貴方の声に答えるために   作:サルスベリ

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 彼女達との出会いは、まるで夢物語。

 異世界探検ものって小説では知っていたのだけれど。

 実際に自分が体験すると、ちょっと怖い。

 だって、見慣れた顔の人が、こっちのことを知らないから。

 あ、でも意外に『別人だな』って思える。

 うん、大丈夫。

 待って妖精たち、なんでそんなに温かい目をしているの。





私が決めるの?

 

 コトコトと、何かを煮詰める音が耳に入る。

 

 美味しい匂いが鼻をくすぐり、彼女は目を少しだけ開けた。

 

「あ、起きましたか?」

 

 声に顔を向けると、白い髪の女性が立っていた。

 

「ご飯にしますか?」

 

 問いかけは自分に向けられたものなのだろう。

 

 でも、答えられずまた瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また眠ってしまったようですね。

 

 疲れているのかな。当然か。

 

 鎮守府への深海棲艦の猛攻。味方が何とか防いで、援軍を待っていたのに援軍は来ない。

 

『派閥争いか。ボスなら下らないって言うな』

 

 妖精たちが持ってきてくれた資料には、わざと見捨てたような情報が乗っていて、私は軽くショックを受けた。

 

 味方を見捨てない。どんな状況でも救援に行くのが、『高天原』だったし、あっちでの全鎮守府の気概だったのに。

 

『嬢ちゃん達の世界は、特別に優しいからな。全員が正義漢に溢れて甘い。けどな、世界には悪意ってのもあるんだよ』

 

 ちょっとだけ悔しそうに語る妖精-全員のまとめ役だから、私は副長って呼んでいるけど―に、私は何も言えずに曖昧に微笑む。

 

「この子は・・・・・『叢雲』ですよね?」

 

『艤装の状態や全身の火傷なんかあるけどな。ち、こうなってくると、バッタ達の優秀さを実感させられぜ。あの人達なら、一時間もしないうちに直せるのに』

 

 副長が見つめる先、艦娘用の入渠施設は瓦礫の山に潰されていた。

 

 ここが襲撃されたとき、真っ先に潰されたのだろう。

 

 相手は用意周到に、艦娘達の補給回復手段を奪ったのかな。

 

『ダメですね、女帝。直すより瓦礫を吹き飛ばして、ゼロから造ったほうが速いです』

 

『おいおい、出来るのか? 俺達は妖精だが、ボスについていたから戦闘方面に特化しちまったぞ』

 

『何とかなりますよ。だてに災害救助とかやってませんからね』

 

 胸を張る妖精たちがとても頼もしく見える。

 

「どのくらいかかりそう?」

 

『瓦礫の除去から再構築まで、二日ってところで何とか。瓦礫ですけど、侵食魚雷を使ってもいいですか?』

 

『ちょっと待て、補給の目途が立たない状況でそりゃ不味いぜ』

 

『一発だけですよ。それとも、ビーム系で吹き飛ばしますか?』

 

 そっちのほうがやりやすいかな。

 

 動力炉からのエネルギー変換でビームにしているから、タナトニウムを使う侵食魚雷よりは残弾に気を使わなくて済むけど。

 

『・・・・・三発だろうが。使うならそうじゃないのか?』

 

『さすが副長。ええ、三発あれば確実です。で、ロンド・ベル?』

 

『女帝、どうするよ?』

 

「え? 私? 私が決めるの?」

 

 すでに話が決まっているものだと思っていたら、二人に振られてしまい、戸惑ってしまった。

 

 ちょっと、なんで二人して溜息つくの。

 

『あのな、嬢ちゃん。ここでの最高指揮官は、女帝である嬢ちゃんだろうが』

 

『私達はあくまで妖精です。貴方の許可や指示がないと戦えないんですよ』

 

 解ってるかとか、目線で言わないでよ。

 

 うん、そっか。私が決めないといけないのか。

 

 今までは周りが話し合って決めていたから、私が決定することなんて小さなことばかり。

 

 今になって、吹雪さん達って凄いんだなぁって実感してきた。

 

「仲間を助けるのが優先。大丈夫、皆がいれば何とかなるよ」

 

 うん、いいこと言った。

 

『はぁ、この嬢ちゃんはぁ』

 

『いいじゃないですか。私たちがしっかりと支えればいいだけですよ』

 

『解っちゃいるんだがなぁ。解った、魚雷妖精には俺から話をつける』

 

『頼みます』

 

 うん、それで。

 

 あれ、なんで二人して私を見て溜息をつくの。

 

「何? どうしたの?」

 

『あ~~いや、支えがいのある女帝だなぁっと』

 

『ええ、我が自慢の女帝ですね』

 

「馬鹿にしてる?」

 

 ちょっと軽く睨みつけると、二人して『まさか、とんでもない』と首を振るんだけど、馬鹿にしてるよね、それ。

 

『で、だ。艦娘の嬢ちゃん達はいいとして、あっちはどうなんだ?』

 

 そうだね。あっちもあるんだよね。

 

『医療班の話では、軽傷だとか?』

 

「うん、そうなんだけどね」

 

 外傷は、軽いもの。切り傷と擦り傷くらいで、他はなし。薬を塗って二日程度であっさりと治るらしい。

 

 でも、彼女の場合。心がもっと傷ついているよ。

 

 提督として、艦娘達を見殺しにしたようなものだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 篠崎・アヤメ。年齢は二十五歳、階級は中佐。

 

 十八歳の頃に提督の適正ありとして、海軍へ入隊。二年の基礎研修を終えて鎮守府の研修へ。

 

 三年を老齢な提督の元で学んだ後、一年間の準備期間を経て、自分の鎮守府を持つに至る。

 

 艦娘への接し方は、家族として友人として。

 

 特筆した手腕はないが、堅牢な戦略・戦術を好む。

 

 艦娘二十三人所属。現在、二人。

 

『妖精たちから話を聞きました。全艦娘が鎮守府の陥落を察知、せめて提督だけは逃がそうと防壁になったようです』

 

「ありがとう」

 

 情報を届けてくれた妖精にお礼を言って、私は眠っている女性に目を向けた。

 

 藍色の髪の女性は、まだ眠り続けている。

 

 外傷から考えればもうとっくに起きているはずなのに、彼女は目覚める気配がない。

 

「ショックだったのかな?」

 

『私たちは、消えたとしてもまた生まれてきます。けれど、艦娘は一度でも轟沈したら戻りませんから』

 

 そうだよね。私も二度目の人生があるなんて、考えていなかったから、失う辛さはよく解る。

 

 仲間が死んだ時のこと。

 

 腕の中で冷たくなっていった人たちのこと。

 

 ギュッと無意識に手を握ってしまう。

 

 悔しくて悲しくて、周り中を恨まなければ自分の心が壊れそうで、恨んで憎んで結果的に周り中を壊してしまった。

 

 あの頃の私のようにならないといいけど。

 

『女帝、報告が上がりました』

 

「うん、そっちに行くよ」

 

 最後に彼女を見て、私は医務室を出た。

 

 小さく背後で、誰かの声がした気がしたけど。

 

『敵深海棲艦の集団は、近海にいません。恐らく別目標を攻撃しに行ったのでしょう』

 

『電星なら追いかけられるんじゃないか?』

 

『確かに電星のエンジンは、小型融合炉タイプですが、無音ではないため戻りました』

 

 上着のポケット、それぞれに入っている妖精たちが話し始める。

 

 私の上着って、改二になって色がコバルトブルーになったけど、ポケットの数は変わらないよね。

 

 胸側に左右に二つずつ、それが上下で系四つ。上着の二の腕に二つ、左右で四つ。肩に一つずつ、左右で二つ。

 

 これには理由があるんだよね。

 

 私はテラさんに比べて同時処理能力が劣っている。

 

 各部に備わっている対空火器や近接防御用装備とか、テラさんは思考操作できたらしいけど、私には無理。

 

 同時操作可能数88って化け物じゃないの。

 

 私が可能なのは23なので、ポケットを備えつけて、そこに妖精が入って装備を操作してもらっている。

 

 なので、ちょっと変則的な戦い方もできるけど。

 

 下はズボンと、フレアスカートの前部分がないようなもの。これもナノマテリアルが使われているから、いざって時は増殖して装甲板の変わりに全身を覆えるらしい。

 

 それで、私の装甲は普通の艦娘よりも多重装甲。

 

 他の人が制服と下着なのに対して、私は三重構造。

 

 この制服の下に全身を覆う黒のインナーがあって、その下に蒼い皮膜型のスキン。で、下着、と。

 

 あ、四重装甲になるのかな。下着は別でいいよね。

 

『女帝、聞いてます?』

 

「ごめん、自分の装甲のことを考えていた」

 

『三重の多層型装甲ですか?』

 

『ああ! あのロンド・ベルに渡すときにルリ様が、『女の子の素肌が露出するなんて考えられない。もっと装甲を増して』ってやつですよね』

 

『明石さんも、それを習って装甲はそのままにしたんだよな』

 

「え、初耳だよ」

 

『いや、言ってないから』

 

 うう、そんな全員で言わなくても。

 

『それは今はいいだろ。で、女帝よ、ここに留まるのか、それとも移動するのか?』

 

「え? あれ、それも私が決めるの?」

 

 うんうんと全員が頷いて。

 

「ちょっと待ってよ。いくらなんでも私はそこまで優秀じゃないから」

 

『解ってるよ。だから、前提条件の話をしていたんだけどな』

 

『聞いてない貴方が悪い』

 

『色々とアドバイスしたのに』

 

 ジトっと見てくる妖精たちに、私は素直に謝罪したのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を開ける。

 

 ここが何処だかわからなくて、再び目を閉じる。

 

 今も聞こえてくる仲間達の声。

 

 逃げて、生き延びて。必ず戻ってきて。

 

 何処に、どうやって戻ればいいのか。

 

 もう二度と会えない人たち。

 

 大切な家族、大切な艦娘達。

 

 それを沈めて自分は生きていていいのか。

 

 救援に来てくれたら、状況は変わったのに。

 

「みんな、死んじゃえばいいんだ」

 

 ポツリとこぼれた言葉に、反応さえできなかった。

 

 

 

 

 




 
 『心の傷は、それをつけたものの命でしか償えない』。

 昔、『高天原』でそんな言葉を見かけたことがあった。

 書物だったのは覚えているけど、どんな内容だったかは忘れてしまった。

 あまりに強烈なその言葉に、当時の私は悲しくて苦しくて倒れかけたから。

 今、その言葉を、突きつけられて、答えを出すしかない状況にいて。

 あの時、もっときちんと向き合って考えておけばよかったと。

 後悔ばかりしていた。


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