『狂乱』に出てきたロンド・ベルの異世界鎮守府物語です。
主人公は、ロンド・ベルです。
チートどころじゃない力を使ったり、かなり曖昧な理論で『行っちゃえ』と動くことあります。
それでも大丈夫な方は、どうぞ。
皆さまの小さな楽しみの一つにでもなれば、幸いです。
最近、昔のことをよく思い出す。
弱かった自分。馬鹿だった頃の存在。
誰が悪いわけでもない、色々と不運だったことが認められず、周り中を恨んでいた頃の話。
今はどうだろう。悔しい気持ちは忘れてないし、もっと色々とやりたかった想いもある。
でも、今の自分は立ち止まったり、振り返ったりしない。
前に進む。
後悔も慟哭も、憎悪もすべて背負って、罪の意識に押されることなく、罰を待つだけでもなく。
ただ、風を受けて前に。
『はい、ロンド・ベル。調子はどう?』
「良好です、明石さん」
通信機から聞こえた声に応え、瞳を開く。
見なれた水平線、何処までも続く蒼い世界の中で、両手を広げる。
『ついに、ロンド・ベルも改二かぁ。長かったような短かったような』
『夕張、手を動かしてよ。後、二隻で調整が終わるんだから』
『はいはい。でもさ、誰のアイディアなの? 八隻をアーマーにするなんて』
『ルリさんのディスクに入ってた、テラさんのアイディア』
あの二人の合作。
一瞬、嫌な予感がして通信モニターに視線を向けると、明石さんは笑顔で親指を立てている。
『大丈夫! アイディアも技術もそんなに怪しいのは使ってないから』
『・・・・・・妖精たちが、頭を抱えていたけどね。あの、テラさん直卒だった妖精たちが』
「ええ?! みんな、無事?!」
慌てて全員を確認すると、全員が鉢巻をしていた。
『は、我が女帝よ。俺達は死地なんて何度も潜ってきたんだぜ』
『ええ、ボスの初期の頃に比べたら』
皆が涙を流しているなんて、初めて見るのだけれど。
ちょっと怪しんで明石さんを見ると、嬉しそうに装置をいじっていて。
「夕張さん、あの、本当に大丈夫なんですか?」
『まあ、大丈夫でしょ。私も確認したけど、怪しい技術は使ってないから』
そうなのだろうか。
いや、そもそもだ。元々、この艤装はテラさんが使っていたもので、ルリさん達が全力で組み上げたものらしい。
改装を二回したから、元のパーツなんて欠片もないらしいけど。
『大丈夫だって。それに、ロンド・ベルも久しぶりに戦闘艤装で嬉しいでしょ?』
ウィンクしてくる明石さんに、言いようのない不安を感じてしまう。
そりゃ、最近は戦うよりも救助用とか探査用の装備が多かったから、久し振りに実弾搭載してもらって、嬉しいかなぁ。
いや、嬉しいとか考えているのは戦闘狂だけだから。
「いえ、特には」
『あ、うん、そうだね。うちって、誰もそう言ったことに興味を示さないんだよね』
『はいはい、明石は作るの好きだからね。でも、戦闘狂はいないのはテラさん譲りだから仕方ないでしょうが』
そうなのだろうか。
突き合いの浅い私にとって、テラ・エーテルさんは未知の存在。
ルリさんも、ちょっと曖昧な存在。
どちらかといえば、教導してくれた吹雪さんや暁さんのほうがよく知っているのだけれど。
あれ、なんで私の教導って吹雪さん、暁さん、瑞鳳さんに鳳翔さん、それと大和さんって面々だったんだろう。
『最終確認終了、行くよ、ロンド・ベル』
「はい!」
怖いから考えるのは止めよう。
艤装に問題なし、兵装も問題なし。
好みに合わせてセッティングしてくれたので、とても動きやすくなったのだけれど。
「明石さん、怖すぎます」
『あれ、そう?』
なんで今まで二門だけだった超重力砲や波動砲が、増えているんですか。
『でも操作しやすかったでしょ?』
夕張さんの苦笑交じりの問いに、渋々ながら頷いてしまう。
今まで頭の上に砲があって、色々と取り回しがきつかったり、または視界に入って気になってしまったりしていたから。
よくテラさんは、あの配置で動けたなぁって。
『試験終了、戻って』
「は~~い」
さてと、これで後は・・・・・。
た・・け・・て。
不意に、だった。
『女帝?』
『え、何これ?』
妖精の声と、明石さんの声がしたのは解った。
でも、私の視界は海の一角を見つめていて。
そこには黒い渦が出現していた。
『空間の揺らぎ? これって世界の境界線が壊れかけてる?』
『誰か暁さんに連絡を! 『聖杯』で抑え込まないと!』
二人の言葉を耳が拾う中、私は別の声を聞いていた。
助けてと誰かが泣いている。
怖いと誰かが立ち止まっている。
「明石さん、夕張さん、ごめんなさい」
『ロンド・ベル?』
「聞こえちゃいました。私は、ちょっと出かけてきます」
艤装に力を流し、推進力を上げる。
武装は大丈夫、兵装も問題なし。実弾テストもあったから、補給も十分にされている。
『解った。貴方がそう言うなら、行ってらっしゃい』
『帰りはこっちで何とかするから』
「ありがとうございます」
普通なら、止めるところなのに、二人はそう言って送り出してくれた。
妖精達は。
顔を向けたら、全員が親指を立てている。
聞くなってことかな。付き合ってくれるってことだよね。
「よっし。待ってて、今から私が行くから」
気合を入れて、私は世界を飛び出した。
もしも、祈ることで変わるならば。
世界はそんなに優しくないことを知っている。
でも、祈ってしまった。
誰にも届かないはずの祈りだったのに。
こんな世界に神様なんていないのに。
「大丈夫、私が来たよ」
微笑みを浮かべた彼女は、白い髪を揺らしながら、私達に背中を向けて立っていた。
まるですべての絶望から、護ってくれるように。
飛び抜けた先が異世界なのに。
出てくるのは見慣れた深海棲艦。
ちょっとした混乱と、泣いている少女たちのために。
今度は私が背中を見せる。
何時も憧れていた人たちと同じように。
精一杯の大丈夫と、安心してを乗せて。