ソードアート・オンライン〜青〜   作:月島 コウ

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おっそくなりましたぁぁぁあああーー!!
(土下座)

定期更新ではないといえ、本当に申し訳ないです。

とりあえず本編どうぞ。


ビーター 7

ーーー強い。

 

壁から湧いた最初の《護衛兵(センチネル)》を相手にしている彼らを見ながら、私、結城明日奈(ゆうきあすな)は素直にそう思った。

 

昨日は何だかんだ、攻撃パターンの似ている同じコボルト種の《突撃兵(トルーパー)》と戦闘するためにわざわざ迷宮区まで行ったのだが、戦闘をする度にやれ《オーバーキル》がどうだの、やれ《効率が悪い》だの、わけの分からないことを言われ……

 

いや違う、そうじゃない。

確かに言われたが、私が言いたいのはそういうことじゃない。

 

私が言いたいのは、昨日まで私がしてきた《戦い》は、この世界での《戦い》、彼らのしてきた《戦い》とは、似て非なるものだったということだ。

 

彼らのうちの一人、攻略会議で出会った、《キリト》と呼ばれていたの方の動きは、一言で言うなら、最適化された動き、だろうか。

無駄がなく、それゆえに繰り出される技は速く、そして力強い。

 

今も重装備のセンチネルの武器を弾き返し、悠々ともう一人の剣士へと手番を渡している。

 

そしてそのもう一人、迷宮区から私を連れ出した(未だに方法は分からないが)、《ソウ》と呼ばれていた方はというと、正直よく分からない。

キリトと比べるとその動きは拙いが、しかし危なげなく戦っている。

何というか、違和感を感じさせられる戦い方だ。

自分のイメージと、体の動きが噛み合ってないような、そんな違和感を。

しかし稀に、別人のような動きをする時がある。

そう、例えばーーー

 

「スイッチ!」

 

そう言われ、反射的に体が動いた。

ふわりと後ろに飛び退くソウと入れ違いに、両手に凶悪な長斧(ハルバード)を持ったセンチネルの懐に入り込む。

一人で戦っていれば自殺行為もいいところだが、今は違う。

今は、パーティーで戦っている。

ソウによって、高々と弾かれた長斧(ハルバード)が私を攻撃することはやはりなく、その反動で大きく仰け反り、無防備を晒す喉元に《リニアー》を撃ち込むのは実に簡単だった。

 

が、HPバーが少し残ってしまう。

これが昨日までの私なら、敵の反撃を紙一重で躱した後、もう一度《リニアー》を放つところだっただろう。

しかしそれは《過剰殺傷(オーバーキル)》だと、昨日、口を酸っぱくして言われたところだ。

だから今の私は、技後硬直が解けるや否や、同じ場所をちくっと突くことできっちり残りHPを削りきる。

 

そして敵が青い破片を撒き散らして消滅する中、こういうところだ、と心の中でさっきの続きに思いを馳せる。

 

敵の攻撃を弾く時、ソウの剣は異様なほど、速い。

 

いや、実際は速くなったりはしてないのだろう。

ただその一連の動きがあまりに滑らかで、一切の迷いもないためにそう感じてしまうのだ。

まるで歴戦の剣士のようなその動きにもちろん違和感なんてものはなく、それはただただ美しい。

全く剣に詳しくない私が思わず見惚れ、咄嗟にスイッチに入れなくなるほどに。

 

GJ(グッジョブ)

 

敵を倒した場所でそのまま考え耽っていた私に、そう言って声を掛けてきたのはキリトだった。

何の略かは分からなかったが、とりあえず「そっちも」と返しておく。

 

初め見た時は、落ち着いた雰囲気から歳上かとも思ったキリトだが、ソウとのやり取りを見ている内、寧ろ(ソウ)に遊ばれる可哀想な(キリト)といったイメージができてしまい、今では同い歳、もっと言えば歳下にさえ思えている。

しかしゲームについての知識、実力は相当のもので、間違いなくここにいるトッププレイヤー達よりも頭一つ抜けている。

 

「おつかれ〜」

 

そして次に、そう言って間延びした声を掛けてきたのはソウだった。

 

危険を冒してまで私を迷宮区から連れ出し、無理やり街まで連れ帰り、見ず知らずの相手を部屋に上げ、お風呂を貸し、何だかんだここまで行動を共にしている相手。

 

最初は、今まで声を掛けてきた人達と同じだと思っていた。

命の大切さとか、協力すればなんとかなるとか、そんなことを言う人達と。

だけど違った。

明らかに私を気遣う様子はあるのに口には出さず、あくまで私の意思を尊重した。

そんな彼に何か思ったのか、はたまた上手く誘導されたのかは分からないが、結局は彼の望む通りになったのだろう。

それでも悪い気はしなかった。

彼の、夜空のように薄暗い瞳を見ていると、ふざけながらも落ち着いた声音を聞いていると、彼と一緒に居ると、心が落ち着いた。

現実世界にいる、歳の離れた兄とは似ても似つかないが、それでも一番感覚が近いのはやはり《兄》だろう。

しかし、彼が何を考え、私に構うのかは分からない。

そして、私がなぜ、それを知りたがっているのかも。

 

そこまで考えたと同時、「二本目!」というディアベルの声が聞こえ、壁から追加のセンチネルが飛び降りて来た。

 

最適化された動きで敵を叩き斬るキリトと、最良の剣筋をなぞる様に敵を斬り伏せるソウ。

 

似ているようで種類(タイプ)の違う二人の剣士。

だが彼らは同じく、今私が見ているものより《先の戦闘》を見ている。

 

私もそれが見てみたい。

例えここが仮想世界で、ここにあるものが全て偽りでも、この気持ちだけは本物だと思うから。

 

そんなことを考えながら、一番手近な敵へとダッシュする。

そして今度は自分でも「スイッチ!」と声を出し、前の二人の後を追うのだった。

 

〜〜〜

 

順調だ。

 

既に三本目のHPバーを半分まで削られたボスを見ながら、(キリト)は心の中で安堵していた。

取り巻き退治も今は既に、E隊と俺たちオマケ部隊だけで、G隊はメイン部隊の方に回したくらいだ。

そしてそれを許すのは、一重に残り二人のパーティーメンバーの奮闘が大きいだろう。

 

ことスピードに関しては、ベータ時代から磨いてきた俺のブーストよりも間違いなく速いソードスキル(リニアー)を放つ、赤フードのフェンサーこと《アスナ》。

そして久しぶりにパーティーを組むことになった、俺と同じく片手剣使い(ソードマン)の《ソウ》。

 

といっても俺とソウでは、その戦闘スタイルは全く異なる。

 

俺が《反応》で動くのに対し、ソウは《読み》で動く。

 

それも枕詞に、かなりの精度を誇る、と付く。

相手が動き出す頃には、既にその攻撃に対応している、と言った感じだろうか。

それについて前に本人に聞いてみたところ、「何となく敵の動きと、どう剣を振ればいいか解る」らしい。

そんなことを言われても、こっちはちっとも解らなかったが。

それでも俺は、俺なりに仮説を立ててみた。

 

前半については、ソウは戦ってるうち、無意識的に敵のアルゴリズムを把握していってるのだろう。

実際、回数を増すほど《読み》の制度は上がっていく。

分からないのは後半だ。

体が動く、ならまだ分かる。実際俺も、考えるより先に体が動くことはある。

だが、剣筋が解る、というのは分からない。

なんでも調子がいい時は、通すべき剣筋が目に見えることもあるらしい。

それを聞いて、さすがに俺も匙を投げた。

少なくとも俺には理解できそうもない、と。

 

まだまだ初心者で、これからの伸び代を考えるだけでもぞっとするアスナに、恐らくその能力を未だ十全に発揮できていないであろうソウ。

 

そんな二人の成長を傍で見ていたいと思う反面、クラインとその仲間をはじまりの街に置いて来た俺にそんな資格はないとも思っている。

俺はあの瞬間、自分以外を切り捨てる、利己的なベータテスターとなったのだ。

 

だがソウは、あの場にいたもう一人であるソウは、あの時のことをどう思っているのだろう。

ベータテスターではなかったが、かと言って何の情報も持たない初心者でもなかった、ソウは。

 

そんな俺の思考とは別に視線の先では、またもアスナが敵を青い破片に変えたところだった。

 

E隊の半分の人数の俺たちのパーティーだが、その実、ほとんど倍の速度で敵を倒していた。

これにはさしものキバオウも文句はないだろうと思っていると、背後から、今まさに考えていた人物の声がした。

 

「アテが外れたやろ。ええ気味や」

 

「……なんだって?」

 

身に覚えのない言葉に思わず振り返る。

そこには案の上、いい気味と言う割には不快そうな、キバオウの顔があった。

キバオウは、眉を潜める俺を睨め付け、ややボリュームを上げて吐き捨てた。

 

「下手な芝居すなや。こっちはもう知っとんのや、ジブンがこのボス攻略部隊に潜り込んだ動機っちゅうやつをな」

 

「動機……だと? ボスを倒すこと以外に、何があるって言うんだ?」

 

「何や、開き直りかい。まさにそれを狙うとったんやろが!」

 

恐らく全く噛み合っていない会話に、言いえぬもどかしさを覚え歯噛みする俺に、キバオウは決定的な一言を告げた。

 

「わいは知っとんのや。ちゃーんと聞かされとんのやで……()()()()()()()()()()()()()()()L()A()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「な…………」

 

ーーーLA。止めの一撃(ラストアタック)

確かに俺は、それを取ることを得意としていた。

だがそれは、もう一つの《浮遊城アインクラッド》、ベータテスト時代の話だ。

キバオウは俺がベータテスターだということを、ましてや俺の当時のプレイスタイルまで知っている。

 

一体なぜ?

 

ベータテスターのことを知っているのは、ベータテスターだけだ。

しかし少なくとも俺の記憶では、キバオウというプレイヤーはベータテスト時代にはいなかったはずだ。

いや、よく思い出せ。

キバオウは「聞かされている」と言った。

つまりそれは……

 

「キバオウさん、その話、俺にも詳しく聞かせてくれないですか?」

 

俺が口を開きかけたその時、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。

いつも落ち着いていて、聴くと安心する声。

その声を聞いたキバオウは、声の出処である俺の後ろに目を向け、そしてその人物の名を口にした。

 

「……ソウはん」

 

振り返るとやはりそこにいたのは、今は俺たちの仮のパーティーリーダーであり、俺がこの世界に来てから最も長い付き合いの相手、ソウだった。

 

俺のソウに対する印象といえば、近いようで遠い存在、だ。

俺とさほど歳も変わらないはずなのに、随分と落ち着いていて大人っぽい。

同じ目線でいる時もあれば、俯瞰していると感じる時もある。

例えるなら、歳の近い《兄》だろうか。

一緒に遊んでいるのだが、その実、怪我などしないよう見守られているような、そんな感じ。

 

今も目の前のその背中に、どこか安心感を覚えてしまっている。

 

「さすがに()も、パーティーメンバーによからぬ噂があるなら確かめたいですからね。その情報はどこから、いえ、()()()聞いたんですか?」

 

外面の仮面を被りながら、どこかの確信を持ちながら問いかけるソウに対し、今度は少し逡巡した様子のキバオウは、誰から、という部分はぼかしながらそれに答えた。

 

「……決まっとるやろ。情報源は《鼠》や。えろう大金積んでベータ時代の情報を買ったっちゅうとったわ。攻略部隊に紛れ込むハイエナを割り出すためにな」

 

ーーー嘘だ。アルゴはたとえ自分のステータスを売っても、ベータテストに関連する情報は絶対に売らない。

思わず口走りそうになるが、しかしそんなことはアルゴと仲のいいソウも分かっているはずだ。

 

「……そうですか」

 

それでもソウは一瞬考え込むように目を伏せた後、変わらぬ口調で短くそう言っただけだった。

 

その時、前線から、おおっしゃ! というような歓声が聞こえてきた。

ボスのHPゲージが四本目、最後の一本に突入したようだ。

俺と同じように前線に目を向けるソウ。

しかし何となく全体を見ていた俺と違い、ソウが見ていたのはただ一点のみだった。

珍しく厳しい視線を向けるその先にいるのは、このタイミングで武器を持ち替えるボスモンスター、ではない。

 

今尚、前線でレイド全体の指揮を取り、間違いなくこのボス戦の立役者である男、ディアベルだった。

 

「ウグルゥオオオオオオオオーーー!!」

 

その事を不思議に思う中、《イルファング・ザ・コボルトロード》がひときわ猛々しい雄叫びを上げた。

それと同時、壁の穴から最後の《ルインコボルト・センチネル》三匹が飛び出して来る。

それを確認したキバオウは、踵を返す前、最後に俺を睨めつけながら吐き捨てた。

 

「……雑魚コボ、もう一匹くれたるわ。あんじょうLA取りや」

 

「キバオウさん」

 

そう言って立ち去ろうとしたキバオウを、しかし背中越しにソウが呼び止めた。

 

「……なんや」

 

足を止め、警戒した様子でソウを見るキバオウに対し、ソウは振り返らないまま続けた。

 

「俺はキリトのこと、信じてますから」

 

いつもと変わらない、落ち着いていて平坦な口調。

しかしその声音には、確かに優しさが含まれていた。

そしてもしかしたらその言葉は、俺に向けられたものだったのかもしれない。

少なくとも俺は、その言葉に胸が軽くなるのを感じた。

 

「……ほうか」

 

「あ、それと……」

 

毒気を抜かれたように今度こそ踵を返そうとするキバオウを、しかしまたもソウが呼び止めた。

しかし今度はきちんと振り返って。

そしてその顔には、外面用の仮面ではない、俺がいつも見ている悪戯っぽい顔を浮かべて。

 

「あと()、あんたのそういうとこ、嫌いじゃないですよ」

 

それを聞いて呆然とする俺とキバオウ。

俺でも予想外だったその言葉を、キバオウが予想出来ていたはずもない。

キバオウは暫くあまり見ない呆けた顔を晒した後、一度盛大に鼻を鳴らして、同じく表情を崩しながらそれに答えた。

 

「……はっ! わいはあんさんのそういうとこ、気に食わん」

 

「そりゃどうも」

 

「はっ」

 

最後にもう一度盛大に鼻を鳴らして、キバオウは今度こそ本当に立ち去っていった。

ちらっと見えたその横顔が少しだけ笑っていたのは、俺の見間違いではないだろう。

 

〜〜〜

 

キバオウの話で、それまで(ソウ)の中にあった予想が確信に変わった。

もっともそれは、決していいものとは言えないのだが。

 

ともあれボス戦も最終局面だ。

ここまでは特に何事もなく来れている。

ボスが武器を持ち替えるのを横目で確認しつつ、このまま最後までいけるよう祈りながら自分の担当である《センチネル》に突っ込む。

 

ボスの取り巻きなだけあって《センチネル》は、昨日まで戦っていた同じコボルト種の《トルーパー》よりも強かった。

しかし適正よりも十分過ぎるほどレベルの高い俺たちからしてみれば、その差は微々たるものだ。

それに加え、人型種であるコボルトの動きは俺にとっては()()やすい。

さらに今日は調子がよく、いつもより良く()()()ので、寧ろ楽に感じるほどだ。

 

《センチネル》の動きから、上段からの振り下ろしだと思った俺は、()()()()()()()()()()()をなぞるように剣を通した。

 

ガキィンッ!!

 

予想通り上段から振り下ろされようとした長斧(ハルバード)を、完全にスキルが発動する前に剣をぶつけることでスキルも使わずに弾き返す。

 

「スイッチ!」

 

その直後、何か心境の変化でもあったのか、俺が声を出す前にそう言って飛び出して来る《アスナ》。

そして寸分たがわず、《センチネル》の喉元に高速の《リニアー》を放つ。

敵のHPバーが大きく削れるのを確認してから、またスイッチをしてアスナと入れ替わろうとした、その瞬間。

 

「だ……だめだ、下がれ!! 全力で後ろに跳べーーーッ!」

 

珍しく焦った様子のキリトの叫び声が聞こえてきた。

反射的にキリトの視線の先、ボスと戦うメイン部隊の方へと目を向ける。

そこには転倒した六人のC隊のメンバーと、その中心で曲刀、いや、どちらかと言うと刀に近い得物を振り抜いた姿勢のボスの姿があった。

 

獲物が違う? やっぱりベータテストの時から変更があったのか……!

 

それも当然ではあるのだ。ベータテストの時と全く同じなら、ベータテスト経験者はゲームを()()()()()

だから《鼠》の攻略本にも注意書きがあったのだが、どうやら順調ゆえの油断が出たようだ。

そして人とというのは存外、予想外の出来事に弱い。

 

誰もが呆然とする中、しかしそんなことなど関係なしに、スキル後の硬直の抜けたボスが動き出した。

 

「追撃が……」

 

キリトが叫ぼうとするが、もう遅い。

エギルさんを含む数名も援護に向かおうとするが、ボスが最前線で転倒していたプレイヤー、ディアベルに、攻撃を仕掛ける方が早い。

 

なんらかのスキルなのだろう、床すれすれを通った刀、野太刀が、ディアベルの体が高々と打ち上げる。

しかしボスの攻撃はそこで終わらない。

再びボスの刀身を赤いスキルの光が包み込む。

それと同時、ボスはその巨体で高々と跳躍した。

それを見て焦ったディアベルは、無理な姿勢のままボスを迎え撃つためのソードスキルを放とうとするがーーー

 

まずい。

 

そのディアベルの行動を見た瞬間、そう直感した。

 

不完全な体勢のそれを、システムはやはりスキルの初動モーションとは認めない。

ディアベルの剣が、虚しく空を斬る。

そして次の瞬間、無防備なディアベルの体をボスの野太刀が直撃した。

血のように紅いライトエフェクトを撒き散らしながら、ディアベルは遥か後方、取り巻きと戦っていた俺たちのすぐ傍まで弾き飛ばされる。

 

咄嗟に駆け出す俺、そしてキリト。

 

進路上にいたセンチネルの攻撃を半ば強引に弾き返しながら、最短距離を突き進む。

そしてようやく俺たちが辿り着いた時、ディアベルのHPバーはすでに危険域(レッドゾーン)まで入っており、そして尚、止まる様子もなく減り続けていた。

膝をつきポーションを差し出すキリトの手を、無駄だと言わんばかりにディアベルが制する。

そして、

 

「キリトさん、それにソウくん。ボスを、みんなを、頼みま……」

 

最後まで言うことなく、ディアベルの体は青い破片となって四散した。

 

この世界に来てから、敵を倒す度、アイテムを破損させる度、何度と見てきたその光景。

 

しかしプレイヤーの、()の死の瞬間を目にするのは、どちらの世界でもこれが初めてだった。

 

キバオウを使い、キリトから武器を奪い取ろうとしていたのは間違いなくディアベルだ。

恐らくは彼も、元ベータテスターだったのだろう。

目的はベータテスト時代にLAを乱獲していたというキリトの戦力を削ぎ、そして自分がLAを獲ること。

でなければ四万コルという大金を支払うのには見合わない。

逆に言えばそれだけの価値が、LAにはあるのだ。

 

キバオウはそんなLAのためにキリトが、ベータテスター達が、レイド全体を危険に晒す可能性を危惧していたのだろう。

逆に「みんなのため」に戦っていたディアベルのことは信頼、ないしは尊敬していた。

しかしそのディアベルが元ベータテスターで、LA欲しさにろくに警戒もせずにボスにやられ、現在進行形でリーダーを失ったレイドを危険に晒しているとは、なんとも皮肉なことだが。

 

それでも俺と違い、ディアベルは正しく、自分の為だけでなく()()()の為にも戦っていた。

それもキリトと違い、みんなから求められ、頼られ、リーダーになってまで。

自分の秘密は誰にも言えず、常にバレるかもしれないという危機感と、自分を信頼してくれている人々を騙し続けているという罪悪感を持ち続けて、それでもディアベルはその役割を立派に全うしていた。

 

そんなディアベルのことを、だから俺は好きにはなれなかった。苦手だった。

どこか似ている所があって、でも決定的に違うディアベルのことが、初めから苦手だった。

それでも嫌いではなかった。尊敬していた。

結局最後まで、『みんな』のために戦っていたディアベルを。

少なくとも俺は、『みんな』なんていう、顔も分からないような奴らのためには戦えないから。

もし無事に、この戦いが終わったら、腹を割って話してみたいとも思っていた程に。

 

青い破片が完全に消滅するのを見届けてから、俺はキリトに声を掛けた。

 

「どうする、キリト」

 

キリトもすでに、ディアベルがキバオウの後ろにいた人物であることには気づいているだろう。

色々と思うところもあるはずだ。

同じ、ベータテスターとして。

 

「戦おう」

 

それでも背筋を伸ばして立ち上がったキリトは、覚悟を決めた顔で、真っ直ぐ俺の目を見て言い切った。

 

俺よりも背の低い、恐らく歳も下の少年が人の死を目にしてなお、はっきりと戦うと、そう告げた。

純粋なキリトは、もしかしたら責任を感じているのかもしれない。

キリトはボスが使ったスキルを知っているようだった。

だからといって、キリトに責任なんてものはない。

それでもその勇気で、危なっかしいと言える蛮勇で、恐らく一人でもあの強大なボスに立ち向かうのだろう。

俺はそんなキリトのことを、心から尊敬する。

 

俺は、『みんな』なんて人のためには戦えない。

 

ーーーだけど俺は、キリトのためなら戦える。

 

「私も行くわ。パーティーメンバーだから」

 

そう言って横に並ぶアスナ。

 

まだ出会って日が浅いが、キリトと同じく、何だか危なっかしくて放っておけない少女。

それでも最初は自棄的だった彼女も、今では何らかの意志を持って戦っている。

彼女はこれからもっと強くなって、この世界でもっと多くを経験し、きっと今以上に美しく成長するのだろう。

俺はまだまだそんな彼女の、アスナのこれからが見てみたい。

 

俺は、『みんな』なんて人のためには戦えない。

 

ーーーだけど俺は、アスナのためなら戦える。

 

「まあ安心しろよ。お前らは俺が、守るから」

 

俺は、『みんな』なんて人のためには戦えない。

 

ーーーだけど俺は、こいつらのためなら、戦える。

 

俺はこの世界で何のために、どんな風に生きるのか。

 

ーーー俺は、ソウは、こいつらを守るために戦うと、今、決めた。




ということで、アスナ視点+キリト視点+ソウ君決意編でした。

アスナやキリトのソウ君に対する評価と、ソウ君のこれからの立ち位置というか、役回りを書いてたらこうなりました。
勿論キーワードは『お兄ちゃん』です。

戦闘については軽くは書きましたが、上記のせいでボスまでいけなかったのが残念です。
これ以上更新を延ばすと罪悪感で死にそうだったので……。(白目)

ビーター編はさすが次回で終わらせる、つもりです。
つもりです。(大事なことなので二回言いました)

また更新が遅くなるかもしれませんが、温かく見守って下されば幸いです。
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