季節はもうすっかり秋となり、そのうち冬服の出番になりそうな10月上旬。
俺は来週にある修学旅行で必要なものを買いに来ている。とはいえ、ただ持って行くおやつを買うだけだ。おやつなんて近場の店で買えば済む話ではあるが、地理を把握したい俺は隣町へ電車に乗って行った。
一人で?そう、一人でだ。母さんに隣町へ行きたいと言うと財布から千円札を2枚渡され
「んじゃ、これで。修学旅行のおやつもそこで買うんでしょ?残りはあげるから行ってらっしゃい」
と送り出された。
え?そこは一緒について行ってくれるんじゃないの?
12歳とはいえ、いいのか?と思ったが違うらしい。母さんはただ単純に出かけたくないそうだ。
車ならまだしも、態々歩いて駅まで行って電車に乗り、そこからショピングモールまで行くのがだるいんだとか。
おい!母親!
その後、「まあ、あんたなら大丈夫でしょ」と謎の信頼を寄せられた。
その信頼はどこから・・・。
朝ご飯を食べた後、香澄と明日香が寝てしまったのでその間に家を出た。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
そんでもって俺は『ショッピングモールなう』である。
ショッピングモールに入り、2階へと移動する。1階は飲食店とスーパーなので帰りに行く。
2階へ上がるとプラチナブロンドの少女が目に入った。その少女は辺りをキョロキョロと何回も見回している。
ふと、足を止めて見覚えあるなぁと思っていると・・・。
あっ!はぐれ剣客人情伝の!?ってそうじゃないそうじゃない。2年前にそれを見たからそっちのイメージが強いんだよ。
白鷺千聖だ!?え''ぇ''、チサトサン!?なんで!
はぐみちゃんの次はあなたですか・・・。
そのうち、沙綾やこころとかにも会いそうだな。沙綾はやまぶきベーカリー行けば会うな、うん。フラグ立てるのはやめとこ。回収しちゃうから。
白鷺千聖。
幼い頃から子役として活躍していた若手女優。
また、Pastel*Palettesのベース担当でもある。
芸能界に昔からいたせいか合理主義なリアリストで初期の彼女の態度は冷たかったと俺は記憶している。
ストーリーが進んで行き、他のパスパレメンバーと打ち解けていくところはホッコリしたものだ。
特に彼女の名言
「お説教が必要かしら?」はゾクゾク来きたよ。いつか言われてみたいものだ。ドMじゃないよ。
しかし、今俺の目の前にいる白鷺千聖は汚い世界を知らない、純真無垢な少女だろう。そんな彼女はこれから芸能界で生きていかねばならない。時には謂れもないことを言われ、時には陰口の対象され、時には理不尽な扱いを受ける。いや、もしかしたら既にされているのかもしれない。
これから自分の才能の限界と個性に卑下しなければいいんだが・・・。
未来において彼女はそれを乗り越えた。乗り越えたと言うよりは吹っ切れた?
そこまで行くのがどんなに辛いことか、俺には想像できない。それは芸能界に生きて行く以上仕方がないのかもしれない。
(これから頑張れよ)
そう心の中で思い彼女の横を通り過ぎようとしたが俺は足を止めてしまった。周りを見渡すと千聖の近くを通りかかった人たちはみな、気にせずに通り過ぎて行く。
チッ
俺自身、このまま放っておくのも後味が悪いので千聖に話しかける。
「ねぇ、キミ。どうしたの?」
「ぅん?お兄さんはだれ?」
さすが、未来の若手女優。めちゃくちゃカワイイ。ハッ!?俺には香澄と明日香がいるんだからだめだめ。
「俺のことかい?」
「うん、お兄さん」
お兄さん。うん、いい響きだ。
「俺は戸山光夜だ」
「うん、わかったお兄さん」
わかってないじゃん。お兄さん、自己紹介した意味あった?
「キミは?」
「お母さんからなまえ言っちゃダメっていわれてるの」
子役だから顔知られてる時点でアウトだと思う。今、一瞬「知らない人、あやしい人について行っちゃダメよ」的な事を言われるかと思ったわ(汗)
「じゃ、キミのことは何て呼べばいい?」
「ちーちゃん!」
ちいちゃんのかげおk・・・.おっと、これ以上はいかんな。小さい頃は自分でちーちゃんって言ってたのか?気になる。
「じゃあ、ちーちゃん。ちーちゃんはここで何をしてたんだい?」
「お母さんとみーちゃんがいないの」
みーちゃん?誰だろう?千聖は妹がいるって言ってたから妹か?
「はぐれちゃったの」
「じゃあ、お兄さんと一緒に探そうか?」
「うん!」
香澄の1つ上だから小2か。香澄より少し小さいな。ナニがとは決して言わない。うん、俺知らない。
「迷子センターや店員さんのところには行かなかったのかい?」
「うん、お母さんが騒ぎになるから行かないでねって」
確かにな。
迷子センターに行って、白鷺千聖ちゃんのお母さんはいませんか?なんて放送されたら騒ぎになるよな。店員さんに言っても迷子センター直行コースだろうし。
お母さんナイスです!
今こうして、迷子になってるわけだが、ちーちゃんが迷子になったらどうするつもりだったんだろう?
「んじゃ、行こっか?」
「うん」
はぐれないように手を差し出すとちーちゃんは手を握ってくれた。
癒されるぅう
おまわりさんオレですって自分で言いそうになる。
「それでちーちゃん。どこではぐれたのかな?」
「した!」
え???
「下ってスーパーだよね?」
「そうだよ。気づいたらお母さんとみーちゃんがいなくなっちゃった。」
あ、それ、ただ単にちーちゃんがフラフラしていなくなったパターンじゃん。ちーちゃんがいなくなった事に気づいたちーちゃんのお母さんは探そうとスーパーの中を必死に探すがちーちゃんも当然、動いてるから行き違いになる。
んで、お母さんがスーパーから出たんだなと思ったちーちゃんは2階へと上がってきたわけだ。うん、これ絶対にちーちゃんのお母さんが下のスーパーで必死こいて探してるわ。
俺も経験したことあるわ。もちろん、香澄がいなくなったよ。
ここではないショピングモールで買い物に来た母さんと俺、香澄と明日香の4人。
母さんから主婦の在り方の話を延々とされていたら、香澄がいなくなった。明日香は俺の後ろをトコトコついて来ていたから大丈夫だった、カワイイ。
それより母さん、あなたは息子に何を語ってるんですか・・・。
自由奔放な香澄は我慢できずにどこかへ行った。香澄の性格からして、ここの店にいないと分かっていた俺は母さんにこの売り場にいてと言い残し、探しに行った。
それはもう探した探した。全階探した。
灯台下暗しとはよく言ったもので、香澄は1階のお店にいた。星がたくさんガラスについてるお店のね。ずっと眺めていたらしい。
見つけた香澄を連れ帰ったら、時間は30分も経っていたらしく母さんに酷く心配をされたものだ。
帰り、香澄は怒られてもニヘヘと笑ったままで全然反省してなかった。
俺の苦労はいったい・・・。
というわけでちーちゃんを下のスーパーへ連れて行く。
やはりと言うべきか、スーパーの近くでちーちゃんのお母さんと思わしきプラチナブロンドの髪の女性がワタワタと辺りを見回していた。その側には同じくプラチナブロンドの髪のちーちゃんより幼い女の子がいた。
この子がみーちゃんでちーちゃんの妹か。
ちーちゃんと似ているがこの子の方がおっとりとした目をしている。歳は明日香と同じくらいか?
「あっ!千聖!どこ行ってたの!?お母さん、探したんだよ」
ちーちゃんのお母さんがこちらに気づき、みーちゃんを連れてやってくる。
「ごめんなさい」
「あら?そちらの人は?」
俺に気づいたらしいちーちゃんのお母さん。
「うん、お兄さん!」
「お兄さん?あっ!ありがとうございます。ウチの千聖がご迷惑をおかけしました」
「いえいえ」
「ほら、千聖もお礼を言いなさい」
「ありがとう!お兄さん!」
「どういたしまして」
と、そろそろお別れかなと思っていたら・・・
「お兄さん?」
ちーちゃんの妹であるみーちゃんが俺をキラキラした目で見つめてくる。
「お、おう!お兄さんだぞ?」
「お兄さん!」
全く意味がわからないがみーちゃんは満足そうだ。
誰カ説明求ム。
「こら、みさと。お兄さんに挨拶しなさい」
「しらさぎみさとろくさい」
6歳?もう誕生日を迎えているなら明日香と同年代だな。
「俺は戸山光夜12歳だ」
「うん、お兄さん!」
ダメだこりゃ、ウチの姉妹同様に相通ずるものがあるらしい。
「では、そろそろ」
「ええ」
「ほら、お兄さんにバイバイしなさい」
「お兄さん、バイバイ」
「バイバイ」
母、姉、妹の順で言う。俺は手を振り返して白鷺親子とバイバイするのだった。
しかし、ちーちゃんの妹みさとちゃんの「お兄さん」の意味はなんだったんだ?不思議な子やなぁ・・・。
一言だけ言わせてくれ。
ワケワカメ。