TS小娘とふた姉の日常 作:エルフスキー三世
今日は週一の燃えるゴミの日。
私は頬を叩いて気合いを入れる。
いつものメイド服でボブカットな髪を軽く縛ると、中身の詰まったゴミ袋ふたつを両手に持ちエレベータを使って一階に降りた。
軽いストレッチはすでにすませている。
私と京子が共同生活(同棲とは死んでも言わない)をしている住居はファミリー向けというコンセプトで売りだしているマンションだ。
そんなセールスが成功しているのかマンションの部屋のほとんどは 親子な家で埋まっている。
ご家庭が多ければ当然あるのがマンション住人での交流イベント。
日々、暇を持て余しているのもあるけど、日曜日の公園のゴミ拾いから始まり、ソフトボールやBBQなどにも積極的に参加している。
挨拶もきちんとしているし、そつのない京子の社交性と相まって、このマンションでの私たちの評判は悪くはないはずだ。
世の中は何が起きるか本当に分からない。
それを誰よりも実感できる私にとって助け合えるご近所付き合いはとても大事である。
そう、たまたま夜のマンションの渡り廊下で会った幼稚園児にお化け女と大泣きされて以来、近隣のお子さまたちの目の敵にされている私にとって、それは本当に必要なことであった。
そのようにすべて打算で動く私自身……。
「くらえっ! お化け女っ!!」
子供たちの遊び相手になってあげるくらいには……いい人だと思いたい。
「おはようクソガキども、朝から非常に不愉快な気分ですよ」
演技的にはフ〇ーザさま。
私はエレベーター前で待ち構えている、期待に目を輝かすお子さまたちに丁寧に挨拶して、ゴミ袋を上に持ちあげると後ろも見ずに半歩横にずれた。
そしてバレリーナのように片足回転。
「あっ!?」
ロングスカートがふわりと花弁のようにわずかに膨れる。
私の後ろから横を勢いよく通り過ぎる小さな影。
それは十才ほどの日に焼けた肌をした男の子だった。
背後からの必中なはずだった
私が、ふふんっと鼻だけで見くだしたように笑うと、彼はとても悔しそうな表情をした。
……凄くいい気分デスヨ。
しかし甘い、このシオンさまに不意打ちをしようなんて角砂糖を振り掛けたご飯よりもなお甘い。
私は一斉に動きだした彼らをあえてスルーして両手にゴミ袋を抱えたまま、隙のない早歩きでマンション外のゴミステーションを目指した。
「あ!? 逃げるな! 勝負しろお化け女!!」
「嫌だ、お断りします」
「まてお化け女! 追いかけろー!!」
「おやおや、君たちの短い足で追いつけますか?」
「カズ、ブスをこっちにおいつめろ!!」
「小さい頃から女の子をブスと言う人は将来女にモテませんよ?」
「ブス! お化け女のブス!!」
「こら、三馬鹿! シオンさんはブスじゃないし、凄く美人だし、とても迷惑してるでしょ! 毎週馬鹿なことをやるのは止めなさいよ!!」
「お兄ちゃん止めて! シオンお姉ちゃんが可哀想だよー!!」
「知るかよブス!!」
「はい、君たちにはモテない呪いがかかりました」
口撃のジャブの応酬、まったくもって騒がしい。
私は早朝からマンションの住人である、ランドセル姿の生意気そうなお子さまたちとゴミステーションまで競争をしていた。
これも週一回の子供たち主催のマンション交流イベント。
正確に言うと三人の小学生男子にちょっかいをかけられ、彼らと同じ年の女子と私を見て大泣きした幼女の二人が私を助けようとしている。
いったいなんでこんなお付き合いの仕方をしているのか私自身が不思議でならない。
三人は人差し指と親指を合わせて揃え、他の指は組むという『カンチョー』という危険な技で私の進路を妨害しようとしていた。
正当防衛でデコピンを解放するに十分すぎる案件だけど、今日は両手を塞がっているのでは反撃もままならない。
彼らは私の下半身……お尻というかアニャル的なものを狙っているようだ。
ぶっちゃけ言いますと、この年で痔にはなりたくない。
そのため私は先程から小さな猛牛どもをいなすマタドールになって「よっ、はっ、ていっ!」と紙一重で華麗に回避していた。
「当たらないしキモイ!!」
「なに、この動き!?」
「おもにお化け女の腰と足の動きがキモイ!!」
「だから三馬鹿、シオンさんに失礼だって言ってるでしょう!! ……たしかにキモイけど」
「シオンお姉ちゃん、怖い……」
追いかけてくる男の子たちの悲鳴があがる。
カンチョーを避けるために腰を前後左右にフラフープするように振りながら、スカートの裾を引っ掛けないように大股で移動していたんだけど……操り人形のように関節の限界可動範囲を駆使するこの動きはやっぱりキモイのかな?
しかし、これくらいの年頃の男子ってカンチョーが本当に好きだよね。
毎度毎度してこようとするし。
考えている間にマンション横のゴミステーションに到着。
さてゴミ袋をおいたら反撃しよう。
人生の先輩として悪い子は指導しなくてはね。
地域で育てよう未来を担う可愛い子供たち……ふふ、なんてね。
そんな一瞬の気の緩み。
攻撃に転じるときが最も隙ができるとは誰から聞いた言葉だったか?
ゴミステーションの前に先回りした男の子がいた。
朝日の光を背にした彼は私の正面にいるのに組んだ指を自らの頭上に掲げていた。
へぁ…………ナニスル気?
「へへ、前は取った! 俺の黄金の指をぶち込んでやるぜ!!」
「ナイスともやん!! 尻尾は俺が切断する!!」
「部位破壊だ! 僕たちの協力プレイだよ!!」
「……私はモン〇ンのリオ〇イアか?」
思わず漏れたのは新作でたら欠かさずしているゲームのこと。
というか、非常に不味くないだろうか?
このエロガキどもにそのようなエロ知識があるとは思えないけど、女には前のほうに棒的なものを収納できる秘めたる穴があるわけでして……。
ショタ×オネなエロ漫画にお世話になったことが男のときは何度かあったけど、流石に自分で実演しようとはこれっぽっちも思いません。
性的な嗜好以前に間違いなく捕まるからね?
「くらえっ!!」
「くっ!?」
私は防御するために、ゴミ袋を両手から投げるように落とした。
しかし、それよりも男の子の指のほうが早かった。
私の股間に迫る
あれをやるのに……間に合うか!?
「はぁ……!」
自分の呼吸と心臓の鼓動がやけに大きく聞こえた。
ずぼっ!!
メイド服の布地に突き刺さり擦れる音。
勝利の予感に生意気そうな笑顔を浮かべる男の子。
「な、なにっ!?」
だがしかし、次の瞬間膝をついたのは男の子だった。
「ふ、ふふ……甘い、甘いよ少年」
私は悪い顔(を作っているつもり)で呟いた。
誘うように左右に開いた太ももで男の子の手首を挟み込んだ。
ギリギリのタイミングで私の両足が彼の両腕をホールドしたのだ。
カラテで言うところの肘と膝で挟んで受ける挟み受けの変形である……たぶん。
私の太ももに両腕を挟まれ動きを封じられた男の子の顔が絶望に、くっと歪む。
さてどうしてやろうかと腰に手を当て、脅すように彼の目を見ながら顔を近づける。
「うっ……!?」
「ん?」
なぜか男の子は頬を赤く染めて大きな動作で顔を横にそらした。
あれ、どうしたのかな、この程度の運動で疲れた?
しかし流石は男の子、すぐにいつもの憎々しげな表情を浮かべ。
「は、離せよ、このブス!!」
と元気に反抗してくれた。
ほほう、窮地でもなおも吠えるか、その意気やよし!!
「う、うわぁぁぁぁぁ!?」
最近、京子とのプレイで新しく追加したアレの動きを応用し、腰を前かがみにしたままお尻と太ももの筋肉にキュッと力を入れると、手を挟まれている男の子は変声期前の甲高い声で叫んだ。
その慌てふためきようが楽しくなって擦るようにぎゅっぎゅしてみると、さらに悲鳴をあげる。
くふふ、君は京子と違って実に綺麗な声で鳴いてくれるなぁ…………はっ!?
我に返る。
ああ、うん、少しだけ分かりますね
でも京子は両方いけるオールラウンダーぽいし参考にならないかなぁ。
まあ、何はともあれ彼の拘束を解いてあげよう。
と、その前に……。
「勝負ありだけど、君たちはもう少しがんばってみるかな?」
腰から上だけで振り向いて背後から迫る男の子二人に告げた。
表情が動かないので顔を斜めに傾け見下ろすような半眼で、少しでも迫力のでそうな怖そうな声でだ。
私のお尻まであと少しのところまで近づいていた彼らは、カンチョーポーズを慌てて解除すると降参とばかりに手をあげた。
彼らの頬も赤く染まっているけど最近の子は運動不足なのかな?
「ま、参ったから、いい加減俺の手を離してくれよー!!」
さらに真っ赤な顔をした男の子の悲鳴があがる。
ふふ、今週も私の勝利が決まったようだ。
しかし、そこに私の傲慢という名の油断があったのだろうか。
「ん、それじゃ離すよ」
彼を解放した瞬間。
男の子の手が上に大きく動き、バサっと風が吹いて、顔が一瞬で真っ黒いものに覆われた。
……わお。
「きゃああああああああああああぁぁぁ!?」
女の子の悲鳴があがった。
もちろん私のものではない。
その視界を奪った黒いものが自分のスカートだと気がついたのは、下半身がスースーして、いつも使っている柔軟剤の香りがしたから。
私は自分の着けているロングスカートを頭にかぶるという愉快な状況に陥っていた。
「うわっ、とものスカートめくりだ!?」
「すげーパンツ、やるじゃん、ともやん!!」
「へへ、思い知ったか、お化け女のバーカー!! 無表情ブス!! エロブース!!」
「三馬鹿!! あ、あんたたちねぇ!!」
騒がしい叫び声と何かを蹴る音とバタバタとした足音が遠ざかっていく。
うん、みんな元気だねぇ。
君たちくらいの年頃はそれくらいで丁度いい……のかな?
慌てふためくのも負けた気がして、私は下半身を剥きだしにしたまま余裕そうに腕を組んだ。
「シオンお姉ちゃん」
「ん?」
一人残っていた幼女が私の履いているパンツの紐を指でつんつんと突く。
少しだけこそばゆい。
「たまにママが夜に着けるようなパンツだね?」
「そうか、君の家は夫婦仲がいいんだね?」
「そうなの?」
「そうだよ?」
スカートを頭から外しながら、私は重々しくうなずく。
ちなみに誤解のないように言い訳させてもらうと、このラノベかエロゲーなキャラが着ていそうな黒レースの紐パンツは私の趣味ではない。
幼女を幼稚園に送るために迎えにきたお隣の美人なお母さんに朝の挨拶をしながら、私はそういう趣味の同居人を起こすために部屋に戻るのであった。
シオンが自分の容姿を変だと思っている原因かも?