帝国暦1000年 バレンヌ帝国 帝都アバロン 皇帝の寝室
アバロン王宮の皇帝の寝室。そこにはベッドに弱弱しく横たわるお姉様の姿があった。
「フラン・・・フラン、そこにいる・・・?」
「はい。お姉様。ここにいます。」
お姉様のかすれる声に答え手を握る。その手は死人の手のように冷たい。顔も血の気が無く目の焦点も合っていない。
「ごめんなさい・・・もう、目が見えないの・・・」
お姉様が私のほうへ顔を向けながら言う。その言葉通り、お姉様の顔は私のほうを見るものの視線はこっちを向いていない。
お姉様が言葉を続ける。
「フラン・・・聞きなさい。正邪はもうすぐここへ攻め込んでくる・・・。私たちを皆殺しにするために・・・。それに対抗することは・・・きっとできないでしょう。」
「お姉様・・・!そんなことは・・・!」
「最後まで聞きなさい・・・。いい、私は永琳という魔術師に会ったわ。彼女は私に継承法を教えた。私が死ぬとき、私の記憶を新しい皇帝に引き継ぐ秘術を・・・。」
「継承法・・・?」
「・・・正邪の・・・ソウルスティールは見切ったわ。その見切りの記憶と、私の皇帝として生きた記憶全てを・・・フラン。あなたに伝えるわ。」
「見切り・・・!?まさかお姉様はそのために正邪に!?その魔術師がお姉様をそそのかして・・・!」
「フラン!・・・やめなさい。」
憤る私をお姉様がたしなめる。その声はどんどん弱弱しくなっていく。
「七英雄は世界を守る正義と伝説にはある・・・。でも実際は?あの正邪が正義だと?あの正邪が偽者なのか・・・それとも伝説が伝説に過ぎないのか・・・。
いずれにしてもあなたは、あの正邪と戦いこの国を守らなければならない・・・。」
「私が・・・。」
「お願い。フラン・・・私の代わりに・・・この国を、皆を守って頂戴・・・。」
あまりに弱弱しいお姉様の声。あのお姉様の代わりが私に務まるはずがない。しかし、今のお姉様を前にその願いを断ることなどできなかった。
「・・・お姉様・・・分かりました。」
「・・・ありがとう。フラン。・・・愛しているわ。」
お姉様が目を瞑る。
「・・・さようなら。」
「・・・!?お姉様?お姉様!」
私の呼びかけにお姉様は答えなかった。
「・・・お姉・・・様・・・。」
お姉様が死んだ。その時自分がすべてを失ったことに初めて気付く。かつてお姉様が皇帝になった時もこんな思いを?
だとすればやはり私に皇帝が務まるとは思えない。国を守るどころか今立ち上がる事さえできなかった。
その時・・・。
「・・・これは?」
私に暖かくもはかない一筋の光が降り注ぐ。そして私の頭の中に大量の風景が流れこむ。
全てを失ってなお、民を守るために剣を取ったときのこと
サクヤとの修練、一切の容赦がない修練の中で必死に皇帝としての力をつけたこと
モンスターに怯える民の下へ自ら向かい、その脅威を打ち倒したこと
正邪と戦い、そして、ソウルスティールを受け倒れたこと
さまざまな記憶が私の中へ流れ込んでいく。それらの記憶はまるで自分が経験したことのように思い出せる。
「これが・・・継承法・・・?」
顔を上げれば眠るように亡くなったお姉様の顔がある。その顔にはうっすらと笑みが浮かんでいるように見えた。
私は立ち上がる。今にも押しつぶされそうな不安はそのままだ。でも・・・!
「・・・お姉様。この国は・・・皆は私が守ります。
だからどうか・・・見守っていてください・・・。」
私はそう言い残し、お姉様と約束をして部屋を出た。