帝国暦1000年 バレンヌ帝国 国境付近山間部
侵攻は順調だった。
まあ最初からこうなることは分かっていたが。アンデッドモンスターの大群相手にまともに相手できる国は北バレンヌに存在しない。
侵攻途中にあった町と国は数の暴力で圧殺した。守りが堅い帝都アバロンも同じように圧殺できるだろう。
しかし、侵攻速度が遅いのは何とかならないものか・・・。アンデッドモンスターは総じて移動速度が遅い。アンデッド以外の飛行モンスター部隊もいるが、そいつらは数が少なく、斥候か奇襲にしか使えない。
結局、本隊のアンデッドモンスターが到着しなければアバロンを落とすのは難しいだろう。
「まあ、いいか。」
私は気楽に考える。こちらの侵攻は既にバレンヌ帝国は把握しているだろう。しかし、だからどうしたというのだ?
把握できたところで対策など出来るはずはない。モンスターの大群に滅ぼされる恐怖を味わうだけだ。
どうあがいても何かが変わるわけではない。運命はもう決まっているのだ。
山岳地帯も中間を過ぎる。ここを超えればなだらかな丘陵地帯になり、その先は帝都アバロンがある。
アバロンが見える位置まで進軍したら、適当な丘からアバロンが侵略されるのを眺めるのもよさそうだ。必死で帝都を守る兵が虫けらのように殺され、燃え上がる町に響く悲鳴と絶叫。実に楽しみだ。
そのとき視界の隅に何かが光った。そちらを見た瞬間、火球が私に直撃した。威力はたいしたことないが・・・ずいぶん舐めた真似をしてくれる。
私は火球が飛んできた方に目を凝らした。少し離れた山の中腹。そこにいたのは皇帝の後ろで怯えていたあの小娘だった。そういえば、逃げる皇帝たちにカマイタチを食らわせようとしたときにあいつの術に邪魔をされた覚えがある。
小娘はきびすを返し逃げ出していく。向かっているのは山の反対側か?いずれにしろ舐めた真似をした小娘を放置するのはありえない。
「追え!殺さずにここにつれて来い!手足の一本二本ならもげても構わん!」
飛行モンスターたちに小娘を追う様に命じる。勢いよく飛び立った飛行モンスターたちは、小娘に向かって飛び立ち・・・光の玉を食らって落ちていった。
「ああ?」
光術のライトボールだ。術の威力はたいしたことはないが、食らうとその光で一時的に視界を奪われる。
視界を奪われた飛行モンスターたちはパニックを起こし、木にぶつかったりあらぬ方向へ飛んだりしている。情けない姿を見せ付けられた所で足元に矢が飛んできた。どうやら逃げながらこちらを攻撃するつもりらしい。
「・・・生意気な。だったら私が直接四肢をもいでやる!」
私は残っていた飛行モンスターの背にまたがり小娘の位置まで飛ぶ。光術で打ち落とされる可能性はあるがそうすれば位置がはっきりする。後は飛行モンスターを乗り捨てて直接殺しにいけばいい。
案の定、小娘の光術が飛んでくる。小娘はやや開けたところからこちらへ術を放ったようだ。私は飛行モンスターを盾に光術を防ぎ、飛行モンスターを乗り捨てて小娘の場所まで一気に跳躍する。人間なら大怪我する芸当も私にとっては朝飯前だ。
小娘の目の前に降り立つ。小娘はこちらをにらみつけている。驚きもたじろぎもしない。
「・・・覚悟は出来てる。ってツラだな、小娘。くくく、腕をもがれてもその顔でいられるかなぁ?」
私は剣を抜いて小娘に近寄る。小娘は動かない。直後、私の右側から矢が飛んできた。私は剣で矢を叩き落す。
「不意打ちか。なら次は・・・こっちだな!」
続いて予想通り左側から金髪の剣士が大剣を構え突っ込んできた。受け流して切り返そうとしたが、そいつは剣を振り下ろさず足で砂を私にかけた。砂による目潰しである。とっさにかわしたが、崩された体勢に大剣が振り下ろされる。不利な形で無理やり受け止めざるを得なかった。
「ちぃ・・・。」
ずいぶん姑息な戦い方だ。よく見れば装備が正規兵らしくない。傭兵だろうか?
「二本射ち!」
「ぐぅ!?」
背後から射掛けられた矢が二本同時に足に刺さった。さっき私に矢を射掛けてきた奴だろう。傷はどうでもいいが矢が邪魔をして崩された体勢を立て直せない。うっとおしい。たかが雑魚の集まりのくせに!
「雑魚共が・・・イルストーム!」
術で自分の周りに毒の霧を生み出す。いくら有利な体勢とはいえ人間が力ずくで私を押しつぶすことは不可能だ。毒の中でいつまでも鍔迫り合いはできやしない。案の定そいつは大剣の鍔迫り合いをやめ、体を回転させながら大剣で私に切りかかる。私は剣で受け止めつつ後ろに跳び下がる。
距離が開けばこちらのもの。カマイタチでも術でも圧倒的にこちらが優位だ。
「ファイアーボール!」
と思った矢先、小娘がこちらに術を放った。術は私の横を掠めて後ろの森に当たった。
「おいおい、どこをねらってるんだぁ?」
術が飛んできたほうへ向き直ったが小娘はいなかった。術だけ放って逃げたのか・・・?
直後、背後の森が燃え上がる。おかしい。術だけでこんなに燃えるはずがない・・・。疑問はすぐに解消された。油の匂い。森に油が巻かれていた。あいつら初めから・・・私を誘い出して森ごと焼き払うつもりだったのか!
「ちぃ!」
さっきの剣士の姿もない。既に逃げた後だった。火の手は凄まじく速く既に私の周りを取り囲み始めている。今すぐに逃げなければ火の海に飲み込まれてしまう。だが・・・
「っ!?これも作戦か!」
逃げようとして足に刺さった矢を思いだした。矢の傷自体は大したことはないが地面と足をがっちりと縫い付けていた。矢もよく見れば鉄筒で覆われてへし折ることが難しくなっている。これでは矢を引き抜いている間に火に追いつかれてしまうだろう。
「あいつら・・・!よくも・・・!よくも・・・!!」
燃え盛る炎に焼かれながら、私は自分を罠にはめた小娘へ憎しみを募らせていった。