帝国暦 995年 カイドウ王国 王都ソーモン スカーレット邸 レミリアの寝室
ジェラール様と別れた後、私はお姉様に呼び出された。そういえばお姉様が返ってきてからちゃんと話をしていない。私は久しぶりにお姉様と話ができることを楽しみにお姉様の部屋を訪れた。お姉様は私を迎え入れた後にバレンヌ帝国での出来事を離し始めた。
「・・・それでね、ジェラール様ったら冗談だったのに真に受けちゃって・・・。」
失敗だった。いや大失敗だ。惚気話がここまでうっとおしいとは・・・。しかもかれこれ3時間は話し続けているのに一向に終わる気配がない。いきなり政略結婚でバレンヌ帝国に嫁ぐことになり不満もたまっているのではと思いジェラール様の事を聞いてみたのだが、途端に目を輝かせてジェラール様との惚気話が始まった。どうやら向こうでの生活は大層充実しているようだ。・・・3時間ではとても話足りないくらいに。
しかも・・・。
「そうなのですか?とてもそのような方には見えませんでしたが。」
「そうでしょう?私も初めて会ったときはそう思ったわ。でも彼、意外と抜けてるところも多いのよ。」
彼女が長話をさらに盛り上げていた。スカーレット家の守衛騎士でありお姉様の幼いころからの友人 サクヤ。私も幼いころから彼女と共に過ごしており、もう一人の姉のような存在だ。
惚気話が大長編になることを悟った私は、せめて誰かを道連れにしようと廊下を歩いていた彼女を巻き込んだ。だが彼女は道連れどころかお姉様の惚気話をどんどん聞き出し始め、結果お姉様はどんどんヒートアップし手が付けられない状態になっていった。
結局サクヤは仕事のためヒートアップしたお姉様を残して途中で退室し、私はその後も延々と続く惚気話を聞き続けた。結局私が解放されたのは真夜中を告げる時計の音が聞こえた頃だった。とりあえず自室に戻って寝ようと思いお姉様の部屋を出ようとした時、不意に後ろからお姉様に抱き付かれた。
「お、お姉様?」
「フラン。話を聞いてくれてありがとう。嬉しかったわ・・・。本当に嬉しかった・・・。」
お姉様のわずかに涙ぐんだ声を聞いたとき、私はようやく自分の考えの間違いに気が付いた。バレンヌ帝国にはお姉様の友人はおろか知人すら一人もいないのだ。バレンヌ帝国での生活は充実していたのではなく・・・寂しさを紛らわせるために充実した生活を必死に作りあげていたのだ。
「お姉様・・・私は・・・」
「ごめんなさい。フラン。でももう少しだけ・・・きっと私はすぐ帰らないといけないから・・・。」
帰る?そうだ。モンスターの大討伐作戦が終わればお姉様はバレンヌ帝国に帰る。お姉様の帰る家はこの屋敷ではないのだから。
かすかに震えるお姉様の手を握りながら、馬鹿な私はお姉様の辛さの一部をようやく理解した。