「お兄ちゃん?」
ヤバいぞ、ヤバい。ってアレ?俺、なんで正座しているんだ?
どうやら香澄の剣幕に気圧されて、俺は無意識のうちに砂浜の上に正座していたようだ。香澄の目から光が消えてるぅ!お願いだからハイライトさん仕事して!
ここは海の家の近く。当然、他の人から注目を浴びないはずがない。
「ねぇ、ママ。あのお兄ちゃんなんでせいざしてるの?ぼくと同じくらいの女の子のまえに?」
「見ちゃいけません!」
「パパ!あれ、わたし知ってるよ!あれってOHANASHIってやつでしょ?」
「おお、よく知ってるな。偉いぞ」
「ねぇ、あなた。あの子たち何してるのかしら?」
「さあ?何してるかわからないがあの光景を見て言えるのは将来、絶対に光夜は尻に敷かれる。」
「あなたみたいに?」
「そうそう。……って何言わせんだ!?」
特に親子から注目を浴びている俺たち。
OHANASHIって言った子、よく知ってるな。最近だと肉体言語の方での意味だとか?うん、意味はよく分からんけどその子のお父さん?偉い偉いじゃないよ。
最後のうちの両親だよな?声がそうだし。どこにいるんだとキョロキョロ辺りを見回すと・・・いた。
視線が合うと両親はこちらに近づいて来た。
「香澄と光夜は何してたんだ?」
「お兄ちゃんがおばちゃんたちを引っ掛けていたの」
父の質問に対してそう答える香澄。
引っ掛けていたとは人聞きが悪い。しかも、おばちゃん。これでは俺が熟女好きに聞こえるじゃないか。
「え?おばちゃん?光夜が正座する少し前からみてたけどお姉さんたちだろ?」
「ううん、おばちゃん。匂いがくさいの」
ああ、なるほど。香澄と明日香がおばちゃんと言ったのは彼女たちの匂いもとい香水の匂いがキツかったからか。
そこに悪気はなく、ただ単純にキツイにおいだったから。香澄と明日香の中でお姉さん・お兄さん、おばさん・おじさんの基準は何なんだろうか?匂い?外見?
「え、でも、おばちゃんっていうのは香織みたいな……」
「あ・な・た?」
「ヒッ!?ち、違うんだ!べ、別に母さんのことじゃ……」
「今、私の名前を言ったわよね?確かにそう言っていたの聞いたわよ」
「はい…………言いました」
あ、父さん死んだ。諦めて認めてるし。
「じゃ、光夜、香澄、明日香。私はこれからOHANASHIしてくるから海の家付近にいてね。泳いでもいいけど、香澄と明日香は光夜から離れないでね」
顔は笑っているのに目が笑っていない母さんは、父さんの頭を掴むとそのままどこかへ行ってしまった。どこ行くのさ・・・。
きっと父さんの心の中はドナドナだろう。
「じゃあ、香澄!明日香!海に入ろうか?」
「・・・うん」
どうやら香澄は見逃してくれるらしい。はぁ、助かった。でもさ俺、何もやましいことしてないのになんで安心してんだろ?
え?明日香はどうしたって?明日香ならずっと俺たちの様子を不思議そうに見てたぞ。何回も首を左右に傾げてな!明日香カワイイ!君はそのまま育っておくれ。
連行された父さんがいつ戻ってくるか分からないから海に入ることにした。このままじゃ待ちぼうけだしな。
海に入る前に準備運動をする。準備運動が終わった瞬間、香澄は海へ一直線に走って行った。
おいおいおいおい、マジか。見失ったら大変じゃねぇか。
視線を香澄から離さず、はぐれないように明日香と手を繋ぐ。
明日香確保!
いきなり手を握っても驚いた様子を見せない明日香は俺を上目遣いで見てくる。カワエエ〜。最近、明日香が可愛いすぎる件について。あ、もちろん、香澄も可愛いよ?でもね、最近の香澄はなんか怖いんだ。目とか目とか目とか?・・・・・・・あれ?
明日香と手を繋いだまま香澄の方へ行く。香澄は膝くらいまでの浅瀬にいて、波とたわむれている。
絵になるなぁ。何よりカワイイ(語彙力)
クッ、これが俗に言う筆舌に尽くし難いか・・・。
香澄に近寄ろうとしたその刹那、俺の顔に海水がかかった。
ア''ア''ッ〜〜!?イイッ↑タイッ↓メガァァァァァァア↑
思わず明日香と繋いでいた手を離して、両手で目を押さえる。
イッタイ!?メガァァァメガァァァ↑
そんな俺の様子を見て、明日香は「だいじょーぶ?」と心配してくれた。ああ、お前だけだよ明日香。俺を労ってくれるのは。
香澄はもうご覧の通りだろ?両親は・・・まあ、うん。
とりあえず、大丈夫と言っておいた。全然これぽっちも大丈夫じゃないけど。
そんな最中、香澄は
「お兄ちゃん?どう?きもちいいでしょ?」
と満面の笑みで言うのだ。
お前は鬼か!?
しかし、本人に悪気は一切なく、ニカッと笑いかけてくる。ずるいわぁ、その笑顔。お兄ちゃん何でも許せちゃう!
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
浅瀬で十数分、波とたわむれていたら香澄が深いところにいくと言い出した。お兄ちゃん、まだ目が痛いよ。
まあ、ここは浅瀬だし、人が周りにたくさんいるから大丈夫だろうと高を括って水深の深いところへ移動する。
香澄大丈夫か?と思っていたら案の定、香澄は溺れた。
騒ぎになる前に助けにいかないと。俺が近寄ると香澄は右腕にガシッとしがみついた。俺と香澄がいる水深は目測で1.3mだ。158cmである俺は問題ないが香澄は112cm。体全部が沈んでしまう。海水を飲み込んでしまったのか香澄がケホッゲホッと咳をする。その咳が俺の顔へと向けられる。
・・・・・ハッ!ありがとうございます!我々の業界ではご褒美です!
ハッ!イカンイカン、新たな世界を開くところだった。って、明日香は!?
香澄にばかり気を取られて、明日香を忘れていた俺は浅瀬の方に目をやると・・・・なんと!こちらに向かって明日香が泳いでくるではないか!?
犬かきして。
やるわね(キリッ
疲れてしまったのか溺れそうになる明日香。今のところから少し深水が浅いところで明日香を小脇に抱き抱える。明日香回収。
抱き抱えた明日香がさっきから右腕にくっついてる香澄を見て、同じように俺の左腕にガシッとくっつく。
なんだこれ?これが本当の両手に花?ん〜まだ花って年ごろじゃないから両手に妹と言っておこう。
少し疲れたから海から出ようとすると、姉妹揃って「イヤッ」と駄々を捏ねるように腕の力を強くする。
仕方ないので海から出るのを諦め、両腕にくっついたまま歩く。これでは腕が振れないから歩きづらいったらありゃしない。それでも動けと言わんばかりに腕の力を込めるウチのワガママなお姫様が二人。
結局、30分間、両腕にくっついた状態で歩かされるのだった。
二人ともご満悦そうで何よりだ。
その後、戻ってきた両親と昼を取ってから一緒に海に入った。
帰るまでの間に父さんの目が死んでいたり、香澄が明日香を泣かせたり、それで明日香が俺にずっとくっついていたりしたのだが、これはまた別の機会に語るとしよう。