TS小娘とふた姉の日常   作:エルフスキー三世

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唐突に書きたいシチュが下りてきました


第4話

「シオンお嬢さま、今宵もお美しゅうございます」

「……」

 

 私の雇い主である御堂京子が、夏のアスファルトの上に落ちて溶けかけたアイスクリームのようにデレデレな顔をしていた。

 ファミリー向けマンションの一室。

 深夜の寝室である。

 私は普段の古風なメイド服ではなく、白いドレスを着けていた。

 フンスフンスと鼻の穴を大きくした京子に手渡され、熱量をともなった肉食獣の上目使いというのか……オブラートに包んで言うと子供のような純粋なまなざしで熱く見つめられたのでしぶしぶ着けた。

 ゴシック風ドレス。

 俗にいうゴスロリというやつでフリフリが沢山ついたひどく女の子、女の子したデザインだ。

 アニメやゲームなどで日常的によく見るそれを、まさか自分が着る羽目になるとは思わなんだ。

 

 白い布地にチョーカーの赤リボンのワンポイントが京子のこだわりだろうか?

 

 というかこの前、普段は使わない私専用機になっているゲーミングパソコンで、キーボードを鬼のように叩き検索していたのはこれを通販で買うためか。

 京子宛てにきた小包を渡したときのあの狂乱っぷりは凄かったもんな……中身がコレだと知っていたら人知れず闇に葬ったというのに……。

 しかし既製品にしては寸法がぴったりで、まるであつらえたような着心地だけど……まさか、オーダーメイドで頼んだわけではないよね?

 こんな家で楽しむ(・・・)以外に使い道のなさそうな衣装なのに。

 

 御堂家の財力を考えると、あながち冗談にならないのが恐ろしい。

 

「ああ、純白の絹のような髪に雪のような肌。紫陽花色の瞳に気品あふれる美貌……シオンお嬢さま、あなたはこの世の者とは思えぬほどお美しい」

「……」

 

 なんだか、家ではいつもテンションの高い京子だが、今夜はそれに輪をかけて絶好調である。

 こういうときは京子に付き合って乗ってあげるのがパートナーとしての礼儀なんだろうけど……生来のノリの悪さはいかんともしがたいのです。

 

 キングサイズベッドの縁に耽美かつアンニュイな感じで腰掛ける私(京子のリクエスト)の前に、燕尾服を着た京子が片膝をついてかしずいている。

 長い黒髪を後ろに流して縛った男装の麗人って感じで、コスプレの域を出ていないけどよく似合っていた。

 

「花の女神のようなあなたの可憐な姿の前では、天上に輝く月すらも自らの敗北を悟り、雲のベールでその身を覆い隠すでしょう」

「……」

 

 なるほど、私の容姿はお月さまを超えるのか……月の地表ってすっごいぼこぼこしてて美しいって感じじゃないと思うんだけどなぁ。

 

「これほど立派なレディになられましたことを、幼いころからあなたを見守り、そばにお仕えしてきた私は誇りに思います……」

「……」

 

 私がお嬢さま役で、京子が執事役をやっているつもりのようだ。

 個人的疑問だけど、こんな爆笑必須なセリフをずらずらと並べていても、そこはかとなくさまになってしまう京子のそれは美形補正と言うものだろうか?

 

「ああ、しかしシオンお嬢さま……そんな蝶よ花よと大事に大事に育てられてきたあなたも、もうすぐ嫁いでしまう……」

「……」

 

 自分の豊かな胸元に握った拳を当てて何かに耐える仕草をする京子。

 眉を八の字にしたその表情は、スマホで撮っておきたいと思うほど色気があった。

 ちっ、スマホはリビングに置き忘れてる。

 

「相手は美形で頭脳明晰で武術にも優れ、物凄く金持ちで仕事もでき人柄も良く女にモテモテで、しかし結婚したら他の女には目もくれずあなただけのことを考えてくれるナイスガイ……そんなあんちくしょう、ドドパンチョ侯爵のもとに行ってしまう‼」

「……」

 

 京子は脳内妄想を舞台俳優のような大げさなジェスチャーで語る。

 よくわからないけど設定は中世貴族な世界らしい。

 というか、その都合の良い完璧超人な男はいったいなに?

 逆バージョンなら……まあ、目の前にいますけど。

 しかし、それが女の子の考える世の男のデフォルトとしたら、元男としては苦笑してうなだれるしかないですね。

 それとドドパンチョ侯爵って、ネーミングはもう少しなんとか頑張ろうよ京子?

 

「あなたに仕える召使の一人として、あなたの幸せを願う一人の者として、この思いは秘めているつもりでした……しかし、しかしです、シオンお嬢さま‼」

 

 京子は、私のストッキングに包まれたつま先を恭しく両手のひらに載せた。

 そして自分の頬に当てて情熱的にこすりこすりする。

 言いたくないけど、頬を染めた京子のその表情と行動は少し変態的だ。

 風呂あがりだけど、指と指の間の匂いをスースー嗅ぐのは勘弁してほしいかな……ぺろぺろもやめてください、それは紛れもなくダメな変態さんだから。

 

「お嬢さま……お嬢さま……私はあなたのことが、うっ⁉」

 

 盛りあがりすぎて感極まったのか、普通にしてると冷たさすら感じる怜悧な和美人な顔を歪め、身をより屈めるとそれ以上はなにも言えなくなる京子。

 はぁはぁと息だけが荒い……。

 多分、多分なんだけどね。

 大事に育ててきたお嬢さまが他の男にとられる前に、貴族ですらない自分が奪ってしまう、決して許されない身分差の略奪愛というシチュに酔ってるんだと思う。

 うん、女の子ってシンデレラとかそーいうの好きだからね?

 それと京子の場合は、今まで大事に育ててきた無垢な少女を、自分の欲望のままに思う存分チョメチョメしてしまう妄想にも興奮しているんだと思う。

 まあ、無垢ってわけでもないんだけど……。

 ともかく絶対、間違いないと思うよ。

 だって私の足のつま先がいつのまにか当てられている京子の股間は……これ以上、京子のイメージがダウンすることは言いたくない。

 

 いつものプレイの習慣でぎゅぎゅと踏み込むと、おっおっおっ⁉ と汚ねぇ声を漏らす京子。

 

 彼女の後ろに視線をむけると、寝室に置いてある姿見の鏡に西洋人形というか、ビスクドールのように表情の薄い少女が呆れ顔で映ってた。

 もう夜も遅いし明日は予定があるし、色々と付き合うのも面倒になって、私は自分の太ももをポンポン叩きながら言った。

 

「苦しゅうない、ちこうよれ」

 

 なんかセリフが違う気がした。

 でも京子がベッド目がけてルパンダイブしてきたので正しかったようだ。

 豊かで柔らかい胸に顔を押しつぶされながら、私はため息をついた。




次回は多分来年(
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