──ボスマス到達…敵深海群、発見。
新型戦艦
南方戦艦新棲姫
『蚊トンボ墜トス……殴リ合ヒ……痛イ…暗イ……眩シィ…眩シィヨオォ! ハッ……アハハハハッ!』
──ソロモン海域に現れた新たな脅威を排除すべく、再びソロモンに足を踏み入れた艦隊。
またあの時のように瘴気による「艦娘の暴走」を孕んではいるものの、眼前の脅威を放置しておくわけにもいかない。なので…今回は──付け焼刃かもしれないが──運営鎮守府より「ある方法」を授かっている。
『──まだ解析途中だけど…あの海域には過去の怨霊による「霊障」が発生しているみたいなの。まぁ要するに、恨み辛みがそのまま艦娘に取り憑いて「人が変わったみたいになる」のね? 恐らくこの霊障は艦娘特有のモノ…その中でも「ソロモン海域で活躍した艦」が主な対象になるようね』
『我々もその分野で、そこまで専門的知識があるとは言えないので、何とも言えませんが…とにかく「自身のココロを強く保つ」ことを念頭において下さい、それだけで大分違うはずですから』
つまり、過去の恐れの克服や今の自分の認知、この海域を制覇するには「強い自我」を持つ必要がある…ということ。
この前の暴走も、考えてみれば過去に対し悔恨のあった霧島や夕立のみがそれに侵されていた。心を確りと保つとは、精神論でも何でもない…艦娘たちにとってそれは「生き残るための唯一の鍵」なのだ。
…第二艦隊、綾波がちらりと件の二人を見つめた。
二人はまだ顔が強張っているものの、前回の時よりは理性があるように思えた。…内心胸を撫でおろす綾波であったが、そうも言ってられない。
地獄の海域に現れた新たな深海の姫──南方戦艦新棲姫。
黒いメッシュの入った白髪の長髪。特徴的なのは白と黒の「星」の意匠を凝らしたアクセサリーを、髪飾りやワンピースの左右裾、アームカバーの手の甲…と、身体の至る所に着けていること。
十字型の細身の杖を持ち、漆黒の額当てと口元を覆うマスクを着用している。…強者を思わせる風貌だが、それ以上に異質なのが──
『──Gyrrrrrrrru……ッ!』
本体が鎮座する深海艤装──蟹かロブスターのような、一対の鋏と四対八足の化け物──であろう、蟹の化け物には、左右の巨大な鋏の上に白いX字を描いた三連装砲塔が、一基ずつ装着されている。
「あれが…南方戦艦新棲姫…っ、アイツが…!」
『…霧島?』
霧島の怒りに気づいたのか、比叡が通信越しに制止した。八ッとした様子の霧島は…ゆっくりと深呼吸をすると、不敵な笑いを浮かべながら「仇敵」と向かい合った。
「…来てあげましたよ? 貴女…私とまた戦いたいの?」
『…何デ、電気ガ無クナルンダヨ。何デ…何デ、何デ何デ何デ何デ何デッ!! …ソンナコト言ウナヨ、オ前モ…ァアアアアアアア!!!』
『Gyrrrrrrrruッ!!』
霧島の問いかけには答えず、南方戦艦新棲姫は苦悶に満ちた表情で雄たけびを上げた…後悔、裏切られたココロ、小さな負の感情の積み重なり…それらがぐちゃぐちゃに混ぜ合わさったような憤慨を、天に向かって吼えた。
「…ふぅ、仕方ないですね。…少し痛いですよ?」
霧島は艤装を構えると、砲塔から一発の弾丸を、爆炎を上げながら射出する。
『Gyrrrrrrrruッ!!』
それを見た南方戦艦新棲姫の深海艤装は、鋏に取り付けられた砲塔で迎え撃つ。
──ドゴォオン!!
「…っ!」
『Gyrrrrrrrruッ!?』
相撃ち…両者とも小破止まりだが、その衝撃に流石の南方戦艦新棲姫も目を向ける。霧島もその目線を合わせると…互いの眼と顔が合った。
『──…キ、リ……シ、マ………?』
「…!?」
ぼそりと、一言ずつではあるが…彼女は確かに霧島を「認識」し、理性ある言葉でそれを表したのだ。
「…そうですよ、全く…貴女が呼び寄せたんでしょうに、お客人を持て成すことも出来ないんですか?」
悪態を吐く霧島だが、その様子を映像として見ていた提督たちは驚いていた。これまで…複合型でこちらを完全に認識していたモノなど居なかったからだ。
「それだけあいちゃあにとって、この海域で戦った霧島が「特別」っちゅうことか…」
提督はある程度の推測出来ることを口にした。そんな彼らのことをおいて、向き合うかつての仇敵たちは、己の心情を語る。
「…えぇ、そうですよ。確かに私は貴女と戦い、そして負けました。願わくば…この再戦をもって過去の雪辱を果たしたい、そんな邪な思いもあります。…ですが、それだけじゃない。私はこれからの「未来」のため、この拳で…道行く先にある障害を砕き、進みたいと思います。その相手が…偶々貴女だったとしても、それは変わりません」
『………』
「…とはいえ、話し合いに越したことはありませんが。その様子だと完全に理性を取り戻しつつあるようですし…貴女も、そんなところでいつまでも殻に閉じこもってないで、早くこっちに来て下さい。貴女をココロから心配しているモノも居ます、だから──」
『──イヤ、ダ…!』
「…っ!」
南方戦艦新棲姫が口にした次の言葉は──”否定”であった。
『私ハ…誇リ高キ「Battle Ship」…オ前トノ戦イノ後モ、私ハ様々ナ戦地ヲ転々ト飛ビ回リ、役目ヲ果タシタ。ダガ…オ前トノ戦イヲ、忘レタ試シハ…ナイッ!』
「貴女…」
『アノ時ノオ前ノ魂ノ叫ビ…届イテイタ、私ニモ聞コエタ。…震エタサ、ココロノ底カラノ…「恐怖」ダッタ。アレガ…私ノ「不運」ダッタトシテモ、オ前ニハ…”戦イニ勝ッテ、勝負ニ負ケテイタ”。ソレガ…悔シイ…! アノ「負ケ」ガ無ケレバ…私ガ罵倒サレルコトモナカッタ、私ニトッテノ唯一ノ「汚点」…ソノ汚名ヲ雪ギタイ…オ前ト…再ビ…戦ウコトデ…ッ!』
彼女自身のエゴも入った、何とも手前勝手な物言いだが… 南方戦艦新棲姫は憎しみを湛えた眼で霧島に敵意を向けている…最早彼女は霧島にしか眼中にないのは明白であった。霧島はその言葉を受けて──
「──汚名を雪ぐ? …ッフ、フフフ…そう、じゃあもう「取り繕う必要」はないですねぇ?」
──敢えて、狂気に歪んだ笑みを浮かべた。
「霧島さん!」
「綾波ちゃん…皆…もし私が「私」じゃなくなったら…その時は全力で止めて下さい。彼女は…全力の「私」との戦いを望んでいる、助けるのなら…彼女と全力でぶつかるしかない…っ!」
「…っ」
そう、今回は…今回ばかりは霧島の言い分に一理あった。
南方戦艦新棲姫が望むものは「戦い」と「決着」。口だけの「仲直り」ではない…魂のぶつかり合いの果ての「和解」こそ彼女の望むことなのだ。
──ならば、それに応えなくてはならない。
「…来な、お前の相手は……私だ!」
『…ッ、何デ…何デ恐レナインダ? オ前ハ…オ前ハァアアアアア!!』
鬼の形相で敵を睨み射貫く霧島に、恐れを抱きつつもそれに全力で抗戦する南方戦艦新棲姫。
──今、決着の時…。
──敵艦発見、攻撃開始!
霧島と南方戦艦新棲姫、彼女たちの戦いの邪魔はさせない…そう言わんばかりに、戦艦棲姫含む敵連合艦隊が行手を阻んだ。
ネルソン率いる敵主力迎撃艦隊は、基地航空隊と共に敵艦隊の殲滅を敢行した。
「逃さんぞ…Shoot!」
ネルソンタッチ…比叡と筑摩と共に放つ、三位一体、必殺の三撃。敵連合第一に致命的なダメージを与えていく。
──ドゴオォン!!
『◼️ ◼️ ◼️ ◼️ ◼️ーーーッ!?』
当たれば轟沈必死…彼女たちの強力な連携砲撃と、基地航空隊の殲滅爆撃により敵随伴艦の数は減りにへっていき…気づけば残りは第一艦隊の戦艦棲姫と重巡ネ級であった。
「良し。各艦に通達、第一艦隊はこれより残りの敵随伴艦を相手する、第二艦隊は総力を挙げて敵旗艦を「倒すべし」…以上だ!」
ネルソンはそう通信越しに艦隊に伝えると、比叡に目配せする。
「…大丈夫、きっと…霧島なら…!」
最愛の妹の無事を祈りつつ、比叡はネルソンに頷き返し…眼前の敵を見据えた。
「…よぉーしっ! 気合……いれて………っ、行きますっ!!」
・・・・・
比叡たちが戦艦棲姫を相手取っている中、霧島と南方戦艦新棲姫は──
「オラァ!!」
『ヴォ"オ"オオオーーッ!』
砲撃による「殴り合い」を始めていた。海域を所狭しと乱れ飛ぶ砲弾、耳を劈く轟音が響き続け、爆炎は蒼海を彩る紅い花と化し、咲き乱れる…!
──ズドォォオン!!
「…っ!」
『…グアァ!?』
互いの砲撃が交差し、着弾。
霧島「中破」…対する南方戦艦新棲姫は…これも「中破」。
南方戦艦新棲姫の額当てとマスクが消し飛び、美しい顔立ちが露わになった。…しかしマスクの裏の表情は醜い「怒り」で煮え滾っていた。
「…どうした? そんなものなのか、お前の…実力はよぉ!!」
『巫山戯ロ…コンナノ、全ッ然…応エナイナアァッ!!』
『Gyrrrrrrrruッ!!』
双方とも疲労の色が出る意地の張り合い。その最中──南方戦艦新棲姫は、深海艤装による不意打ち砲撃を食らわせようとする。
「──させないっぽい!」
一瞬の動作で相手の行動を先読みした夕立、爆炎に乗せた砲撃により敵の攻撃を阻害する。
『Gyrrrrrrrru…ッ!』
怒りを買ったか、南方戦艦新棲姫の深海艤装は、彼女を乗せたまま艦隊目掛けて突進し始める…八足が高速かつ器用に動いて猛然と近づいてくる…!
「足を狙って!」
「わかったわ、こうげきするからね!」
綾波と暁は、敵の深海艤装を止めるべく脚に目標を定め、砲撃…鉄火の弾丸は確実に敵の脚に命中、衝撃によりバランスの崩れる南方戦艦新棲姫。
『グッ…舐メルナ!!』
行動を制限されたが、十分な距離を詰めた南方戦艦新棲姫は、体勢を立て直すと深海艤装より「近距離砲撃」を放つ。
「…っ!」
「危ない! ハァッ!!」
霧島は標的となった綾波の前に立つと、敵の凶弾を…腰を深く落とした「正拳突き」で打ち落とす。爆火が溢れるその腕は、仲間を守らんという意志で「燃えていた」。
「霧島さん、ありがとうございます!」
「お礼は良いわよ、それより…また来るわよ、気を付けて!」
「はいっ!」
「ぽいっ!」
「わかってるわ!」
霧島の言葉は、この場のダレものココロを鼓舞し、艦隊の士気向上に繋がった。…恐れるものなど何もない、今の彼女は…「仲間」と共に在るのだから。
『……ンデ』
その様子を遠くから見ていた南方戦艦新棲姫は、恨めしそうに顔を歪め…霧島に向けて呪詛を呟いた。
『オ前ハ悪ナンダ…正義ハ私タチニアル…アッタハズナンダ。ナノニ…ドウシテ? ドウシテオ前ノ周リニ仲間ガ居テ、私ニハ…誰モ、居ナイ…ッ?』
「…何故だと思う?」
霧島は南方戦艦新棲姫に面と向き合うと、彼女の信念を語る。
「正義に「正解なんてない」わ、ある時は己のエゴイズムを正当化するために、ある時は大切なモノを守るための勇気の礎として、互いの正義のズレや間違い、それを認めず他者とぶつかり合うなんて…よくあることよ。極論だけどその延長線上に「戦争」が存在するのだから」
『…ドウイウコトダ?』
「解らない? 貴女が一人ぼっちなのは「下らないプライド」に縋り付いているから。正義だとかそんなの関係ない、私は…命に代えてもかけがえのない仲間を「守りたい」。きっと…この娘たちも同じ気持ち、一つの感情を分かち合えるから…私は一人じゃないの」
『…ッ! ソンナノ…ソンナモノ……ッ、ソレコソ関係ナイ!!
…矢張り複合型である以上、彼女の中の「疑念」が狂気となりココロを蝕んでいることは、彼女の「ちぐはぐな言動」を聞けば明らかであった。
「…全く、呆れたクソッタレですね、貴女?」
『…!?』
霧島は彼女の迷いを一蹴すると、整然と言葉を並べながら彼女を「答え」に導こうとする。
「良いですか? 貴女は「アナタ」です、周りのクソヤロー共の意見に流されないで下さい。…本当に「彼女」が、貴女を見捨てたと思いですか? 貴女自身は…どう思っているんですか」
霧島の言葉にハッとする南方戦艦新棲姫…だが。
『…解ラナイ、ソンナノ…解ルワケナイ。私ハ……誰ヲ信ジレバ良イ? 私ハ……ドウスレバ…?』
「…っはぁ、全く…こんなのに負けたんですか私。ちょっとショックです」
霧島は疑念に塗れた彼女を見据え、臨戦態勢を取ると高らかに回答を叩きつけた。
「答えは「戦いの中」にしかない、なら…その疑念ごとぶつかって来なさい。私たちが…全力で受け止めます!!」
『…ッ、ク…クソ……何デ…何デナンダヨオオオオオォ!!!』
そうして、二隻(ふたり)の明暗を分ける「信念」がぶつかり合う…地獄の暗闇の中、光を掴むのは…ダレか?
「──来いやぁあああ!!」
『──ヴゥア”ア”ア”-----ッ!!!』
・・・・・
──我、夜戦ニ突入ス!
不気味な静けさに包まれた、漆黒の空間。足下の海からは波の音が聞こえる…しかし、そんな静寂を破る獣の咆哮が木霊した。
『ガア"ア"アアアァーーーッ!!』
『Gyrrrrrrrruッ!!』
南方戦艦新棲姫が怒りを叫ぶと、深海艤装は彼女に応えるように砲撃を放つ。それは…誰を狙う訳でもない、周辺を手当たり次第砲撃を乱射する──彼女の溜まり切ったドロドロの感情が噴出するような──泣き喚く子供のように、彼女は己の疑念を込めて慟哭していた。
「大人しくするっぽい!」
「やあぁ!」
先ずは夕立と暁、敵の砲撃の嵐を潜り抜けて、二隻(ふたり)がかりの一斉砲撃を深海艤装に撃ち尽くす。
──ドゴォオン!
『Gyrrrrrrrru…ッ!?』
『…ッ』
「…!?」
──だが、南方戦艦新棲姫が展開したのは「深海障壁」。自身の周りを中心に現れた透明のバリアーは、彼女の前世での「頑強さ」を表すように強固なものだった。
『邪魔ダアァーーーッ!!』
『Gyrrrrrrrruッ!!』
──ズドオォォオン!!
たった一発放った彼女の砲撃は強力かつ広範囲、そして的確な狙撃であった、その実巨大な爆風が夕立と暁を襲い、彼女たちを「中破」に追い込んだ。
「っぽい…!?」
「うぎゅ…やられたわ……っ」
流石にかつての連合の主力戦艦といったところ、中途半端な攻めではびくともしない。この地獄の海域において──彼女は冥獄の番人と化していた。
『鉄ノ底ニ、燃エテ…沈メエエェーーーッ!!』
「…っ!?」
「──やらせるかよ!!」
仲間の窮地に、霧島は宵闇を颯爽と駆け抜ける。
敵に向けて砲撃で牽制、乱れ建つ水柱の中で南方戦艦新棲姫は──イノチを深海に沈めんとする敵意を霧島に向ける。
『キイィリイィシイィマアァーーーッ!!!』
──ズドォン!!
南方戦艦新棲姫の必殺の砲撃、巨大な水柱と紅炎が闇に聳え立ち、燃え広がる。
「──舐めんじゃ…ねえええええ!!」
炎の壁を突き破り闇夜を突き進む人影── 霧島だ。
腕を交差させながら猛進し、文字通り鬼の形相で南方戦艦新棲姫目掛けて特攻を仕掛ける…!
──ズドォン!
霧島の砲撃、しかし…矢張り南方戦艦新棲姫の深海障壁が阻む、霧島の徹甲弾が何もない空中に一瞬止まったように見えた。
「まだ──終わらせねぇよおおお!!」
だが、南方戦艦新棲姫の距離を零まで詰めた霧島は、驚くことに──腕を振り上げると、一瞬の間に徹甲弾に向けて「拳骨」を勢いよく押し込んだ……!
──ピシッ!
『…ナニッ!?』
「うおおおおおらあああああ!!!」
──パリィン!!
霧島の強引な攻撃は…遂に敵の障壁を突き破り、衝撃は爆発と成り敵を怯ませた。
『…ッグ、ソンナ……馬鹿ナ…!?』
「っ! 隙が出来たっぽい! …綾波ちゃん!!」
「うん! …いっけぇーーーっ!!」
動きの止まった南方戦艦新棲姫、一瞬の間に綾波は「魚雷カットイン」により、敵の急所を突く。
──ボガアァアアン!! グシャアッ!
『──Gyrrrrrrrruッ!!?』
『…キャ!?』
綾波の必殺の一撃により、致命傷を負った深海艤装は…魚雷の爆破に誘爆をもらうと、木っ端微塵に弾け飛んだ。
爆風に巻き込まれた南方戦艦新棲姫は玉座からはたき落とされ、海面に身体を打ち付けた。
『……ッ!』
「──………」
蹲る南方戦艦新棲姫を見下ろすは霧島…その双眸には「殺気」が込められており、動けば「トドメを差される」。…理解出来ていた、しかし……その身体は
『…… Screw you!』
南方戦艦新棲姫は持っていた杖を霧島に投げつける、当然霧島は右腕で叩き落とした──その瞬間。
『オオオォーーーッ!!』
南方戦艦新棲姫は、己の最後の力を振り絞り身体を動かし、右手の握り拳を霧島に向けて振りかぶろうとしていた。
その、戦いが終わる最後まで足掻く姿に霧島は──自身の興奮を抑えられず、人知れず口角が上がった…。
「くたばるのはテメェだ……"SoDak"ーーーッ!!」
『オ前ナンカニ…負ケナイ、負ケテタマルカアァーーーッ!!』
「おオおオおォーーーッ!!!』
血が沸き滾り、筋肉は迸る。
獣の咆哮と同時に、互いに右拳を振り抜き──交差する。
──ドゴァ!!
──クロスカウンター。
二隻(ふたり)の頬には突き立てられた拳が、深々とめり込んでいた。…暫しの沈黙、そして──
『…カ、ハッ…!』
南方戦艦新棲姫、"屈服"…!
盛大な水飛沫を上げて、疑念に憑かれし姫は…海面に伏した。
「……私の、"勝ち"ね?」
荒い息を整えながら、霧島は南方戦艦新棲姫に勝利を宣言した。
『──アァ、完敗ダ』
・・・・・
海面を背にして、霧島の顔を見上げる南方戦艦新棲姫。その顔は…どこか晴れやかだった。
忌まわしい過去の戦い…その大きな区切りに決着がついた──勝者は「霧島」。第二艦隊の面々も、彼女の勝利を喜んだ。
「…やったっぽい? 霧島さんの勝ちっぽい?! ぅわーい! バンザー…むぐっ!?」
「ゆ、夕立ちゃん。今はもうちょっとだけ我慢してね? …二人っきりでお話させてあげよ?」
「そうよそうよ、レディーには「くうきをよむこと」もたいせつなのよ?」
「…? ふぉーい」
口を塞がれながらも夕立は綾波たちの提案を受け入れた。
戦いは終わり、月明かりは二隻(ふたり)の武秀艦を照らし始めた。…過去を乗り越えんとするモノたちの語らい、先に話を振るのは霧島。
「…拳で語ったつもりだけど、どうだった? 貴女が何故仲間に裏切られたのか…理解した?」
『…一ツダケ、解ッタコトガアル。私ハ…裏切ラレテナド居ナカッタ、私ハ…怖カッタンダ、自分ノ負ケヲ、自分ノ非ヲ認メルコトガ。アノ時…アリガトウト言エテイタラ、モット仲間ヲ信ジラレテイタラ…違ッタ結末ニ辿リ着ケタダロウカ?』
「…どういう意味?」
霧島の問いに、南方戦艦新棲姫は身体を起こすと…静かに自身の半生を語り始めた。
『オ前ヲ沈メテカラノ戦イハ、恐怖ト戦ウ毎日ダッタ。戦ウ度…アノ夜ノ戦イヲ思イ出シテ、逃ゲ出シタイ位ダッタ…ドンナニ勝利ヲ重ネテモ、ドンナニ勲章(バトルスター)ヲ貰ッテモ、変ワラナイ…辛カッタ、何デ私ダケコンナ目ニッテ、ダレモ信用出来ナクテ…アノ夜ヲ抜ケタ直後ハ、皆ト一緒ニ"アイツ"ニ当タリ散ラシテ…ソウシテ、孤独ニ戦イ続ケタンダ』
「…っ、ごめんなさい…謝って済む話ではないけど、貴女のココロに…酷い傷を」
霧島もあの夜の悪夢は未だに完全には拭いきれていない、あの暗闇に感じた恐怖を…彼女も感じていた、しかもその恐怖の一因は自分にあると言う。
霧島は彼女に対しココロから謝罪するが、本人は苦笑いして肩を竦めた。…どこか穏やかなその表情は、先程の激情を湛えた顔からは想像出来なかった。
『仕方ナイサ。戦イトハソウイウモノダ、アノ頃ノ私ハ…マダ経験ガ浅カッタカラナ。ソレニ…ソレデモ気ニカケテクレル仲間ハ居タカラナ、私ガ素直ニナレテイレバ良カッタ…ソレダケサ』
「…貴女を心配する仲間は、私たちの所にも居るわ。もし…貴女にその気があるなら、会わせてあげられる」
『…ッ! マタ…皆ニ……?』
南方戦艦新棲姫は表情を明るくして「彼女自身の未来」を喜んだ。…しかし。
『──駄目ダ、マダ行ケナイ』
「っ! どうして…? 貴女が気にすることはもう何もない…彼女たちの元に行きたくないの?」
『ソウジャナイ──ソノ通信機ノ向コウニ、オ前ノ提督ガ居ルンダナ?』
「…お?」
霧島の危惧することを否定すると、ゆっくりと立ち上がり背筋を伸ばし、通信越しに宿毛泊地に呼びかけると、声を張り上げて宣言した。
『霧島ノ提督、皆、私ハ──今日コノ時ヨリ霧島ニ敗北シタ「戦利艦」トシテ、貴艦隊ニ所属スルコトヲ所望シマス。霧島…アノ時ハ済マナカッタ、改メテ…私ヲ貴方タチノ「仲間」ニシテホシイ! オ願イシマス!!』
彼女なりのケジメのつもりか、背筋を伸ばした姿勢から直角に背を曲げ礼の姿勢を取る。深々と下げられた頭からは彼女の「覚悟」が見受けられた。
彼女の覚悟を垣間見た提督と霧島は、満面の笑みを浮かべて応えた。
「…オレはもちろんえいけんど…どうや、霧島?」
「──…そう、そこまで言われたら…私も応えてあげなくちゃ。私の方こそごめんなさい、こちらこそ…宜しくお願いします!!」
霧島も背筋を伸ばすと、そのまま返答しながら礼の姿勢。彼女もまた深々とお辞儀する。──暫く双方とも、そのままの姿勢で動かなかった。
「………」
『………』
「…っふふ」
『ハハ…!』
互いにその状況に込み上げる笑いが我慢出来なくなり、脱力すると──誰ともなく大声を出し、破顔した。
「ふふ…これから、楽しくなりそうね?」
『ソウダナ! …今マデ戦イハ恐ロシイモノダト感ジテイタガ、今日ハ…"楽シカッタ"! マタ戦(ヤ)ロウナ霧島!!』
「えぇ勿論、いつでもかかってらっしゃい!」
…私的にはインテリ系で通していきたかったが、これはもう言い訳出来なくなるなぁ。…霧島はどこか嬉しそうに、胸の内でそう零すのだった。
──ピシッ
瞬間、夜の空間に響き渡る「亀裂音」。彼女の肌には「崩壊」の兆し…活動限界が、近づいていた。
「…行くのね?」
『…アァ、ダガ必ズ浮キ上ガッテ見セルサ! 皆と…お前ガ待っテるカラな…!』
「えぇ…また会いましょう、宿毛泊地は…貴女を歓迎しますよ!」
『…へっ、ありガトな? ……霧島、私が正式ニ仲間にナった、ソノ時は──』
──私と、友だちに……!
・・・・・
ソロモン海…悪夢の戦場に穏やかな風が一陣吹いた。
霧島は──かつての仇敵と友となり、そして…別れた。友との一時の別れを名残惜しそうに佇む、その寂しそうに映る背中を、駆逐艦たちは見ているしか出来なかった。
「…霧島さん」
「ぽい…」
「……いきましょう霧島さん、レディーはね…サヨナラのときもだいじょうぶなのよ?」
暁が率先して霧島に呼びかけた。…その声に反応して、霧島は彼女たちに振り向いた。
「…えぇ、分かってますよ。でも…私ってレディって柄ではないのかも。だって──戦ってる時が、一番好きですからね…実は!」
「──知ってる!」
霧島の晴れたココロを表した満面の笑み、ニカッと笑う太陽のような彼女に、駆逐艦たちはすかさず突っ込むのだった。
○宿毛泊地ショート劇場
提督「終わったぞぉーい!」
吹雪「お疲れ様です。…本当にラスボス戦みたい長い戦いでしたね?」
「(ミウスケ)最後は「艦これしろよ」展開だけど」
作者もノリノリで書いてたみたいですねぇ?
提督「…ノリノリ過ぎて、次の最終作戦の展開、どうしようかち悩みゆうみたいやけんど?」
※もえつきました もうむりです ほりします。
吹雪「いやクリアしてえええ!?」
「(ミウスケ)○越さんの新BGM聞けるよ!」
まぁぼちぼちやる感じですかね…丙辺りですか?
提督「そんな感じやにゃあ」
吹雪「今回は仕方ないですね…」
「(ミウスケ)ギャグ? シリアス?」
※今のところギャグの予定。
提督「ボスにすら辿り着いてないし、やりたいこともあるきにゃあ、まぁ掘りの成果も報告したいし投稿は「イベントが終わった後」やにゃあ?」
吹雪「大分先になる予定みたいですね?」
まぁその間は…せっかくなので「アレ」を進めておきましょうか?
吹雪「アレ…?」
提督「その内判ると思うで?」
「(ミウスケ)ヒント:活動報告」
では、最終作戦が描かれるまで、暫しのお別れです。また会いましょう〜!
提督「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ♪」
吹雪「司令官!?」