宿毛泊地提督の航海日誌 2ndらいと!   作:謎のks

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 いよいよラスボス戦、すげー長いのでご注意を。

 あと、ギミック解放について文中で描かれていないのですが、一応ルート解放はしています(装甲ギミックは外していません)。

 瑞鶴たちの活躍を描きたかったのですが、ますます長くなってしまうのでなくなくカット。…ホンマソロモンは地獄やでぇ。

 …さぁ、そんなソロモンで大活躍の彼女が、満を持して登場します。

 ♪心震えるっぽい、涙こぼれるっぽい!

 良いですねぇ…皆さんもBGMのご用意を。


2019年秋イベント編 e-6中編

○決戦艦隊

 

第一艦隊

・ネルソン

・ポーラ

・比叡

・秋津洲

・霧島

・筑摩

 

第二艦隊

・綾波

・ジャーヴィス

・北上

・熊野

・阿武隈

・夕立

 

 

 

 戦艦水鬼と決着をつけた艦隊は、遂に鉄底海峡(アイアンボトムサウンド)に赴く。

 そこに佇む姫…今作戦のラストボスと戦うには、これまで以上に厳しい条件下で戦わなければならなかった。

 

『先ずは編成ですが…ふむ、水上打撃ですか。ネルソンタッチを狙っていますね、よろしいでしょう』

 

 徳田は編成を見ながら頷く。しかして制圧力の強い空母部隊ではなく、何故戦艦主体の水上部隊なのか?

 

『実はこの先の姫、どうやらあの「防空棲姫」と同等…下手打てばそれ以上の対空能力を有しているようなので、飛ばした端から艦載機が撃墜されて話にならないようなのです』

「ほうながや?」

 

 提督は思いついた疑問の回答をもらい、納得する。

 

『そう、次に道中ですが。ジャーヴィスさんに対潜装備をお願いします、潜水新棲姫さんが待ち受けているようなので』

「分かったわぁ、他は?」

『そうですね…後は夜戦を気をつけるのと、ボス前の重巡ネ級をどうにかしたいですね?』

 

 アイアンボトムサウンドへの道を塞ぐように…正に地獄の門番の重巡ネ級「二隻」が立ち塞がる。

 

「あぁアイツらか…いっくらやっても全然削れんし、その撃ち漏らしのおかげでこっちがダメージ受けてまうきにゃあ…最悪大破撤退やし」

『ふむ、どうせ基地航空隊もボスでは無意味なので、このネ級のマスに航空隊二部隊を送られては?』

 

 (プレイ状況によっては)一概にそれが正解とは言えないが、それでもネ級部隊が予想外の強さを発揮しているのは事実。

 提督は徳田の提案を受けて、ネ級部隊対策に基地航空隊を送る。…しかしここで問題が。

 

「徳田…これヤバない? 基地航空隊は新棲姫とネ級で手一杯、本隊に空母も居らんき「ガチの砲 撃 戦(なぐりあい)」になるで?」

『言いたいことは分かりますが、向こうに航空戦力がないのは調べがついています。ネルソンさんもいるのでまだ大丈夫なのでは?』

「それが…そうでもなくて」

 

 吹雪が二人の会話に割って入ったが、どこか言いづらそうにしていた。

 

「実は…ネ級部隊に基地航空隊を送っても、まだ大破撤退が止まらなくて…」

「ま、マジかや…」

「(瑞鶴)わーぉ、暴れまくりじゃん」

「(加賀)流石に航空戦抜きやとキツいわ。」

 

 戦々恐々とする提督たち、無理もない、最早化け物ではないかというレベルの強さを見せつけるネ級隊、どうやっても手がつけられないでいた。

 

「なので…大変言いにくいのですが…ネルソンさんたちの「ネルソンタッチ」の使用許可を頂きたく…;」

『っな!? そこまでなんですか…?!』

 

 徳田も信じられない様子で狼狽していた。

 所感ではあるが、耐久に輪をかけて回避も高くそれが「二隻」も居る…のであればこうなることは必然だった。

 

「流石ソロモンやにゃあ…えいわ吹雪、夕立たちも居るし何とかなるやろ。ネルソンタッチを許可するで」

「了解しました…ネルソンさんたちにもそのように…すみません…」

 

 吹雪は申し訳なさそうに退室していった…。

 

 ※ネ級隊が強いみたいに書いてますが、後で調べて発覚したのは、要は私が制空権確保し忘れただけ(制空しないと拮抗扱いになる)です。私のおバカ…;;

 

「…ふぅ、やはりそう易々とはいかないものですね?」

「おう、基地航空隊と空母の航空戦力なし、おまけにネルソンタッチもなしとは…」

「やれやれ…とにかく祈るしかありませんね、彼女たちの無事を…本当に、何事もなければ良いのですが」

 

 徳田のどこか含みのある言葉に、提督は反応する。

 

「それってどういうことな?」

「………いえ、気のせいでしょう。どうにも報告にあった…」

 

 徳田が何やら言いたげに話していると、第二艦隊旗艦「綾波」から連絡があった。

 

『司令官、決戦艦隊はソロモン諸島沖「アイアンボトムサウンド」に間もなく到着します!』

「お、ほうか。まぁいつものように頑張ってな?」

『は~い! 綾波やーりまぁすよ~!』

 

 ピンと張った糸をほぐすように、綾波が柔らかくゆったりとした声で返答する。

 

 彼女はこの海域の特攻艦の一隻で、比叡、霧島、夕立と並んで鉄底海峡と因縁浅からぬ関係にある。彼女が「鬼神」と異名で呼ばれたのは、この海戦での獅子奮迅ぶりが由来であるから当然なのだが。

 

「にゃはは、綾波は可愛いにゃあ。そうやろ先生?」

「…そうですね」

 

 提督のにやけた顔とは対照的に、徳田は何処か不安げに艦隊の行方を追っていた…。

 

「よぉーし、一緒に頑張ろうね夕立ちゃん!」

「……うん、"そうだね"」

 

 しかして、その異変に気付く者は、まだ誰もいない…。

 

 

 

 ──そして夜が来る、地獄を乗り越え「果て」を目指す艦隊が目撃したものは…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

クライ

 

クライ

 

 

 

ダアレ

 

 

 

ダアレ

 

 

 

 

 

アナタ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アナタ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ボスマス到達…敵深海群、発見。

 

 

  沈没防空巡洋艦

 

 防 空 巡 棲 姫

 

『キチャッタカァ……。シカタナイナァ……。アタシ……メンドウナノハ……キライナノニ…サァッ…!』

 

 

 

 気怠げに面倒だと言い放ち艦隊を迎え討つは、今作戦最終ボスである「防空巡棲姫」である。

 

 前髪によって右目が隠され、細められた左目が一同を捉えている。

 胴体部分は純白のレオタードで覆われ、両腕と腰下には、上から着ていたのか服の残骸が見え、端が焼けてボロボロだ。総じて幽霊のような姿だが、彼女の腰布の端から両脚らしきものは見えない、代わりに魚の尾ひれのようなものが見えた。浮遊霊のように宙に浮いているのか、海面に足がついてる姿は確認出来ない。

 

 海域にこびり付いた怨霊が、"人魚"となり船人の魂を奪わんとする…それが防空巡棲姫、なのかも知れない。

 

『…Gruuu………!』

 

 両側には二体の魚状の艤装を従えている。左側は口の中や等に孔の多い肉塊状の器官を持ち、孔の中を青白く光らせている。向かって右側は口の中からウニの棘を思わせる不規則に並んだ砲身らしきものがある。

 

『…フゥ』

 

 溜息を一つ吐くと、防空巡棲姫は何処かやる気のない声色で艦隊に呼びかけた。

 

『アンタタチサァ…ドウシテモコノ先ニ行キタイノ?』

 

 その問いに誰とも言わず頷く、すると…またも面倒そうに溜息を吐く。

 

『ハァ…アノサァ。ナンデモイイケド…アタシモ邪魔スルツモリハナインダケド…ココヲ荒ラスンダッタラ…嫌デモ敵対シナイトイケナインダヨネ? ダカラサァ…アンタラノコト、アタシ見ナカッタコトニシトクカラサ…ココハヒトツ、オ互イガ譲リアウ感ジデ…サ? ホラ…分カルッショ?』

 

 つまり、彼女はこの場を見逃す代わりにここから引き返してほしい…と言っている。

 艦隊はその提案に回答する…「否」。この先に待つものが何であろうと艦隊は進むしかないのだ。

 

『エエ…マジカヨ。メンドクセーナァ……ハァ、ジャアマァ…ソンナニ女王ト戦イタイナラ、アタシガココニ来ルヨウニ言ットクカラサァ?』

 

 何と、防空巡棲姫は南方海域の女王を引き合いに出してきた。

 話によると彼女はこの海域で警備を担当していたらしく、命令で来たはいいものの、自分としては艦隊決戦など冗談ではない、なのでどうにかして衝突を避けられたら、こちらとしても万々歳だ…と言う。

 

「女王に会わせる? …んー? どう思う先生?」

『いえ、罠の可能性もあります。取引にしてはあまり具体性がありませんし』

「ほうか? オレは信じてもえい思うがやけんど。向こうから言うて来ゆうし」

 

 指揮権を担うトップ2の意見が分かれる。二人の会話を聞いていたのか、防空巡棲姫は言葉を付け加える。

 

『イヤ…正直アタシモ参ッテルンダヨネ。ココハ意外トイイトコダケド、アンタラガ荒ラシ回ルカラアタシラモ迎撃シナイトダシ。…戦ッテモ負ケル気ハナイケド、オ互イ無駄ナ"イザコザ"ヲ引キズッテモ仕方ネーダロ? …取引、ッテヤツダ。ナァ?』

 

 彼女の意図として読めるものは「自分が矢面に立つ」ことを避けている印象だった。

 それでもまさか話し合いで済ませようとするとは…ここまで覚悟を抱いて進んで来た艦隊からしてみれば、呆気に取られた思いだ。

 

『アンタラガアタシノ話ヲ受ケ入レルッテンナラ、アタシガ女王ニ言ットイテヤル。面倒クサイケド、戦ウノハモット面倒ダシ…ナ? 悪イ条件ジャナイダロ?』

 

 穏便に済ませようと言いくるめる防空巡棲姫。大半の姫クラスは怒りや憎しみの激情に駆られ、平和への思いを否定するが…彼女はどちらかと言えば、くうさんやしゅうちゃんのように理性的に事を済ませようとするタイプのようだ。

 徳田も彼女の──他の姫とは違う──人間味と言うか、穏やかな雰囲気を感じ取っていた。…嘘は言っていない、そういう感情は理解していた。

 よもや瘴気が漂うこの鉄底海峡で、話し合いという選択を持ちかける姫が居るとは…それだけで珍しいものだった。

 艦隊は徐々にじょじょに融和ムードに包まれていく…戦わないで済むなら、こちらも願ったりだった。

 

 …「彼女」を除いて。

 

 

 ──ズドォンッ!!

 

 

「…ッ!?」

 

 緩やかになりつつあった雰囲気が、一つの砲音で強制的に引き締められていく。

 

「──何それ、そんなのワタシ聞いてない」

 

 真顔で非情を言い放つ第二艦隊の"夕立"、いつもの天真爛漫は何処へやら、眼を見開き相手を睨む眼光は、常軌を逸したものだ。

 

「ゆ、夕立ちゃん…?」

「せっかくまた戦えるって楽しみにしてたのに…これで終わりなんて、それこそ"冗談じゃない"」

 

 ニヤリと嗤う夕立、狂気を孕んだ表情を見て、防空巡棲姫は身を固くした。

 

『…ナ、ナンダヨ……オ前…ナンナンダヨ………ッ!』

「ねぇ…戦ってよ……"あの時みたいに"さ。暗闇の中に浮かぶ炎、爆ぜる船、恐怖と絶望に抗うように進んで行くの。…フフッ、最ッ高でしょぉう?」

 

 恍惚とした表情に、彼女が正気ではないと嫌でも理解させられる。

 

『…っ、不味い…矢張りこうなったか』

「と、徳田…夕立は…!?」

『ええ、もうお気づきでしょうが…彼女は今正気ではない、この海域の瘴気に「完全に呑まれてしまっている」…!』

 

 徳田の言葉に、戦慄する執務室。

 

「またなの!? あぁもう何で白露型はこう…っ!」

「瑞鶴、アンタも人のこと言えんやろ?」

「ゔっ、そうなんだけどさ…こういうの…対策のしようがないっていうか…;」

『えぇ、霧島さんの時は直ぐに正気に戻ったと報告があったので安心していましたが…やれやれ、まさか最初から「気が触れていた」とは…!』

 

 夕立は普段からも時たまに見せる狂気の表情には、戦闘をココロから楽しんでいる様子が見て取れた。

 しかし今まで問題らしいことは起こさなかったので、誰も気にしていなかった。…ここに来て彼女のこの海域に懸ける強い思いが、その強さ故に暴走したことは、誰が見ても明らかだった。

 

「どうするがよ徳田、このままやりよったら…」

『…仕方ありません、一旦引き返しましょう。欠片でも理性のある内に……っ!?』

 

 徳田が一時撤退を思案していると、艦隊に動きが。

 

「戦ってよ…戦って…よっ!!」

 

 夕立が突如艦隊を離れ、一人防空巡棲姫の元へ駆ける。

 

「っなぁ!? お、おい戻ってこい夕立! いらんことせんでえいき、夕立ぃ!!」

「駄目…完全に正気を失ってる…夕立ちゃん!」

 

 提督と吹雪の声も虚しく、夕立は猪突猛進といった具合に敵旗艦目掛けて一直線。交戦は避けられない状態だった。

 

『と、徳田さん…どうしましょう…;』

『谷部さん、もう何を言っても始まりません。今はただ…夕立さんたちを信じるより他ありません』

 

 何も出来ない自分たちに歯がゆい思いを抱きながら、提督たちは艦隊決戦の行方を見守るのだった…。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──敵艦発見、攻撃開始!

 

『…ッ、来ンナ…来ンナヨ!!』

 

 慄く防空巡棲姫、たまらず深海群を招集し連合艦隊を展開。

 第一艦隊は旗艦防空巡棲姫、戦艦級一隻、重巡級二隻、軽巡級駆逐級共に一隻ずつ。第二艦隊は軽巡級一隻、駆逐級四隻、PT小鬼群一組。

 

「本っ当によりどりみどり…ね!」

 

 夕立、片手に構えた二連装砲を敵に向けて放つ、敵駆逐艦の黒肌に豪炎が舞い上がる。

 

『■■■■■---ッ!!!』

 

 敵の砲撃、駆逐級の弾幕に夕立は…()()()()()()()()()

 

「あっはははは!」

 

 砲撃が当たろうが当たらまいがお構いなし、夕立は反撃にと砲を撃ち続けた…。

 

『■■■■■---ッ!!?』

 

 遂に狂犬の牙に砕かれた敵駆逐艦。

 

 ──”一隻撃沈”。

 

 …次の獲物は? 楽しそうにと舌なめずりする夕立。

 

『キャキャキャーーーッ!!!』

 

 小鬼たちも雷撃で夕立を狙う…しかし縦横無尽に動く夕立に隙は無い、海面に見えた魚雷を…勢いよく"跳躍"して回避する。

 

「お返しいくよっ!」

 

 跳躍ざまに手にした自前の魚雷を投げつける、一直線に飛び込み、そのまま爆発する魚雷。

 

 ──”小鬼群、轟沈”。

 

『イキャアアアアーーーッ!?』

 

「もう一つ!」

 

 迫りくる敵の対空弾幕を空中で華麗に避けながら、夕立は的確な砲撃で敵駆逐艦に致命傷を与えていく。

 

『■■■■■---ッ!!?』

 

 ──”敵駆逐艦二隻、轟沈”。

 

『…ックソ、何ダヨアイツ…艦娘ハ平和ノ為ニ戦ウトカ嘘ッパチカヨ!?』

 

 毒付きながらも夕立から決して目を離さない防空巡棲姫。…いや、正しくは「どうしても目が釘付けになってしまう」。蛇に睨まれた蛙のように、恐怖で体が震えて仕方がない。

 

「吉川艦長、見ててね…夕立の晴れ舞台!」

 

 海面に着水すると、夕立はまたも猛進する。砲を構え勇猛…否、蛮勇を振るうその姿は、獲物を残さず狩りつくさんとする狂犬だった。

 弾幕を物ともせず、夕立は大胆かつ的確な射撃で敵の胴体に次々と風穴を開けていく。

 

 

 

 ── ”敵第二旗艦軽巡、同敵駆逐艦、轟沈”。

 

 

 

 ──敵第二艦隊、陥落

 

 

 

「…次はだあれ?」

 

 凶々しい顔つきで敵を見据える夕立、第一艦隊の砲撃弾幕が彼女に襲いくる…そして。

 

「…ゔっ!?」

 

 油断したのか、一発の砲弾が夕立を捉える。盛大に爆破したが──中破──に留まり致命傷は避けられた模様。

 

「…あはっ」

 

 牙を剥き出し、上機嫌に満面の笑みを浮かべる。痛みなど介していないように、寧ろ痛みを楽しむかの如き悪魔のような嗤い…。

 

『ナ…"Nightmare"…ッ!』

 

 防空巡棲姫は意図せずその言葉を口にした。…その脳裏には、あの夜に起きた惨劇が蘇る…。

 

 怖恐れる防空巡棲姫とは対照的に、夕立は喜悦の絶頂のような表情を見せる。ココロ震え、喜びの涙さえ流した…ここが、これこそが自分の「居場所(いくさば)」だと錯覚する。

 

「まだまだ…こんなのじゃ足りないわ。もっともっと…最高に素敵なパーティーしましょう!

 

 夕立は更に単独行動を敢行、旗艦の防空巡棲姫目掛けてひた走る。

 

「ま、不味い!?」

「夕立ちゃんっ!」

 

 執務室で絶叫が上がる、幾ら夕立であろうと第一の重巡、戦艦を相手にするのは無茶だ。

 

「…大丈夫や」

 

 ぽつり、とそう零したのは加賀。執務室の面々はその言葉を聞き逃さず、加賀に怪訝の目を向けた。

 

「何を言ゆうがよ加賀! あのままやったら夕立は…!」

「そういうことやない。…見てみぃウチらの第二の面子を、誰か足りんことないかえ?」

 

 加賀が指摘した通り、現在の自軍の第二艦隊は「四隻」。夕立が抜けたのを考慮しても「少な過ぎた」。

 

「成る程…あの娘も薄々分かっちょったみたいやね、夕立が悪させんように…今まで見張りよったがよ」

 

 まさか…提督始め執務室メンバーが何ごとを察知すると、戦場にも変化が。

 

 ──ズドオォン!!

 

 突如、夕立の前に立てられた水柱。敵を猛追していた夕立も流石に立ち止まる。

 

「…ッ!?」

 

 眼を爛々と輝かせながら、夕立は辺りを見回した…私の狩りの邪魔をしたのは誰だ? そう激昂したような激情を煮え滾らせながら…。

 

「──夕立ちゃん、めっ!!」

 

 声の方へ振り向く、するとそこには見知った顔が…綾波だ。

 

 夕立は最早艦隊から遠く離れた位置にいたが、どうやら綾波は夕立と併走し遠方から様子を伺っていたようだ。

 

「……綾波ちゃん、邪魔しないでよ。ワタシは闘いたいの、あの時みたいに…この衝動を抑えたくないの、分かるでしょ?」

 

 夕立は眼が定まらないようだが、それでも綾波に向けて淀んだ瞳を見せる。綾波は…それを真っ直ぐに受け止めて、それでも夕立から目を離さなかった。

 

「…駄目だよ夕立ちゃん、それはきっと誰も望んでいないよ」

 

 至極平静に綾波は夕立を正気に戻すため呼びかける、ここに艦隊戦は一時の間"舌戦"に変わる。

 

「望んでいない? 違う、それは違うよ綾波ちゃん。だって…吉川艦長はいつだって戦いを求めていた、あの日だって…敵を撃滅して誰もが喜んだんだ」

「違うんだよ夕立ちゃん、あれはね…戦場の矢面に立つ人たちが、自分の御役目を全う出来たことが、嬉しかったんだよ。祖国のために命を懸けて守ることが出来たのが…嬉しかったんだよ」

「…そんな甘い理想、戦いには要らないよ。夕立は今度こそ敵を殲滅して…吉川艦長に喜んで貰うんだ」

「何で敵を殲滅するの? 本当に…それで吉川さんは喜ぶかな?」

「うん…きっと褒めてくれるよ、だって…吉川艦長は…夕立の…」

「私、やっぱり違うと思う。だって…吉川さんは夕立ちゃんが沈んですごく悲しかったって聞いたよ? 貴女が傷つくようなことを、彼が喜ぶとは思えない」

「っ! それは…」

「夕立ちゃん。あの時も今も、ヒトが変わらず持っている気持ちがあるんだよ? …誰かを「守りたい」って気持ち。それをヒトゴロシの理由にしちゃ駄目だよ、そんなこと…吉川さんも望んでいない」

「……でも…そんな……の…」

「夕立ちゃん、私たちが本当にしなくちゃいけないことは何? あの時の私たちは悪魔だって言う人たちもいるけど…きっとそうじゃないんだ、私たちがそれを証明しなくちゃ。だから…吉川さんを悪者にするようなこと、しないで欲しいな?」

 

 綾波のココロからの願いは、今も昔も変わらない。彼女はただ…大切な人たちを「守りたい」だけ。

 

「…………ッ!」

 

 ハッと何かに気づいた表情になり、棒立ちになる夕立…すると、彼女の鋭い雰囲気が徐々に柔らかくなっていく。

 

「……あれ、綾波ちゃん? 夕立…なんかしちゃったっぽい?」

 

 どうやら説得が効いたのか、夕立は正気を取り戻したようだ。彼女のいつもの調子に安堵する綾波…と泊地メンバー。

 

「何でもないよ、夕立ちゃん。…さぁ、もう帰ろう?」

「う、うん…?」

 

 綾波と夕立は、揃って一旦自艦隊の元へと向かう…だが。

 

『………ッ、フ…ヘヘヘ…何ダヨソレ……ナンナンダヨッ!!

 

 叫ぶ防空巡棲姫、同時に夕立綾波に対して砲撃を行う。

 幸い二人はそれに気づく、振り向きながら敵の砲撃を避ける。

 

「っぽい!?」

「っ!」

『フッザケンナヨ…コッチガ下手ニ出タッテノニ、アンナ… アンタタチ……ッ、アタシ…オコラセタ…ンダネェ……オコラセタンダ…ネェッ! コッカラ…カエサナイッ…カラァ!』

 

 怒り心頭に発した防空巡棲姫、ともあれ戦因はこちらにあるので逃げる事は出来ない。

 夕立と綾波は、既に決めた「罪と向き合う覚悟」を、沈みゆく夕日を背に改めて引き締めるのだった…。

 

「お姉様、夕立ちゃんたちが!」

「…私たちは随伴艦の処理に徹しましょう。あの娘の相手は…夕立ちゃんが適任だよ」

「うむ、そういうことなら…各艦、ユーダチとアヤナミを援護するぞ!」

 

 ネルソン率いる第一艦隊は、夕立たちの舞台を整えるために人知れず動くのだった…。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──我、夜戦ニ突入ス!

 

『"Nightmare"ッ、アンタハ…アンタダケハァッ!!』

 

 夜…宵闇に包まれた黒の空間、空と海の境界線は定まらず、灯(ひかり)がなければ相手が、自分すら何処に居るか分からない。

 奥の見えない暗闇、静かな波の音すら恐怖をより一層引き立てた。

 

 その闇にぼやけた光が一つ浮かぶ。

 

 防空巡棲姫…左手に携えた深海艤装から光を発し探照灯代わりにしている。朧気な姿と怨嗟の声が、彼女を悪霊たらしめんとしていた。

 

「あ、綾波ちゃん…;」

「夕立ちゃん…貴女は覚えてないかもしれないけど、彼女は…貴女のせいで傷ついたの」

「…っ!?」

「だから…一緒に謝りに行こう? 悪いことしたら「ごめんなさい」が一番だよ?」

「………うん、夕立…あの娘に悪いことしたなら、謝りたい!」

 

 過去の罪、そして…自分自身の過ちに決着をつけるため、夕立と綾波は闇の奥へ挑む。

 

「…よし、行こう夕立ちゃん!」

「うんっ!!」

 

 二人で並んで突撃態勢、片やソロモンの悪夢、片や鬼神と恐れられた二隻の駆逐艦。正に「夢の共演(パーティー)」…二人は今、暗闇の狂宴へと赴く。

 

『ヴォラァッ!!』

 

 右手の深海砲から凶弾を射出する防空巡棲姫、暗がりで砲弾の軌道が中々読めないが何とか避ける二人。そのまま防空巡棲姫に接近する。

 

「ぽいっ!」

 

 夕立が二連装砲で威嚇射撃、夕立の姿を認めると親の仇と言わんばかりに憤慨しながら突進してくる敵旗艦。

 

『ア”ア”ア”ア”アァーーーーッ!!!』

 

 狙われる夕立…であったが、そんな彼女たち二人の間に割って入る綾波。

 

「夕立ちゃんは、綾波が守ります…!」

 

 至近距離での砲撃、照準もしっかり捉えた綾波であったが…防空巡棲姫の頬をぎりぎり掠める弾丸は、遠くの海面に着弾し水柱を立てる。

 

『ウガア”ァ”ア”ア”アアアーーッ!!!』

 

 右の深海砲から迫撃する防空巡棲姫、二人もそれを瞬時に反応し何とか避ける。

 

「…っ」

「ぽい…っ」

 

『ア”ア”ア…抑エラレナイ…怒リガ…憎シミガ……勝手ニ……ッ、ガア”ア”ァッ!!』

 

 先程の穏やかな表情から一転し、鬼の形相で狂ったように猛る防空巡棲姫。怒りの種火が焚かれ、それを海域の瘴気が「焼べられた薪」の役目を果たし、煌々と燃え上がる憎しみの炎となったのだ。

 

 暴走する防空巡棲姫、そしてそれを冷静に見つめる夕立と綾波。二人も下手を打てばああなると内心不安に駆られる。

 

 …こうして対峙しているだけで嫌でも「あの夜」を思い出す。…恨みの声が木霊する、あの夜が。

 

 

 

     クライ

 

  ダアレ

 

   アナタ

 

       ミカタ…?

 

 

   ワ ス レ

 

 

        ク チ テ

 

 

 

 テ キ イ 

 

 

 

 

    テ  キ  …ッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キ   エ   ロ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『消エロォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ”オ”オ”ッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ごめんなさい!」

 

 狂気渦巻く戦いの庭に似つかわしくない言葉に、獣と化した姫はその動きを止める。

 

「夕立、貴女を傷つけちゃったっぽい…よね? こんなこと言ってお詫びになるとは思わないけど…」

 

 怒髪天を突く防空巡棲姫を見て、夕立は頭を下げて謝り出す。殊勝な態度の夕立だが、防空巡棲姫は大きく目を剥いて睨みつける。

 

『グウウゥゥ……ッ!!』

「夕立、ここが自分の沈んだ場所って、吉川艦長たちと一緒に戦った海だって思ったら…暴走…しちゃったみたい。貴女に…怖い思いをさせちゃったなら…本当にごめんなさい」

『…ギイィッ!!』

「私は…貴女がどうしたら元に戻るか…分からないけど…でも…でも…っ、もし貴女と全力でぶつかって…それで貴女の気持ちを晴らせるなら…夕立には…これしか思いつかないっぽい!」

 

 獣のように唸る防空巡棲姫、怒りに呑まれた彼女を救うため、夕立は今度こそ「戦う」…仲間のため、この海を…”守る”ために。

 

『ガアアアアアアアアアッ!!!』

 

 獣の咆哮、再び距離を取る夕立と綾波。

 

 出鱈目に深海砲を乱射する防空巡棲姫、そこかしこに水柱が建てられる…。

 

 柱を掻き分け進む二人、静かな海は…再び砲音轟く戦場と化した。

 

「やあーーーーーっ!」

「ぽおおおおおい!!」

 

 負けじと応戦する夕立と綾波、綾波が探照灯を照らし、水柱の少しの隙間から標的を狙い澄ます、そして針の穴に糸を通すように正確に砲撃を放つ。

 

『(ボガァン!)グッ!? …ハッハッハ、イインジャナァイ!』

 

 直撃を受けたにも関わらずニヤリと笑う防空巡棲姫、すかさずお返しにと砲撃を浴びせる…目標は”綾波”。

 

「(ズドォンッ!)きゃあ~~っ!?」

「綾波ちゃんっ!?」

 

 綾波は──中破──となり、これで二人とも戦闘能力が大幅に下がってしまう…。

 

『沈メェ…シズメシズメシズメシズメシズメシズメシズメシズメェエエエエエッ!!!』

 

 防空巡棲姫、この機を逃さないと深海砲を向ける…万事休すか?

 

「夕立ちゃん!」

「うんっ!」

 

 綾波もまた砲を構える…向かい合う両者から放たれたクロスファイア…しかし、防空巡棲姫は見逃さない。

 

「ぽおおおいっ!」

『…ッ!?』

 

 夕立が砲撃の瞬間、こちらに全速力で駆けてくる所を…。

 もし、綾波の砲撃を避けるものなら、夕立がこちらへ向かうことは変わらない、避ける瞬間を狙っていることは明白なので余計な動作は出来ない、かといって夕立に気を取られ過ぎれば砲撃の着弾も時間の問題…一瞬の判断が問われていた。

 

『…ソンナノ…アタシッ…ツマンナイ!』

 

 狂気に駆られた防空巡棲姫は、綾波の砲撃を…敢えて「受けた」。

 

 

 ──中破──

 

 

『ウガア”ア”ア”アアアアアアアアアアッ!!!』

 

「突撃…っぽおおおおおおおおおおおいっ!!!」

 

 砲火の爆炎に包まれた亡霊、そしてそれを迎え撃つ兵(つわもの)。

 

 意地と意地のぶつかり合い、獣と獣の死闘…その顛末とは?

 

『オ"オォッ!』

 

 炸裂する凶弾、立ち昇る水柱…そして。

 

『…ッ!?』

 

 その腹中には…砲塔の冷たい感触。

 

「…私の…”勝ち”……っぽい?」

 

『…フ、コンナ時グライ…”ぽい”トカ言ウナヨ……ッ』

 

 最高に皮肉が込められたその言葉は、夕立の勝利を湛えているように聞こえた。

 

 

 

 ──ズドォンッ!!

 

 

 

 

 ──To be continued…

 




○宿毛泊地ショート劇場

吹雪「終わった…?」

提督「もうちょっとだけ続くんじゃよ」

「(ミウスケ)それちょっとじゃないやつ〜」
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