帝国暦 995年 カイドウ王国 王都ソーモン 西門前の森
燃え上がり崩れる屋敷。フラン様を連れて西門へ走りながら、俺は心から自分の非力さを呪っていた。
西門から少し離れた位置、森の入り口まで来たところで剣戟の音が聞こえた。音は一瞬だけ聞こえその後は聞こえない。
そちらへ向かうと、一人の女騎士がいた。足元にはモンスターの死体が転がっている。先ほどの剣戟は彼女の剣の音だろう。
彼女はこちらへ鋭い目を向けたが、我々の中にいるフラン様をみて表情を緩めた。
「フラン様!ご無事ですか!」
彼女がフラン様に駆け寄る。
「サクヤ・・・お父様とお母様が・・・。」
フラン様が泣きじゃくる。サクヤと呼ばれた女騎士はフラン様を抱きしめながらこちらを向いて尋ねた。
「他は・・・。」
「・・・我々が救出できたのはフラン様だけです。我々が脱出後すぐに屋敷が崩れ落ちるのを見ました・・・。」
「・・・分かりました。レミリアお嬢様は馬車の中におられます。モンスターの襲撃で気を失っておいでですがお怪我はありません。皆様の馬も馬車と一緒に隠してあります。共に脱出を。」
サクヤが我々に促す。だが俺はやらなければならないことがあった。
「サクヤ様。私は・・・」
そこまで言ったとき俺の声を遮ってジェームズが答える。
「我々はこれよりジェラール様の救出のため市街地へ戻ります。ご一緒することはできません。」
「殿は我々が努めます。どうか先に脱出なさってください。」
テレーズがさらに言葉を続けた。サクヤは戸惑った顔を一瞬見せ、しかしすぐに元の鋭い顔に戻って答える。
「・・・分かりました。馬はここに残しておきます。どうかご武運を。」
そう答えサクヤは馬車の御者席へ飛び乗りそのまま馬車を走らせ始める。彼女の操る馬車は瞬く間に小さな点となり暗闇に消えた。
「・・・一緒に行っても良いんだぞ?ジェラール様を守れなかった責は隊長の俺が取る。お前たちまで残ることは・・・」
「なにかっこつけてんだ?大体お前が隊長っていうのもたまたま抜擢されただけで大したことやってないだろ。」
「まったくね。お飾り隊長なのに調子に乗らないでほしいわ。」
隊長として責任を取ろうとした俺をジェームズとテレーズが一緒になって貶す。
「なっ!?お前ら!俺はな・・・!」
「俺たちはお前と同じ気持ちだと言ってるんだ。隊長。」
「っ!」
貶されたことへ言い返そうとしたとき、その言葉を遮って言い放たれたジェームズの言葉に俺は言葉を詰まらせた。
「平民に騎士なんぞふさわしくない。そう言って貴族出身の無能どもが何人も騎士になっていった。俺たちはそれを黙って見ていることしかできなかった。そんなときだ。ジェラール様が平民の俺たちを騎士登用してジェラール様の親衛隊にまで任命したのは。」
ジェームズは言葉を続ける。
「貴族騎士の連中からは総スカンだったな。平民が皇族の親衛隊なんぞふさわしくない。あり得ない。狂ってるとまで言われたな。そうしたらジェラール様は俺たちと貴族騎士の連中を集めてこういったじゃないか。
『先日この近くで危険なモンスターの巣が発見されたと報告があった。既に討伐に向かった兵士が何人も殺されている。私はこれ以上被害を出さないため少数の精鋭騎士を率いてモンスターの巣を退治しに向かいたい。私の護衛を務めたいものは前に出よ。』ってな。他の連中が怖気づいて躊躇した中で一切躊躇せずに前に出たのは俺たちだけだった。それ以来誰も文句を言えなくなった。
俺達はジェラール様の親衛隊だ。ジェラール様は俺達が他の全ての騎士より親衛隊に相応しいと皆に分からせた上でその栄誉を下さったのだ。親衛隊のくせに主を守れなかった無能ではあったが・・・だからこそ親衛隊として最後の仕事をしなければならない。」
そう言われやっと気が付いた。俺は自分の罪にばかり目を向けていた。同じ罪を背負い苦しんでいたのはこいつらだって同じだったのに。
「・・・分かった。ジェームズ、テレーズ、最後の務めをよろしく頼む。」
「当然だ。」
「後ろは任せて。」
そう言ってジェームズとテレーズがいつもの陣形を取る。俺を先頭にジェームズがすぐ右後ろ、テレーズが後方左後ろに控える。
いつもなら陣形の真ん中にいる主はもういない。やけに背中が寂しく感じた。
その時西門からモンスターどもが飛び出してくる。小さいが数は10体以上いる。そいつらはこちらに気づくと一斉に襲い掛かってきた。
(いくらでもかかってこい。もはや失うものはこの命一つのみ。だったらくれてやる。ただし・・・対価は払ってもらう!)
「かかってこいモンスター共!我らジェラール様親衛隊!主亡くともその志は未だ死なず!我らと共に冥府に連れて行ってやる!」