貴方の声に答えるために   作:サルスベリ

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 どうしても、必要なことはある。

 いくら万能の天才でも、どうしょうもできないことも。

 全員を救う術なんてないことも。

 でも、私は知っている。

 世界中のすべてを救える力を。

 少なくとも、あの人は、あの人達はその力を持っていたから。




異質なる、異質物

 

 鎮守府の再興を目指しても、出来ることとできないことがあることを、私はやっと知ったのでした。

 

『だぁぁぁ! ああもう!』

 

「えっと、ガンバ」

 

『おいおい、嬢ちゃん。それじゃ解決にならないだろうが』

 

「でも、皆に頑張ってもらうしかないから」

 

『そりゃ、な』

 

 副長が渋い顔で頭をかきむしる。

 

 うん、そうだよね。解決にならないけど、解決するための手段が、やっぱり彼らなんだから、手伝えない私はガンバって応援くらいはするよ。

 

『なんとかなるのか?』

 

『何とかしないと、叢雲ともう一人が死にますから。それだと、あの提督が何をやりだすか解りませんよ』

 

『人間一人の力なんて、俺達がねじ伏せればいいだろうが』

 

 言いきって、副長がチラリとこちらを見てきた。

 

 う、私がそれを嫌だって言う前に釘さしてきたな。

 

「あのね」

 

『解ってるよ。嬢ちゃんが、助けたいって気持ちを持っていることはな。けどなぁ』

 

『バッタ達の万能さを思い知らされますよ。彼らはどうやって、未知の技術をものにしたのか』

 

 バッタかぁ。私は少ししか知らないけど、本当にそんなに万能だったのかな。

 

『あいつらがいたら、今頃は鎮守府の建物が出来上がって、周辺の防衛陣地構築に入っているよな』

 

「ええ!? だってまだ六日だよ?」

 

『遅い方ですよ。彼らなら一週間あれば、島を移動拠点にした上に資材も倉庫六つ分くらいは確保します』

 

 うわ、なにその万能さ。

 

 私自身はあまり知らないけど、色々な人たちが『バッタ達がいればなぁ』って言っているのは知っていたけど。

 

 そんなデタラメな塊だったんだ。

 

『いっそのこと、こっちの世界の妖精たちを強制的に復活させますか?』

 

『いやできないことはないけど、そりゃ色々と恨まれないか?』

 

『けど、艦娘が死ぬよりは恨まれないでしょう?』

 

『確かになぁ』

 

 何か手段があるのかな、でもそれをできれば選択したくないって感じがするけど。

 

「ね、どういった手段なの?」

 

『あ~~~簡単に言えば、艦娘に銃口向けて『殺すぞ、出て来い』が一番なんだよな』

 

「はい!?」

 

『私達はどうしても艦娘優先ですからね。彼女達の危機となれば、すぐさま復活しますよ』

 

 うわ、それはやりたくないなぁ。

 

 でも入渠施設や建造ドックはとてもじゃないけど、修復できなさそうだし。このままだと叢雲達が死んじゃうし。

 

『どうしたもんかなぁ』

 

『もっと手っ取り早く回復させられたらいいんですが』

 

 そんな手段ないよね。速吸さんや瑞穂さんがいれば、簡易ドックを展開してもらって、そこに入れるんだけど。

 

「う~~~~やるしかないかな?」

 

『気が進まないけどな』

 

『ですね。やるしかありませんね』

 

 よし、と決意を固めて動こうとしていると、一人の妖精が手を挙げてきた。

 

『あの、高速修復材って使ったらダメなんですか?』

 

「あ」

 

『ああああ』

 

『くそ! 盲点だったぜ! 俺達が損傷して轟沈する寸前なんてなかったから、存在を忘れていた』

 

 そっか、あれがあるんだよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 危ないところだったんだよね。

 

「で、私達は助かったのね?」

 

「はい、ごめんなさい」

 

「いいのよ、助かったのは事実だし。そっか、私と大和が残ったのね」

 

 何処か心あらずに語る叢雲さんは、ついさっき目覚めたばかり。

 

 隣には放心してずっと天井を見上げている大和さんがいて。

 

「間に合いませんでした、すみません」

 

「いいのよ。貴方はドロップ艦なんでしょう? なら、間に合うわけないし、間に合ったとしても轟沈する者が増えただけだから」

 

「いえ、私は」

 

 と否定しかけて、どういえばいいか解らずに言葉に詰まる。

 

 正直に話してもいいのだろうけど、信じてもらえるか解らないから。

 

「鎮守府には所属していますし、それなりに練度はあります。通信を偶然に拾ったので駆け付けたのですが」

 

「そうなんだ。そっか。ごめん、ちょっとだけごめん」

 

 ギュッと、叢雲さんが手を握った。

 

 隣の大和さんが、虚ろな目を向けてくる。

 

 ああ、そうだよね。私でもそうなる、誰だって仲間を失って、大切な人達を亡くしたら、誰かに当たりたくなる。

 

 それが、助けた人でも同じだ。まして、救助を通信しても誰も答えずに、必死に戦っても絶望しなかった戦場だったなら、なおさらに。

 

「なんで、助けてくれなかったの?」

 

「どうして、今になってなんですか?」

 

 二人から絞り出したような声に、私は真っ直ぐに目を向けた。

 

 アヤメさんの時は、逃げ出してしまった。でも、今は逃げない。何を言われても、何があっても。

 

「なんでよ!!!」

 

「答えてください!!」

 

 罵声と暴力、そんなのが体を打ってきても、私は真っ直ぐに二人を見たままで絶対に動かなかった。

 

 ごめんなさい、遅れてしまって、他の世界から来たから間に合わなかった。そんなのは当事者には関係なくて、彼女達の怒りを拭うには理由にすらならない。

 

 嵐のような一時が過ぎていき、私は傷だらけだったけど。

 

 二人の心の傷のほうが痛いようにみえて、私は小さく頭を下げた。

 

「ごめんなさい、遅くなりました。謝っても許されることじゃないことは解っています。でも、ごめんなさいと言わせてください。それと、今は私がいますので、ゆっくり休んでください」

 

 下げていた頭をあげて、二人を交互に見つめた。

 

 怒りは収まらず、でも静かに落ち着いているのが解った。

 

「ごめん、貴方に当たることはないのに。でも」

 

 叢雲さんが、何か言い掛けて止めた。

 

 解るよ、その気持ちは痛いほど解る。私だって、死ぬ前は味方に裏切られて、信じていた国家に裏切られて、それで深海棲艦になってアメリカを滅ぼしたんだから、痛いほどよく解るよ。

 

「理解はできます。私だって同じ立場にいましたから」

 

「貴方も、誰かを失ったの?」

 

 問いかけに対して、私は微笑むだけにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくり休んでください。

 

 二人に告げて退出すると、廊下で妖精たちが武器を構えて待っていた。

 

『嬢ちゃん、こんなことは今回限りだ』

 

 怒り心頭といった様子の副長を手に乗せて肩に移す。

 

 それを合図に、次々に妖精たちが私の服の定位置へ移動してくる。

 

『女帝の考えは解ります。そのやりたいことに手を貸すのも、私達の存在意義ではあります』

 

『けれど、女帝に危害が加えられると知っていても待ては、酷い』

 

『もしもう少し続いていたら、待機命令は無視していましたよ』

 

「ごめんね、皆。でも、何処かで吐き出さないと」

 

 痛いと思える体を引きずりながら、廊下を歩いていく。

 

『俺達だけでよかったな。他の連中が見ていたら、間違いなく波動砲やら超重力砲やらでここら一帯を吹き飛ばしていた』

 

「ハハハ、私って愛されてるなぁ」

 

『茶化すな、嬢ちゃん。俺が今、なんで『嬢ちゃん』って呼んでるか、解っているのか?』

 

 それは、ね。普段は『女帝』って呼んでいるのは、上官としてとか仕える主として認めているから。

 

 でも、馬鹿なことをしたら、諌めるために小さな子として扱うっていうのが、昔からの副長のスタンスだから。

 

「ごめん、何時も迷惑かけるね」

 

『別にかまわんさ。ボスに比べたら、嬢ちゃんは常識的だ。でもな、俺達だって感情がある。妖精が艦娘を大切に思うように、俺たちにとっては嬢ちゃんが一番なんだからよ』

 

「うん、解ってる。さてと、少し回復せてから戻ろうかな。このまま行ったら、不味いよね」

 

『不味いなんてもんじゃないだろうが。全面戦争だよ』

 

 うわぁ、それはかなり怖いね。

 

『船の連中、今の女帝を見たら間違いなくやりますね』

 

 うん、服にいて近接防御をしてくれる子たちと違って、普段は離れている分、私に対しての執着が凄いんだよね。

 

「でも、どうやって回復させよう」

 

『だから、高速修復材があるだろうが』

 

「あ、そっか」

 

 どうも忘れちゃうんだよね。

 

『では、どうぞ』

 

 水のような音と共に私にかけられたそれは、瞬時に私を回復させてくれるんだけど。

 

「これって、どんな原理しているんだろう?」

 

『知るか。便利なものは便利なものでいいんじゃないか?』

 

「うん、そうなんだけどさ。艦娘の艤装とか修復できるなら、入渠ドックとかも回復できないかなぁって」

 

『いや、無理だろ、それ』

 

 呆れたような副長に、そうだよね、と返す。

 

 艦娘は元は船とはいえ、今は有機物だし、無機物の機械を直すなんて不可能だよね。

 

 あれ、でも艤装も回復するよね、これ。

 

 やっぱり、どうにか工夫すれば鎮守府施設も再構築してくれるんじゃ。

 

『バッタ達じゃあるまいし』

 

「そこでもバッタ?!」

 

『ああ、そうだすね。バッタ達なら、これから『物体修復材』とか作りそうですね』

 

「なにそのチート技術?!」

 

『かけるだけで瞬時に壊れたものを修復、貴方の街や家庭に、一台どうぞってキャッチコピー使って、売り出しにかかりますね』

 

「セールス?! どこで売るつもりなのそれ!?」

 

『バッタ達ならやりますね』

 

『確実にやるな。で、『高天原』内部で売り出して、儲けた利益でさらに便利なものの研究費につぎ込んで、三日くらいで新型を作りだす、と』

 

「三日?! ちょっと待って! なんでそんなもが三日で出来るわけ?!」

 

『副長! 私は一日でやると思います!』

 

『いいえ! 彼らならばつきつめたものを最初に売り出すと思います!』

 

『そうだなぁ』

 

「ちょっと待って! 本当に待って! バッタってそんなにチート技術満載なの?!」

 

『その気になれば、深海棲艦に突撃しても生還する連中でしたよね』

 

『ああ、懐かしいな』

 

 なにそれ、怖い。うちの妖精たちだって、航空機の翼でタ級とかレ級とか斬り裂いたり、戦艦棲姫とかを魚雷で滅多刺しにしたって映像で見たことあるけど。

 

「本当に機械?」

 

『機械だよ。ただし、その上にバグって単語がつく』

 

 あ、うん、これはあまりに深く突っ込みを入れない方がいい話題だ。

 

 達観した私は、それで話を聞き流すことにした。

 

 でも、その後も続く妖精たちによるバッタ達の『チート』伝説は、私の心に湧きあがりつつあった色々なものを吹き飛ばしてくれた。

 

 まさか、このためにしてくれたのかな。

 

 まさか、ねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝日が昇ると同時に、私は動きだす。

 

 誰もが目覚める前に、少しでも多くの資材を集めるために。

 

「うん、今日もいい天気!」

 

 水平線から昇る朝日を全身で背伸びしつつ感じながら、艤装を確かめる。

 

 両手は問題なし、上着もスカート部分も大丈夫、推進機もオッケー。

 

『女帝、全員の準備完了だ』

 

「了解。じゃ、今日も皆、よろしくね」

 

『オーライ! 我らが女帝! 『ロンド・ベル』!!』

 

 元気のいい声に背を押されるように、私は海原を走りだした。

 

 

 




 
 色々なことがあると思う。

 絶対にどうにもできないことだってあるし、理不尽だと思えることも多くある。

 けれど、諦めたりしない。

 私の辞書に、諦めるって単語なんてない。

 そういう風に私を鍛えてくれた人たちがいて、そういったことを選択させないように教えてくれた人たちがいたから。

 うん、今日も私は、私でいられる。


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