航空機兵ボトムレス   作:伝説の超浪人

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ストライカーユニットに関して独自設定あります。ご注意を


キリコ編③ 『ネウロイ』

キリコ編③ 『ネウロイ』

 

「おーし、今日は大口の仕事だからな!気合い入れるぞキリコ!」

 

工場長は自分の頬を2度叩き、気合いを入れる。工場長が気合いを入れている理由は目の前にある機械……ストライカーユニットにあった。

 

ストライカーユニット。それは魔法力を持つウィッチと呼ばれる魔女たちが装着する言わば魔法の箒である。

 

箒とは言うが、実際は機械の塊である。現在軍で採用されているのは空を飛ぶ航空用と地上戦の陸戦用の2種類に分別できる。そして今目の前に置かれているのは航空用ストライカーユニットだ。

 

「……依頼の内容は?」

 

軍でしか現在使われていないものであり、いわば軍事機密の塊だ。こう言ってはあれだが、小さな工場に回ってくる仕事ではない。

 

専用の機材もなく、やることも伝えられていない以上、何から手を付ければいいかキリコには判断が付かなかった。

 

「おおっと悪い、興奮していて今回の依頼の内容を言うのを忘れてたわい!」

 

「………」

 

「怒るなよ!お前さんは知らないかもしれないが、昔欧州……あー、ここからずーっと向こうの大陸でな、何かバケモンが出てな。普通の攻撃じゃ効かなかったんだが、ウィッチで倒すことができたってわけよ」

 

その話をキリコは聞いたことがあった。かつて欧州で侵略してきた謎の生命体がいたと。

 

1914年に欧州に突如出現した謎の生命体との戦いが始まり、終結するまで1917年までかかった。その敵は金属を吸収し、通常戦力では歯が立たず、魔法力を通した攻撃でなければ決定打にならなかったという。

 

ストライカーユニットは戦争終結の決定打となったウィッチの魔法力を増大させるもので、今や世界中の軍に必ずある代物である。

 

「3、4年だっけ?まぁどっちでもいいわ!とりあえずそいつらをやっつけたのはいいんだが、これからまた現れないとも限らないってんで、改良することになったらしい!軍に知り合いがいてな、物は試しでやってみてくれってよ!」

 

「……それだけか?」

 

工場長の眉がピクリと上がる。脅威に対して対策すること自体は別に問題はない。

 

しかしそれは危機が迫っている場合であって、今は敵もいない以上理由もない。こんな小さな工場に運ばれる理由がないのだ。

 

「その生命体は学説ではあるが、時代の節目に現れるとされていて、古文書からも似たような特性が見られるらしい。そのタイミングっていうのが『科学の発展』じゃないかってな」

 

「………」

 

「もちろん確証もないし、多くの連中が笑い飛ばしているものだが、出現しているのは事実だ。そしてこれはそれに対しての対抗策さ。恩を売るためのな」

 

「……恩?」

 

「かつて主戦場となったのは欧州だ。軍の連中はまたどこかの大陸で出るかもしれねぇとか思ってんだろ。そのときに改良されたストライカーユニットを戦力とともに送れば、扶桑の名声はうなぎのぼり、発言力も上がるっていうものさ。それに欧州や他の大陸で化け物を食い止めれば扶桑への攻撃の可能性は減るってことさ」

 

「実際のところ出現してもしなくても欧州には売れるってわけさ。んで、それのために古いタイプが回ってくるってことさ」

 

必要なくなったユニットで改良できればよし。当たればいいだろう的な考えが透けて見える。

 

「……やるのか?」

 

そこまで理解していながら、工場長はやる気だった。利益だけ掠め取ろうとする軍の連中に対して何も思うところはないわけじゃないだろうに。

 

「おうともよ!普段触れねぇものに触れるんだ、興奮してくるぜ!おら、やるぞキリコ!」

 

とりあえず、バラそうとする工場長についていくようにキリコは工具を手にした。長丁場になりそうだなと感じながら。

 

 

 

 

 

 

「それで結局、改良はできそうなの?」

 

「……難しいだろうな」

 

帰宅し、フィアナの言葉をキリコは否定した。その間ずっと芳佳はフィアナの胸に抱き着いて大人しくしている。安心しているようだ。

 

「やはりそう上手くいくものではないのね?」

 

「……正確には、改良しようがない」

 

「どういうこと?」

 

フィアナにはキリコのことが少し信じられなかった。こう言っては悪いが、自分たちのいた星よりもこの星の、少なくともここ一帯の科学力はかなり開きがある。かつて軍で整備もできるほど機械に精通しているキリコが全くのお手上げな技術であるとは少々考えづらいからだ。

 

「……魔導エンジンが外付けになっている。今の出力より大きくするには、ATのように乗り込むレベルの大型化する必要がある。だが軍の希望はそうではないらしい」

 

ストライカーユニットは現在魔法力を増大させる魔導エンジンが外付けになっており、基本的にウィッチにリュックのような形で背負う形で取り付けている。

 

しかし現場からはこれが大変不評であり、何とかして小さくしてほしいというのが現場からの声が上がっている。

 

たしかに余計な荷物を背負えば、重さとバランスの変化で機動力も下がるし、武器の積載量も減る。現状でメリットが多いのだ。

 

「気持ちはわかるけど、それ以上小さくなんて無理じゃないかしら。こっちで言えばATのパワーを耐圧服を着る感じにしてほしい、みたいなことでしょ?」

 

キリコはフィアナの言葉に頷いた。そんなことができたなら、ATいらずだ。むしろキリコがその技術を欲しいくらいである。

 

「うぅー」

 

そんなことを考えていると、芳佳がキリコへ手を伸ばしていた。どうやらキリコに移りたいらしい。

 

「はいはい芳佳、お父さんのところに行きましょうね」

 

「………」

 

キリコは黙って芳佳を腕に抱くと、お互い見つめ合う形になった。芳佳はペタペタとキリコのこめかみを触る。

 

フィアナはその様子に少し笑って

 

「キリコ、ほら芳佳が笑ってほしいって」

 

「こうか……」

 

確かにキリコの表情は変わった。しかしそれは笑うというより、眉が下がった困った時の、しかも変な顔である。

 

「フフフ、キリコ、それじゃ困ってるみたいだわ」

 

「あうー」

 

「まて芳佳、髪は引っ張るな……!」

 

「フフフ……」

 

「だぁー!」

 

「……!」

 

結局芳佳が大人しく寝付くまで、キリコは髪をいじくりまわされることとなった。子供の相手は下手したらバトリングのほうが楽かもしれないなと、芳佳の寝顔を見ながら思う。

 

「この子は物怖じしないわね。性格はあなた似かしら?」

 

「……俺よりも、フィアナ似のほうがいい」

 

「そうかしら?」

 

「……女の子だからな」

 

そう言うとフィアナは微笑んでキリコの肩に頭を乗せる。

 

「キリコの性格でも、大丈夫よ」

 

「………」

 

「だって、今こんなにも幸せだから」

 

キリコは、言い知れぬ幸福感に包まれていた。長く戦い続けた先につかんだものは、今ここにあるのだと。

 

しかし同時に不安も感じていた。芳佳は2人の子供だ。そう、異能生存体とPSの子供だ。その子供がただの子供であろうか。

 

それはこの子が成長したときに分かるのだろう。だが明日のことは誰にも分らないのだ。それは神でさえも、分からぬことなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

普通の仕事をこなしつつ、研究も工場長の2人で進めていた。しかし一向に改善案が見つからず、時間が過ぎていた。

 

第一、普通の仕事が優先なのだから、研究に割り当てる時間などあまりないのだ。工場長の妻からは、「趣味の一環みたいねぇ」とまで言われるくらい時間がない。

 

工場長はあきらめん!と言って続けていたが、その妻からは穏やかな視線を向けられていた。いや、実際に「好きにしなさいな」など非常に優しくされていた。工場長曰く、結構堪えたらしい。

 

実をいうとキリコは改良の目途はある程度立てていた。しかし、各地で研究が行われたすぐ後に発表すれば、怪しまれるだろうことから、何も言わず見つけていない振りを続けていた。

 

詳しく言うと時期が悪い。もしすぐ発表すれば、普通の人間とは違う、高度な科学知識がある人間……宇宙戦艦から脱出した人間が地位がある職に就くために出した可能性を疑われるかもしれないからだ。

 

キリコの改良も、あのワイズマンから受け継いだ時の知識を応用しているものだから、間違いではない。だから、こちらの魔法力でワイズマンの知識を再現する必要があった。それに時間がかかっていることもあり、フィアナ以外には誰にも話していない。

 

ようやく形になったのは芳佳が成長していき、生まれて4年ほどの月日が経った頃である。そこまで待ったのだ。

 

「ところでキリコ、話ってなんだ?」

 

「……改良点だ」

 

工場長を呼び、改良点の図面を見せる。工場長は、「こいつは……」など呟きながら図面を穴が開くほど見つめる。

 

数十分は経っただろうか。工場長はしばらくして、大きくため息を吐いた。

 

「どうやったら、こんな発想出てくんだ?ユニットにエンジン全部入れて、装着する足は異空間に転送しちまうとか、意味がわからん!理解はできるけどな」

 

今まで足を入れていた部分に魔道エンジンを詰め込むことにより、背中に背負っていたエンジンを両足に入れることができるので大型化ができるのが利点だ。そして入れるべき足を魔法力を利用し魔力フィールドによって一種のワープを起こさせる。つまり足は別次元へ移動し、大腿部でユニットと固定されることになるのだ。

 

これによりスペースが有効的に使え、出力増加を見込めるというシステムだ。

 

「……娘がかくれんぼで箱の中に入って思いついた」

 

「足がいないいないばぁってか?良い父親みてぇだな、お前さん」

 

芳佳のかくれんぼで思いついたのは事実だった。

 

しかし技術そのものはワイズマンから知識を与えられたものだ。

 

奴が俺たちを瞬間移動とも呼ぶべき、あの技術を応用していたものだ。恐らく奴は異空間に普段身を隠すことによって、誰にも見つからず異能生存体が出現するまで待つことができたのだろう。

 

「だがこんなのは聞いたこともねぇ技術だ。理論上は魔法力に基づいているから可能かもしれねぇが……まぁやってみるしかねぇか!」

 

ワイズマンの技術であっても、魔法力で再現可能である代物であるから、ただの発明で片付けられる可能性のほうが高い。

 

普通の人間は自身の常識で物事を考えるものだ。いきなり、宇宙人からの技術であるなどという考えから入る者はいない。

 

そう、キリコはまだ宮藤一郎という後ろ盾しかいないのだ。この発明でキリコを擁護する人間が増えれば、何かあったときにも対処できる。

 

守る者が増えたキリコは、打算的な考えを優先してしまった。

 

そんな自分が、少し嫌で、工場長の言葉に黙って頷いた。

 

 

 

 

 

元々図面は完成しており、完成するまでそう時間はかからなかった。完成品を軍に収めると、すぐに軍に呼ばれ説明会を行うこととなった。

 

工場長に行ってもらおうかとも考えたが、工場長に背中を叩かれた。

 

「俺は手伝っただけだ!おめぇさんがいけぃ!」

 

その言葉に、俺は頭を下げた。

 

軍に出発する日、何かあれば宮藤家に逃げるようフィアナに言い聞かし、町の人間に見送られながら俺は軍にたどり着いた。

 

そこで実際に説明を行うと、この技術は突飛すぎて、多くの人間から懐疑的な目で見られていたことがわかった。既存の技術から大きく逸脱しているのだ、もっともである。

 

否定的な意見も多かったが、それを抑えるためにも、実際完成したストライカーユニットと既存の物を比較するため飛行実験することとなった。

 

飛行させるにはウィッチが必要になり、志願したのは海軍所属のウィッチだった。北郷章香という少女だ。

 

「よろしくお願いいたします、宮藤博士!」

 

「……よろしく頼む」

 

博士という呼び方はなれないものだったが、それ以外呼び方がないと自分に言い聞かせ、キリコは表情を変えず彼女に敬礼を返した。

 

「敬礼が様になっていますな、博士」

 

「……真似をしただけです」

 

将官であろう人間に返すと、男は笑った。

 

台の上から魔法力を発動させた北郷が足が入りそうもないユニットに足をつけると、足の先が飲まれるように消えていった。すこし少女は震えていたが、途中で足を外したりはせず、最後まで入れることができた。

 

「すごい、こんな状態なのに足がある感覚はそのままです」

 

「……エンジンを回すイメージで魔法力をこめろ」

 

「は、はい!」

 

俺の言われた通り彼女は魔法力を高めていく。焦れて組んだ腕の人差し指叩いている将官を余所に、数分後地面に魔法陣が形成される。それと同時にユニット下部から魔法力で形成されたプロペラが出現する。

 

「起動成功だ!」

 

「……飛んでくれ」

 

「はい!北郷、行きます!」

 

その声とともに少女は滑走し、そのまま空へ飛び出していく。実験は1回で成功した。まさか1回で成功するとは思ってみなかったが、まぁ言う必要はないだろうと、喜んでいる周りの人間を見てキリコは黙って少女に視線を戻した。

 

両者を飛行させるとその違いは明らかだった。

 

出撃までの時間短縮、余計な荷物がないため運動性などの向上、武器など積載量増加にもなり、旧式が勝っている面はなかった。

 

正直な話、キリコはここまで上手くいくとは思っていなかった。実験も成功し、より技術的な説明をすることとなった。

 

「遊んでー!行かないでー!」

 

そのため連日軍に足を運ぶこととなり、芳佳が駄々をこねて大泣きし大変だった。

 

何とかなだめた甲斐あって、軍の説明は上手くいき、陸・海軍問わずキリコの開発したユニット、通称「宮藤理論」が採用されることとなった。

 

それに伴い、嗅ぎつけたマスコミの対応もしなければならず、この時のキリコは人生で一番喋った。それほど質問攻めにされたのだ。人前に立つということは、要らぬ苦労もあるというのを初めて学んだ。

 

それほどにうっとおしいのだ。

 

「ではあなたはこれをどこかで師事するわけでもなく、ご自身のみで考えられたというんですか?」

 

「……はい」

 

「随分若いあなたがですか?それは少し妙じゃないですか?」

 

「だが、できている」

 

「そりゃそうでしょうが……」「ではこの発明は……!」「奥様とのなれそめを!」

 

マスコミ、というのは神経に触るものなのだろうか。いや、こちらのことは考えず、自分たちのことしか考えてないせいだろう。

 

兵士であったほうがよほど気楽だったと、キリコはため息をついた。

 

 

 

 

 

宮藤理論が広まると、海外からもオファーが来るようになった。軍からもぜひ行くよう要請が来ていたが、キリコは家族を理由に頑なに断った。

 

初めから行く気はない。その役目を、軍の技術者に任せた。派遣されたものは、帰国後昇進が待っており、派遣の希望者は後を絶たなかった。それほど国内では宮藤理論は理解されていった。新技術としては異例の早さである。

 

「お父さーん、肩車して!」

 

「………」

 

「わーい!高い高ーい!」

 

黙って芳佳の要望通り屈むと、芳佳は飛びついて肩に乗る。嬉しそうにしているこの子は、やはり運動神経がいいのだろう。そう思ってしまうのは親ばかなのだろうか?

 

「お母さんも早く来てよー!」

 

「はいはい」

 

フィアナは芳佳の手をつないで、横になって歩く。

 

穏やかな日々だった。だが平和はいつか崩れるものだというのは、この身でよく知っている。

 

それが現実になったのは次の日の朝の新聞で知った。

 

1937年、扶桑海に謎の生命体が出現したという記事が全国に知れ渡ったのだ。

 

並みの兵器では歯が立たず、駆り出されたのは実戦経験もないウィッチたち。その中には実験で知り合った北郷や、彼女を通して知り合った坂本美緒という少女らも出撃していった。

 

何とか退けたものの、大陸の向こうからやってくるその生命体を抑える事しかできず、大陸の向こうにあった扶桑の領土は蹂躙されることとなる。

 

「やはりウィッチだけでは決定打にならないのかもしれません」

 

そう溢したのは、実験で出会った将官である。たまたま軍内部で会ったときに、話す機会があった。

 

「欧州ではウィッチでない、人型の装甲騎兵があると言われているが……扶桑はまだありませんし……」

 

キリコは衝撃を受けた。やはり誰かがあれを実用化させているのか。しかし実物を見てない以上確定はできない。

 

「その機体の名は?」

 

「名ですか。様々な種類が出回っているという話ですが、スコープドッグというものが主流だそうです」

 

おそらく、南極に落ちた船はギルガメス軍の可能性が高い。ならば追ってきたのは誰だ。

 

「博士?」

 

「……それが扶桑にあれば、量産できるようにしてみせよう」

 

「誠ですか!?」

 

「……必要だからな」

 

そして大陸からやってきた「山」と称された生命体は扶桑陸軍・海軍協力の元、撃破に成功した。

 

活躍し実戦データも取れた宮藤理論に基づいたユニットは評価され、以後世界中のユニットの基礎となった。

 

キリコにとってはプラスに働いた扶桑海事変であった。

 

しかし、戦いはここからが始まりであったのだ。

 

1939年9月1日、怪異、ダキアに上陸(第二次ネウロイ大戦)。ダキアに上陸した怪異を「ネウロイ」と命名され、大陸は瞬く間にネウロイに蹂躙されていった。

 

大陸は、血と硝煙の満ちる戦場となったのである。

 

「(俺はその知らせを聞いて確信した。いつかこの異能生存体が俺を戦いに巻き込むことを。だが今の俺には守るものがある。そのために力がいる。あの忌まわしい記憶とともに駆け抜けた、ATという名の力が)」

 




祖国のため、平和のためと送られた戦士たち。
故国を守る誇りを厚い装甲に包んだアーマード・トルーパーの、ここは墓場。
町を焼き、人を飲み込む姿は過去の己自身か。
踏み越えていくのは過去か、絶望か。
次回「アフリカ大陸」
1人きりの闘いが始まる。

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