航空機兵ボトムレス   作:伝説の超浪人

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キリコ編① 『地球』

キリコの、劇場版まで至る経緯。



キリコ編① 『地球』

争いのない世界。そんな世界を俺は夢見ていた。

 

アストラギウス銀河の神であったワイズマンを倒した後も、異能生存体である俺と異能生存体を人工的に作り出そうとしたPS(パーフェクトソルジャー)のフィアナの力を求める者たちは後を絶たなかった。

 

仲間たちと別の場所へ行っても、星を移動しても追跡は続いた。

 

俺は疲れていた。争いの終わらない日々に。

 

俺はただフィアナと平和に暮らせればそれでいいのだ。それ以上望むものはなかった。たった一つの望みだった。

 

だがそれすらも叶うことはなかった。

 

だから俺はフィアナとともにコールドスリープで眠りについた。いつか来る平和な時代のために。

 

仲間たちに別れを告げ、2人で宇宙空間を漂った。次に目覚めるときは、2人で平和に暮らせる日々であることを信じて。

 

 

 

 

 

 

永い永い眠りだったような気がする。俺は唐突に目が覚めた。見知らぬ天井であった。

 

体が重い。

 

体にかかる重力が、コールドスリープから解放されたことを示していた。

 

咄嗟に辺りを見渡した。俺たちを解放したのが悪意ある者たちであるならば、フィアナが危険である。

 

「フィアナ……!」」

 

だがフィアナは俺のすぐ右隣りで寝ていた。何も器具はなく、普通に呼吸している。

 

見たところ俺もフィアナもベッドで、拘束も何もされていない状態で寝かされていた。

 

今は部屋に人影はいない。部屋を見渡しても、監視カメラの類は見当たらない。しかし寝かされている間に何かしらの処理をされていたら非常にまずい。

 

確認すべく立ち上がろうとしたが、コールドスリープから目覚めた影響か、体がほぼ動かなかった。

 

外に人の気配が2人ほど感じる。だがこちらは碌な武装はなく、体が上手く動かない。この状態で寝たきりのフィアナを連れて脱出するのは、絶望的であった。俺だけならともかく、フィアナが一緒でなければ意味がないのだ。

 

加えてヂヂリウムの補給を受けていないフィアナがどこまで動けるかは未知数であった。

 

俺は脱出に使えそうな物を探すが、何もない部屋だ。

 

頭を悩ませているうち、足音がこちらへ近づいてきた。2人分だ。入ってきたのは老婆と女性であった。

 

「おや、目が覚めたようだね。まだ立ち上がらないほうがいい、仮死状態からまだ1日も経ってないんだ」

 

「何故俺たちを目覚めさせた」

 

無造作に近づこうとした老婆を俺は問いかける。老婆は俺の質問に対し、首を傾げていた。

 

「どういう意味かは分からないが、あんたたちは空から降ってきた機械が、勝手に開いて出てきたのさ。あんたたちが凍りついたように冷たい仮死状態だったから、この診療所で回復魔法をかけて一命をとりとめたってことだ」

 

「魔法だと……何を言っている」

 

コールドスリープの装置には大気圏突破能力はない。だがそれは俺の異能生存体が発揮されれば着陸できる可能性はある。

 

だが魔法など聞いたことはない。可能性としてはワイズマンの言っていた異能が、星によって呼び名が異なって魔法と言われている可能性はある。

 

しかしそんな具体的な能力が発揮されるようなものだったのだろうか。

 

「ウィッチを見たことがないのかい?まぁお前さんは扶桑人ではないようだし、いない土地には全くいないと聞くしねぇ」

 

また新しい言葉が出てきた。扶桑人、というのはこの土地の人間のことだろう。だがウィッチとは何だろうか。話の流れから察するに、魔法を使える者を指すのだろうか。

 

「あ、ウィッチというのは魔法力を使える女性のことです。使い魔と契約して魔法力を発動するとこんな風に……」

 

今まで喋らなかった女性の頭から犬の様な耳が現れ、臀部付近に尻尾が生えた。まるでおとぎ話のような能力だ。

 

「このように見た目が変化します。また少数ですが固有魔法を使える人もいまして、私と母さんは回復魔法の使い手です。それでお二人の治療をさせていただきました」

 

まだ夢を見ているのではないかと疑いたくなる光景だった。ホログラムだったとしても、あまりに違和感がない。

 

だがそんなことは重要ではない。俺にとって、重要なことは1つしかない。

 

「よく分かった……フィアナの調子はどうだ」

 

「この子のことだね。脈の乱れもないし、呼吸の乱れもないから、直に目が覚めるだろうさ」

 

見るとフィアナは静かに呼吸をしていた。今のところ問題があるようには見えない。しかし、目覚めたとしても、この先どうすればいいのか。

 

彼女はPS(パーフェクトソルジャー)だ。反射神経・筋力を向上させ、発達したメカニズムのスピードについていけるよう脳も処理された完璧な兵士が彼女である。

 

しかし彼女は定期的に液体金属ヂヂリウムの放射線をその身に浴びねばならず、浴びない場合PSの動作は鈍くなり、やがて体が硬直して最終的には死に至ってしまう。つまりヂヂリウムは彼女の生命線そのものなのだ。

 

だが今のこの土地で上手くヂヂリウムが手に入るかどうかは分からない。

 

以前PSの寿命は2年ほどという話を聞かされたことがあるが、ビッグバトルの騒動の際メルキア軍でPS開発に携わったカルマン・トムスによれば「寿命に関しては問題ない」と言われている。

寿命による短命はないが、果たして彼女の機能が低下する前にヂヂリウムを手にすることができるのだろうか。

 

俺たちの情報が洩れれば、以前のように追われる生活となる。俺はフィアナと2人で静かに暮らせれば、それでいいのだ。それだけで、いいのだ。

 

「……う、ん……」

 

そう考えていると、フィアナが声を発した。そしてこちらに顔を向け、目を開かせる。それは、初めて出会ったときのようであった。

 

「フィアナ!」

 

「キリコ……ここは……?」

 

俺はフィアナが完全に目覚めてから、今の状況を伝えた。フィアナは少し考えてから、2人に口を開く。

 

「私たちを助けてくださってありがとうございます。ですが、私は特別な治療を受けなくてはいけないのです」

 

フィアナはそれを口にする。一瞬止めるか迷ったが、今の動けない状態で、何らかの糸口を見つけなくてはならない。フィアナには時間制限があるのだ。

 

「それはどういったものなんだい?」

 

「……特殊な放射線を浴びる必要があります」

 

「……放射線ね。それをしないと、どうなるんだい?」

 

「筋硬直から始まり、心肺停止となります」

 

お互い少しの間沈黙があった。やがて老婆のほうが口を開く。

 

「放射線治療は欧州の方で行われているとは聞いたことはあるが……」

 

「扶桑ではほぼ普及していないですね。それにあれはガンに対してのもので、今言われた症例とは……フィアナさん、今体は動きますか?」

 

違う星だろうと当たりはつけていたが、放射線治療がほぼ普及していないということは、他の技術も今まで訪れた星と差があるのだろうか。フィアナは言われた通りに体を動かそうとするが、やはりコールドスリープから目覚めたばかりでは動くはずもなかった。

 

「あんたねぇ、仮死状態から時間が経ってないんだ。そんなにすぐ動くもんじゃないよ。しばらくは回復魔法とリハビリだね」

 

そんなに悠長にしている時間はない。2人と目線が合うと、女性は片手をこちらに向け静止しろという風に掲げた。

 

「私の夫が色々伝手があるので、ヂヂリウムに関しては聞いてみるつもりです。情報を集めるにしても、お2人が動けるようにならなければ始まりませんしね」

 

ヂヂリウムはATのコンピューターに使われるものでもあるが、100年戦争で大量に消費されたため非常に貴重なものとなっており、非常に高額なものである。そうなると購入者は限られ、特定されやすくなる。故にあまりこちらから情報の拡散は行いたくはなかった。軍の耳に入れば、また追われる身になるかもしれない。

 

「……よろしく頼む」

「よろしくお願いします」

 

しかし俺たちに選択肢はない。現状、この2人に頼らなければ身動きすら取れないのだ。

 

2人は引き受けてくれた。そして俺たちはリハビリをすることとなった。

 

ここは扶桑という国の横須賀にある宮藤診療所らしい。先ほどの2人の内老婆は秋元芳子、老婆の娘である女性は宮藤清佳、女性の夫は宮藤一郎というらしい。一郎は医者でなく、芸能関係に勤めているらしい。

 

世間話をしながらであるが、俺たちはリハビリをする。

 

俺たちが目覚めたのはまだ朝の時間であった。俺は1時間ほどで動けるようになったが、フィアナは半日かかり、その日の夕方には動けるようになっていた。宮藤達は少し信じられないようなものを見ているような雰囲気であったが、こういった視線はグレゴルーたちにも向けられていたので、さほど気にならなかった。

 

「治療された時のように、体が動くわ」

 

フィアナはそう語った。治療とはヂヂリウムのことだろう。回復魔法で同等の効果が出ているということか。

 

「回復魔法は先天性のものには効果が薄いが、後天性のものならば別だ。その病気も後天性のものなんじゃないのかい?」

 

フィアナのPSの能力は誕生のころから手を加えられているが、カルマン・トムスに言わせれば普通の人間に戻すことも不可能ではないと言っていることから、分類でいえば後天性になるのだろう。フィアナも頷いた。

 

「ただいま戻りました」

 

そんな中、1人の眼鏡をかけた優男が戻ってきた。宮藤清佳が駆け寄っていく。年齢を考えると、奴が一郎のようだ。

 

「おかえりなさい一郎さん。ご苦労様でした」

 

「ああ、ただいま。彼らが目覚めたんだね」

 

「はい。あ、キリコさん、フィアナさん。こちらが私の夫の一郎です」

 

やはりこの男が宮藤一郎らしい。軍に伝手があるような話であったが、立ち振る舞いからして訓練は受けてはいないようだ。ごく一般的な男性に見える。

 

宮藤一郎は、俺に右手を差し出した。

 

「初めまして、宮藤一郎と言います。芸能関係に勤めさせてもらっています。まぁ裏方ですけど……」

 

「……キリコ・キュービーだ。こっちがフィアナ」

 

俺は握り返した。一郎の手には軍人特有の銃タコもなく、綺麗な手だった。

 

それから一旦夕食を取った後、一郎へ事情を話す。一郎は、聞き終わると首を横に振った。

 

「申し訳ないがヂヂリウムという話は聞いたことがない。軍に知り合いがいるからそれとなく聞いてみてもいいが、上の方ではないから望み薄だとは思う」

 

軍属でないということで予想していたことではあるが、落胆はあった。しかしまだないと決まったわけではない。

 

「すみません、よろしくお願いいたします」

 

俺はフィアナに続いて頭を少し下げた。

 

「……よろしく頼む」

 

「頑張ってみるよ」

 

人のいい男だった。初対面の男女のためにここまで動いてくれる人間は、そういない。あのアストラギウス銀河では、逆に疑わなければならない親切さだ。

 

この男が何を考えていたとしても、この男からの情報待ちである。隠していたとしても、そこからアクションがとれるからだ。

 

俺はそこまで考えた自分に少し嫌気がさした。素直に人を信じたのは、遠い過去の様な気がする。

 

考えないようにした。俺はフィアナが宮藤たちと話しているのを横で聞きながら、これからのことを少し考えた。

 

そしてその日はフィアナの横で、彼女を見守り眠った。彼女が無事ならば、それでいいのだ……。

 

 

 

 

 

 

それから俺としてはすでに問題ないレベルにまで回復しているが、フィアナの経過観察ということでしばらく診療所に世話になっていた。

 

一郎は軍の知り合いに聞いたが、ヂヂリウムという言葉自体知らないと言われたそうだ。情報が集められなくてすまない、と言ってきた。真面目な男だ。

 

やはりフィアナの体は数日過ぎていくと徐々にヂヂリウムを浴びていない症状が出始めてきた。しかし回復魔法をかけると、ヂヂリウムを浴びる以上の回復を見せた。

 

当面は魔法で中毒症状の問題は解決だろう。無論並行してヂヂリウムは捜索しなければならないが。

 

しかし別の問題も出てくる。そう、俺たちは金がないのだ。医療費を払うこともできないし、それ以前に不正入国者だ。

 

PS以前に、捕まる可能性は高い。

 

「そこは僕が何とかするさ。何、名字は宮藤でも使えばいい」

 

「………」

 

一郎たちに相談すると、一郎はそんなことを口にする。その提案に、俺は思わず黙ってしまった。あまりにあっけらかんと言う男だ。

 

「さすがにそれは……申し訳ありませんわ」

 

フィアナは首を横に振る。俺も同意した。ここまで世話になった身ではあるが、少しお人好しが過ぎる。

 

「なんていうかな、君たちは助けたくなる何かがあるのさ。それに君たちは僕より年下だ、大人に頼りなさい」

 

はっきりとそう言われた時、少し面食らった。今までそんなことを言ってくる人間は、いただろうか。

 

「………だが今の俺たちでは礼をすることもできない」

 

「まぁそこは働くしかないだろうね。フィアナさんは体の事情もあるから、診療所の助手でいい。問題はキリコ、お前さんだよ。得意なことは何かあるかい?」

 

秋元芳子に言われ、俺は少し悩んだ。戦うことはできる……が、今の環境を崩したくはなかった。

 

軍に入ればヂヂリウムの情報は集まりやすいだろう。しかし、例えこの星がアストラギウス銀河でなかったとしても、俺たちの能力が目を付けられない確証にはならない。そうなると選択肢は限られてくる。

 

「整備だな」

 

主に整備内容はATだが、他のことも基本的には問題なくできる。肉体労働でも問題はないが、今までのことを生かせるとしたらこれがいいだろう。

 

「整備かい……ちょうどこの街にちょうどいい場所があるよ。どれ、電話してきてやるよ」

 

「……礼を言う」

 

「固いねぇ、あんたも」

 

秋元芳子は苦笑いしながら、電話へ歩いて行った。しばらく俺は頭を下げていた。

 

 

 

 

秋元芳子から紹介された場所へ向かうと、町の少し外れたところに、小さな工房があった。そこで待ち構えていたのは、老人であった。

 

帽子に汚れた作業服。少し体格の良い70歳は過ぎているだろう男だ。

 

「おう、おめぇさんがキリコかい!俺の名は門座、工場長と呼べ!」

 

寂れた工房の辺りを見渡すが、1人しかいない。

 

「……他の従業員は?」

 

「そんなもん、俺だけで十分よ!」

 

どうやら彼1人らしい。俺としては多かろうと少なかろうと、問題ではない。しかし物寂しくはあった。

 

工場長は大股で近寄り、俺の目を至近距離で見つめてくる。気にはなるが、特に視線を外さず見返している。

 

すると、工場長は大声で笑いだした。

 

「おめぇさん、若ぇのに肝が据わってんな!弱っちぃやつなら追い返そうと思ったが、気に入った!弟子にしてやる!」

 

どうやらテストをしていたらしい。ひとまず彼の勝手なテストは合格のようだ。俺は働きに来ただけで、弟子になるつもりはないのだが、こういったタイプは何も言わないほうがいいだろう。

 

「よし、まずは車の点検だ。やってみな!」

 

いきなり職場の案内もなく、持ち込まれた車の点検を俺に振ってきた。素人ならどうするつもりだったのだろうか。

 

見たところ古いものではある。というより、車もだが資料でしか見たことがないほど古いものだ。だが車などさほど難しいものではない。

 

俺はそのまま車の点検を始めた。緩くなっていたネジを締めオイルの交換なども行い、特に問題なく終了する。

 

すると工場長は満面の笑みで、背中を叩いてくる。

 

「よっしゃ、んじゃどんどん仕事をやってもらうぜ!」

 

割り振られる機械の修理も複雑ではない。ATなどを自身で整備できる俺にとって、難しいものではなかった。

 

その後の仕事内容は車だったり、商売道具の修理だったりだ。昼食以外は2人で作業した。

 

明るい男ではあったが、仕事中は無駄口をしないタイプらしい。夕日が差し掛かろうとするぐらいには作業は終了した。

 

「中々いい腕してんじゃねぇか。おめぇさん、本職か?」

 

「……似たようなものだ」

 

「今日の仕事は終わりだ。つーより、1人だともう少しかかる仕事だったんだが、助かったぜ!ちょっと待ってな!」

 

工場長は工場の奥へ引っ込んでいった。何かを取りに行ったようだ。

 

数分待つと、彼は茶封筒を右手に持って戻ってきた。そしてその茶封筒を俺に差し出した。

 

「何ぼーっとしてんだ、おめぇさんの今日の給料だ。電話で聞いたが今無一文らしいな。ならすぐ金は必要だろ?」

 

受け取んな、と言われ、俺は頭を下げ受け取った。あの仕事内容でどれほどもらえるのかは分からないが、ありがたかった。

 

「明日もまた来てくれや!8時にここで頼むぜ!」

 

手を振る工場長を背に、俺は帰宅した。

 

夕日の中、町の人間が帰宅しているのが視界に入る。色んな人間がいた。しかし、暴力の匂いはしなかった。

 

ここならば争わなくていいのだろうか。そんな気持ちを抱きながら、俺は彼女の元へ帰った。

 

こんな日は短いと思っていた。俺にとっての平和は長く続かないと思っていたからだ。

 

しかし予想に反して、何もない日々は長く続いた。

 

近くに家を借りて2人で暮らした。フィアナは治療を受けつつも、普通の人間と同じように生活が送れたのだ。

 

考えられないような生活だった。

 

しかしそんな生活も、転機が訪れることとなる。

 

 

 

 

 

 

青い空、青い海。美しいこの星の名は地球。だがこの星にも忌まわしい過去が舞い降りる。この体に染みついた火薬の臭いが、戦いを予感させる。

次回、『落下』。誰の導きなのか。




宮藤一郎
設定変更された人。職業が音響なのは中の人ネタ。死亡フラグ回避……できるといいなぁ。
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