†AiSAYでございます。
新シリーズはPHYCO-PASS。
近未来かつ設定が複雑なのに完成度の高いでおなじみのproduction I.Gのこの作品に手を出すのは勇気がいりましたが、どうしても描きたくて無謀にも執筆いたしました。
これまで以上の皆さまの叱咤、激励、応援、何卒よろしくお願い致します。
また、連載中の2作に関してもクオリティを落とさずに連載していこうと思いますので、そちらも合わせて
よろしくお願い致します。
銃声が響く。
しかし、激しく降り続ける雨のため外出している人影はなく、その音に気付く者は1人としていない。
いや、そもそもこのような深夜に、こんな閑散とした建物に近づくような人間などこの時代、どこにもいはしないだろう。
いるとすれば、それは社会というコミュニティーから逸脱した異常者か好奇心が明後日の方向に向かっている馬鹿しかいないだろう。
「た、頼む!殺さないでくれ!!」
この場合は明らかに前者ではあるが…。
命乞いをする目の前の男を見る。脂汗を流し、打たれて血が溢れ出す足に手を当てながらこちらを懇願するような目で見てくる。
「わ、私が何をしたというんだ!?私のような《健常者》に向かって!」
ギャーギャーと喚き散らす目の前の男を見る、だがこの目に感情という名の光は灯ってはいないだろう。
ただ機械のような双眸があるだけだのはずだ。
「こんなことをしても、直ぐに公安が来るぞ!!そしたら、お前のような者など、この社会から隔離、い、いや!排除される!」
そう叫ぶ男を見た。
《社会》からの《隔離》《排除》。
そう自分に投げられた言葉の1つ1つに自然と嗤いがこみ上げる。
すると自然と先ほどまで毛ほども興味のなかった男へと言葉を投げ返していた。
「そうか、それは良い。いっそ、砂の城のように何もかも無くなればいい…。」
そう呟くと、目の前の男が再びグシャグシャに泣き爛れた顔をして叫んでくる。
「く、狂ってる!いや、腐っている!!お、おま」
銃声が響き、男の最期の言葉は言い切ることなく終わった。
男に向けられていた銃口から煙が立ち上る。
「ああ、そうさ…。この通り、俺は中身が腐り出してるんだよ…。」
激しい雨がその呟きを飲み込み、搔き消した。
気がつけば、そう呟いた者の姿はなく。
あるのは横たわる死体、死体、死体。
銃で撃たれ、刃で斬られた死体、死体、死体。
その中には、まるで内側から抉り散らかされたように上半身が散り散りとなった肉片とそれがくっついていたであろう下半身があった。
西暦2118年。
世界は2020年頃から始まった新自由主義経済の歪みによる貧富の差の拡大から、世界的な倫理道徳感の崩壊を招き、紛争・犯罪の激化による政情不安のため政府や国の崩壊が起こった。
そんな中、日本は海外の紛争の余波を食い止めるため、シビュラシステムと呼ばれる包括的生涯福祉支援システムを導入、その判断により鎖国を開始し、他国からの違法入国を水際で防ぐために国境や周辺海域に武装ドローンを配備し、世界で唯一と言える平和な国となった。
シビュラシステムによって身の安全が保障され、人々は自分以外の見知らぬ他者を警戒することなく、物理的な施錠といった意識や習慣は廃れた。特にシステム運用後に生まれ育った若年層は「シビュラ世代」と呼ばれ、防災意識が薄く、自ら主張することを臆せず、システムに監視されることに対して疑問を抱くことはない。
快適な温室による純粋培養。
まさに現在の日本はその言葉通りとなっていた。
しかし、いくら快適な温室であったとしても問題が皆無というわけではない。
隔離され、高度な衛生管理がなされた場所であっても、病原菌が繁殖し、全ての作物が感染し、死滅することは大いにある。
それは人間が生きる社会という場においても例外ではない。
いや、むしろ全てが数値化され管理された社会、世界であっても、あらゆる感情、思想、理想を持つが故に、人間社会からその病原菌が駆逐されることはない。
《犯罪》
それこそが、人間が人間である限り、向き合っては生きていかねばならいい、現代の病原菌である。
ゆえに公安局は厚生省に属し、日夜この病原菌の蔓延。すなわちサイコハザードを食い止めるために奔走するのである。
「で、コレが今回の現場ですか?」
「ええ、被害者は全部で5人。殆どが銃あるいは刃物での外傷が見られています。」
凄惨な殺人現場の中、スーツを着た2人の女性は努めて冷静にそう話す。
「で、どうするんですか先輩。今の世の中、こんな事件が起きちゃ問題ですよ?」
と、シュシュで髪を纏めた女性がもう1人へと話しかける。
すると、先輩と呼ばれた女性が振り向き答える。
「分かってるわ、霜月さん。でも、今はそれよりもこの事件そのもの真相を究明する必要があります。」
「またそれですか…。この事件がここら一帯のエリアストレスにどう影響を与えるか分からないわけじゃないでしょう?」
霜月と呼ばれた女性が呆れたように先輩と呼んだ女性に反論する。
しかし、相手は霜月の様子に苛立つことなく言った。
「ええ、だからこそこれ以上悪影響が出ないようにこの事件を解決するのが、私達の使命だと私は言ってるの。」
「それで、手遅れになった時はどう責任を取るおつもりで、常守監査官?」
と再び呆れたような皮肉を口にする霜月に対して、常守と呼ばれた女性はまっすぐと彼女を見て言う。
「《成しうる者が為すべきを為す。》、私達が今為すべきことは、こうしてお喋りをすることですか、霜月監査官?」
「っ……。」
そう言われて、口をつぐむ霜月。
2人の間に嫌な空気が漂う。
すると、彼女達と同じような服装をした者達が足早に何名か近づいてきた。
「奥の現場の状況確認終わりました。…、また喧嘩か?」
と、髪を後ろで束ねた男が尋ねる。
「宜野座さん…。いいえ、違います。」
「ええ、ちょっと先輩と今後の方針について話していただけですよ。それより、状況確認したなら報告して下さい。」
そう言う2人の様子を見て宜野座と呼ばれた男は溜息と気づかれないように息を吐く。
そして、自分が見てきたものを話しだす。
「奥にもう1人の死体を確認しました。眉間に銃痕があり、銃殺とみて間違いないでしょう。そして、確認して見ないとわかりませんが、遺体からコレが…。」
そう言って、宜野座が見せたものは一枚の名刺であった。
その名刺を見て、常守だけでなく霜月も驚く。
「栁澤繁…。H'H製薬会社開発部。この人って…」
「はい、現在は退職して、この製薬会社に勤務していますが…。」
霜月の言葉に続き宜野座が頷く。
そして、その2人に呼応するように常守が口を開き言った。
「元厚生省医薬安全局の職員…。」
沈黙がその場を支配する。
そして、3人のうち誰が言ったかは分からないが誰かが口にした。
「元厚生省職員が殺された…。」
西暦2118年。
日本はシビュラシステムによる判断とされる鎖国を開始し、他国からの違法入国を水際で防ぐために国境や周辺海域に武装ドローンを配備し、世界で唯一と言える平和な国となった。
社会システムの隅々までを包括的に管理され、経済成長と社会安定に成功し、世界で唯一の法治国家としての体裁を成すに至った国、日本。
しかし、その楽園は新たな混乱を招こうとしていた。
【PHYCO-PASS〜嗤う鉄心〜】
to be continued…