TS小娘とふた姉の日常 作:エルフスキー三世
私は寝込んでいた。
「ご、ごめんねシオン」
私の部屋。
謝る京子に対し、普段は使われない新品のシングルベッドに寝たままフンっと鼻を鳴らす。
昨夜から今朝まで作戦名『がんがんイこうぜ!!』を選んでしまった京子のせいで体力を消耗し、倦怠感で身体を満足に動かすことができない。
腰がめちゃ痛いです。
「でもシオンも悪いのよ? 夜遅くにあんな格好して寝室にくるんですもの……おふふ、お姉さんを誘惑するなんていけない子兎ちゃんめ♡」
ナニを思い出したのか凛とした和美人な顔をだらしなく崩して腰を左右にクネクネしだす京子。
くせっ毛ひとつない長い黒髪も一緒に踊る。
というかこの人……一晩中「ふんふんふん!!」って腰振ってたのになんでこんなに元気なんだろう?
「いけない子兎ってなにさ? というか、あれは誰かさんに欲しくもない衣装渡されて『一生のお願いです、どうかあなたの哀れな下僕のために、これを着てくださいませシオンさまっ!!』ってうるさかったから着たんですけど?」
京子の要望だった。
明らかにエロ目的なエロコスチュームだったので断ってたんだけど、一ヵ月ほど毎日懇願されて根負けしたのだ。
物はなんだって?
兎耳カチュ-シャ、黒のハイレグレオタードにストッキング……それとピンヒール。
ええ、俗に言うバニーガールです。
私のジト目に、あ~と、視線をさ迷わせ頬をかく京子。
念願かなって夜の狼さんになったんだね。
ストッキングをビリビリ破くほどに興奮しちゃったんだよね?
こっちを見て「てへっ」って誤魔化すように小さく舌をだしたけど、別に可愛いともなんとも思わな……くもない。
「ねえ京子、本当に反省してる?」
「う、うん! それはもう!!」
「じゃ、しばらく夜のお勤めは無しで」
「えっ……?」
「というか、今月は無しにしてほしい」
「えええええっ⁉」
京子がびっくりしたネコのような顔をした。
なんだか可愛い……いやいや、そこまで大げさに驚かなくても。
「ちょっ、ちょっと待ってシオン、今月ってあと二週間もあるじゃない!?」
「たった二週間でしょう? 前々から言おうと思っていたけど京子は度が過ぎてるよ。いい機会だから我慢も覚えてね」
「くぅ! シオンとひとつ屋根の下にいるというのに一分一秒でも我慢できないわ!? 朝起きてから寝る時まで、いえいえ夢の中ですら!! 学校に行っている時、お風呂は勿論お手洗いの時もよ!! 愛らしいシオンのことを考えるだけでご飯三杯はお代わりできるわ!! くふっ、このえっちな小悪魔さんめっ♡」
京子さん、すんごいエロい表情をしてるよ?
つーか、どんだけヤリたいんだよこの人。
「えっちな小悪魔ってなにさ……男としての気持ちも分かるから、今までは求められても仕方ないかなと甘やかしていたけど、度々こんなにハッスルされると体がきつい」
「うっ!?」
「それとも御堂さん家の京子さんからしてみれば、私みたいな中途半端な女の出来損ないなんてエッチさえできればどうでもいいのかな?」
「……シオン」
京子が先ほどまでの態度が嘘のように静かな表情を見せた。
顔にはでてないけど間違いなく怒ってる。
まあ、自分でも自虐のすぎる発言かとは思ったけど。
「馬鹿……あなたは今の私にとって掛け替えのない存在なんだから、そんな自分を卑下するような悲しいことは冗談でも二度と口にしないで?」
普段の優雅で余裕ある雰囲気からは想像もつかない、その怜悧な顔立ちそのものの冷たい迫力をもった御堂京子の姿だった。
怖さはあまり感じない……むしろ、きりっとして少しかっこいいかも。
なんにしても、こんな京子は初めてだ……。
うん?
別に、京子に大切とか言われて喜んでないよ?
というか我ながら意地の悪い聞き方だったかな?
さらに意地の悪いことを言うつもりだけど……だから喜んでないってばっ!!
何故か照れくさくて、咳払いをひとつして京子に告げた。
「そこまで言うなら、私のために二週間くらい我慢できるよね?」
「えっ? ……ええっとそれとこれとは案件が違うと言いますか……」
「あれ、私のことが掛け替えないほど大切じゃないの?」
「う……うう……は、はい」
取った言質を反故にする暴挙は京子でもできないようだ。
彼女は涙目で不承不承うなずいた。
◇
そう約束をして三日目が経過。
朝のキッチンである。
私はお味噌汁の火を止め、ため息をつく。
キッチンにあくびをしながら入って来た京子の姿にため息をついたのだ。
「ふわぁぁ……おはようございます」
「おはよう京子。あのさ、朝はちゃんとしてよ?」
「んー……なにが?」
京子は不思議そうな顔で髪の毛の乱れた頭をかく。
そんなだらしなさもファッションですと言い切れそうな美貌は流石である。
ただ、ワイシャツはいただけない。
正確にはワイシャツの下が全裸なのはいただけない。
数多くいるであろう、御堂京子に恋い焦がれる男子学生なら一生分の運を使っても見たいと思う姿なのかもしれないけど、先ほどからおっ立ているブツがいただけない。
ナニが?
ええ、ナニがですよ?
「朝から元気なのはいいんだけどさ……」
なんと言っていいか分からずに口ごもる。
男の時に自分のモノは飽きるほど見ているけど、他人の……しかも暴れん坊状態のモノを明るい日の下で見るのは本当に変な気持ちだ。
なんだろう、こそばゆいと言うべきか?
知らない
「シオン、ひょっとして発情しちゃったのかしら?」
なんでそうなるのさ?
「ふふんっ」
「…………」
腕組みして得意げに見せつけてくるのが、またイラってくる。
しかし、どうしたものかなぁ……。
痴態をさらす京子をじっと見る。
…………。
うーむ、私が男の時はどれくらいの大きさ(膨張率)だったかな……ハッ!?
そうじゃなくてっ!!
「朝から、それが目障りだからどうにかしてほしい」
「ひどいっ!? 毎回シオンをあんあん喜ばせているご立派さまなのに!!」
……別にあんあん喜んでねーし。
「それに仕方ないでしょう、これは男の子な朝の生理現象なんだから」
「知ってるけどさ……それを私に見せない努力というのか、せめて下着は着けてきてよ」
「あら、私が自分の家でどんな格好をしようと私の自由でしょう? シオンは愛の営みを禁止するだけではなく、私が家でくつろぐ権利すらも奪う気かしら?」
う、うーん……。
まあ、強引だけど言っていることは分からなくもない。
全裸はともかくとして、家の中でパンイチとか気持ちいいよね……私も京子が学校に行っているときはたまにやる。
「じゃあ、トイレでしてきて」
「あらやだ、
「………………」
京子は頬に手の平を当て腰をクネクネ……。
ナニもぶらぶら……。
この人、どうしてこう理解不能なチキンレースをしたがるかな?
ほんと、どうしてくれよう……
ポケットの
ため息ひとつ。
電話したところで、流石に恥ずかしすぎて現状を説明できそうにない。
私はもう京子に構わないことに決め、朝食の支度をすることにした。
焼き鮭と納豆、漬物は食卓の上。
あとはご飯とオーソドックスな豆腐のお味噌汁をだすだけだ。
御堂家(京子)の朝食は微妙に和食である。
お味噌汁の鍋をお玉で軽くかき回しお椀に注ごうとしたら、後ろにいた京子が動く気配がして、そして次の瞬間にはやんわりと抱きしめられていた。
「京子?」
「ん……」
「あのさ、食事の用意するのに邪魔なんだけど?」
「ごめんね、なんか唐突に抱きしめたくなっちゃった」
「……?」
「うん、女の子が自分のために料理してくれる姿っていいよね?」
静かな声。
淡々と告げる言葉には、なんだかよく分からない説得力があった。
京子の腕を振り払おうとした私の動きも思わず止まる。
「本当にいいよね、こういうの」
「……男の時にそんな経験したことないから分かんないや」
「ふふ、そうなんだ」
京子は私の頭にキスしながら、よしよしと優しく髪を梳いてくれた。
背中に当たる豊かな胸の感触……彼女の腕の中は安心できて心地よかった。
朝のキッチン、換気扇が回る静かな音だけが聞こえる。
…………。
なんでだろう、なんでこの程度のことで、懐かしくて切ない気持ちになるんだろう?
小さい頃を思い出して、お母さんと言いかけたことは秘密だ。
まあ、それはともかくとして……。
「ねえ京子……」
「なにかしらシオン?」
「いつまで抱きついているの?」
「シオン成分の補充が百二十パーになるまでかしら?」
まったくもって意味不明です。
「ねえ京子……」
「なにかしらシオン?」
「お尻にあたってんだけど?」
「ふふっ、あててんのよ」
「………………」
「デュフフ、シオンちゃんもお姉さんと
耳たぶを甘噛みされ、ちっぱいを揉まれた。
ええ、いい雰囲気に一瞬飲まれそうになった私がバカでした。
メイド服のエプロンポケットからスマホを取りだし、ぴっぽっぱっ……コール二回で出てくれた。
「もしもし? おはようございます奥さま。今キッチンでですね、京子さんが裸でナニをおっ立てて盛っているのですが、私はどのように対処すればよろしいでしょうか?」
「ちょっ! ちょーーーとシオンちゃん!?」
御堂製薬の社長は十分で来てくれた。
私は増えた二人分の朝食を追加で用意しながら、説教される京子を眺めるのであった。
前後編になる予定ですが、後半も早く書けるといいな……