ロマンシングサガ2 東方 ~緋色の運命~   作:四口一人

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第27話

 帝国暦1000年 バレンヌ帝国 封印の地

 

 私が薙ぎ払うように横降りした剣を小娘は屈んで躱し私の懐へ潜り込む。小娘が潜り込むのに合わせて左手から術を放つが、小娘は懐に潜り込むのを途中でやめ術を横によけて躱す。横薙ぎ払った剣を切り返すが小娘はそれを剣で受け流し再び私の懐へもぐりこもうとする。

 私の攻撃を全て捌きながら小娘は私に一撃を加えようと食らいついてくる。そのたびに私と小娘の剣が何度もぶつかり合い鋭い音と火花を散らす。

 ・・・正直、驚いていた。あの時アバロンで震えて立ち尽くすことしか出来なかった小娘と目の前で私と切り結んでいるこの小娘は同一人物か?いくら覚悟を決めたとしてもここまで変わるとは思えない。というより、今のこいつはまるで・・・

 あのときソーモンの屋敷で殺したあの皇帝ではないか?

 亡霊が小娘に乗り移った?いや、そんな気配はない。死者を操る私が亡霊が乗り移っているかどうかを見誤ることなどありえない。だがこいつの剣技は・・・やはりあの皇帝の剣技と瓜二つだ。まさか・・・この短期間でここまでの剣技を身に着けたのか?

「殺す価値もない小娘だと思っていたが・・・ずいぶん腕をあげたものだ。」

「私の剣は私だけじゃない・・・お姉様の力も付いている!お前に2度も負けはしない!」

「フン。世迷い事を・・・あいつは私が殺してやった!今度はお前を同じ目にあわせてやるよ!」

 私は足元に魔方陣を出す。魔方陣から放たれる黒い光は私ごと小娘を包み込んでいく。

 お姉様が付いている?だったらまとめて地獄の底に叩き落してやる!

「くらえ、ソウルスティール!」

 

 

 

 

 

 正邪の足元に魔方陣が現れる。アバロンでサクヤの命を奪い、ソーモンで姉の命を奪った正邪の切り札だ。

「くらえ、ソウルスティール!」

 正邪の声が聞こえる直前、私の脳裏にある光景が走る。ソーモンの屋敷で正邪と相対する私、そして私は正邪が放ったソウルスティールを受けた。そう、受けたのだ。ソウルスティールを・・・背中から!

「ここだ!」

 私は剣を背後へ薙ぎ払った。剣には何の手ごたえもない。しかし目の前の正邪の顔を見ればその行為が正しかったことが分かる。

「なっ・・・!?」

 大地を蹴り正邪との距離を一気に詰め、背後に薙ぎ払った剣をそのまま正邪に切り返す。ソウルスティールが外れると夢にも思わない正邪は一瞬反応が遅れた。

「二段斬り!」

「がぁっ!?」

 正邪の体が深々と斬りつけられた。懐から切りつけた一撃は普通なら立てなくなるほどの致命傷を与えた。しかし正邪は叫びつつも後方へ飛び退いた。さすがに平気というわけではなく苦しそうな表情をしている。

 私は背後へ振り返った。そこには何もないように見える。だが剣で薙ぎ払った部分。そこがゆがんで見えている。その形は腕だった。腕の形をしたゆがみは次第に小さくなり消えていく。これがソウルスティールの正体。相手の背後に魔力によって生み出された不可視の腕。そしてその腕は相手の魂を掴んで奪い取る。

 魂を奪い取るような力は繊細だ。ゆえになにかで薙ぎ払えば魔力が歪み消えてしまう。だから正邪は足元に魔方陣を発現させ魔方陣がソウルスティールを発動させているように見せたのだ。すべては背後の不可視の腕を隠すために。

「見切られた・・・!?私のソウルスティールが・・・!?」

 驚愕する正邪。私は正邪に相対する。

「ソウルスティールは通用しない!もうあなたに勝ち目はないわ!」

 正邪の表情は焦りが浮かんでいた。しかしすぐにその表情は怒りへと変わる。

「・・・勝ち目がない。だと?図に乗るな・・・!人間風情が!!」

 正邪をまとう空気が変わった。重々しいプレッシャーが辺りを支配し正邪の剣からは魔力がほとばしっている。正邪の全力だ。次の一瞬で全てが決まる。

 正邪が剣を構える。と同時に横なぎに剣を振った。

「カマイタチ!」

 正邪の剣からカマイタチが放たれる。広範囲を切り刻む真空の刃を避けることは非常に難しい。しかし何度も見てきたことでカマイタチの弱点も分かっていた。カマイタチは強力だが防御を固めた相手を一撃で倒す威力はない。私は剣と腕で頭をかばいつつカマイタチに向かって真っすぐ突っこむ。そしてカマイタチは発動時に剣を大きく横に薙ぎ払う為、発動後は大きな隙が生まれる。それが弱点だ。

 カマイタチの無数の刃が私を襲う。体を切り刻まれる痛みをこらえ足を止めずに正邪の下へ突進する。しかし正邪は既に剣を切り返していた。私の突進を先読みしていたのだ。正邪が嗤って言い放つ。

「カマイタチの隙を狙ったか?ヌルい考えだな!死ね!」

 ・・・その油断こそが、付け入る隙だ!

「ファイアーボール!」

 私は自分のすぐ後ろに術を放った。爆炎が私を押し出し加速させる。正邪の切り返しより一瞬早く私は正邪の懐に入り込んだ。

「二段斬り!」

 私の攻撃を正邪はかろうじて剣で受けた。だが無理やりに受けたせいか正邪の剣がへし折れる。魔力で作られた剣は跡形もなく消え去り剣をへし折った斬撃がそのまま正邪を斬りつける。

「がはっ!」

 剣が正邪の体に深々と刺さる。だが正邪は怯まなかった。正邪は剣が突き刺さったまま全身に力を込める。私は突き刺さった剣を引き抜こうとするが引き抜くことができない。一瞬無防備になった私の腕を正邪が掴む。正邪の目は怒りと憎悪で燃え上がっていた。

「よくもやりやがったな・・・!ペイン!!」

 私の腕をつかんだ正邪の手から術が放たれた。直後、私の全身にすさまじい激痛が走る。一瞬意識が飛び視界が白くなった。正邪が私の腕から手を離し私の体に手を向ける。私にできたのは激痛の中辛うじて正邪を見ることだけだった。

「くたばれ・・・!ポイゾナスブロウ!」

 正邪の手から生み出された毒の塊が至近距離で私に直撃する。凄まじい衝撃で吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。何とか立ち上がろうとするが全身に激痛が走り視界が歪む。動けなかった。

「・・・がはっ!くそ・・・!てこずらせやがって・・・。」

 正邪が私の隣までやってくる。足を引きずり体には私の剣が突き刺さり血が吹き出していた。何とか立ち上がろうとする私を正邪は蹴りとばし私の剣を体から引き抜いた。私は剣をもってこちらに向かってくる正邪を倒れたまま眺めることしかできない。

(まだ・・・まだ死ねない・・・!正邪を倒すまでは・・・!!)

 剣を奪われ魔力も使い果たした。強く願う心とは裏腹に私にはもう何もできなかった。

「終わりだ・・・くたばれ!小娘!」

 正邪が剣を振り上げる。その瞬間、私の手に何かが当たった。私は咄嗟にそれを掴み目の前の正邪へ突き刺した。

「ぐがっ!?」

 正邪が私の剣を落とす。そのままよろよろと後ろに下がり正邪は地面に倒れ伏した。

 正邪に突き刺したのは剣だった。誰かが剣を投げて寄越したのだ。私は剣が飛んできたであろう方向をみた。

 その先にいたのは骸骨の剣に貫かれる丸腰のルーミアの姿だった。

 

 

 

 

「・・・こ・・・こんなはずじゃ・・・」

 もはや痛みどころか感覚すらない。体は徐々に灰になっていき端から崩れていく。ようやく・・・ようやく永い眠りから覚めたというのに・・・!

「畜生・・・また長い眠りにつかなければならないのか・・・。おぼえていろ・・・!・・・おぼえていろよ。皇帝!次こそは殺して・・・」

 そこまで言って私の喉が灰になり崩れ落ちる。最後に見たのはこちらに見向きもせずに金髪の剣士の名を叫ぶ小娘の姿だった。

 ・・・小娘!私を無視するな・・・!

 その思いは声になることもなく灰になって消え去った。

 

 

 

 

 

『帝国暦1000年 バレンヌ帝国 封印の地の決戦』

 

 皇帝フランドールの奇襲作戦の成功により敵将の七英雄 正邪は討ち取られ、モンスターの大群はアバロンへ攻め込む前に統率を失いました。しかし統率を失えど大群となったモンスターたちの脅威は変わらず、バレンヌ帝国はその後数十年をかけて多大な犠牲を払いながら討伐をすることになります。

 皇帝フランドールはバレンヌ内のモンスターの討伐と正邪によって荒らされた北バレンヌを統合することに奔走し一生をかけて統合を成し遂げました。

 正邪から皇帝フランドールを救うため命を落とした傭兵ルーミアは特例として騎士の墓地にて埋葬され、彼女が埋葬された墓の隣は正邪と戦いアバロンを守った騎士サクヤの墓であったと伝えられています。

 

「私は・・・大切な人達に命を救われて、その大切な人を守ることが出来なかった。

 だからせめて・・・大切な人たちが守った物を守り抜かなければならない。

 それこそが私の意志であり、贖罪であり、そして運命だと思うの・・・。」

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