帝国暦1000年 封印の地
赤く燃え上がる町並み。そこから逃げ惑う人々とそれを追いかけ殺す怪物。その悪夢としか思えない光景を、体が発する火傷の痛みが現実だと訴え続ける。脱出のため激しく揺れる馬車の中から、私は自分の町が滅んでいく様をただ眺めていた。
今も何度も思い出す。あの時力があれば救えたのだろうか?父も母も、そして、私の命を救ってくれたあの人も・・・
「・・ラン、フラン!聞いているの!?」
私を呼ぶ声に我に返る。私を見つめる皆の視線があった。
「っ!・・・申し訳ありません。お姉様。」
「まったく・・・よく聞きなさい、フラン。私たちはこの洞窟のモンスターを討伐するわ。ここは元々ご神体が置かれた聖地だったらしいけど今ではモンスターの巣窟になってしまった。既に近隣の村が幾度も襲われ被害が出ているわ。
私達はこの洞窟に巣食ったモンスターを討伐してから何も入れないように封鎖する。フラン、あなたは私達の後ろで見ているだけでいいわ。戦いがどういうものか、その目でしっかりと見ておきなさい。」
そういってお姉様は皆へ向かって振り返る。お姉様率いる優秀な兵たちだ。
「美鈴、こあ、チルノ。皆も頼むわ!行動開始!」
お姉様の掛け声と共に、皆が一瞬で陣形を組む。お姉様を中心に先頭を美鈴、両脇をチルノとこあが守る。私は少し遅れて最後尾に付く。そして目の前の洞窟に入っていった。
洞窟の中は完全な暗闇になっていた。見たところ大きな空洞になっているように感じるが、どれぐらいの大きさなのかまったく分からない。松明を灯すのかと思った矢先、お姉様が術を放つ。
「ライトボール!」
複数の光球が洞窟の中を照らしながらあちこちへ飛んでゆく。照らされて分かったことはこの洞窟が非常に広い空洞になっていること。そして、洞窟内にたくさんのモンスターたちがうごめいていることだった。その数と醜悪さに一瞬めまいを感じた。
だが皆はそうではなかった。いきなり光で照らされて動揺するモンスターを、こあが弓矢で的確に射抜いていく。5体目を射抜いたとき、こちらに最も近かったモンスターがこあ目掛けて突っ込んできた。人間より大きいトカゲのリザードだ。大口を開けこあを食いちぎろうと突進する。しかし、その牙が噛み付いたのはこあではなく鉄の大盾だった。こあとリザードのあいだに美鈴が割り込み、持っていた大盾でリザードの突進を防いだのである。リザードを受け止めた衝撃を逃がしつつ、美鈴はリザードを横に弾き飛ばす。弾き飛ばされたリザードの体勢が崩れたとき、その体が縦に真っ二つになった。美鈴の動きにあわせチルノが大剣でリザードを切り捨てたのだ。
だが、その直後、マイザーたちの群れが襲いかかってきた。大きなリスのようなモンスターであるマイザーは単体ではたいしたことはない。だが群れで襲い掛かってきた場合は数で陣形をくずされて混戦になってしまう。
美鈴とチルノも身構える。そのとき、2人の後ろから光球がマイザー目掛けて降り注いだ。お姉様のライトボールがマイザーに放たれたのだ。ライトボールは攻撃力は大してないが、その強い光は対象の視力を一時的に奪い取る。視力を奪われて混乱するマイザーの群れにチルノが突っ込み大剣を振り回す。人間より大きなリザードすら一撃で両断する大剣はマイザーをまとめてどんどん切り捨てていく。討ち漏らしたマイザーは美鈴とこあ、お姉様が1匹残らず片付けていく。ものの数分でマイザーの群れは全て物言わぬ死体の山となった。
リザードとマイザーを片付けると、洞窟の奥からスライムの群れが現れる。動きは鈍いがその体は物理攻撃に強く剣や弓矢で倒そうとすると骨が折れる相手だ。が、術の力には非常に弱い。
「ライトボール!」
お姉様のライトボールがスライムにまとめて叩きこまれる。ほとんど攻撃力がないライトボールですらスライムは耐えられず黄色い悪臭を放つ液体に変わっていった。
こんな調子で洞窟内のモンスターはどんどん一掃されていった。一通り片付いただろうか?見渡す限り動くモンスターの姿は無くほっと息を付こうとしたとき、お姉様が私を強引に引き寄せた。直後、私のいたところを巨大な影が通り過ぎる。巨大な影は先ほど退治したマイザーの死体の山に突っ込み、死体の山を影の形に抉り取る。巨大なワニ。タータラだ。獰猛な大型肉食モンスターであるタータラは噛みつけば鎧ごと体を食いちぎる程の力を持つ。私はお姉様たちが倒すモンスターに気を取られ背後から音を立てずに近寄っていたタータラを見落としていた。
タータラが私とお姉様に向き直りその顎を大きく開いて襲い掛かる。美鈴がお姉様の前に割り込もうとするが間に合わない。私が死を覚悟したとき、お姉様はまっすぐに剣を構えていた。
「二段切り!」
躊躇なく放たれたお姉様の剣技はタータラの頭と顎を分断した。呆気にとられる私をよそに、お姉様はあたりを見回し皆に声を掛けた。
「すべて片付いたようね。皆!よくやったわ!村へ報告に戻りましょう。」
近隣の村を回り、モンスターの脅威が去ったことを報告する。村の人たちは皆喜んでいた。私も嬉しくなる中、お姉様は私を呼びつけて一緒に村の外れに向かう。一面に並ぶ木の板と埋められた跡。その中で入り口に近い部分の跡は一回り大きくまだ新しい。お姉様が私に告げる。
「一昨日モンスターの襲撃で亡くなった家族のお墓よ。まだ小さい子供もいたらしいわ。」
嬉しい気持ちは一瞬で消え去った。お姉様は墓の前まで歩み寄り、静かに祈りを捧げた。
「あなた達を守れなくて・・・本当にごめんなさい・・・。」
お姉様の呟きはとても小さかったけど、私ははっきりと聞き取った。
『皇帝』の責務。5年前のあの時から、お姉様はその小さな背中に全てを背負っていた。