放送中、香澄と明日香に腕をホールドされたままカラオケバトルを見た。自分が歌っているのを見るのは変な気分だ。俺以外は皆、嬉々として予選曲『TOMORROW』を聞き入っており、特に香澄と明日香は目をキラキラとさせていた。点数発表で100.000点が出た瞬間に、二人揃って同時にガッツポーズしたのは少し笑ってしまった。決勝曲の『奏(かなで)』の時は二人ともぼーっとしてて、優勝が決まると俺に「おめでとう」と言い、俺のカラオケバトル優勝を祝福してくれた。
後で説明してねとは言われたものの、普通だったら先にどうしてテレビ、カラオケバトルに出てるの?と聞くものだろ。カラオケバトルは毎週、録画しているんだし。そんなにリアルタイムで見たいのかねぇ。
──カラオケバトルの放送終了後
「「お兄ちゃん、説明して?」」
「………」
放送中に何回か逃げようと両腕を動かしてみたが「「お兄ちゃん、動かないで!」と一蹴されてしまった。仮に逃げ出したところで、結局は香澄と明日香にカラオケバトルのことだけではなく、芸能界のことも話さないといけない。
さて、どう説明したらいいものか。
「光夜、もうカラオケバトルだけじゃなくて芸能事務所のことも話し………あっ」
「……あなた、それは言っちゃダメよ」
おいおいおいおい!父さん、言うなよ!
「お兄ちゃん、どういうこと?芸能事務所って?」
「ちゃ〜んと私とお姉ちゃんにも説明してくれるよね?」
はい、オワタ。
父さんがうっかり口を滑らせたせいで、香澄と明日香にどう説明……説得するかある程度は考えてあったものが台無しになった。
「どうして教えてくれなかったのお兄ちゃん?」
だって、教えたら絶対に反対するじゃない君たち。香澄と明日香のハイライトがすーっと消えていく。もうこの香澄と明日香に慣れてきた俺がいる。
「夢が……夢があるんだ」
「「……夢?」」
あれ?香澄と明日香のハイライトが戻ってる。まあ、いいや。
「ああ、夢があるんだ」
「へぇ、初耳だz「あなたは黙っていなさい!」…むぐっ!?」
口を挟もうとした父さんが母さんの手により強制的に黙らせられる。
「………どんな夢なの?」
香澄がまっすぐな瞳で俺をしばし見つめた後、聞いてくる。
「ステージで
香澄のまっすぐな瞳に俺は見つめ返した。数秒間、見つめた後に明日香に視線を移す。
「だから、俺は夢を叶えるために芸能界に行く」
さらにデビューもしているからねと付け加える。
「「……え?」」
そんなこんなと香澄と明日香に説明すること1時間。ウチの妹たちは俺の芸能界入りに納得してくれた。俺が歌手になるまでは、タレントとして活動して行く事と最初の仕事はモデル関係だと言うと香澄と明日香は「何冊か買わないと」とボソボソ言っていた。香澄と明日香、それぞれ1冊ずつなら分かるんだが、それ以上は買わないよね?気が早くない?それに雑誌の表紙にでかでかと載るわけじゃないよ?
母さんに黙らせられた父さんは黙ってから終始ニコニコ笑顔だった。とりあえず、後で殴る。俺はいろいろ順序立てて香澄と明日香に説明しようと思っていたのに。
とにかく、香澄と明日香から納得という形で許しをもらえたのは嬉しい。応援してくれるって言うしな。
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香澄と明日香にバレてから2ヶ月、高校生タレントとして認知され始めた頃だった。
玄関を開けると……
「戸山様、お迎えにあがりました」
1人のサングラスをかけた黒服の女性の後ろには、同じくサングラスをかけた4人の黒服の女性と黒塗りのリムジン。
俺はそこで全てを察した。
………あっ、こころ。