その日、学園の全生徒と全教師はパニックのどん底に陥れられた。
仁美「お前たちが飯を持ってこなければ、私はこの学園を破壊し尽くすだけだぁ!!!」
いつもののんびりな彼女はどこへ行ったのやら。その生徒には悪意などなかった。そんな些細な出来事が、食人鬼の大蔵居仁美を『悪魔』に変貌させたことを…………。
キーンコーンカーンコーン
今から4時間目の授業が終わり、昼休みが始まったばかりの後に遡る。
仁美「昼休み〜昼休み〜♪お昼ご飯がお待ちかね〜♪」
司「お前の頭ん中はそれしかねぇのか……」
仁美は誰よりも昼休みを、特に昼食が最大の楽しみだった。普段なら特上大盛三段弁当を食べているのだが、今日は少し違った。
仁美「ふぇ?超特上大盛十段弁当?」
本日から新メニューが追加されており、そのメニューというのが仁美が見つけた『超特上大盛十段弁当』だった。
仁美「また新しい楽しみが増えちゃった〜♡お昼ご飯がもっともっと食べられる〜♡」
紺子「仁美?どうし…うわっ!?何これ!?超特上大盛十段弁当!?」
友人も驚くのも無理はない。その場に居合わせた紺子は新メニューを見て驚き、目を丸くした。
紺子「料理は美味しそうだけど、私こんなに食い切れねぇ……ジャックおばちゃんにナイフ投げられちまう……」
仁美「私は食べるよ?だって、三段弁当まだまだ足りなかったもん」
紺子「あの弁当でもあんなにあるってのに、それでも足りねぇの!?お前の腹、ブラックホールと繫がってんじゃねぇのか!?」
仁美「ん〜、そうかもしれないね〜」
ジャック「はい、超特上大盛十段弁当お待ちィ!」
ディーゴ「デカッ!?今日から追加された弁当ってこんなに豪華なのか!?」
夏芽「そうなのよ〜。特にあの子のように食べるのが大好きな生徒のためにもね」
仁美「♪」
仁美が頼んだ超特上大盛十段弁当。その重箱には彼女が大満足するほどの料理がぎっしり詰まっていることだろう。
だが……その幸せが目の前で一瞬で砕け散るなど、彼女はおろか紺子たち他の生徒や教師たちは知らなかった。
ドンッ
仁美「……?」
それは一瞬の出来事だった。仁美の身に何が起きたのか、自分にもわからなかった。
ガシャァアアアアアアアン!!
食堂中に鳴り響いた音。夏芽とジャックはもちろんのこと、近くにいた生徒たちは当然驚き、一斉に音がした方向へ振り向く。
遠くにいた生徒たちも何が起きたと言わんばかりに駆けつける。そして現場にいた一同が見たものとは……。
霜「先輩、ホントにごめんなさい!」
仁美「…………」
床に散らばった10個の重箱。無残な姿となった弁当の料理。
霜「ホントに悪気はなかったんです!たまたま看板が当たっちゃって……!」
仁美「…………」
霜は地球温暖化を問題視し、『地球温暖化を防止せよ!』と書かれた看板を常時持っている雪女。彼女がいつも持っている看板を仁美が持っている弁当に誤ってぶつけてしまい、それを全て落としてしまったのだ。
せっかく楽しみにしていた昼食を台無しにしてしまい、必死に謝る霜。決して彼女に悪意はなかった。
呆然と立ち尽くしながら散らばった重箱と料理を見つめていた仁美だったが…………。
仁美「まずお前から血祭りにあげてやる」
今まで誰も聞いたことのないようなドス声が発せられる。気づけば全身から赤黒いオーラを放ち、腰の辺りには緑色のゴーヤのような尻尾が生えているではないか。
霜「え!?ちょちょちょ…何!?何ですか!?」
霜が一歩後ずさった途端、霜の足が床から浮いていた。
霜「ふおあっ!?」
仁美は音速を超えるほどの速さで霜の顔をつかみ、壁に叩きつけていた。
壁には巨大な円形のクレーターができており、霜はそこで仁美に顔をつかまれながらめり込んでいた。
仁美「…………遺言はそれで終わりかぁ?」
霜「ぐっ……くっ……がっ……!」
仁美「…………ハァァ〜〜〜…………」
仁美は邪悪な笑みを浮かべながら息を吐きながら口を開く。無数の鋭い歯がギラリと輝く。
それを見た霜はすぐに察した。今から私を食べる気だと。すぐに自分の顔から仁美の腕を引き離そうとつかむが、仁美は恐ろしいほどの怪力で、引き離すことができなかった。
???「やめなさい」
そんな中、霜を仁美から救おうとする勇敢な者がいた。綾野だった。
綾野「仁美の妖力、数百、数千、数万………一海の足元には及びませんが、弁当を台無しにされた恨みから覚醒し、八つ当たりなど言語道断。すぐに大暴れするのをやめなさい。さもなくば―――――」
綾野が警告している間に、指先から両腕にかけて皮膚が展開していた。
皮膚の下で不気味にうごめく機械。そこからみるみるうちに別のものに変形していく。
綾野「―――――実力行使します」
その右腕はチェーンソー、左腕はガトリング砲になっていた。
紺子「あ、綾野先輩の腕が…!?」
霜(先輩の腕が武器に!?この先輩、ただのロボットじゃないの!?)
綾野はロボットといっても、人間がよく知るただのロボットではない。以前紺子たちが神守の家に呼ばれた時、綾野は自分のシステムを紺子たちに明かしたことがあった。
ガソリンを注入するか、歯車を回すか。自分ではなく他者の介入によって行われると、その人物をマスターと認識する。去年紺子が彼女の歯車を回したのをきっかけに、紺子をマスターと認識し、奉仕するようになったのだ。
だがそれ以外のシステムは誰にも明かしていない。腕を武器に変形するなど、紺子はおろか他の生徒たちや教師たちも全く知らなかった。
仁美「…………」
綾野の警告は耳に入っていなかった。綾野に対しても仁美は音速を超えるほどの速さで一瞬で近づき、気づけば霜と同じく顔をつかまれていた。
仁美「お前たちが飯を持ってこなければ、私はこの学園を破壊し尽くすだけだぁ!!!」
綾野「………!(一海には劣るとはいえ、予測不能。データの数値が追いつかない………)」
仁美が望むもの。それは彼女を幸せにするために料理を作ることただひとつ。彼女が楽しみにしていたものを台無しにされてて暴走した以上、一体誰が彼女を止められるのか?
遠呂智「さーて今日は何を……って、何だこの状況!?」
食堂を訪れた遠呂智が驚愕する。
遠呂智「なんか壁にクレーターができてるわ、悪魔みてぇなのがいるわ、オーラも放ってるわ、マジでどういう状況だこれ!?」
すると仁美が遠呂智の方に目を向けた。先ほどまでつかんでいた綾野を投げ飛ばすと、やはり音速を超えるほどの速さで近づき、首をつかんでいた。
仁美「私が悪魔………?違う………私は………食人鬼だぁ…………!!」
遠呂智「ぐっ…………!?(こいつ何言ってんだ!?どこからどう見ても食人鬼じゃなくて悪魔じゃねぇか!?)」
すぐに仁美から手を引き離そうとする遠呂智。だが華奢な見た目にもかかわらずとてつもない力が発揮されており、びくともしない。
紺子「ヤベェよヤベェよ!?すぐに何か食わせねぇとホントに学園破壊されちまうぞ!?」
ジャック「弁当落とされただけで普通ここまでブチギレるかい!?」
夏芽「まずあり得ないわねぇ……でもこうなった以上、あの子のためにあの弁当作り直さなきゃいけないわねぇ」
ジャック「それだぁ!!ほらあんた、ボケっとしてないであんたも手伝うんだよ!」
ジャックが自分たちのすぐ近くにいた紺子の腕を唐突につかむ。
紺子「え!?ジャックおばちゃん、手伝うって何を!?」
ジャック「決まってるだろ!?あの弁当を、超特上大盛十段弁当を作り直すんだよ!」
紺子「そんなこと急に言われても!!」
ジャック「ゴチャゴチャ言ってないで早く厨房に入るんだよ!!」
紺子は問答無用で無理やり厨房に引きずり込まれた。だがその中でも1人、自分から厨房に入っていく生徒がいた。
龍華「だったら俺もやってやる!マスターも助けたいし、何より一番暴れまくってる仁美を満足させるには俺が料理作るしかねぇ!」
何をどうしたらそうなると言わんばかりにダークマター料理と化す遠呂智とは対照的に、EVOLUTION SPACEのメイドとして雇われている龍華は料理ができる。
そして紺子も以前作ったハンバーグのように料理ができる方だった。紺子が厨房に引きずり込まれたのも、それをジャックが彼女の料理の腕をまだまだ精進できると見込んだからだろう。
ヴォイエヴォーテ「騒ぎが起きていると聞いて駆けつけれてみれば、何だこの惨状は!?」
剛力「何がどうなって……って何だあの化け物は!?」
ディーゴ「せ、先生!大変なんですよ!さっき仁美が弁当食べようとしたら、他の奴に倒されて全部台無しにされて、あのように………!!」
剛力「仁美!?あれが仁美なのか!?いつもおっとりしてのんびり屋のあいつが!?」
ヴォイエヴォーテ「これでは、食人鬼というより悪魔ではないか………!」
駆けつけた教師たちもこの光景に唖然とすることしかできなかった。
相変わらず仁美は暴れ回り、他の生徒たちを攻撃し回っている。だからこそ気づいていなかった。背後から奇襲で止めようとしている存在がいることを…………。
仁美「………何なんだぁ今のはぁ?」
竜奈「!?」
竜奈は自分の愛刀が効かないことに愕然としていた。
常に携えているが、普段使うことのない武器……魔龍神刀『ドラゴニックスレイヴ』、聖龍神剣『ドラゴニックカリバー』。まさか仁美を止めるために使うとは。竜奈は少しためらったが、学園を破壊させるわけにはいくまいと使わざるを得なかった。
なのに斬撃が通じない。なぜだ。内心戸惑っていると、仁美は竜奈を自分の肩の上に仰向けに乗せていた。
仁美「ハハハ……貴様に宇宙や次元を破壊する力があろうとも、この私を止めることはできぬぅ!!」
ゴキボキベキバキグキブキ!!!
竜奈「∬Å⊿※☆β♀ε¥■々±§〆%¶◯〒♂⇔ゞ♪∽〓∀√∞∴∂∧∈⊥∇$♭△!!?」
強引にのけ反らされる竜奈。仁美が竜奈にかけたアルゼンチンバックブリーカー。周りにも聞こえるほどの背骨が粉砕される音。
見ると、竜奈は白目をむきながら痙攣しており、口からは泡を吹いて意識を失っていた。
一方、厨房にて。
紺子「なんで私がこんなことしなきゃいけねぇんだよ!?」
ジャック「口より手を動かしなさい!じゃないとアタイたちが滅んじまうんだよ!」
龍華「お前は不老不死だからいいけど、学校が滅んだらシャレにならねぇぞ!」
夏芽「生きてたとしても、仕事がなくなるのはおばちゃん嫌ねぇ……」
仁美を止めるために必死に超特上大盛十段弁当を作り直すジャックと夏芽。無理やり手伝わされる紺子と自分から手伝いに向かった龍華。
作っているのは大盛りカレーライス、大盛りサラダ、トンカツ10人前、寿司20貫、舟盛り、天丼、座布団ハンバーグ、ビーフステーキ10人前、伊勢エビフライ……とにかくメニュー通りに数え切れないほどの料理を大量に作った。
ジャック「あの子が止まったら、あんたの好きなきつねうどんたくさん作ってあげるから!」
紺子「きつねうどんのためなら、きつねうどんのためなら………うああああああ!!もうやるしかねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
きつねうどんと聞いて、紺子はやけになる。そしてがむしゃらに料理する手を進める。
龍華(こいつ、きつねうどんホントに大好きなんだよな………)
龍華は心の中で半ば呆れながらも、弁当作りを進めるのだった。
同じ頃、食堂はほぼ壊滅状態に陥っていた。窓ガラスは砕け散り、壁と床には無数のクレーターがあり、テーブルと椅子は散乱している。これも全て仁美の仕業だ。彼女に犠牲者も少なくなかった。
仁美は生き残った生徒と教師にも目をつけており、いつ襲ってもおかしくないような雰囲気を醸し出していた。
仁美「…………」
遠呂智「ダメだこれ……もう俺たち終わった………」
ヴォイエヴォーテ「くっ………」
ヴォイエヴォーテも仁美を止めようとした。だが彼でも全く歯が立たず、この様だ。服はボロボロで、少しだが流血もしている。
ラインハルト「………余は生徒に手出しをしたくないが………これ以上口で言ってもわからぬなら、余が直々に汝を止めてくれよう」
剛力「ラインハルト先生!危険です!下手すればあなたもヴォイエヴォーテ先生みたくなりますよ!?」
ラインハルト「余をその者と同列に見ないでほしい」
仁美「…………ハァァ〜〜〜…………」
仁美は邪悪な笑みを浮かべながら息を吐いた。剛力の予想通り、この様子からしてラインハルトも犠牲になるかもしれない。
だがそんな不安と杞憂はあっけなく終わった。
龍華「仁美ィィィ!!ヤメルルォォォォ!!」
仁美「何―――――」
龍華の投げた1貫の寿司が仁美の口に飛び込んだ。
仁美「…………?」
寿司が口の中に入った途端、仁美の動きが止まり、しばらくの沈黙が流れる。
すると仁美は寿司を咀嚼し始めた。最初こそ自分の身に何が起きたのか理解不能だったが、その反応は………?
仁美「…………これ、美味いな」
一同『え?』
暴走した仁美から出た意外な一言『美味い』。それと同時に仁美の身にも変化が起きる。
それまで全身から放っていた赤黒いオーラが消え、腰の辺りに生えていたゴーヤのような尻尾も少しずつ引っ込んでいく。
仁美「こんなに美味いものを食えるとは……………私は……………私は……………」
仁美「幸せ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ♡♡♡」
目の前にいるのは悪魔でも化け物でもなく、紺子たちがよく知るいつもの大蔵居仁美だった。
仁美「さっき食べたのって、お寿司?こんなに美味しいお寿司食べられるなんて、幸せ〜♡」
ラインハルト「寿司を口にしただけで元に戻る、か………こやつはそれほど食べることを好み、それを幸せのひとつとしているのか………」
龍華「よ……よかった……俺たちのおかげで………元に………」
龍華は仁美が元に戻ったことを知ると、安堵のあまり脱力しながらその場にへたれ込んだ。
それは紺子も同じだった。紺子も龍華のように安堵すると、そのまま仰向けに倒れ込んでしまった。
紺子「仁美ぃ………よかったぁ………元に戻ってくれて………」
ジャック「ちょっとちょっと、紺子ちゃん!きつねうどん食べさせるって約束しただろ!?気絶するにはまだ早いよ!」
夏芽は先ほど紺子たちと作った超特上大盛十段弁当を仁美の前に差し出した。
夏芽「これが超特上大盛十段弁当よ〜。たっぷり食べてね〜」
仁美「あ、さっき私が食べようとした……こんなにたくさん食べれるなんて、私とっても幸せ〜♡」
超特上大盛十段弁当を見るなり満面の笑みになる仁美。
ヴォイエヴォーテ「はぁ……大蔵居が元に戻ったのはいいが、この大惨事の後始末は………」
剛力「そうですね……それに保健室送りの生徒も多いですし……」
仁美が弁当を食べている間、無事だった生徒たちと教師たちは今度は見るも無残になった食堂の修繕をする羽目になった。
ちなみに弁当を食べ終わった後の仁美の腹はあれだけの量にもかかわらず、全く膨らんでいなかったという。