帝国暦1000年 バレンヌ帝国 帝都アバロン 皇帝の寝室前
部屋の外では美鈴、こあ、チルノと文官たちが待っていた。美鈴達の顔には護衛でありながら主君を守れなかった苦しみが表れていた。
部屋から出てきた私を見て察したのだろう。皆の表情が暗くなり下を向く。そんな中に伝令兵が駆け込んできた。
「ほ、報告!ゴブリンの襲撃!城下に入り込まれました!」
「何だと!門兵は何を・・・いったいどうすれば・・・。」
文官が憤り呟く。皆の顔が一斉に険しくなった。お姉様を亡くしたことが皆を混乱させている。ならば・・・。
「落ち着きなさい!ゴブリンの数は?正門が破られたの?」
私ははっきりと声を発し伝令兵に改めて確認する。周りが驚く中、伝令兵が答える。
「ゴブリンの数は不明です・・・。正門に襲撃を受け、跳ね橋を閉める前に奪われました・・・。」
伝令兵の報告を聞き、私は一瞬考え込んでから問い直した。
「正門が破られたのではなく門が開いたまま突破された?なら正門自体は無事なのね?」
「はい。しかしゴブリンが占拠しています・・・。」
伝令兵がうなだれつつも答える。私はその答えを聞き皆のほうへ向き直った。
「こちらから打って出るわ!まず正門を奪取し跳ね橋を閉める。その後城下町のゴブリンを殲滅するわ。私が指揮を執って前線に立つ。皆、準備をしなさい!」
皆は驚きの表情を見せていた。それはそうだろう。内心私自身も驚いていたのだから。話し方、状況の理解からの行動の判断。まるでお姉様がそこにいるかのようだった。
「フ、フラン様が前線へ出られるのですか?!レミリア陛下亡き今、フラン様にもしもの事があれば・・・!」
文官が私を引き留める。私は皆のほうを向いたまま答える
「お姉様と約束したの。お姉様の代わりに私がこの国を守ると。この程度の危険で戦場に立つことを恐れるならお姉様の後を継ぐ資格はない。約束を果たす為にも私が戦わなければならないわ。」
「フラン様・・・!でしたらせめて護衛に選りすぐりの者を・・・!ルーミア!フラン様の護衛につけ!」
文官が柱にもたれかかった兵を呼んだ。彼女は柱にもたれながら少し俯き加減でテラスのほうを見ている。腰まで届く長髪は美しい金色をしており整った顔立ちは美しいがどこか鋭さを感じさせる。さながら静かにたたずむ狼のようだ。
そして彼女はこちらを見ることもせず吐き捨てるように言った。
「お断りだ。」
「なぁっ・・・!?」
予想外の答えに言葉が出ない文官に対しルーミアは続けて言い放つ。
「私は傭兵。契約したのはレミリア陛下だ。フラン様に付き合う義理はない。」
「何だと!?キサマ、フラン様に向かって・・・!」
「しかし・・・フラン様が次の皇帝か。この国もどうなることやら・・・。」
「キサマ・・・!なんという・・・!!」
息を荒げ睨み付ける文官に対し、ルーミアは表情を崩さず視線も合わさないままだ。
私は文官を制しながら皆に向かって話す。
「やめなさい。ここで時間を浪費するわけには行かないわ。私の護衛は美鈴、チルノ、こあに任せる。」
「フラン様・・・。どうかご無事で・・・。」
「皆、頼むわよ!まずは正門を取り返す!」
私は早足で歩き出す。続けて美鈴、チルノ、こあが続き、文官たちも後へ続いていく。残ったのは柱にもたれかかるルーミアだけだった。
誰もいなくなった後、ルーミアは小さくつぶやく。
「威勢だけで何ができる・・・。私が認めたのはアンタじゃない・・・!」
彼女のつぶやきは誰にも届かなかった。もうこの世にいない、彼女が認めどこまでも付いていくと決めた人にも。