春、中学卓球界で波乱が巻き起こった。
春大会とも呼ばれる全中選抜大会の団体戦にて、九年連続全国優勝を成し遂げた凰堂学園が無名校に敗れ、緒戦敗退したのだ。その無名校は破竹の勢いで全国優勝。凰堂学園一強の時代は終わり、群雄割拠の時代が幕を開ける――。
などと書かれてあった卓球専門誌の記事を思い出しながら、上矢あがりは朝の通学路を進む。時刻は七時十分前。朝練は七時からだ。
あがりとしては無名校の実力に興味はあったが、自分たちの出ていない大会の結果にはさほど興味がなかった。雀が原中学校は部長と一年の主戦力が諸事情で休部したため春の団体戦を欠場したのだ。
終わったことを気にする暇に一球でも多く打って力をつけ次の大会に備える。そうして部のみんなで全国へ行く。
全国と考えるだけでも胸が高鳴る。ライバルとの部内戦で勝って部内一位になったときでさえドキドキするのに、全国で一番になればどんなに――
「ドキドキするー!」
「不審者ー!?」
考えに先んじたような声を発したのは、なぜか校門の上にまたがって震えている不審者だった。思わずあとずさるあがり。
「助けてください! お、降りられなくなっちゃって、て、てて手を貸していただけないでしょうか」
「……」
あがりは半ば呆れながら、その不審者に手を貸した。
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旋風こよりと名乗った不審者は、今日から雀が原に転入生のようだった。張り切って早く来てみたところ、マスコットのぬいぐるみが閉じた校門の中へ入ったので、校門を乗り越え取りに行こうとしたら降りられなくなったのだとか。
話すうちにあがりが卓球部の朝練に来たことを口に出すと、こよりも卓球が大好きで前の学校では卓球部だったと返す。それならということで、あがりは卓球場までこよりを案内した。
練習着に着替え卓球場へ入ると、あいさつとともにこよりへの好奇の視線が集まる。人見知りのこよりはあがりの背中にくっつき小動物のように震えていた。
「新入部員です。校門前で拾ってきました」
「そんな子犬みたいな言い方……」
三年のムネムネ先輩を皮切りに部員たちが手を止め集まってくる。
「同じ二年だってなー! よろしくなーまげまげ! 私のことはハナちゃんって呼んでいいぞ!」
「私はムネムネ先輩だよ!」
「ねえ……誰の許可を得て……私のあーちゃんにひっついてるのかなぁ?」
「ひいっ!?」
「ちょっとストップ! 怖がってるから! 特にクマミはガン飛ばすのやめなさい!」
「うん、分かったよあーちゃん!」
幽鬼のようなオーラを発しつつ光のない目で睨みつけるクマミだったが、あがりが制止するなりパッと笑顔を浮かべた。その豹変ぶりにこよりが更に強くあがりに引っ付き、クマミの笑顔がひきつる。
「『ぶっ壊す……』。ねえ旋風さん、私と打たない? 一セット先取で」
「いいんですか? えっと――」
「月ノ輪紅真深だよ。クマミって呼んでね」
「ちょ、ちょっと待って!」
クマミは部内戦ランク現在二位の実力者で、しかもなぜか今は本気で相手をぶちのめす裏のクマミモードになっている。新入部員が相手するには荷が重すぎる、とあがりが声をあげるが、「まあまあ」とムネムネが割って入った。
「ウチで卓球をするならどのみちいつかは戦うことになるわ。ここは黙って見守りましょう?」
「それはそうですけど……」
たしかに部内戦のさかんな雀が原卓球部では遅いか早いかの違いだろう。それでもそそっかしくて頼りない印象のこよりが心配なあがりは、ハラハラしながらライバルとこよりとの試合を見守ることとなった。
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こよりの渾身のスマッシュがクマミのコートに突き刺さる。
「くっ!」
コースを先読みしていたクマミはかろうじてそのボールに追いつき、今はすっかり使わなくなった曲がるカットを放った。
高い弧線を描いて飛ぶボールに対し、二度目のスマッシュのタメを作るこよりだったが、バウンド直後大きく軌道がねじ曲がったことで打点がずれ、空振りしてしまう。
カウントは14-12。クマミの勝利だった。
「あ、ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
二人があいさつした直後、周囲の部員たちが一斉に歓声をあげる。
「すごいですこより先輩!」
「部内ランキング二位のクマミ先輩にここまで食いつくなんて!」
「まげまげって強かったんだー!」
「はわ、はわわ……!」
部員たちに賞賛され戸惑うこよりをしり目に、あがりは息を整えているクマミに近づいていった。
「お疲れ様。ずいぶん苦戦したわね」
「うん、正直三セット先取なら負けてたと思う。一球ごとにボールが重くなる。コースが厳しくなる。究極のしり上がりタイプだよ」
「あなたがそこまで言うなんて……!」
クマミの言葉がけっして大げさではないことはあがりにも分かった。前陣でのスピードドライブを主軸に、カーブ、シュートドライブで変化の幅を増やしたクマミの超攻撃型卓球を真っ向から受け止め、デュースでの接戦に持ち込んだのだ。最後の勝負所でクマミが放った曲がるカットも、慣れられればどう対応されるか分からない。こよりの実力が高いのは明らかだった。
示し合わせたかのように、にやりと好戦的な笑みを浮かべるあがりとクマミ。
「面白い子が入ってきたね、あーちゃん!」
「ええ、もちろん一番はこの私だけどね!」
「か、上矢さーん!」
と、そこへ話題の人物その人、こよりがやってきた。囲まれてほめ倒されるのに耐えられなくなったらしく、あがりの背中にくっつく。生き生きとしていたクマミの目がまた死んだ。
ムネムネ先輩は新しいネームプレートにこよりの名前を書いている。
「負けちゃったからランキングは最下位からのスタートになるけど、旋風さんならすぐ上に行くわね」
「ら、ランキングって何ですか?」
「うちは全部員を実力のある順にランク付けしているの。昔からの伝統でね」
旋風こよりのプレートが一番下に差し込まれる。二位相手にあれだけの試合内容で最下位なんてとんだランク詐欺だ、と幾人かの部員が苦笑した。
「まあ全部員といっても、休部中の部長とカヤちゃんは除外されてるけどねー。あっ――」
唐突に何かを思い出したような声をあげるムネムネ。注目が集まる中明るく告げる。
「昨日連絡があったんだけど、カヤちゃんは今日の放課後から復帰するらしいわ。部長も近いうち復帰するからよろしくねー!」
「今日から!? ついに戻ってくるのね!」
「楽しみだね、あーちゃん!」
「そういえば先週退院したって言ってたなー!」
「あ、あの、カヤちゃんって……?」
今朝来たばかりのこよりや、今年入った一年は状況がつかめず、こよりが小さくあがりに尋ねる。
「事情があって一月ごろから休部してた部員よ。実力は――まあ、放課後打ってみれば分かるわ」
「きっとまげまげもビックリするぞ!」
いたずらっぽく笑うあがりとクマミ、自信ありげなハナビ。こよりの中でまだ見ぬカヤに対する期待が高まり、ビックリ箱を前にしたかのような心地よいドキドキが胸を高鳴らせるのだった。
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カヤの事情とは祖父のギックリ腰だった。
年明けごろから腰に痛みが走るようになったが、それを無視してカヤと練習、試合を続け、しかも若いころのツテでたびたび回ってくる講演会や講師の依頼に毎日奔走していた結果、症状が悪化。咳一つするだけで激痛、くしゃみでもすればのたうち回るレベルの症状となり、入院を余儀なくされた。
カヤは自身の親代わりである祖父が始めてみせる弱った姿に動揺し、心配のあまり練習にも身が入らなくなった。このため一月末の新人大会団体戦を欠場。二月頭には退院できるはずだったが、祖父は隠れて素振りしていたらしくさらに病状が悪化し入院延長。カヤは心配と怒りが爆発し生まれて初めて怒声を出した。そして三月頭の春大会も欠場することとなる。
四月に新年度を迎えてからようやくまともに動けるようになり、見舞いや監視をしていたカヤも卓球部に復帰する。
その日最後の授業を終えてから駆け足で部室兼更衣室へ向かい、パパっと着替えて卓球場へ。慣れた手つきで卓球台と防球フェンスの準備を整え、軽いストレッチの後一人でサーブ練習を始めた。時刻は三時三十五分、練習は四時からなので大分余裕がある。雀が原卓球部では台の用意とストレッチさえすれば練習開始時刻まで自由練習だ。
卓球から離れている間も卓球人としての冷静な頭は常に稼働していた。新しいサーブのフェイント、回転、それらに伴う三球目、五球目の戦術など、無数に試したいものがある。
まずは基本の下回転から。数か月のブランクで試合勘は鈍っていても、十年以上かけて培ったボールセンスは鋭いままだった。流れるようなトス、落ちてきたボールの真下を手首の力で強くこする。インパクトの直後に手癖で覚えたフェイントモーションも入れておく。
下回転のボールはネット上ギリギリを通過し、二バウンド目で失速、三バウンド目でネット方向へ戻った。
高さ、回転量は十分。続いてコースの打ち分け、回転の種類の打ち分けを始める。フォア、ミドル、バック、ナックル、上回転――すべてのボールが思い通りのコースへ思い通りの回転量で飛んでいった。
どうやら基本は忘れてないようだ、とカヤが安堵のため息をもらすと、
「すごーい! 今、全部同じ動きだったよね!」
「コースも三パターンでほとんど同じだったのに、回転の種類はそれぞれで違ってた! 何者!?」
「……こんにちは」
後ろから見覚えのない二人がキラキラした目を向けていた。反応に困ったカヤは体育会系の基本、あいさつを返しておく。
「こんにちは! 私は佐々木さつき。あなたすっごく卓球が上手なんだね!」
「こんにちは、田口たんぽぽだよ。同じ一年生同士よろしく!」
「わ、私は橘、よろしく。でも一年生じゃ……」
「ねえねえ、橘さんって経験者でしょ? よければバックラリーのコツを教えてほしいな。フォアはなんとなく分かるけどバックは難しくて」
「私は逆にフォアのこと教えてほしい!」
「え、あ、その……分かった任せて」
カヤは考えるのをやめ、教えながらさつきとたんぽぽと打つことにした。進級しても身長は一年の頃からほとんど変わってないし、田口たちよりも背が低い。後輩に卓球経験者の同輩と勘違いされるのも仕方ないだろう。
そんなことより卓球だ。
実家の卓球教室で得た経験をフル活用し、初心者らしい後輩たちに指導を開始した。
まずは田口たんぽぽ。バックハンドが苦手という彼女だったが、その原因は誰から見ても明らかだった。
「田口、腕を振りすぎ、手首を返しすぎ。もっと力を抜いて小さく打ってみて」
「えー、でも先輩はこんな感じだよ? 腕を思いっきり振ってバチンと決めるの!」
おそらくあがりのバックハンドスマッシュに影響されたのか、異様に大きなスイングで腕を振り回すのだ。振り回すのに気を割きすぎてボールが見えておらず、九割がた空振りしている。
これは初心者が上級者を見て真似たときに見られる現象で、上級者の印象的な部分、平たく言うとカッコイイ部分だけを真似ようとして空回りするのだ。
「バチンと決めるのはスマッシュ。基本ができてないと打てない。バックハンドの基本は先輩に習った?」
「えっと、小さな振りで、体の前で、だったかな」
「その通り。回転はいらない、威力もいらない。ボールをよく見て、小さく振ってみて」
「分かった!」
ゆっくりとしたボールをたんぽぽの体の正面へ送る。たんぽぽは腕を緊張で硬くさせ、最小限の振りでバックを振る。
見当違いのコースへ返ってきたボールをカヤがヒョイと返球し、ボールはまたたんぽぽの正面へ。
「そうそう、いい感じ」
「わっ、す、すごい、ラリーが続いてる!」
「後はもっと力を抜いて、腕を柔らかく使って」
「こ、こんな感じ?」
「そうそう」
カヤの言葉は少ないが、いつになくラリーが続くことでたんぽぽの顔に笑顔が咲く。
相手のもっとも打ちやすいコースへボールを集中させ、なおかつある程度の球威を保つ。明らかに軽いボールを打っても手ごたえがなければラリーの楽しみが分からないので、スピードとコースを固定しつつ回転量を調整して威力を持たせている。
これがカヤなりの指導法で、最低限の説明の後相手が一番喜ぶコースと球威でラリーを続ける。打つ楽しさを最優先だ。試合の際はこの方法の逆、相手の一番嫌がるコースと球威を連続で打ち出している。
「48、49……あっ! ごめん!」
「ドンマイ。バックはそんな感じ。忘れないよう素振りしてね」
「うん! ありがとうね!」
ラリーはたんぽぽのネットミスで途切れた。
すぐさま素振りでおさらいを始めるたんぽぽと入れ替わりにさつきがカヤの対面に立った。何かを期待するような熱い視線をカヤに向ける。
「スピードドライブっていうの、教えてほしい!」
「それは応用技。フォアラリー100回続いたら教える」
「ええー!?」
「はいいーち」
「うわわっ!?」
問答無用でラリーを始めるが、おそらくクマミに影響されたのだろうさつきは、案の定フォアラリーが続かない。スイングスピードだけ無駄に速くて空振りが連続するのだ。
「もうちょっとゆっくり、強く打とうとしなくていいから」
「こんな感じ!?」
「まだ強い、もっと……うーん」
口で言ってもさつきの雑な振りは直らない。
こんな時は間近でお手本を見せてあげるといい。経験則でそう判断したカヤはたんぽぽにラリーの相手を頼もうとするが、卓球場の入口に見慣れない部員が立っているのが目に入った。
ちょんまげのような二つのおさげと汗をかく犬の髪飾りが特徴的な彼女の手には、シェークハンドラケットが握られている。ラケットとラバーの摩耗具合から見て間違いなく卓球経験者だ。
「あの、そこの人。少し手伝ってくれない?」
「……。え、わ、私ですか!?」
「こより先輩、こんにちは!」
「こんにちはー」
「こ、こんにちは。え、えっと手伝いって何を……?」
人見知りなのか、じりじりと距離を詰めてくる彼女、もといこより。
「私とフォアラリーしてほしい。さつきはこっちに来て。今のさつきはこんな感じ」
「えっ、やだ、私のフォア、振りすぎ?」
若干おおげさにさつきの大振りをマネすると、さつきはうわっと口に手を当てて引いた。さつきの中ではもっとかっこいい振り方だったらしい。
「これを、こうする」
対面に立ったこよりとゆっくりとフォアラリーを始める。小さく、基本に忠実にを意識する。それをお手本にカヤの真横でさつきが素振りを初め、その間もラリーを続けていると回数はすぐに100往復を超えた。
そろそろいいか、とカヤが切り上げようとすると――唐突にラリーの速度が上がった。
「あ、あの、こより、先輩?」
こよりはカヤの問いかけも聞こえない様子で、一心不乱にフォアスマッシュを連打している。すさまじく重いボールだがコースが決まっていればブロックはできる。
強打が得意な選手はラリーを続けていると無性に打ちたくなるときがあるという。きっとこよりもその類なのだろう。
急にラリーに付き合わせたせめてものお礼として、カヤはできる限りブロックを続けることにした。スマッシュの打ちやすい高めのボールにすることも心掛ける。
「このフォアスマッシュも、フォア打ちが完璧にできて、初めてできること。なので、基本を、大切、に」
「は、はい!」
一球ごとにボールが重く、速くなる。
このままブロックを続けるのは厳しいと考え、カヤは後ろへ下がった。台から離れれば離れるほどボールの速度は遅くなるし、打たれてから反応する時間の余裕もできるのだ。
スマッシュに対し高い軌道でボールを打ち上げるしのぎの技術、ロビングを始める。こよりは高く返ってきたボールを確実に叩き、スマッシュ対ロビングの構図となる。
「なにこれなにこれ!?」
「男子の試合で見るやつだ! テレビで見た!」
後陣で相手の攻撃をしのぐロビング技術は、前陣中陣に貼りつき相手が攻撃する前に仕留めるカヤにはまったく無駄な技術だ。カットマンを目指していた時期に覚えたきりほとんど使っていない。
だからこそ新鮮で楽しく、つい調子に乗った。
「あっ」
ボールを高く打ち上げる際、強い横回転をかけてしまった。打ちやすい軌道で返すのを忘れやりたいようにやってしまった。
案の定ボールはバウンド後大きく曲がり――しかしこよりは難なくそれをスマッシュする。
(どうしよう、超楽しい)
今度は上回転をかける。ボールはバウンド後こよりの方向へ強く前進するが、数歩後ろへ下がったこよりがスマッシュで返す。
何をしても返ってくる。じゃああの技術は、カット、フィッシュ、前に出つつドライブ、ナックルでロビング、反転して粒高でロビング――試したい技術、思い付きに近い打法までもが泉のごとく湧いてくる。
永遠に続くかに思われたラリーだったが――
「あのー、そろそろ練習始めるんで集合してほしいなーなんて」
遠慮がちなムネムネ先輩の声により終わりを迎えた。
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雀が原卓球部では練習前に集合し、連絡事項や練習の流れを軽く説明する。その場でカヤは注目を集めていた。
「新一年生の人は初めまして、二年の橘カヤです。今日から復帰します。三年の先輩方はお久しぶりです、またよろしくお願いします」
「おいおーい、私たちには何もなしかー!?」
「だって教室でほぼ毎日会ってるし……」
ハナビが茶々を入れると二年のメンバーが苦笑する。クラスは違うが休み時間や昼休みに教室をまたいでよく卓球トークをするので、特に久しぶりとも思えないのだ。
和やかな雰囲気とは対照的に、顔を青くしてあわあわと喘ぐ二人がいた。たんぽぽとさつきである。
「ど、どうしよう、先輩にタメ口聞いちゃったよ……!」
「うさぎ跳び!? 吐くまで外周!?」
「吐くまで多球でフットワーク」
「ぎゃー!」
「こらカヤ、後輩をからかわないの」
「真顔で言うと冗談に聞こえないからね」
カヤなりの冗談はあがりとクマミにたしなめられた。表情が乏しいせいで分かりにくい。初めての先輩後輩関係を経験中の中学一年生にはきつい冗談だった。
「別に気にしてないからいい。とにかくよろしくお願いします」
最後にペコリと頭を下げ強引に話を終わらせる。なんかグダグダだなー、と野次が飛ぶのは気にしない。
「ところでムネムネ先輩、一年の初心者は誰が教えてる?」
「二年と三年が二人一組でローテーションしてるよ」
だしぬけにカヤが尋ねたのは一年初心者の教育について。割と学年の垣根が低い雀が原卓球部だが、二年三年のランキング上位者と卓球歴一か月未満の初心者では練習にならないので、初心者グループには一日交代で二人一組の先輩がついて教えることとなっている。
「教え方とか練習計画の打ち合わせはしてる?」
「えっ? えーっと」
ムネムネ先輩が目をそらした。二年と三年のメンバーはそれぞれ首をかしげたり、目を丸くしたりしている。彼女たちは基本、選手であって教えることが本業ではないため、カヤの言うことは完全に盲点だったのだ。
卓球の基本的な打ち方には画一的な答えがあるが、教え方は千差万別。教える側が指導方法の打ち合わせをしていないと、同じことを言っているのに指導者によって違った伝え方になってしまい、教わる側が混乱して学習効率が落ちることもある。
「もしよければひと月くらい私に任せてほしい。教えるのは慣れてる」
「たしかにカヤは教えるの上手いよなー!」
「ハイトスサーブのコツも教えてくれた。さすが実家が卓球教室なだけある」
カヤの提案を後押しするようにハナビとほくとの率直な声があがる。先ほどのこよりとのラリーで十分カヤの実力を察していた一年生たちだったが、実家が卓球教室という情報が決め手となり、カヤに教わることについて全員が前向きとなった。
カヤと打ちたいあがりとクマミは多少の不満はあったものの、部に貢献したいカヤの気持ちを感じ、口をつぐんだ。部内戦に参加してくれるならいいか、と顔を見合わせ頷き合う二人。
こうしてカヤの一年生強化計画が始まった。
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