貴方の声に答えるために   作:サルスベリ

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 トラウマって本当に厄介だと思う。

 自分では大丈夫だって思っていても、突然に体が動かなくなったりするのだから。

 精神科じゃないから、詳しいことなんてできない。

 今日も私は自分にできることを精一杯するだけだから。




夢を見ているように

 

 朝日が昇って、また沈んで。そんな毎日を何日も過ごした。資材を集められるだけ集めて倉庫に詰めて、空っぽになった格納庫に再び資材を集めるように動き回って。

 

「ああ、そんな日々だよね~」

 

『ちょっと休んでろ、女帝。どうだ?』

 

 工廠の片隅で座り込んだ私の前に、艤装が吊り下げられていた。

 

 二つの空母型と八つの戦艦型。それに背負うタイプの主機関と両手の武装、等などってところかな?

 

『元々、ナノマシンによる複合装甲ですから。ナノマテリアルもそれを使って増加させてますので、問題は特にありませんよ』

 

『強いて言うなら、航空機の燃料ですかね』

 

 う、ちょっとまずいのかな?

 

 動力源は基本的に無限動力なんだけど、武器の弾薬とか航空機燃料とかは考えないと。

 

『まあ、共有規格だから問題ないだろ』

 

『オクタンがちょっと』

 

『精製すればいいだろうが』

 

 問題が出てきたのかな?

 

 はっきり言って、こういった話は私は苦手な部類だ。ほとんど妖精たちに任せっきりにしている。

 

 ちょっとは学んだけど、素人に毛が生えた程度っていうのが私の知識なんだよね。

 

『で、どうなんだ?』

 

『整備点検終了です。艤装に問題ないですし、武装も光学系を主戦力にすればいいだけなので』

 

『爆弾やミサイルは工廠の隅に製造ユニットを複製させますよ』

 

「え、そんなことできるの?」

 

 疑問を口にしてみると、妖精たち全員が何故か溜息をついた。

 

『あ~~なんだか、色々とあってな』

 

『ご都合主義万歳ってところですか?』

 

 意味が解らないんだけど、どうにかなったってことでいいんだよね?

 

『なんでブラックボックスの中に基地設営キットが入ってたんだ?』

 

『これが最初に見つかれば入渠施設がすぐにできたんですよね?』

 

『知るか、まったく。何処まで見通してたんだ、ボスたちは』

 

 あ、これは私が知らないでいい話だ。うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 工廠は完了、鎮守府施設もまあ大丈夫としたい。

 

『ナノマシン万歳』

 

 副長が壊れてる。

 

『そりゃそうですよ。『領域機関』に繋いだナノマシン精製ユニットに、外付けでケーブルを繋いだら、増殖してデータ通りのものを生み出したんですから』

 

 なにそれ。

 

『元々、ナノマテリアルは銀、ナノマシンは金といって、使い分けているものですから』

 

「へ~~」

 

『剛性が高いのがナノマテリアル、柔軟性が高いのがナノマシン。機械とか無機物に使うならナノマテリアル、生物に使うならナノマシンって区分けだな』

 

 戻ってきた副長が、いきなり真顔で語るから、ちょっと私は付いていけてないんだけど。

 

「なんで別々にしたの?」

 

『さてな、元々はバッタ達が使っていたから、ボスたちが使っていた技術だろうけどな。どうして分けたのかは解らない』

 

 そうなんだ。

 

 ボスか、『神帝』テラ・エーテル提督。なんだか巨大な国の皇帝だったとか、神様殺して能力を奪ったとか、先輩達から色々と話は聞いたけど、今一ピンとこないんだよね。

 

 現実の存在なの?

 

『とにかくだ。ナノマシンが増殖して鎮守府の建物を再構築してくれるから、資材が浮く』

 

「うん」

 

『で、その後にナノマテリアルを覆わせて建物にする』

 

「うわ、凄いことになるね」

 

 となると、新規建造が出来るかな?

 

 私の航空機は無理だとしても、船の艤装くらいはできるといいけど。

 

「ねえ、艤装が作れるってことなの?」

 

 声に私が振り返ると、廊下の先で叢雲と大和が立っていた。

 

「え、ええ。まあ」

 

「なら私達の艤装を作ってもらえる。私達も鎮守府を再建したいの」

 

 決意を込めた瞳で見つめられ、私はちょっとだけ顔を反らした。

 

 今の彼女たちを外に出してもいいものか。

 

 彼女達は今もトラウマが残っている。正常な判断が下せない状態で武器を持たせたら、周り中を巻き込む可能性が高い。 

 

 もしかしたら、自分自身を殺してしまうかもしれない。

 

「信じられないのは解るけど、お願い」

 

「先ほどのことは謝ります」

 

 ちょっと迷っていたことを勘違いされたみたいで、謝罪されたけど。

 

「いえ、違います。そうですね」

 

 どうしよう。手数が多いほうがいいのは間違いない。私一人でできることは多いけど、仲間がいればもっと多くのことができる。

 

 でも、彼女達は。

 

「私も混ぜてくれる?」

 

 あ、アヤメさんまで。もう、どうしよう。

 

 色々な考えが私の中で巡る中で、妖精たちが私の肌を叩いた。

 

 何かあれば、手伝ってくれるってこと。

 

「解りました。なら、一緒にやりましょう」 

 

「ありがとう!」

 

 三人からの笑顔に、私は曖昧に頷くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 艤装は簡単に作ることができた。

 

 妖精たちが、『いや、『高天原』の艤装に比べたらおもちゃみたいなものだから』って言っていたのを、わざと聞かないことにした。

 

「まるで夢を見ているみたいね」

 

 艤装を纏ったまま海面に立つ叢雲が、そんなことを呟いていた。

 

「あの頃、私と提督だけだったから。小さな鎮守府でね、ちょっとずつ始めて仲間が集まってきたのに」

 

 夢現のように、小さく呟いている彼女の瞳は、何も映していなかった。でも、幻覚を見ているようではなく、過去を懐かしんでいるみたい。

 

 うん、まだ大丈夫そうだね。

 

「行きましょうか」

 

「ええ、そうね・・・・・・貴方の艤装、本当にそれなの?」

 

「はい」

 

 驚いた顔の二人に対して、私は一礼して艤装を展開。

 

 何時も通り、空母一隻に戦艦二隻は鎮守府へ残したまま、残りの一隻と六隻は私に従って行動。

 

 推進機問題なし、主機関正常、弾薬問題なし、航空機問題なし、魚雷室も問題なし。

 

「どう?」

 

『各部署は問題なしだ、女帝。魚雷でも砲弾でも、特殊兵器でもなんでも言ってくれ』

 

 うん、副長、その言葉はとても心強いよ。

 

「そっちは?」

 

「問題ないわ」

 

「大丈夫です」

 

「なら、艦隊前に」

 

 推進機を始動。全速というよりは、五分の一くらいの推力で動きだした私に続いて、叢雲と大和も続いてくれる。 

 

 推力がやっぱり違うなぁ。まだ全力じゃないのに、距離が少しずつ開いてしまう。

 

 でも、内緒の話ができるからいいかな?

 

「対空監視って、半分くらいで何とかなる?」

 

『おう、二人の監視だな。艦艇の連中もいるから、何とかなるだろ。全体の二割ずつで二人を監視させる』

 

「お願い。少しでも変な動きを見せたら、知らせて」

 

『解ったよ』

 

「対処する前に、だよ」

 

 念押しで伝えると、副長からの返答はなかった。

 

 やっぱり、私に言う前になんとかするつもりだった?

 

 ダメだよ、一応でも、私が上官なんだからね。

 

「副長?」

 

『ああ、解ったよ、女帝。あなたが俺達の『トップ』だ』 

 

「よろしい」

 

 偉そうにそんなこと言ってから、私はきちんと二人を振り返った。

 

「速力、少し落としますね」

 

「ごめん、早速、足手まといになっちゃったわね」

 

「いえいえ」

 

 暗い顔の叢雲に笑顔で告げながら、私は前を向いた。

 

 願わくば、これから先の海域で敵に出会いませんように。

 

 と、フラグが建ったわけですね、はい。

 

「ごめん!!」

 

『なに言ってんだ女帝! いいから撃て!』

 

 現在、深海棲艦の艦隊にぶつかってます。本当にもう、順調に進んでいて敵艦隊への哨戒とか色々と頑張って進んでいたのに。

 

 叢雲の『敵がいない』発言に、私が迂闊に『あ、避けてますから』って言った途端に、二人が突撃。無闇に突撃していったはずなのに、偶然に深海棲艦の艦隊のほうに向かうもんだから。

 

 私の幸運って低かったかな、速力は私のほうが上なのに止められなかったなんて。

 

『女帝!! 考え事なら後にしろ!』

 

「解ってるよ!」

 

 両手の武装を持ち上げて射撃しながら接近。

 

 もう叢雲が中破して戦艦二隻に護衛させて退避、大和も小破しながらもまだ突撃するから、空母に無理やりに拘束させて退避させている途中。

 

「まったくもう!!」

 

『ミサイル斉射だ! チャフとフレアに閃光弾も全部乗せろ!』

 

『撃ちます!』

 

 戦艦と私の艤装から噴煙があがってミサイルが乱れ撃ち。

 

 ああ、資材ってこれどのくらい消費するんだろう。

 

「全滅させちゃダメかな」

 

『できないことないけど、今は逃げるか。先に退避させた二人が心配だからな』

 

 そうだね。

 

 はぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鎮守府に戻った二人は早々に入渠。傷の治療と艤装の修理を妖精たちに任せた私は、アヤメさんの前に立っていた。

 

「え、突撃していった?」

 

「はい、すみません、私が付いていたのに」

 

「い、いいのよ。そう、へぇ」

 

 小さく、彼女の瞳が怪しく輝く。

 

 来たかと身構えた私に、彼女は小さく頭を下げた。

 

「ごめん! 二人にはきつく言っておくから!」

 

「いえ、いいんです」

 

「本当にごめん、じゃロンド・ベルも休んで。報告書とかは後でいいから」

 

「はい」

 

 一礼し退出した私は、ドアを少しだけ開けたまま耳を澄ます。

 

「そう、仇打ちかぁ、そうだよね。敵は皆殺しにしないと、みんなが可哀そうだよね」

 

 クスクスと笑う声に、私は『ああ、やっぱりか』と内心で思った。

 

 艦娘二人だけじゃない、アヤメさんの心の傷もある。表面に出てこないだけマシなのだろうか。

 

 いや、あっちのほうが根深いかもしれない。

 

『女帝、正念場だぞ』

 

「うん、解ってる」

 

『対応できるか、それともここで殺し合いになるか、だ』

 

「不吉なこと言わないでよ、副長」

 

 苦笑しつつ答えながら、私は廊下を歩く。

 

 打開策なんて思い浮かばない。でも、このままなんてできないから。

 

 やれるだけ、やるしかない。

 

 私は小さく決意を新たにして、足を進ませ続けた。

 

 

 

 




 
 前途多難は、私にとっては珍しいこと。

 何時も私の前には誰かがいてくれて、きちんと道を示してくれた。

 でも今は私だけ。だから、今度は私が見据えないと。

 多くの人がきちんと道を進めるように。


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