それから欧州に向かう前の生活に戻った。
私はみっちゃんとともに学校へ向かい、お父さんは職場に向かう。そしてお母さんはそれを見送る、そんな生活に。
「行ってきまーす!」
「フィアナ、芳佳……行ってくる」
「行ってらっしゃい……キリコ、芳佳」
時折お父さんから銃の打ち方やATの操縦・整備の仕方を教わったり、医学の勉強をしたり、親友の山川美千子ことみっちゃんと遊ぶ日々を過ごした。
舞鶴のウィッチ病院に佐世保の英雄といわれる雁淵中尉を治療しに行ったり、各地で負傷した人の治療を行うこともあり心身ともに成長した気がする毎日だった。
そうして半年がたち、中学の卒業式の日が戦いのきっかけであった。
欧州、リーネちゃんからの無線が入る。
欧州、そして仲間の危機の無線だった。坂本さんにはついてくるなと、拒否された。
でも私は無理やりストライカーユニットを履き、坂本さんとともに欧州へと旅立った。
みっちゃんと両親に「仲間を助けに行く」という伝言を残して。
欧州へ向かう船の中、私は懐からアーマーマグナムを出し、握りしめた
いつ触っても大きな銃だ。半年前からお父さんに持つよう言われていた。
最初は銃を持つことは嫌だった。しかし、何となく持たなきゃいけないような気がしていた。
揺れている私の心を、お父さんが守ってくれるような温もりを感じた。
欧州に着く直前にネウロイの襲撃があったが、501の皆が集まったことでどうにか撃破できた。
ヴェネツァにできたネウロイの巣に対し、501は再度結成となった。
さぁやるぞ、と意気込んでいたが。
「走れー!」
「「「はいー!」」」
訓練はしていたが、ストライカーユニットは半年ぶりで、基地に来てから訓練の連続だった。
バルクホルンさんに言わせれば怠け切っているらしい。特に私とリーネちゃんとペリーヌさんが扱かれた。
「命中精度は上がっているな」
銃の扱い方とか命中精度は褒められたけど、ストライカーユニットの扱いがなってないって。
そんなある日、ミーナ隊長から連合軍統合指令本部についてくるように言われたのだ。
「一度どんなものか見せておくのもいいと思ってね」
何でも急な召集で、シフトで空いているのは私ぐらいだったからだそうだ。また今後の勉強にもなるのでちょうどいい機会らしい。
そんなこんなで本部にはついていったが、偉い人と話すのはミーナ隊長だけであって、私は邪魔にならないようなところで暇をつぶしているしかなかった。
「ミーナ隊長ってば、基地の雰囲気を読み取ることも大事っていうけど、こんなんじゃわかんないよ…」
愚痴を言っても聞いてくれる人はいない。いったいいつ終わるんだろうか、と考えていると誰かが近づいてきた。
「失礼。第501統合戦闘航空団所属の宮藤芳佳軍曹かな?」
「あ、はい!501の宮藤芳佳です!」
まさか私に話があると思わず、慌てて敬礼すると少しその男性は笑った。
金髪で笑顔を浮かべた男性だった……でも目が全く笑っていない。私ではない、どこか違うものを見ているような目だった。
「私はブリタニア空軍コッタ・ルスケ大佐だ。少し話をしないかね?」
まるで観察しているかのような視線が、不気味に私を貫いていた。
ルスケ中佐に案内された部屋はミーナ隊長の部屋よりも大きかった。階級が上がると部屋も大きくなるんだろうか。
2人以外いない一室。ルスケ大佐は私に席に座るよう促した。
あんまりこういう機会がないから、なんかすごく緊張してきた。
「君は私の客人だ。楽にしていい」
「あ、はい」
思わず声が上ずってしまい、大佐に笑われてしまった。すごく恥ずかしい。
するとすぐに他の人が入室してきて飲み物を持ってきた。こういうことは初めてなので、普通にお礼を言ってしまった。
一口すすると、とても美味しい紅茶、というくらいしか私にはわからなかった。
「これ、とても美味しいです」
「気に入ってくれたようで何よりだ」
少しの間、紅茶をすする音しか部屋に響かなかった。なので恐る恐る聞いてみることにした。
「お父さんのことを知っているんですか?」
「……よく知っているよ。君の母上のこともね」
大佐の感情は読めなかった。色んな感情がないまぜになって、ぶちまけられたような表情だった。
「お父さんとお母さん、どんな風にして出会ったのか教えてくれないんですよ?あんなに仲が良さそうなのに……」
「娘に話すのは恥ずかしいのだろうさ。母上は元気かね?あまり体が強いほうではなかったはずだが」
「お母さんは週2回病院で回復魔法をかけてもらってますよ。そうすると元気になるみたいです」
「……なるほど、それならば可能か」
大佐はお母さんの病気のことを知っているようだった。お父さんたちからそんなに仲の良いブリタニア空軍の軍人の知り合いがいるとは聞いたことがない。
「お母さんが何の病気か知っているんですか?」
「先天性のものさ」
お父さんもお母さんも何の病気かは教えてくれないのだ。ここでもはぐらかされている。
回復魔法は先天性の病気などにはあまり効果がないと言われている。お母さんが完治しないのはそのせいかもしれないと当たりはつけているが、教えてくれないから本当のところはわからない。
「お父さんって昔どんなことをしていたんですか?」
「奴は元々兵士だった。しかしある時君の母上に一目ぼれをしてね。2人は駆け落ちしたのだよ。母上は中々大変な生まれでね、キリコの仲間とともに母上の追っ手を振り切ったものさ」
「駆け落ちですか!?」
意外過ぎる。確かにお父さんとお母さんは仲がいいとは思っていたが、まさか愛の逃避行とは。
大変な生まれ、ってことはお母さんは上流階級の生まれだったんだ。知らなかった。
「フフフ。そうして奴らは結ばれたというわけだ。だがその後も追っ手が多くてな、奴らは様々なことを乗り越え扶桑にたどり着いたというわけさ」
「じゃあ2人にとって安息の地を見つけたってことですか!?」
「そういうことになるな。まぁ、ここがパラダイスかどうかは微妙なところだがね」
「わぁ~、ロマンチックだなぁ」
愛の逃避行の果てに安住の地を見つける。なんてロマンチックな話なんだろう。
2人ともすごく幸せそうだし、そんな大変な思いをしてきたなら、パラダイスだと思うけど。
「しかし私が興味があるのは君の母上よりも君だな。素晴らしいものだ、君の戦果は。『戦士』としての才能がある」
「えへへ……ありがとうございます」
軍に入ってから、501の人以外に褒められるのって中々ないから、なんか照れるなぁ。
「初めてストライカーユニットを装着し、そのまま戦闘機動に移行して大型ネウロイと交戦。その後部隊に参加し大きな被弾もなく、501のメンバーと問題なく戦闘行動をとれ、ガリア開放の立役者でもある。素晴らしい……機械との親和性がかなり高いようだ」
「機械との親和性、ですか?」
馴染みのない言葉だ。言っている意味は分かるが、私はそんなに機械との相性はよかっただろうか。
お父さんは機械とかすごく強いけど、私はお父さんよりずっと下手だ。
そのことを伝えると、大佐はそういうことではないと否定する。
「この場合の親和性、というのは整備や知識に詳しいというものではない。適応するか、ということだ」
大佐が言うには、訓練校の訓練なしにここまで華々しい戦果を挙げたものはまずないという。
普通は訓練校に通ってから配属されることは他の皆から聞いてはいるが、そんなにすごいことかどうかは、分からなかった。
「しかも君が所属するのは、世界中からトップエースを集めた部隊だ。その中についていけるウィッチがどれほどいると思う?普通の戦場でさえ訓練校で主席卒業したウィッチが初陣で死ぬことも珍しくはないのだ」
「そんな、私はただ夢中で……」
「自身の評価と、周りの評価は違うものだ。そして、君の幸運ともいえる状況もね」
幸運?と頭をひねると、大佐は少し笑って続けた。
「君は一度大きな負傷をしたが、すぐ戦線に復帰しただろう?その報告も読ませてもらった」
「あれは私の回復魔法が偶然かかっていたんじゃ……」
「その『偶然』が問題なのだ。その君の運の良さに、私は非常に興味をひかれているのだよ」
偶然。確かに自分でも引っかかっている。しかし偶然以外にどう言えばいいのだろうか。
「ただ君のは『近い』だけの可能性はかなりある。これからも501で生き残ってほしい。君の家族のためにもね」
「はい。死ぬ気はありません。みんなを助けるためにも!」
そういうと大佐は目を細める。この大佐は表情が本当に読めない。『近い』の意味も分からないし、何を考えているか、まったくわからないのだ。
「そういったところはキリコとは違うな。奴はもっと利己的だった……いや、そうでもないか」
「お父さんは優しい人ですよ?」
「ふ、そうだな。でなければプロト・ワンやあの3人組やクエント人を守ろうとはしないか」
「誰です、そのプロト・ワンとかクエント人って?」
聞いたことのない単語だ。お父さんの知り合いのことであるのは間違いないみたいだけど。
「プロト・ワンは君の母上の名前でもある。クエント人は少数民族の名だ、気にしなくていい」
「お母さんの名前ってフィアナっていうんですけど、人違いじゃないですか?」
「今度2人に聞いてみればわかる話だ」
「あ、そうですか」
何か色々知っている人だ。何だろう、ちょーっと変わっているというか、すごく知っているというか、今まで周りにいなかった感じの人だ。
「軍曹はキリコが軍に協力している理由は知っているかね?例えば、とある金属を探しているとかだ」
「そうなんですか?お父さんは欲しい物があるとしか言ってくれないので……」
何度か聞いたことがあるが、話してくれたことはなかった。何に使うかさえ教えてくれなかった。
「何、奴が軍に協力している理由など、軍に借りを作って融通してもらうためだろう。プロト・ワンと君が一緒にいるのに軍に協力するのはかなりリスクがあるからな」
「やっぱりお父さんは軍には反対なんですね。私たちを心配してくれて……」
「そういうことだ」
大佐の言うことを信じるなら、やっぱりお父さんはお母さんと私を第一に考えてくれている。それでも絶対に必要なものがあるって、一体何なんだろう。
「軍曹。君がこの先501と戦い抜き、多くの人を救うことができたなら、キリコが求めているものを君に渡す準備がある」
「本当ですか!」
「ああ、約束しよう。頑張ってくれたまえ」
お父さんがリスクを背負ってまで探し求めていたものを、大佐はもう持っている。
本当なら、これに乗ったほうがいいと思う。けど、それが本当に求めているもので合っているのか、分からない。
「それって、いったい何ですか」
「それは君が達成できてからだ」
しかしそこまで大佐が私たち家族に協力してくれる理由が分からない。お父さんの友達、というのであれば話は簡単なんだけど。
「じゃあ、どうしてそこまで私やお父さんに協力してくれるんですか?」
また大佐は笑った。楽しそうに。
「言っただろう?君たち親子に興味があるとね。私は『神の目』だからな」
その後退室した私はミーナ隊長が出てくるまで待っていると、ほどなくしてミーナ隊長が戻ってきた。
ミーナ隊長は何かなかったか、という問いに正直に大佐と会ったと伝える。
「詳しく、聞いていいかしら?」
「は、はい!」
帰りの機内で怖い笑顔で問いかけてくるミーナ隊長に対し、私はすべてを話した。
「501に対して何も聞いていない……ということなのね?」
「そうなんですよ。私と家族の話だけで……」
「妙な話ね……」
ミーナ隊長自身、ルスケ大佐とは2、3言葉を交わしたことがあるだけだということだ。
何でもATの開発・運用・整備などあらゆることを統合させた人として有名な人らしい。
ATのみならず銃火器の弾薬を「液化火薬」にしたことで多国籍混合の戦線での補給をスムーズにし、現場からも好評だったらしい。
結局あれこれ考えはしたが答えは出ないまま、私たちは帰還した。
★
連合軍司令本部内。
「では反対がなければ、大将が立てた作戦計画書は自動的に次の最高戦略総会で審議されることとなります。他に意見は?」
「私は反対だ」
「ガランド少将、どうぞ」
「ヴェネツィアのネウロイの巣の攻略そのものではない。作戦がネウロイのコアを使った、あのウォーロックの発展型に全面的に依存しているのが不満だ」
「同感です。この作戦を認めるにはもっと詳しい情報が必要だ」
「大将、これについては?」
「ウォーロックにおける失敗は、システム上の欠陥を抱えていることを知りながら実行に移したマロニー元大将の指揮が原因であった。だがシステムによるネウロイ化は完全に機能します。作戦遂行には問題はない」
「ですが実際の戦場での使用はまだできていないではないか。仮に暴走した場合、鎮圧するのにどれほどの戦力が必要なのでしょうな?不確定要素が多いシステムよりもウィッチによる作戦攻略のほうが確実性が上かと」
「ウィッチは戦力として考えるのであれば、非常に不確定要素の強いものだ」
「……否定はしない。ではこれは代わりになれると?」
「いつ上がりを迎えるかもわからず、異性との性的接触で魔法力が枯渇する可能性もある。しかもウィッチの数は偶発的に才能が発現するまで補充を待たなければならず、兵員は慢性的に不足している。その中でも航空ウィッチは希少だ。この作戦が成功すればウィッチに頼らない戦力が出来る。そしてウィッチの死傷者も減る。故に私はこの作戦を指示します」
「……機能すれば、の話だがな」
「すでに起動実験には成功しております。また作戦時には501にネウロイ化システムの護衛、周辺の排除として活躍してもらいます。これならご不満はありますまい?」
「ガランド少将、これ以上の意見は?」
「……私からはない」
「他に反対意見はないようですね。では、ヴェネツィア攻略に関しての決議は可決したものとします。では、次の決議に移ります」
「(……確かに、非ウィッチの戦力で対抗できるならそれが安定へとつながるが……そう上手くいくだろうか)」
ネウロイ化が成功すれば戦力は大幅に増し、失敗すれば今まで以上にウィッチの重要性が高まることへつながる。どちらにせよ、元ウィッチであるガランド少将にとっては問題なかった。
★
次の日、虫みたいなネウロイが皆のズボンの中に入ったりして厄介だったけど、ミーナ隊長がお尻でキュッと倒して200機撃墜の勲章を授与されていた。
……ミーナ隊長、なんだかすごく落ち込んでたけど、坂本さんが慰めてたから大丈夫だと思う、うん。
それからうまく飛べない日があったけど、扶桑から来たお父さんが作った新型ストライカーユニットの『震電』のおかげで無事に飛べるようになった。
「お前の魔力が上がって今までのストライカーユニットじゃ受け止められなかったということだ。博士はそれを見越してか、お前に新型を預けたということだ」
坂本さんが言うにはそういうことらしい。要するにいつもみたいに飛べるようになったということだ。よかったぁ。
しかし何であんなナイスタイミングで新型を送れたんだろうか。
「私みたいに予知でも持ってんじゃねーノ?」
「いや、お父さん男の人だし、エイラさんみたいにはできないですよ」
「ジョーダンだよ、ジョーダン。ニヒヒ」
「エイラさん、頭ぐしゃぐしゃにしないでください~」
エイラさんが私の髪の毛をぐしゃぐしゃにしていると、リーネちゃんが指を空に向かって指した。
「あ、ミーナ隊長が司令部から帰ってきたみたい」
リーネちゃんが指した方向から、航空機が戻ってくる。すると誰かが飛び降りてきて、そのまま着地した。長身のウィッチだ。
「やぁ、久しぶりだね」
「マルセイユさん!その節はお父さんがお世話になりました!」
そのウィッチはトブルクでお父さんを見送りに来たマルセイユさんだった。お辞儀をするとマルセイユさんは笑った。
「いや、博士にはこちらのほうが世話になったからね。よろしく伝えといてくれ」
「はい!伝えておきます!」
「もう一度博士と話したいな。しかし博士は酒があまり得意ではないようだしな…」
「確かにお父さんは家でもお酒は飲まないですけど……一緒に飲まれたんですか?」
基本的にお父さんはお酒は家で飲まない。
というより、外で誰かに勧められた時以外は口にしていない気がする。酒はあんまり好きじゃない、って言ってたけど。
「私や部隊の連中と一緒に飲んだ時、博士はむせててな。まぁかなり強い酒だったが。動じない男だと思っていたから、かわいい一面が見れて面白かったぞ」
カラカラとマルセイユさんは笑った。お父さんがかわいいか……わかるようなわからないような。お母さんも同じことを言っていた気がする。
「じゃあな、宮藤。ハルトマン、久しぶりだな!」
そう言ってマルセイユさんは近くで見ていたハルトマンさんとバルクホルンさんのほうに向かって話しかけるため移動した。
「なんだか派手なやつだナー」
どうやらハルトマンさんと仲がいいようだが、バルクホルンさんとは何か違うらしい。リーネちゃんも理由は知らないと言っていた。
何でもマルセイユさんが来た理由はエース同士の、連合軍の人気取りも含めた共同作戦のためとミーナ隊長が話してくれた。
軍にも色々あるんだな、と改めて感じる。
お母さんが、軍の機密に深入りしてはいけないと言っていたが、こういうことなのだろうか。今の私にはよくわからなかった。
ハルトマンさんとマルセイユさんの2人のみで行われた作戦は成功したが、なぜかその後ハルトマンさんとマルセイユさんは実弾で勝負し始め、引き分けに終わった。
何でもバルクホルンさんの妹のクリスちゃんがマルセイユさんのファンで、バルクホルンさんがクリスちゃんのためにマルセイユさんのサインが欲しかったらしく、サインをもらうのを条件に2人が戦うことになったとか。
結果としては引き分けだったが、ミーナ隊長からバルクホルンさんへマルセイユさんのサイン入り写真が渡された。
「良かったですね、バルクホルンさん」
「……ああ、これでクリスのお土産ができた」
バルクホルンさんは嬉しそうな、でも何だか悔しそうな顔をしてました。
……私もサイン欲しかったなぁ。
そんな501も最後の日を迎える。ヴェネツィアのネウロイの巣を攻略する『オペレーション・マルス』が発動された。
ネウロイ化する戦艦大和でネウロイの巣を破壊するというもので、私たちはその護衛であった。
坂本さんは魔法力の枯渇……上がりのせいでもう烈風斬を打てない状態であると、ミーナ隊長と坂本さんが話しているところを偶然聞いてしまった。
しかし2人はそのことを皆に話すことはなく、作戦を迎えることになった。
坂本さんの代わりに私が頑張ろう。そうすれば坂本さんが危険に晒されることはない。
出撃し、巣の周辺に小型・中型のネウロイが空を埋め尽くすように私たちの行方を遮っていた。私はトリガーを引く。
「邪魔しないで!」
数が多い。少し多めに魔法力を込めて同じ個所に2発撃ちこめば、小型ネウロイ程度なら撃墜できる。
いかに弾数を減らしつつ戦うことをできるか。無駄な魔力消費を避けるために、無駄なシールドは張らない。
体を側転させるバレルロールで、中型ネウロイの脇をすり抜け、背後を射撃、撃墜。
「……!」
ふと坂本さんの位置を見ると、まだ後方。私のほうにネウロイが集中しているようだ。
片方のストライカーユニットの出力を弱め、ATのターンピックの要領でビームを回避する。
少しシビアだが、悪くはない。その回転を殺し、無防備なネウロイを撃墜した。
いくら倒しても数が減らないくらい敵の数が多い。だが大和が突入するための突破口を作ればいい。そして私は1人ではない。
「烈風ー斬!!」
少し離れた場所でリーネちゃんとペリーヌさんが囲まれており、そこへ坂本さんの烈風斬が振り落とされた。
しかし肝心の魔力が放出されず、ネウロイの体に刀が吹き飛び後方の大和の甲板に突き刺さった。
「坂本さん!」
呆然とする坂本さんに迫るネウロイを、射撃で打ち落とす。
もう坂本さんに攻撃に回すだけの魔法力は残っていない。もう限界なのは、誰の目にも明らかだった。
周りのネウロイを撃墜していると、作戦は最終段階に入った。大和がネウロイ化で空を飛んだのだ。
私たちは魔法力を使い切ったので、ブリタニアの戦艦ウォースパイトで待機することになった。
しかし大和がネウロイの巣に密着はしたが、最後の攻撃ができず、魔道ダイナモというエンジンが停止しているというのだ。
魔法力を込めるため、唯一魔法力が残っていた坂本さんが飛び出した。
「坂本さん!ダメです!」
必死に私は呼びかけた。でも坂本さんは止まらなかった。
「だめだよ芳佳ちゃん!私たちもう魔法力が残ってないんだよ!?」
私も向かおうとしたが、リーネちゃんに止められた。
最後で役に立たない私は、自分自身に腹が立った。
坂本さんの魔法力で再起動した大和の一撃で、吹き飛んだはずのネウロイ。
しかし超巨大なネウロイのコアと坂本さんが一体化していたのだ。巣のコアは坂本さんを取り込みシールドを張るネウロイとして立ちはだかった。
許せなかった。みんなの故郷だけでなく、坂本さんを取り込んで自分のものとするネウロイが。
そう考えていると収納したストライカーユニットがまた甲板上にせり上がっていた。それと同時に誰かが私に寄ってくる。
「行きたまえ、宮藤軍曹」
「ルスケ大佐!どうしてここに?」
甲板にいたのは以前本部で話したルスケ大佐だった。でもなぜここにいるのだろう。本部にいるのではないのだろうか。
「何、君の活躍を生で見たくてね。この艦の指揮を執っていた。坂本少佐を救うのだろう?」
「大佐、お言葉ですがもう我々に魔法力は残っておりません。それにあなたにはこちらへの命令権はないはずですが?」
「これは命令ではないぞヴィルケ中佐。全ては彼女が決めることだ」
坂本さんを見捨てることなんて私にはできない。この作戦が失敗すればルッキーニちゃんの故郷のロマーニャは放棄して、ネウロイの手に落ちる。
多くの人が悲しむ結果なんて私は嫌だ。私は、私の心に従う。
「……行きます!」
私はストライカーに飛び込んだ。ミーナ隊長は声を張り上げる。
「駄目よ宮藤さん!もうあなたの魔法力は残っていないのよ!?」」
「ウィッチに不可能はありません!!……発進!」
上手く飛べない。魔法力が残っていないせいか。だが私は集中した。501でやってきたこと、それを思い出して。
「…飛んでぇー!!」
飛ばないという結果に抗ってみせる。そして、私は飛べた。
無数のネウロイ。弾数も多くなく、魔法力も心もとない。だが、それがどうしたというのだ。シールドなしで、回避する。ビームが頬をかすり、肩をかする。
――しまった。直撃……。
とっさに身をひるがえしたが、銃が破壊される。攻撃手段はなくなった。瞬間、目の前のネウロイたちがまとめて吹き飛ぶ。
「これは……!」
「芳佳ちゃん!」
そこには皆の姿があった。いつ魔法力が切れてもおかしくないこの状況で、皆が駆けつけてくれた。
私の体の奥が熱くなるのを感じる。
「行きなさい、宮藤さん!」
ミーナ隊長が。
「坂本少佐を救うのは、皆ででしてよ。トネール!!」
ペリーヌさんが。
「芳佳ちゃんなら大丈夫!」
サーニャちゃんが。
「今日のお前はツイてるゾ、宮藤!」
エイラさんが。
「さっさと片付けちゃおうぜ!」
シャーリーさんが。
「行っちゃえー!芳佳ー!」
ルッキーニちゃんが。
「私たちが道を開く!」
バルクホルンさんが。
「宮藤なら楽勝だよー」
ハルトマンさんが。
「行って!芳佳ちゃん!」
リーネちゃんが。
皆が切り開いてくれた道を、私は駆け抜けた。
邪魔する小型ネウロイを、アーマーマグナムで打ち落とす。そうだ、私だけじゃない。皆が、多くの人で多くのものを救うんだ。
大和の甲板上に刺さった烈風丸を引き抜く。魔法力が全部持ってかれる感覚がある。
坂本さんが、やめろと叫ぶ。ここまで来て、私の魔法力惜しさに引く気は一切なかった。
「それが、皆を助けることになるなら……!」
「烈風斬!!!!」
ネウロイのシールドを突破した私は、コアを切り裂いた。そして、全てが砕けた。
ヴェネツィア、ローマはここに解放されたのだ。失ったものはあるけど、坂本さんは元気に隣で皆に支えられている。
私は確かに、仲間を、皆を救えたのだ。
それは同時に501の解散を意味していた。
そして解散日当日、何故かルスケ大佐が大きな荷物とともに私たちのもとへやってきていた。
「一体どうされたのですか、ルスケ大佐」
「いや何、宮藤少尉との個人的な約束を果たしにね」
そういえばすっかり忘れていた。
何のことだ?と皆に聞かれたので、約束がある、とだけ答えた。
ルスケ大佐の後ろには大きなコンテナがいくつか並んでいる。私の帰る船に積まれる準備がされていた。
「ヂヂリウムと、キリコに必要な装置が入っている。使い方は奴が分かるはずだ」
「ヂヂリウム……確か最近発見された金属と聞いておりましたが、宮藤博士は既に実用化に着手しているのですか」
「ある意味ではな」
お父さんも大佐も必要なことを説明してくれない。もう少し私に説明してほしい。
「本当にお父さんに聞けばわかるんですか?」
「それは心配ない。奴やフィアナによろしく言っておいてくれ」
皆、金属が褒美カーとか、もっと美味しいものがいいと思うなー、とか言ってミーナ隊長に怒られていた。
荷物は詰め込まれ、私たちは解散になりました。
魔力もなくなって、私のウィッチとしての闘いは終わった。でも、お父さんやお母さんに聞かなくてはならない。私の中の違和感の正体を。
そして故郷にたどり着いた私は、2人から衝撃的な話を聞くこととなる。
【異能生存体】を。
鉄の騎兵が走る、跳ぶ、吠える。機銃が唸り、ミサイルが弾ける。鉄の腕が、異能への扉をこじ開ける。炎の向こうに待ち受ける証とは。近似値か、神か、今解き明かされる。今その正体を見せる、神へと至る資格。
次回、『劇場版』。芳佳、コアを撃て。