歪める京子と、もうっといった感じでなだめている静子。
うん……三人はとても良い関係だと思うんだ?
そして、私はなぜか静子の膝の上に座らされていた。
自分でも何しているんだと思うけど、彼女たちにとって私は愛玩するぬいぐるみポジションらしい。
京子の膝の上は遠慮しておいた……突発な野外プレイなんて冗談じゃない。
「ああ、うん……なんかカオルちゃんの言うことも少し分かるかも?」
頭を撫でられ、お姉さん的な微笑みを浮かべる静子にそう言われた。
「静子、私は重くないかな?」
「うんー軽いよー。だからシオンちゃんはもっとご飯食べたほうがイイネ?」
彼女お手製の一口ハンバーグを口にあーんされる……もぐもぐ。
うん、いい感じでタレがきいている。
小さなお弁当箱を覗くと、星型の人参とか彩鮮やかな野菜炒めとかも入っていた。
静子は料理が上手いな、あとで作り方を教えて欲しい。
「へいへい、シオっち。うちのオカンの唐揚げも食べるかい?」
そう言って男子高校生が使うようなサイズの弁当箱を見せるカオル。
彼女の母親がつくるお弁当は唐揚げにホウレン草炒め、卵焼きやヒジキなどのバランスの良いおかずで綺麗な盛り付けがされている。
ふむ……参考になるな。
「欲しいけど、食べてもいいの?」
「いいよーパンを半分も貰ったからな」
私に、唐揚げをあーんしながら言うカオル。
運動部のカオルにはこの量でも多分物足りないと思うんだけど、くれるというなら遠慮なく。
もぐもぐ……うん、下味が効いていてこちらも美味しい。
「くっ!? 二人して私のシオンにあからさまな餌付けして……私もしたいけど、これはシオンが私のためだけに、私に対しての愛情を込めて作ってくれたお弁当!! な、悩ましいわ!?」
京子はそんな感じで一人ハッスルして、うぎぎぎと悔しがっていた。
私たち以外の者には非常に珍しい御堂京子の姿だろう。
でも、ごめんよ京子……そのお弁当は、ほぼ冷凍物で作った手抜きなんだ。
「京は、シオっちを溺愛しているなぁ」
「京子ちゃんは一人っ子だからね、仕方ないよー」
「ふふ、まあね。私とシオンの仲は誰にも引き裂けないラブラブだからね?」
ふふんっと宣言する京子。
ええ、まあ、愛されているね……二人が想像するのとは違う意味で。
「二人とも結婚式には呼ぶから、祝辞を考えておいてね?」
「あーはいはい、もう、この妄想女どうにかしてくれよシオっち」
「うふふ、シオンちゃんのウェディングドレスは素敵だろうなぁ」
呆れ顔のカオルとウットリした表情の静子。
二人とも冗談だと思ってるようだけど、この人は半分くらいは本気だよ?
お弁当も食べ終わり、静子がもってきてくれたお茶を飲みながら、そんな会話をノンビリとしていた。
「いい時間ね。そろそろお開きにしましょうか? と、何だか人が集まってきてる……ごめん二人とも、シオンを校門まで送っていくわね」
「あいよ、シオっち、近いうちにどっかに遊びにいこうなー?」
「シオンちゃん、帰り道には気をつけてね~」
「うん、また今度」
指をグーパーして別れの挨拶。
そして中庭の周りを見ると、確かにきた時より人が増えていた。
視線を辿るに、どうやら私を見にきてるようだ。
「この学校の人間は、私の見た目がそんなに珍しいのかな?」
外人なんて今時珍しくもないが私はメイド服を着ているから……。
すると三人は顔を見合わせて、そして……。
「シオンはもう少し、女としての自覚を持った方がいいと思うわ」
「今まで田舎にいて同世代の子がいなかったんでしょう? 仕方がないよ~」
「まあ、自分の容姿に自覚なしってのが、シオっちらしいと言えばらしいな」
苦笑気味にため息をつかれた……ぬう、解せぬ。
シオンは色々とあって自分の今の容姿を不気味だと思っています