貴方の声に答えるために   作:サルスベリ

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 憎しみは何時も絶えない。

 人が生きているなら、それは絶対。

 自分だって世界を恨んでたくさんの人を殺したから。

 でも、それだけじゃないって思えたことがある。

 あの時、吹雪さん達が伝えてくれたことを。

 今度は私が伝える番だから。




心の傷

 

 結論として、移動しても留まっても危険は同じ。

 

 けど、けが人を抱えているから、留まっての防衛戦のほうが、やりやすいかなっていうのが私の判断。

 

「と、思うんだけど」

 

『まあ、そういう結論になるな。解った、俺達だって妖精だから備品を生み出してみるが、どうなんだ?』

 

 副長に話を振られて、主計科の妖精が頭を悩ませていた。

 

『資材については、この世界で集めても大丈夫です。ボーキサイトや鋼材、燃料はほぼ同じでしょう。しかし、特殊資材が』

 

 う、それは不味いかな。

 

 明石さんと夕張さんが精製してくれる特殊資材は、専用の機械でなければ生み出せないもの。

 

 原料が手に入ればなんとかなる、って問題でもないんだよね。

 

『どれがどのくらい問題なんだ?』

 

『侵食弾頭は現在134発、タナトニウムの備蓄を考えると、全部で300いくか行かないかってところでしょう』

 

『ナノマテリアルとかは大丈夫か?』

 

『そっちは問題なく。万が一の場合は『領域機関』の三割稼働で、強制的に生成させますから』

 

 便利だよね、『領域機関』。

 

 情報量に対して出力を上げていくから、情報を与えたらいくらでもエネルギーを生み出してくれる。

 

 その上、素粒子レベルでの考えられない物質生成とかできるって、何なんだろう。

 

 『触らない方がいいよ』って明石さんが言っていたけど。

 

『ただ、『領域機関』をそっちに使うと戦闘行動が・・・タナトニウムも生成できるかどうかも不明ですし』

 

『重力関係の物資はやらないほうがいいって明石さんも言っていたからな』

 

「本格的にダメってこと?」

 

 疑問を口に出してみると、主計科妖精がうなり始める。

 

『吹雪さんと暁さんに同時にケンカ売るくらいの覚悟があれば、って言われたことがあります』

 

「怖!? なにその条件?!」

 

『やめとこうぜ。あの二人じゃいくらなんでも分が悪すぎる』

 

「分が悪いって話じゃないよ。空間凍結と時間消滅できる吹雪さんと、魂や事象さえ燃やせる暁さんだよ?」

 

 言ってみて、全員が一斉に震えてしまった。

 

 怖いなんてものじゃない。

 

 戦争が終わっても鍛錬を続けた二人は、今では誰もが手出しできない領域にいる。

 

 降ってきた隕石を片手で潰したり。

 

 大津波を蹴とばして吹きとばしたり。

 

 二人そろって大地震を『はい、邪魔』で消した時はさすがに、高野総長も呆然としていたっけ。

 

『止めておきましょう。となると、鎮守府の設備を再建するためには、物資を集めるしかないですが』

 

『そうなってくるよな。女帝、出撃してくるか?』

 

「解った」

 

 どちらにしろ、近隣の様子を自分の目で確認したかったし、後は他に生き残った艦娘がいないかも探したかったから。

 

「ロンド・ベル、出撃するよ。主計科と整備班は何人か残るの?」

 

『ええ、鎮守府の設備を直しておかないと、物資があっても意味がありませんから』

 

『頼んだぞ。念のために、二隻、残しておくからな』

 

『ありがたいです』

 

 となると、私が使えるのは空母一隻に、戦艦七隻か。

 

「戦艦はもう三隻、残そうよ。こっちの戦力が充実していても、鎮守府が戻ったら攻撃されていたんじゃ、意味ないから」

 

『だな。じゃ空母一隻と戦艦四隻を鎮守府に残すか。それでいいか?』

 

『それだけあれば、姫級の十匹や二十匹に対抗できますね』

 

 まあ、規格外な妖精達の中でも、飛びきりに規格外な戦闘集団だからね。

 

 私たちって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鎮守府の跡地を離れて、数キロ。

 

「全周囲警戒を、空母は私の後ろね」

 

『了解、女帝。進路変更ヨーソロー』

 

「戦艦は左右に二隻で配置、前方は私が警戒するから」

 

『御意、女帝。陣形構築するぞ』

 

 従う船体に指示を出して陣形を変更。

 

 これなら、左右や前方から敵が来ても迎え撃てるし、空母がいる背後が狙われたら、左右の戦艦が方向転換して迎え撃てる。

 

『こちら空母。女帝、そろそろ艦載機を発艦させても?』

 

「お願い。念のため、『鳳凰―フォルケン』と『鴉―VF-29デュランダル』は残しておいてよ」

 

 あれは決戦兵器だから、偵察で使って消耗させたくないから。

 

 という建前で、資材が一気に飛ぶんだよね。

 

『解っています。『天雷―F-22ラプター』と『電星―メイヴ』で出しますね』

 

「うん、お願い」

 

 了解と答えが来た後、十機の天雷と十二機の電星が空へと舞い上がっていく。

 

 ジェットエンジンでどちらも小型融合炉搭載タイプ。航続距離はないけれど、妖精達のお腹の問題から六時間の飛行が限界だよね。

 

『腹が減っては戦ができぬ、が『高天原』のルールだからな』

 

『武士は食わねど高用事とか言われなくて良かったですね』

 

「食事と休憩はしっかりが、私達の中での教えだったからね」

 

 食べて休憩しないと、間宮さんや大淀さんがとてもいい笑顔で迎えてくれるから。

 

 ちょっとだけ思い出して、私は体が震えるのを感じた。

 

 本当に優しいのか怖いのか解らない人達だなぁ。

 

「全周囲警戒を続行しつつ、資源を探すよ」

 

『了解』

 

 さてと、色々と探しておかないと。

 

 壊滅した鎮守府を再建して、艦娘二人分の艤装を用意。

 

 となると、資源はあればあるほどいい。

 

 他の鎮守府のことも気になるし、この世界の日本のことも気になる。

 

 色々と考えないといけないのは、妖精たちに私が『決めろ』と言われたから。

 

 今まで吹雪さん達が決めてきたことを、今度は私が決めないといけない。

 

 重いと、初めて思った。

 

 笑顔であっさりと決めていたあの人達が、どれほどの重みを持っていたかを、今更になって知った。

 

「勝てないかな?」

 

 資材を集めている最中なのに、私の頭の中は重さのことばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果、六時間ほど。

 

 集められた資材は、ボーキ、燃料、鋼材、弾薬各種一万ずつ。

 

「・・・・・私の格納庫ってどうなっているの?!」

 

『あ~~知らないほうがいいぞ』

 

 副長が軽く手を振って言ってくるけど、本当に気になるんだけど。

 

 『まだまだ積めます』って言われて集め続けたけど、なんでこんなに入るの。

 

 一万って、かなりの数字じゃないかな。

 

『ま、『高天原』には届かないけど、それなりにな』

 

 いやいや、あんな巨大な船体と比べないでよ。

 

 各資材一千億越え、しかも予備だけでこれなんだから、すべての資材倉庫を集めたら、日本が五年は戦える分になるとか。

 

『とにかく、嬢ちゃん。資材は倉庫に・・・・・・・っと、お出迎えか?』

 

 鎮守府の港に入りかけた私の視界に、出迎えの人影が見えた。

 

 あれって、アヤメさん。

 

「貴方が私たちを助けてくれた、艦娘?」

 

「はい。ロンド・ベルといいます。ロンド・ベル級万能戦闘艦一番艦です」

 

「聞いたことないわね」

 

 穏やかに微笑んでいる女性。

 

 優しそうな雰囲気なのに、何故か私は寒気を感じた。

 

 あれは・・・・・・・。

 

「助けてくれてありがとう。資材を集めてきたの? 後ろの船は何?」

 

「あ、私はちょっと特殊なので。後ろの戦艦型と空母型は私の艤装の一部みたいなもので」

 

 どう説明しようかな、と考えている私の前で、彼女はゆっくりと振り返る。

 

「私の鎮守府、ここにあったんだよね」

 

「はい。今、再建しています」

 

「再建? どうして? もう壊れて何もないのに?」

 

 ヒヤリとした冷気に似た何かが、私の背筋を通り過ぎた。

 

 怖い、ではない。

 

 これは嫌な予感だ。

 

「ねえ、聞いてもいい? 貴方はどうしてここにいるの?」

 

「どうしてって、『助けて』って声が聞こえたから」

 

 始まりは、その声だから。助けてといわれて、私が拒否できないことは、この人にどうやって伝えるべきかな。

 

「そうなんだ・・・・・なら、どうして最初の時に来てくれなかったの?」

 

 ゆっくりと振り返ったアヤメさんの表情は、完全に凍りついてた。

 

 笑顔で、穏やかに微笑んでいるのに、まるで能面のように硬い表情。

 

「ねえ、今更どうして来たの? みんな、必死に戦ったんだよ。みんな、必死に通信したんだよ。なのに、どうして来てくれなかったの?」

 

 ゆっくりと歩いてくる彼女は、何処か機械的な動きで。

 

 生物的な温もりを感じない。

 

「どうして、みんなを見捨てたの? 私はどうして生きているの? どうしてみんなはいないの? ねえ、どうしてよ?!」

 

 そして叫びながら、彼女は私に詰め寄ろうとして、海に落ちた。

 

「へ?」

 

『いやいや、ここは港でまだ俺達は海の上なんだから、普通の人間は沈むだろう』

 

 あ、そうだよね。普通の人は海に立てるわけがないんだよね。

 

 うんうん、なんで立てるなんて思っていたんだろ。

 

 ああ、ルリさんやテラさんが立てるからかな。

 

「って?! そうじゃなくて!! アヤメさん?!」

 

『あ・・・・彼女カナヅチってデータが』

 

「嘘?! 海軍の軍人が泳げないってなんで?! ああもう!」

 

 こうして私は二度めのアヤメさん救出を行ったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水から引き揚げたアヤメさんを再び医務室に放り込み、着替えをしてもらって少ししてから、私は彼女に向い合った。

 

「ありがと、ごめんね」

 

「いいえ」

 

 ちょっとだけ警戒してしまうのは、先ほどの彼女の狂気を知っているから。

 

 怖いってものを何度か味わってことがあるけど、あんなに魂の底から震えるほどの怖さは初めてだったから。

 

「えっと、貴方が私を助けてくれたの?」

 

「え?」

 

 質問に、私は言葉に詰まった。

 

 何で同じことを、聞いてくるの。

 

「は、はい。ロンド・ベル級万能戦闘艦一番艦ロンド・ベルです」

 

「へぇ~~そうなんだ。珍しい名前の艦娘ね。何処の出身? 日本じゃないよね」

 

 穏やかに楽しそうに話す彼女に、先ほどの怖さは見えなかった。

 

「いえ、少し特殊で。あの、さっきのことですけど」

 

「さっき? ごめん、私ってさっきまで気絶していたみたいだから、解らないんだけど」

 

 彼女はあっさりと、当たり前のように告げた。

 

 覚えてない、嘘をついている。そんな表情じゃない。

 

 本当にアヤメさんは、忘れているんだ。

 

「あ、そうですか。いえ、海に落ちたのに大丈夫かなって思って」

 

「海に落ちたの?! あちゃ~~私って夢遊病じゃなかったんだけどな」

 

 頭を抱えて落ち込む彼女に、演技は見えなかった。

 

 心の中から、本気で思っている。

 

 さっきのことを綺麗さっぱり、忘れているなんて。

 

「大丈夫そうですね」

 

 私は無理やりに、話題を変えることにした。私の感情を抜かして、今は彼女の精神の安定が優先だから。

 

「本当にごめん! みんなからも色々と注意されていたのに」

 

「みんな、ですか?」

 

「うん、皆。私を助けるために、死んじゃったけど」

 

 そこは理解しているのか。となると、記憶の繋がりはある。

 

「生き残りがいます。治療中ですけど」

 

「本当!? 会えるの?!」

 

 身を乗り出してくるアヤメさんを両手で押えて、私は落ち着くように伝える。

 

「まだ治療中なので。治ったら会わせますね」

 

「ありがとう、本当にありがと。貴方には助けられてばっかりだね。ね、貴方の所属がないなら、私のところに来ない?」

 

「え、ちょっと色々と事情があって離れていますけど、鎮守府には所属しているので」

 

 一瞬、彼女の瞳に狂喜が浮かんだ。本当に一瞬だったから、見間違えかもしれないけど。

 

「残念。貴方は優秀な艦娘みたいだから、協力してほしかったんだけどな」

 

「すみません。あ、もう休みませんか? お話はまた後で」

 

 ポケットの中で妖精が、『一度、退室してください』と言ってきたから、私はそういってアヤメさんをベッドに横にした。

 

「うん、そうさせてもらうね」

 

「では、失礼します」

 

 休むように瞳を閉じた彼女を後にして、私は部屋を出た。

 

 扉をわざと音が出るように閉めてから、音が出ないように少しあけ開ける。

 

「本当に貴方は優秀な艦娘だから、皆を殺した相手を根絶やしにしてくれるよね? この世界をすべて皆殺しにしてくれるよね?」

 

 ケタケタと笑う声が、聞こえてきた。

 

 狂気がそこに留まるように、壊れた人形のように。

 

『狂っちまったか。二重人格じゃないだけ、救いがあるか』

 

「あんなの救いじゃないよ。あんなのは」

 

『どっちにしろ、生きているならやりようはあるってボスなら言うな』

 

 テラさんは、どうにかできるのかな。

 

『女帝、入渠施設のほうの修理に入りました。侵食魚雷は3発使用しています』

 

「うん、解った。ごめんね、皆にはローテーションで警戒をお願い」

 

『その程度、お安い御用ですよ』

 

 通信を閉じて、私は廊下を歩いていく。

 

『あいつのことはどうにかしないとな。助けた艦娘さえ、殺しちまいそうだ』

 

「うん、解っている」

 

 アヤメさんのこと、残った艦娘のこと。

 

 世界のこと。

 

 色々と考えなくちゃいけないけど、私のやることは変わらない。

 

 助けてといった人を助ける、それが私だから。

 

 

 




 
 遠くで呼び声がしたから、この世界に来た。

 誰かに強要されたからじゃない。

 私が、私としてやりたいから。

 誰かの助けての声にこたえる、それが私―ロンド・ベルだから。



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